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第8章 熱闘・魔法武闘会

第54話 ついに決勝戦

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 もうすぐ決勝戦だ。
 考えてみたが必勝パターンというものが思い浮かばない。何せ相手であるレジーナ選手のデータが少なすぎる。
  〇 空間操作をある程度使えることは確認済み
  〇 他の攻撃魔法は普通程度
  〇 魔力も感じる限りは俺と大差ない
  〇 格闘戦等の能力も俺と五分程度
 つまり今のデータでは俺相手に戦うような状態だ。ある程度距離をとってミスをしないよう堅実な魔法戦闘をするしか無いだろう。

「昨日の試合について詳しい号外が出ています。オッタ―ビオさんのコメントも出ていますよ」

 どれどれ。気分転換に読んでみる。

『……ゴーレム達に裏切られたわけではない。ゴーレム達は命令通り動いた。ただ一つ、あの場で転回した事を除けば。あれだけはどうやったか想像がつかない。風魔法で動かすにはゴーレムは重すぎるし金属魔法での操作は受け付けないようにしてある。実はとんでもない魔法を使ったのではないだろうか。いずれにせよやることは一つだ。ゴーレム達を更に優秀にしてまた挑戦する』

 攻撃を受けたオッタ―ビオさん当人はあの転回させた空間操作魔法が理不尽で理解できない魔法であることを理解しているようだ。
 それにこのコメントからして、ゴーレムの動作内容を事前に定義しているのも間違いないだろう。動作内容についての定義を組み直して次回は望むぞ、そう言っていると理解した。

「でもあのゴーレムを大量に動かす方法、今後の参考になるかもしれない」

「何か新しい魔法を思いついたのでしょうか」

「うまくいくかはわからないけれど、可能性はあるかなと思ったんだ」

 動作内容についての定義の記述にふさわしい方法を俺は知っている。前世の世界にあったプログラム言語だ。魔方陣や魔法式の一部にそういった記述を取り入れれば面白い事が出来るかもしれない。
 まあ今は何に使うか考えてはいないけれど。

「大会についてのコメントもなかなか興味深いです」

 ナディアがそんな事を言ったので読んでみる。

『今年の魔法闘技会はよくわからない。決勝戦を戦うチャールズ選手もレジーナ選手もそれほど強力な魔法を使っているように見えない。強いて言えばチャールズ選手がみせた『早撃ちヴィンセント』以上の高速攻撃と、レジーナ選手がソニア選手相手に使用した謎の暗闇魔法くらいだろうか。
 国王陛下は『今までの戦士とは全く異なる魔法戦士を1人招いている』と開会式で仰った。それはチャールズ選手かレジーナ選手かは不明だが、今までの大会とはかなり違うものになるのは確かだろう。だが果たして我々に理解できる戦いになるのだろうか。不安は残るが注目すべき試合である事は確かだ』

 つまりはよくわからないけれど注目の試合だと言っている訳だ。わからないのによく書けるよな。確かに一般には不可解な試合になる可能性も高いけれど。
 理解できるのは俺とほぼ同じ魔法を持っている陛下くらいだろうか。

 あ、そうだ。試合前にナディアさんに言っておくことがあった。

「今回の試合、決着がどうであれ、試合終了後すぐこの会場から脱出します。ですのでそのつもりでお願いします」

「表彰式には出られないのですか」

 ナディアさんは驚いたような顔をする。

「俺の正体をばらしたくないですから。式に出ると面倒ですし。ですから試合が終了して礼をしたら、そのまま会場を離脱して家に帰ります。ナディアさんに対しても移動魔法を同時にかける予定です」

「でも優勝の栄誉とか賞金とかは」

「陛下に頼まれたのは『優勝して誰も勝てない位に強いという事を知らしめる』事と、『いざという時陛下を倒せる程度まで強くなる』事だけです。賞金はまあ、欲しいですけれど今も別にお金に困っている訳では無いですし。むしろ他の皆の事を考えると、俺の身元がバレない事の方が重要ですから」

「無欲なんですね」

「無欲というか、元々俺の力じゃないですしね。俺自身は決して強くないですよ」

 ナディアさんは少し考えるようなそぶりをみせた後、成程という感じで頷いた。

「それがアシュノールさんのスタンスなんですね。翻訳でも戦闘でも」

「俺自身は平凡な貴族の5男、それも勘当済みですから」

 さて、係員がそろそろ呼びに来るだろう。決勝戦の試合開始は午後1時ちょうど。今までの試合の中でもっとも見通しが立たない試合だ。
 陛下との約束通り、優勝する事が出来るのだろうか。まあ俺なりの最善はつくすつもりだけれど。

 ◇◇◇

 この試合場もこれで最後かと思えば名残惜し……くもない。もともとこういう場は俺にはふさわしくないしあってもいないのだ。まあ人生でも希少な体験だろうから忘れないとは思うけれど。
 なにはともあれ最後の試合だ。

『5、4、3、2、1、試合開始!』

 相手のレジーナ選手は動かない。なら少し魔法で揺さぶってみよう。

『風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、爆裂、実行! ……』

 相手は空間歪曲を展開した。魔法が別空間に吸い込まれる。これはまあ、予想通りだ。
 なら次の手だ。

『空間操作、歪曲&テンソル変換、5カ所。起動! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、爆裂、実行! ……』

 空間歪曲を使って5方向から攻撃魔法を集中させる。レジーナ選手は抵抗《レジスト》をかけずに前移動して攻撃を避けた。
 だが普通の移動方法ではない。空間を歪曲させる移動魔法とも少し違う、他の空間を経由して移動した感じだ。これが攻撃をすり抜けたという技だな。

『空間操作、歪曲&テンソル変換、5カ所。起動! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、爆裂、実行! ……』

 俺は歪曲による曲率を変えて先程と同様に5方向から魔法を集中させる。やはりレジーナ選手は他の空間を使用して移動して逃げる。
 俺は再び曲率を変えてレジーナ選手を狙う。その繰り返しだ。

 何度目かの繰り返しで俺は気付いた。レジーナ選手の使用している別空間、毎回同じ軸を使用している。そして魔法に対して抵抗《レジスト》を使わない。
 これは単なる癖なのか魔法の性質なのか。なら試してみよう。

『空間操作、歪曲&テンソル変換、7カ所。起動! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、爆裂、実行! ……』

 攻撃魔法の一部を今までレジーナ選手が使っていた軸方向へ叩き込む。レジーナ選手が初めて抵抗《レジスト》を使った。別の軸を使わずに。

 抵抗《レジスト》を使わないのはただの癖であり実際は使える訳か。しかし別の軸は使わないと。
 確認のため同じ方法でもう一度仕掛けてみるか。そう思った瞬間、視界が闇に包まれた。

『空間操作、移動、俺、実行』

 とっさに闇の空間から逃げる。レジーナ選手、俺が移動した瞬間俺を見失った様子。仕掛けるならこの隙だ。

『空間操作、歪曲&テンソル変換、10カ所。起動! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、爆裂、実行! ……』

 それでも必死に同じ軸を使用してレジーナ選手、逃げる。間違いない。
 俺はこの世界の3軸の他に時間軸方向への遅延と増速、更に他に5軸程使用して2軸使用できないけれど認識出来る軸がある。しかし彼女は俺と違ってこの世界の3軸の他には特定の1軸しか使えないようだ。
 なら盛り上がりには欠けるがこの魔法を使わせて貰おう。

『空間操作、歪曲。実行!』

 彼女の使用しない軸を使って空間を歪ませ場外と直結してやる。

『空間操作、歪曲大、連射。起動!』

 これは1回戦でも使った強力な決め技、重力波攻撃だ。空間歪曲で作り上げた重力波を使って先程直結した場外方向へ彼女を引き出す。
 彼女は抵抗《レジスト》出来ない。最初の空間操作で足場を失ったまま引き出され試合場横の芝生に落ちる。成功だ。

『勝負あり。勝者、チャールズ・フォート・ジョウント選手』

 観客席からはどう見えただろう。暗闇が試合場を覆い、突如俺が暗闇から現れ、更に暗闇から魔法の気配がした後レジーナ選手が暗闇から出現し場外へと落ちた。そんな感じだろうか。

 俺はその場で相手、国王席、そして会場まわりにゆっくりと礼をしてみせる。さて義理は果たした。撤退の時だ。

『空間操作! 移動、対象俺、対象2ナディアさん、場所俺の家。起動!』

 後は陛下に任せる事にして、俺はナディアさんとともにとっとと帰る。
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