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幕間 俺には似合わない依頼
第37話 最強の魔法
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本夜は部屋に俺1人。テディの番でもミランダの番でもフィオナの番でも3人一緒でもない夜だ。
机上には上質紙数枚と一番書き味の良いペン。置いてある本は6冊で、1冊は高級学校時代の魔法学の教科書。
3冊は数式等を理解するために必要だった日本語の大学生用の数学関係の教科書。1冊は以前召喚した『宇宙の構造と時空間』。最後の1冊は陛下から渡された『Structure of spacetime』だ。
約1月かけてやっと俺は『宇宙の構造と時空間』の内容をひととおり理解した。ぶっちゃけ非常に大変だった。特に使用している概念とか数学が。
1月でこれを大雑把ながら理解した自分を褒めてやりたい。なんと線形代数学とか微分幾何学まである程度使えるようになったのだ。
前世では文系で高校3年微分さえ勘弁してくれという俺だったのに。もちろん記憶魔法だの解析魔法だの日本では使えないチートな知識魔法を駆使したけれど。
今日はいよいよ理解した知識を魔法に落とし込む作業。ここからはテディ達にも完全に隠して行う必要がある。
『宇宙の構造と時空間』を含めて使用した本は翻訳せず日本語のまま。だから読んでいてもテディ達は理解できない。
でもここからの作業は魔法陣や魔法式だから理解できなくても真似は出来る。だから誰にも見られないよう、俺だけの夜にやっている訳だ。陛下に『出来る限り秘密に』と言われているしな。
教科書や本の該当ページを確認しながら、俺はある魔法陣と魔法式を描く。
魔法陣のベースはあの『日本語書物召喚』と似た形のもの。だがそこに更に『物質エネルギー変換』と『エネルギー相互変換』という魔法陣を別の紙に描いて魔法式で束ね積層魔法陣にして、テンソル変換の魔法式を加える。『宇宙の構造と時空間』に書かれた理論をそのまま魔法陣と魔法式に落とし込んでいる訳だ。
全体で見るとかなり複雑な魔法陣と魔法式になった。しかし積層魔法陣の1枚1枚はそんなに難しくはない。それぞれ座標及び対象物定義の魔法陣と変換の魔法陣、再変換の魔法陣だ。更にそれぞれを接続し変換するテンソル変換の魔法式と組み合わせ、時空間構成及び移動の魔法として組み立てている。
この魔法陣と魔法式で組み立てた魔法で、異空間を使用した様々な魔法が一気に扱える筈だ。遠隔移動魔法、遠隔偵察魔法、超遠隔取り寄せ魔法、封鎖魔法……
違うように見えるが全て同じ魔法の一部。俺の理解が正しければだけれども。
ケアレスミスをしていないか何回も魔法陣と魔法式が間違いない事を確認。何せ失敗したら何がどうなるか想像もつかない。
3回見直して問題はないと判断した。
それでは実際に起動してみよう。俺は『宇宙の構造と時空間』と『Structure of spacetime』を自在袋に入れて肩に下げ、そして呪文を唱え始める。
「我此処に強く望む。空間系の魔素よ我が元へ集いたれ。我此処に強く望む、我が魔力と魔素によって……」
長い長い定型化した呪文を間違えないよう確認しつつゆっくりと詠唱。
「……以上これら我が祈願を『空間操作』と命名する。空間操作! 遠隔移動、対象俺、場所事務所の俺のデスク前。起動!」
軽い落下のような感覚の後辺りの光景が一変。窓からの光で机が並んでいるのがかすかにわかる暗い場所に出た。
間違いない、移動成功だ。魔力もそこまで減っていない。いい加減な限定で日本語書物召喚をやるよりも減っていない位だ。
よし、それでは少し遠方まで移動してみよう。
「空間操作! 遠隔移動、対象俺、場所スタリエーノの丘。起動!」
先程と同様に足元の感覚が消えて落下するような感覚。
そして一瞬後、俺は屋外にいた。枯葉のざくっとした感触、夜空に光る月と星。眼下にゼノアの夜景。ゼノア郊外にあるスタリエーノの丘だ。
移動は成功。魔力もやはりそれほど減っていない。
これで陛下からの宿題は半分くらいクリアしたかなと俺は思う。
陛下が使用した魔法と俺が起動した魔法が同じものかはわからない。
しかし今の俺ならば陛下のあのありえないと思った武勇伝と同じ事が出来る筈だ。遠隔地から目視と同じように対象に魔法をかける事も、相手の攻撃を受けずに一方的に攻撃魔法を仕掛ける事も。
ただ俺に戦闘なんて出来るか正直自信は無い。一応高級学校時代までは格闘も剣も魔法も平均程度の腕ではあった。
しかしこの半年で随分となまっている。家兼仕事場からほとんど外へ出ないような生活をしているからな。今では笑える位の運動能力しかないと思うのだ。
さて、そろそろ来る頃かな。そう思って俺は辺りを確認する。
空間操作の魔法を覚えた事で少しまた感知できる範囲が変わったようだ。本来目には見えない筈の空間の歪みがわかるようになっている。その歪みが急激に広がり、そしてあたりの目に見える空間にも変化を及ぼす。これはきっと遠隔移動の魔法だな。
やはりやって来たか、陛下。そう思ったとほぼ同時に空間が歪み闇が人の形を取って顕現、闇から色を変える。一見女性に見える金色長髪の小柄な姿は間違いなくジョーダン3世陛下だ。
「思ったより早かったね。僕は翻訳とあわせて1年以上かかったのに」
「翻訳しなくても読める言語で同等内容の本を取り寄せました。そんな訳でこちらの本はお返しします。また必要があるかもしれませんから」
収納袋から『Structure of spacetime』を取り出して殿下に渡す。
「ありがとう。ところでこの本を僕に返すという事は、この本で得られる魔法をほぼ使えるようになったと考えていいのかな」
「おそらくは」
「ならちょっとついてきてくれないか」
陛下はふっと姿を消す。ただし目には見えないが俺は陛下がどう動いているのかがわかる。だから言われた通り後を追いかける。
「空間操作! 追跡、対象陛下、対象2俺。起動!」
ふっと視界が変わり、俺は目を瞑る。視力で見ると世界が間延びしたり縮まったりしたように見えて混乱しそうだ。だからこの魔法を覚えた際に身につけた感覚だけを頼りに陛下を追いかける。
この星の重力で生じた渦をショートカットして、そしてたどり着いたのは俺も知っている場所だ。正確には知ってはいるけれど実際に行った事は無い場所。王宮の拝謁所の、それも王家側のテラスだ。
ただし厳密にはそのものの場所では無い。現実空間のほんの少し手前位の場所だ。
「これから僕はこの場所に出る。でも君が素直に出たら侵入者ありという事で衛士どもが飛んでくるだろう。そうならない程度でかつ僕から姿が見える位置に行ってもらえるかな」
「わかりました」
僅かな移動なので呪文を唱えない無詠唱で魔法を起動。場所を少しだけ移動する。
「見事なものだな。でも本当はそっちからは視力では僕の方は見えないんだろ」
「そうですね。こちらの様子はそこから見えると思いますけれど。陛下の位置は魔法による感覚で確認している状態です」
「正解だ。さて、ここじゃアシュノール君が不便だろうからもう一度移動しよう。今度は素直に現実の場所へ行くよ」
再び魔法で移動した先は……パラタの丘にある闘技場だなここは。
「どうも僕よりもアシュノール君の方が移動がスムーズだし魔力もかなり少なくて済むようだ。この辺はあの本の内容に対する理解度の差なんだろうな。僕は概念とイメージでなんとなくという形だけれども、アシュノール君はもっと具体的に捉えているようだ。
でもまあこれで君の魔法の腕は充分理解した。僕の予定通りかそれ以上になったという事をさ」
でも言っておきたい事がある。
「俺はあまり戦闘向きでは無いですよ。ましてや陛下と闘うなんてあまりやる気はないですし」
「そう言うと思ってさ。ちょっとばかり国王の権限を悪用させてもらう事にした」
何だそれは。嫌な予感がする。テディ達にハメられた時と同じような嫌な予感が。
「ここが何処かはわかるよな」
「パラタの丘の闘技場ですね」
古代、奴隷剣闘士たちによる戦闘ショーが行われた場所だ。そして今も似たような事がここで毎年行われている。魔法使いや騎士、戦士達による魔法武闘会だ。
そこまで思って俺は気付く。まさか、この場所に陛下が俺を誘った理由って……
机上には上質紙数枚と一番書き味の良いペン。置いてある本は6冊で、1冊は高級学校時代の魔法学の教科書。
3冊は数式等を理解するために必要だった日本語の大学生用の数学関係の教科書。1冊は以前召喚した『宇宙の構造と時空間』。最後の1冊は陛下から渡された『Structure of spacetime』だ。
約1月かけてやっと俺は『宇宙の構造と時空間』の内容をひととおり理解した。ぶっちゃけ非常に大変だった。特に使用している概念とか数学が。
1月でこれを大雑把ながら理解した自分を褒めてやりたい。なんと線形代数学とか微分幾何学まである程度使えるようになったのだ。
前世では文系で高校3年微分さえ勘弁してくれという俺だったのに。もちろん記憶魔法だの解析魔法だの日本では使えないチートな知識魔法を駆使したけれど。
今日はいよいよ理解した知識を魔法に落とし込む作業。ここからはテディ達にも完全に隠して行う必要がある。
『宇宙の構造と時空間』を含めて使用した本は翻訳せず日本語のまま。だから読んでいてもテディ達は理解できない。
でもここからの作業は魔法陣や魔法式だから理解できなくても真似は出来る。だから誰にも見られないよう、俺だけの夜にやっている訳だ。陛下に『出来る限り秘密に』と言われているしな。
教科書や本の該当ページを確認しながら、俺はある魔法陣と魔法式を描く。
魔法陣のベースはあの『日本語書物召喚』と似た形のもの。だがそこに更に『物質エネルギー変換』と『エネルギー相互変換』という魔法陣を別の紙に描いて魔法式で束ね積層魔法陣にして、テンソル変換の魔法式を加える。『宇宙の構造と時空間』に書かれた理論をそのまま魔法陣と魔法式に落とし込んでいる訳だ。
全体で見るとかなり複雑な魔法陣と魔法式になった。しかし積層魔法陣の1枚1枚はそんなに難しくはない。それぞれ座標及び対象物定義の魔法陣と変換の魔法陣、再変換の魔法陣だ。更にそれぞれを接続し変換するテンソル変換の魔法式と組み合わせ、時空間構成及び移動の魔法として組み立てている。
この魔法陣と魔法式で組み立てた魔法で、異空間を使用した様々な魔法が一気に扱える筈だ。遠隔移動魔法、遠隔偵察魔法、超遠隔取り寄せ魔法、封鎖魔法……
違うように見えるが全て同じ魔法の一部。俺の理解が正しければだけれども。
ケアレスミスをしていないか何回も魔法陣と魔法式が間違いない事を確認。何せ失敗したら何がどうなるか想像もつかない。
3回見直して問題はないと判断した。
それでは実際に起動してみよう。俺は『宇宙の構造と時空間』と『Structure of spacetime』を自在袋に入れて肩に下げ、そして呪文を唱え始める。
「我此処に強く望む。空間系の魔素よ我が元へ集いたれ。我此処に強く望む、我が魔力と魔素によって……」
長い長い定型化した呪文を間違えないよう確認しつつゆっくりと詠唱。
「……以上これら我が祈願を『空間操作』と命名する。空間操作! 遠隔移動、対象俺、場所事務所の俺のデスク前。起動!」
軽い落下のような感覚の後辺りの光景が一変。窓からの光で机が並んでいるのがかすかにわかる暗い場所に出た。
間違いない、移動成功だ。魔力もそこまで減っていない。いい加減な限定で日本語書物召喚をやるよりも減っていない位だ。
よし、それでは少し遠方まで移動してみよう。
「空間操作! 遠隔移動、対象俺、場所スタリエーノの丘。起動!」
先程と同様に足元の感覚が消えて落下するような感覚。
そして一瞬後、俺は屋外にいた。枯葉のざくっとした感触、夜空に光る月と星。眼下にゼノアの夜景。ゼノア郊外にあるスタリエーノの丘だ。
移動は成功。魔力もやはりそれほど減っていない。
これで陛下からの宿題は半分くらいクリアしたかなと俺は思う。
陛下が使用した魔法と俺が起動した魔法が同じものかはわからない。
しかし今の俺ならば陛下のあのありえないと思った武勇伝と同じ事が出来る筈だ。遠隔地から目視と同じように対象に魔法をかける事も、相手の攻撃を受けずに一方的に攻撃魔法を仕掛ける事も。
ただ俺に戦闘なんて出来るか正直自信は無い。一応高級学校時代までは格闘も剣も魔法も平均程度の腕ではあった。
しかしこの半年で随分となまっている。家兼仕事場からほとんど外へ出ないような生活をしているからな。今では笑える位の運動能力しかないと思うのだ。
さて、そろそろ来る頃かな。そう思って俺は辺りを確認する。
空間操作の魔法を覚えた事で少しまた感知できる範囲が変わったようだ。本来目には見えない筈の空間の歪みがわかるようになっている。その歪みが急激に広がり、そしてあたりの目に見える空間にも変化を及ぼす。これはきっと遠隔移動の魔法だな。
やはりやって来たか、陛下。そう思ったとほぼ同時に空間が歪み闇が人の形を取って顕現、闇から色を変える。一見女性に見える金色長髪の小柄な姿は間違いなくジョーダン3世陛下だ。
「思ったより早かったね。僕は翻訳とあわせて1年以上かかったのに」
「翻訳しなくても読める言語で同等内容の本を取り寄せました。そんな訳でこちらの本はお返しします。また必要があるかもしれませんから」
収納袋から『Structure of spacetime』を取り出して殿下に渡す。
「ありがとう。ところでこの本を僕に返すという事は、この本で得られる魔法をほぼ使えるようになったと考えていいのかな」
「おそらくは」
「ならちょっとついてきてくれないか」
陛下はふっと姿を消す。ただし目には見えないが俺は陛下がどう動いているのかがわかる。だから言われた通り後を追いかける。
「空間操作! 追跡、対象陛下、対象2俺。起動!」
ふっと視界が変わり、俺は目を瞑る。視力で見ると世界が間延びしたり縮まったりしたように見えて混乱しそうだ。だからこの魔法を覚えた際に身につけた感覚だけを頼りに陛下を追いかける。
この星の重力で生じた渦をショートカットして、そしてたどり着いたのは俺も知っている場所だ。正確には知ってはいるけれど実際に行った事は無い場所。王宮の拝謁所の、それも王家側のテラスだ。
ただし厳密にはそのものの場所では無い。現実空間のほんの少し手前位の場所だ。
「これから僕はこの場所に出る。でも君が素直に出たら侵入者ありという事で衛士どもが飛んでくるだろう。そうならない程度でかつ僕から姿が見える位置に行ってもらえるかな」
「わかりました」
僅かな移動なので呪文を唱えない無詠唱で魔法を起動。場所を少しだけ移動する。
「見事なものだな。でも本当はそっちからは視力では僕の方は見えないんだろ」
「そうですね。こちらの様子はそこから見えると思いますけれど。陛下の位置は魔法による感覚で確認している状態です」
「正解だ。さて、ここじゃアシュノール君が不便だろうからもう一度移動しよう。今度は素直に現実の場所へ行くよ」
再び魔法で移動した先は……パラタの丘にある闘技場だなここは。
「どうも僕よりもアシュノール君の方が移動がスムーズだし魔力もかなり少なくて済むようだ。この辺はあの本の内容に対する理解度の差なんだろうな。僕は概念とイメージでなんとなくという形だけれども、アシュノール君はもっと具体的に捉えているようだ。
でもまあこれで君の魔法の腕は充分理解した。僕の予定通りかそれ以上になったという事をさ」
でも言っておきたい事がある。
「俺はあまり戦闘向きでは無いですよ。ましてや陛下と闘うなんてあまりやる気はないですし」
「そう言うと思ってさ。ちょっとばかり国王の権限を悪用させてもらう事にした」
何だそれは。嫌な予感がする。テディ達にハメられた時と同じような嫌な予感が。
「ここが何処かはわかるよな」
「パラタの丘の闘技場ですね」
古代、奴隷剣闘士たちによる戦闘ショーが行われた場所だ。そして今も似たような事がここで毎年行われている。魔法使いや騎士、戦士達による魔法武闘会だ。
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