異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第7章 イベントが多すぎる

第43話 第一回戦開始前

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 こういう雰囲気は好きじゃない。
 俺が案内されたのは第3待合室。既に中には6人程参加者がいる。

 参加者の中には女性の魔法使いとか魔法闘士とかもいるとは聞いている。でも待合室は男女別、だからこの中にはごつい男ばかりだ。
 なおここの面子が第1回戦の相手になる。既にマウント取り合戦も始まっている模様。
 試合前に手出しするのは反則だけれど話す位なら問題ない。だから今のうちにマウントをとって第1回戦を有利に進めようというのだろう。

 正直こういうのは得意でも好きでもない。なので例によってちょっとだけ離れた空間に魔法移動し、俺からは誰も見えない状態にして目を閉じる。
 このままちょっと休ませてもらおう。何かあれば魔法で人間の動きを感知できるので問題ない。

 俺が座って目を閉じると早速ごつい中年のおっさんが近づいてきた。あまり友好的な雰囲気では無いから無視だ。まあ俺からは姿が見えないのだけれど雰囲気とかはまあ、魔法である程度感知できるから問題ない。
 何か言っているようだ。この空間にいる俺は聞こえないけれど。

 おっさんの雰囲気が更に敵対的になるどうやら無視されている事に腹をたてているようだ。かとは言って相手にする必要も義務も無いから放っておく。

 それにしても第1回戦を戦う連中を同じ部屋で待機させるのは問題だよな。それともこういったマウント取り合戦も実力のうちとなっているのだろうか。
 ただ単に部屋数が足りないだけという可能性もあるな。それが一番可能性としては高いか。

 さて、俺に近づいてきたおっさんは俺が全く反応しないのを見るとそのまま去って行った。ここで手をあげて失格になる程馬鹿では無かった模様。

 まあここでマウント取りなんてしなければならないのは三流だよな。それとも一流こそそういった事を怠らないのだろうか。
 うーん、俺が日常住んでいる世界と違い過ぎてよくわからない。お友達になる気も別に無いからどうでもいいけれど。
 目標はさっさと勝ってさっさと帰る事だ。それ以上は特に望まない。充分過ぎると言われそうだけれど。

 おっと、雰囲気が違う奴が入ってきたようだ。俺はちょい空間をバイパスして音声だけ聞こえるようにする。

「開会式が始まりますので、こちらにお願いいたします」

 行くか。念のため今の空間を維持したまま、目が見えない分は魔法による感知で補って、列の最後尾を歩く。

 周りが開けたのを感じる。会場内に出たようだ。そのまま後をついていって列の一番後ろにつく。
 前や横との距離もあるし周りからも見える場所だから魔法を解いても大丈夫だな。俺は魔法移動をかけ、本来の空間へと戻る。
 とたんに感じる眩しさ。爆音のような歓声。お祭りだな、これは。俺には今まで縁が無かったタイプの。

『これから第43回スティヴァレ王国魔法武闘会を開催いたします』

 音声では聞こえないからだろうか、伝達魔法でアナウンスが流れる。これはこれで便利だ。聞こえないという事が無いし。
 ふと思いついて貴賓席を見てみる。いたいた、俺をこの場に引っ張り込んだ張本人が。にこやかな顔をして座っていやがる。
 俺としては不本意だし面倒だし勘弁してくれという感じなんだぞ。そう思って睨みつけてやるが、どうせ見ちゃいないだろう。

 開会宣言、国歌斉唱なんて進行していき、そして国王陛下のお言葉となる。

『まずは第43回魔法武闘会をこの絶好の日和の中迎える事が出来た事を神に感謝しよう。
 それでは本日最強の座を誇る為にこの場に集いし戦士達よ。今までの修練で得たものを存分に発揮し、そなた達の力と技、そして魔法を大いに見せつけよ。私以下ここに集いし者達の目にその強さを焼きつけよ……』

 もっともらしい事を言っているよな、そう思いながら俺は聞いている。まあそんなもっともらしいお言葉を言うのも国王陛下の仕事だ。
 何せ色々有難くない状況でしか直接会っていないので、俺には陛下に対する畏敬の念というものが欠けている。実際に会うまではそうでもなかったのだけれども。

 だからまあ、お言葉も話半分という感じで聞き流していた。しかしだ。

『……なお、今回は今までの戦士とは全く異なる魔法戦士を1人招いている。この国の誇る強者が彼を倒すことが出来るか、それとも彼を倒す事無く大会が終わるか、楽しみだ』

 おい待て陛下。それってひょっとして俺の事か!? 何焚きつけているんだ!
 なんて事は勿論俺には言えない。

『……それでは強者共よ。それぞれの力を存分に発揮してみせてくれ。以上だ』

 おい陛下! なんて思っているうちに陛下からのお言葉は終わってしまう。
 まさか陛下、妹殿下のことは関係なくこの大会を焚きつけるために俺を参加させた訳じゃないだろうな。そんな事は無いとは思いたいけれど。

 色々考えているうちに開会式は終わって、再び元の待合室へ。俺も再び俺から見えない代わりに安全な空間へ魔法移動。あとはまあ、待合室で待つだけだ。

 一応待合室内からも闘技場の中の様子は窓から見えるらしい。見た方が今後の参考にはなるだろう。
 ただ今の状態を解いて動き回ると、また色々絡まれそうだ。だからあえて動かず、魔法の感覚と伝達魔法で直接頭に響いてくるアナウンスだけで試合の様子を確認する。

 第1試合が始まる。
 最初に1人が中央に駆け寄り、いきなり風魔法の爆発バーストを起動する。しかし他全員が風魔法で抵抗し、結果誰も闘技場から吹き飛ばされたりはしない。

 この世界、魔力こそ多少の差はあっても基本的には使える魔法はほぼ同じ。知識さえ同じならばという条件が付くけれど。そして大抵の魔法は既知のものになっている。つまり魔法だけで圧倒するなんて事は基本的に不可能な訳だ。

 だから自然、闘いは魔法と格闘技を合わせた総合戦闘術での戦いとなる。また1対1で戦っているとその隙を狙って魔法で攻撃されてKOなんて事も。つまり出来るだけ隙を見せないようにして敵の出方を待つというのが基本戦法になっているようだ。

 そんな訳で闘技場では最初の一発をのぞき膠着状態が続いている。このまま暫く動きはないかな。そう思った処で1人が炎熱魔法を3人程巻き込むように放った。
 一気に全員が動く。狙われた者は抵抗レジストしつつ仕掛けたりとどまったり。攻撃を仕掛けたものを狙う者、そうして動いた者を狙う者。一気に攻撃魔法が飛び交う。

 明らかに1人、動きがいい奴がいた。炎熱魔法を受け抵抗レジストしつつとどまっていたが、他が魔法を繰り出した一瞬にバネに弾かれたような勢いで一気に飛び出す。
 大剣で1人を殴打し攻撃魔法を動きだけで避けつつ蹴飛ばし、剣で突き、走る。途中1度抵抗が遅れて氷魔法で動きが止まりかけるが次の瞬間、逆に氷魔法を重ねかけして防御態勢に使用し、他の敵の動きが止まった瞬間また動き出す。

 これは見事だなと思いつつ俺は思う。俺はこの動きにどうやって対処すればいいのか。
 俺から仕掛ける事は困難だろう。出来るのはおそらく、なにもしない事。そこまで考えた処で待合室の扉が開いた。

「試合に備えて移動します」

 俺達は第1回戦の第3試合。つまり今の試合の次の次が出番だ。
 そんな訳で第1試合の決着を見届ける前に直前待機場所へと移動となった。
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