機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第36章 お役目のない学園祭

196 祭りの終わり

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 研究室に戻ると、世田谷がやって来た。

「研究室の臨時飲食費、3,500円を徴収中です」

 要はさっきの宴会で使った代金だろう。

「おいよ、悪いね集金」

 財布からちょうど取り出して、世田谷に支払う。

「あと魔法使い皆がこんな魔法使える訳じゃないって事と、詩織ちゃんの魔法の口外禁止も言っておいたからね」

「色々すまん」

 流石世田谷だ。本当ありがたい。

「でもあれだけ色々な事が出来るって事は、将来はさっきみたいなのがもっと普通になるかもしれないって事ですよね」

「先生辺りにならこう返されるんじゃない。そうしていくのが君達の仕事であり役割だね! なんて」

「そうなれば私の闇魔法も変な目で見られなくなるのかな」

 三田さんと目黒さんの掛け合い、そして世田谷のつぶやきが聞こえる。
 実際、そうなっていくんだろうな、そう俺も思う。

 この世界の魔法の歴史は、偏見と一般化との戦いだ。
 魔法が表舞台に登場したのはそれ程昔では無い。
 事実上は人類が月に到達した年の翌年、西ドイツにて十数人の学者らにより魔法の存在と有効性が叫ばれたいわゆる『黒い森宣言』からだ。

 厳重に守られた初期の特区で明らかにされた、魔法の実在とその可能性。
 その実績が認められ、世界中に特区という名の共同体が設立されていった拡張期。
 一時は20を超えた特区が既存勢力やテロに負け次々に集約され消えていった、いわゆる『第2次魔女狩り』こと集約期。

 その集約期後期に、様々な思惑と今までの反省から新たに築かれたのが、この日本の特区だ。

 現在、魔法は3大特区及び幾つかの研究機関で、少しずつまた発展へと歩き出した。
 そして今俺達がいる聟島こここそが、今の魔法の最前線。
 のんびりした常春の研究機関付離島にしか見えないこの場所だけれども。

 同じ場所で同じ現実に向き合っていても、例えば俺と風遊美さんと奈津希さんと詩織ちゃん、それぞれ感じる世界や見える世界はきっと違う。
 感じた風の寒さも受けた痛みもぜんぜん違う

 それでも同じ明日へ歩いてけるし共有できる夢もきっとある。
 一緒にそれを広げていけるなら、この場所から少しでも広げていけるのなら。
 それはきっととても素晴らしい事のように思えるのだ。

 まあ、その前には色々現実が待っているんだけどな。
 さしあたっては論文の作成とか、それ以前にこの部屋の掃除とか。

「愛希ちゃんに頼んでおけばよかったかな。あいつゴミ焼却魔法使えるし」

「長津田だって使えるでしょ、ゴミ分別袋詰魔法」

 本当は機械の修復魔法だ。
 ただ『在るべき物を在るべき場所へ在るべきようにする』という魔法の原理を、ゴミの分別収集に応用して使用しているだけで。

「杖使えばそんなに疲れないでしょ。さっさとやる!」

「はいはい」

 マンションに入り浸っているせいで、俺の手の内は世田谷に把握されまくっている。
 袋3枚を置いてプログレス1号改を使用して魔法を発動。

 あっさりゴミは袋に入り、机上等も拭かなくても綺麗な状態になる。
 手を付けていない菓子類が戸棚や冷蔵庫に収納されるおまけ付きだ。

「おおっ!これが出来れば部屋の掃除も!」

 三田さんが感動している。

「この魔法って習得は難しいかな?」

「長津田の魔法もユニーク過ぎるしね」

 つまり俺は今後もこき使われると。

「誰しも魔法は本質的にはユニークなの!」

「それをコモンセンスに落とすのが私達のお仕事です!」

 はいはい、その通りですよ目黒さん。
 じゃあまずはその第一歩として、ゴミ捨てにでも行ってくるとしますか。
 俺は縛った袋を手に持った。

 ◇◇◇

 これまでの学園祭の終わりは、大体学生会室で過ごしていた。
 1年生の時が例外だが、あの時は祭りそのものが面倒だったので、寮の自室でパソコンに向かっていた。

 学園祭をまっとうに花火を見ながら過ごすのは、実は高専最後にして初めてだ。
 まあどうせ、隣の魔技大に進学するのだけれども。

 実は今いる場所、祭りの中というには少し申し訳ない。
 マンションの屋上、露天風呂の隣の空飛ぶシリーズ駐機場所である。
 学校の屋上は花火の時間だと満員だし、位置的にも花火を見るには最高の場所だ。
 ただ問題が無いわけでもない。

「長津田も、こっちでお湯浸かりながら花火見ればいいのに」

 露天風呂を由香里姉、風遊美さん、世田谷が使用している。
 風呂に浸かり花火を見ながら、毎度おなじみ通称清涼飲料水をまったり楽しんでいるのだ。

 そっちに参加しない理由は簡単。
 人数は少ないながらも心臓に悪い面子だからだ。

 ちなみに鈴懸台先輩と月見野先輩は、リラクゼーションサロン撤収中との事。
 他は学生会現役だから学生会室だ。

「しかし花火、きちんと見たのは初めてだな」

 思った以上に華やかで綺麗なものだ。
 原理も構造も炎色反応の色の元もわかるけれど、それでも実際に見る花火の綺麗さや迫力は大したものだ。

「毎年どんな天気予報でも、この日のこの時間だけは花火が出来る程度に晴れるのよね。誰か魔法使いが関与しているという噂もあるけれどさ」

「やめて、特区ここだと洒落にならないわ」

「そうですね。いたとしても不思議ではないです」

 まあそういう場所だ、此処は。

 ここの高専や大学の学園祭は、もともとは特区の成立を祝う日。
 俺の生まれる前の11月3日文化の日、この聟島の特区は産声をあげた。
 世界の魔法特区が縮小と集約の流れにある中で。

 方向性の異なる色々な思惑が当然あったらしい。
 ある人は経済大国である日本の当然の責務として、ある人は国際協力と文化の美名のもとに、そしてある人は縮小しつつある魔法勢力の反抗拠点として。

 結果として最後発ながら世界最大かつ魔法の最先端の拠点として、今の特区ここがある訳だ。
 学園祭が11月3日を含む週に設定されているのはその為で、学園祭とともに島中がお祭りになるのもそれ故との事だ。

 だからこの日を常に晴れにして祝っている超級魔法使いがいても、不思議ではない。
 ここが出来た事とともに、今もまたここに在る事を祝う為に。

 今の俺には、何となくその気持が分かるような気がする。
 俺達も学生会なりここでなり仲間と見ているこの花火を、また何年か後も同じように見る事が出来るだろうか。
 変わっていく事と変わらずにいる事の間で。

 最後の一番大きな花火が、辺りを照らし広がっていき終りとなる。
 何もないけれど何かしら感じる余韻を残して。

「そう言えば夜御飯、皆さんどうします?」

「朱里が仲間内の売店の残りを買い占めて帰ってくるって言っていたわ。花火も終わったし、そろそろこっちに向かってくるんじゃない?」

 月見野先輩は免許は持っていないけれど、飛行機械を特区の制限領域内で使うなら免許はいらない。
 つまり飛んでくる分にはOKという事だ。

「現役の学生会連中も戻ってくるでしょうし、そろそろ支度をしましょうか」

「そうですね」

 俺達はお祭りから日常へと戻る。
 色々な思惑や祈りや叫びや行動や仕事の元に成立している、奇跡的であたりまえの今日が在る事に、いつもよりちょっとだけ感謝しながら。
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