異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
55 / 176
第8章 熱闘・魔法武闘会

第53話 正体不明な魔法

しおりを挟む
 食事会が終了し陛下が食べ終わった食器ごと自在袋に収納して姿を消す。
 陛下は試合開始から試合終了までは必ずあの貴賓席にいる必要がある。この大会の名目上の主催者だから仕方ない。

 さて、もうすぐ第二試合だ。この控室にも窓があって試合場を見ることが出来る。

「これで攻略方法がわかるといいですね」

「せめてどんな魔法を使えるのかわかればいいんですけれど」

 そうだ、ちょっとナディアさんに聞いてみよう。

「相手のバーガティ選手ってどんな感じなんですか?」

 ナディアさんはちょっと考えて、そして口を開く。

「極めて堅実な戦い方をするA級冒険者です。特筆する速度も無いですし特殊な魔法をつかう訳でもありません。癖も特にありません。速度相手なら基本的に防御しつつ隙をみて攻撃をするタイプになりますし、相手が防御型なら格闘戦に魔法を併用して崩すなんて事もします。ソニアさん程技や速度、魔法を持っている訳ではありませんが、体格がいい分攻撃が重いです」

 なるほど。ここに残るだけの腕はあるという事か。

 両選手が試合場に出てきて礼をする。そしていよいよ試合開始。
 バーガティ選手は遠距離魔法戦に出るようだ。俺が以前対戦したヴィンセントさん程ではないがそれなりの速度で様々な攻撃魔法を撃ち出す。
 その瞬間、俺にはわかった。空間が僅かに歪んだ事が。

『レジーナ選手、無効化抵抗レジストを使用しているようです。バーガティ選手の魔法が途中でかき消されている!』

 解説者の魔法音声が入る。確かに無効化されているがいわゆる抵抗レジストではない。俺の魔法で言えば『空間操作 歪曲&テンソル変換』だ。途中で空間を微妙にねじ曲げて攻撃を他空間へと逃している。

 攻撃魔法が届いていない事がわかったからだろう。バーガティ選手はゆっくり用心深くレジーナ選手に近づいていく。レジーナ選手もバーガティ選手へと近づいていく。
 なお攻撃魔法が途切れた時点で空間歪曲は消えた。おそらく自分が接近戦をするために邪魔だったからだろう。

 間合いが3腕6mを切った。バーガティ選手は再び攻撃魔法を連射する。更に土風併用魔法の砂嵐を展開。砂嵐の砂と風の動きでレジーナ選手の真の居場所と動きを察知する作戦のようだ。

 バーガティ選手もおそらくレジーナ選手の以前の試合を見ていたのだろう。この砂嵐はその上で考えたレジーナ選手対策と見た。確かに幻視魔法等ならその対策で正解だ。

 バーガティ選手から打ちかかる。レジーナ選手が躱してそのまま引く形で杖を横なぎに振るう。バーガティ選手は剣の手元部分で杖を受け、そのまま後方へ吹っ飛んだ。そのまま立ち上がれない様子。

『勝負あり。勝者、レジーナ・カナル・サリング選手』

「最後のは接触型雷魔法だな。当たると同時に発動・伝播するから抵抗《レジスト》も間に合わない」

「でもその前のバーガティさんの剣、あれはどう見ても当たる筈の攻撃でした」

 確かにナディアさんの言う通りなのだが、それは俺にとって問題では無い。
 でもまあナディアさんにはある程度の説明をしておくとするか。彼女になら教えても問題はないだろうし、間違った推測をされると後々面倒な事にもなりかねない。どうせ陛下と色々話せばある程度はバレるだろうしな。

「あれはどうやったかはわかっています。それはなんとかなるんです」

「ええっ」

「試してみましょうか」

 俺は立ち上がり、空間魔法を起動する。この場所にいないから攻撃は通用しない、でも相手から姿は見えるというやつだ。

「この状態で俺に攻撃を仕掛けてみてください。空振りする筈です」

 ナディアさんは首をかしげつつ、それでも俺に正拳を軽く繰り出す。すかっ。当然空振りする。
 ナディアさん、首をかしげつつ今度は横蹴り。ただの横蹴りでは無い。横蹴りから進んで正拳、肘打ち、回し蹴りと続く連撃だ。
 流石に元魔法騎士団所属、魔法使いとは思えない格闘術。だがどれもすかっと空振りする。

「どういう事ですか」

「これが俺の使う魔法の本来の使用方法なんです。他の高速移動とかもまあ、この魔法の一部ですけれど」

「それで何かわかったかな」

 出たな陛下。試合終了を宣言してすぐにここへとやってきたらしい。

「今日の試合では無理ですね。確かにこの世界で通常認識できるものとは違う空間軸を使っている、それしかわかりません」

「ただ格闘戦の動きを見ると高級学校生徒の標準程度の腕に見えるな。魔法もあの軸を使う魔法以外は一般的なものだけだ。今日のところは」

「昨日の闇が包んだという魔法もそうでしたか」

「あれを今日見られればよかったんだが。あれも違う軸を使った事は確かだがそれ以上は私にはわからなかった」
 なるほど。

 でも使用したという闇についても実はある程度俺には見当はついている。

「この魔法と同じならいいんですけれどね。『空間操作、場の歪曲とテンソル変換。起動!』」

 ふっと俺たちの横に直径1腕2m程度の球形の暗闇が出現した。

「攻撃が効かない魔法の逆パターンみたいなものです。かけられた側は見えないし聞こえない。違うのは術者からは感知可能で攻撃も通るところです。その辺の空間軸の傾斜は陛下なら見ればわかるし使えると思います」

 陛下はうんうんと頷く。

「なるほど、こういう使い方もあるんだね。理解した。でも僕にこの魔法、教えてもいいのかな」

「それはまあ、俺にこの魔法の存在を教えてくれた事でチャラですよ」

「それもそうかな」

 ナディアさんが? な表情をしているがそれは仕方ない。この魔法を説明するにはあの本の内容を教える必要がある。しかしこの空間操作魔法を使える人間をこれ以上増やさないのが陛下の意向だ。

「俺とレジーナ選手の能力が同じなら、悲しいくらい低レベルな決勝戦になりますよ。観客が思いきりブーイングするんじゃないかと」

「魔法で勝負をつけられない結果格闘戦、それも高級学校の生徒レベルの格闘戦になる訳か。それはそれで歴史に残るね。魔法武闘会の歴史に残る汚点としてさ」

「そうならないように頑張りますけれどね」

 とりあえず明日は空間操作魔法を駆使して戦う事になるだろう。相手の空間操作のレベルは未知数だ。出し惜しみすると勝てない可能性が高い。
 とりあえず攻撃に当たらない魔法を起動させ、攻撃魔法と空間操作魔法を組み合わせてかけまくってみるか。相手にも同じ事をされる可能性もあるけれど。

「それじゃ明日の決勝戦もよろしく頼む」

 陛下は姿を消す。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...