異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第9章 冬休みはリゾートへ

第58話 温泉を準備して

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 現地は晴れていた。

「眩しい位だね」

「雪が日光を反射しているのですわ」

「思ったより寒くないですね」

 なんて言っている間にミランダが暗号呪文で鍵を開ける。

「とりあえず中に入ろう。このままここにいると冷えるぞ」

という事で皆で中へ。

 中は普通のホテル風のつくりだ。カウンターがあってロビーがあってそこここにソファーがある。
 スティヴァレにもリゾートホテルなんて存在あったんだな。 俺ははじめて実物にお目にかかった。今回は営業をしていない状態だけれども。

「お勧めの部屋は201号室から203号室だそうだ。2階の部屋の好きな処を使うとしよう。営業休止前にかけたマスター鍵呪文は教えてもらっているから行くぞ」

 皆でぞろぞろ階段を上って2階へ。後をミニ龍2頭がパタパタ飛びながらついてくる。

「アシュとテディとフィオナは私と一緒の201号室だ。ナディアさんとサラはそれぞれ好きな部屋を選んでくれ。お勧めは202号室と203号室。どっちもセミスイートで結構豪華だと聞いている。部屋を決めたら半時間位で201号室に水着を持って集合、まずはテルメ館を確認しに行くぞ」

 俺は3人と同部屋確定か。まあそうだろうとは思ったけれど。

 入ってみると……何だこの部屋はという状態だ。
 部屋というか空間というべきだろうか。何せ201号室なんて名前の癖に何部屋もありやがる。もう部屋と言うよりは家だ。それもかなり豪華な部類の。

 応接間、リビング、キッチンと何から何まで充実している。ベッドも例によって縦より横幅が大きいアレな仕様。
 しかもそんなベッドが2つ並んでいたりする。
 更にそんな寝室が2部屋もあったりするのだ。何だこの部屋というか空間は。

「キッチンも一通りあるね。これならここで食事を作っても大丈夫だね」

 確かにそうだなと俺も思う。というか一般家庭のキッチンよりよっぽど色々充実しているし広い。俺達の家は元々一般家庭用の間取りではないから別として。
 当座の荷物をリビングに置いて、取り敢えずタオルと水着代わりの短パンを出す。まずはテルメ館から攻めようという話だから。

 ソファーでのたっと休んでいたらナディアさんとサラ、龍2頭もやってきた。

「サラさんと202号室です」

「広すぎて落ち着きません。だからナディアさんと一緒の部屋にしました」

「一緒の部屋と言っても寝室は別にありますから」

 なるほど、言いたいことはわかる。この部屋と似たりよったりという事だろう。

「それじゃ行くか、テルメ館へ」

「そうですね」

 全員でぞろぞろと部屋を出る。

「廊下や連絡通路は寒くないよね」

「ログ構造で作った上に焼土処理しているからだな。これなら冬でもこのまま営業できそうだ」

「所々にある窓がいいです。外の雪景色を見る事が出来て」

「確かに非日常という感じだよな」

「私は懐かしいです。元々北部の山岳地帯の出身ですから」

「そう言えばナディアさん、言っていたね」

「ナディアさんの実家ってこの辺でしたでしょうか?」

「ここから西へ行った方ですが風景は同じ感じです」

 わいわい話をしながら歩く事ちょっと。いかにもという感じの大きな両開き扉を開けた途端、ふわっと暖かい空気が押し寄せて来た。テルメ館の入口だ。
 誰もいない受付を通って中へ。

「どうする? 水着に着替えようか?」

「先に中の様子を確認した方がいいと思うな。しばらく誰も入っていない筈だし」

「そう言えばそうだね」

 そんな訳でそのまま浴場施設へ。
 中はしばらく使っていない割には綺麗だった。魔法による永続照明と大きな窓からの光で充分明るい。
 ただ使用していない間、お湯は止めているようだ。大きな浴槽等にお湯が入っていない。

「何処かに元栓があるんだろうね、きっと」

「そう言えば聞いたな、確かこっちだ」

 ミランダは『関係者以外立入禁止』と書いてある扉を開ける。
 むっとした熱気が押し寄せて来た。中には銅製の大きなパイプとバルブが2組ある。

「確かこれの両方に印がついているから、それに合わせて開いてと」

「どれどれ」

 俺は手前側にあるバルブを見てみる。確かに赤い印があった。

「回すぞ」

「ああ、こっちも回すから」

 よいしょと力を入れて半回転ほど回し、赤い印に合わせる。

「これでお湯が入る筈だ。確か満タンになるのに2時間ちょっとと聞いたな」

「なら温泉は午後からですね」

「だね」

「なら一度着替えて雪遊びですわ」

 もう一度ホテルの部屋に戻り、外に出られる服装に着替える。
 下着から靴下まで羊毛製がメイン。この辺はフィオナに調べてもらったこの辺の服とナディアさんの助言による。

『綿や麻の下着なんて着ると常に魔法で温めないといけない状態になりますよ』

 そうナディアさんは言っていた。綿だと汗などの水分を含んで冷えるし麻は通気性良すぎて寒いらしいし。
 フル装備に着替え、特製の革靴を履いて皆で外へ。

 さて、ここの地形はゆるやかな谷間の出遭いという感じだ。ホテルの下が谷間の合流地点でかなり広くなっている。寒いせいか辺りに大きい樹木は無く、ほぼ完全に雪の山という感じ。

「天気が良くてよかったよね」

「本当です。吹雪いたりしたら数腕先も見えなくなりますから」

「そんなに見えなくなるの」

「ええ。それで平らなところだと方向を見失って、まっすぐ歩いているつもりでもぐるぐる円を描いてしまったりするんです。途中で発見した自分の足跡を他の人の足跡と思って、ぐるぐると」

「それって遭難一直線だよな」

「そうですね。ですから吹雪いたら動かない。それが山岳地方の冬の鉄則です」

 なるほど。今日は晴れているし問題ないけれど。

「それではまず、坂の上に移動します。そこで坂を滑り降りる道具をいろいろ出しますから、使ってみたい物を選んで坂の下まで降りてください。全員が降りたらまた魔法で坂の上へ移動します」

 リフトなんて便利なものがないので移動魔法を使う。
 もしここをスキーリゾートにするならこの辺何か工夫が必要だな。時間を決めて馬ソリで運ぶとか、魔法的に何か装置を作るとか。

 移動魔法でホテルのある谷間の上方向、一番なだらかに見える斜面の上のやや平らになっている場所に移動。召喚魔法で遊び道具を出す。各種スキー&ストックのセット、スノーボード、ソリ2種類という感じだ。

 なおスキーやスノーボード、ソリの使い方は事前に翻訳したのを各自読んで予習してもらった。
 俺自身は長さがやや短めで太めの板のスキーで金具はかかとも固定タイプ。新雪でも滑りやすいように、そして初心者でも簡単に滑れるようにいろいろ試行錯誤したタイプだ。

 本当は運動神経にそれほど自信がないのでソリにするつもりだった。しかし最初は初心者でもある程度滑れるか試してみるのも必要だろう。そう思ってあえてこれを選んで挑戦だ。
 なおテディとサラは最初はソリで挑戦。フィオナは俺とおなじタイプのスキー。ミランダはヒールフリータイプのスキーで、ナディアさんはスノーボードだ。

「いきなりスノーボードですか」

「田舎で似たような物があったので、試してみようかと思いまして」

 なるほど。そういえばフィオナが調べた資料にそんな事も書いてあったな。
 なお龍2匹はミニサイズのままパタパタ空を飛んだり新雪に飛び込んだり。結構楽しそうに遊んでいる。

「それじゃ先に行っています」

 ナディアさんが最初にスタート。とても最初とは思えない腕でガンガンとターンを決めながら降りていった。後ろをミニサイズの龍が2匹、バタバタと羽根を動かしてついていく。

「それでは私たちもいきましょうか」

 サラとテディがそれぞれソリで滑り始めた。
 見るとソリも結構難しいようだ。2人ともターンをしようとしてソリから落ちたりしている。
 まあ新雪だし怪我はしないよな。骨折程度なら治癒魔法で簡単に治るし。

「じゃ僕も行くね」

 フィオナは炎の直滑降だ。大丈夫かな、あれ。最悪魔法で何とかして止まるだろうけれど。

 俺にはそんな度胸はないので速度が出ないようジグザグに降りることにする。
 新雪なので思った以上に速度が出ない。もう少し坂の下の方へ板を向けてもいいかな。
 おっと速度が出た、確かハの字にして速度を落とす……うわっ。

 3回転半して何とか止まる。いきなりアウトな転び方をしてしまったようだ。いわゆる谷側に倒れるという奴。板と靴を固定する金具がショックで外れてくれたので骨折はしなかったけれど。

 次は角度をもう少し考えて、やっぱり斜面を斜めに滑る感じで挑戦。うん、速度はそこそこだけれどこれはこれで楽しい。転ぶと疲れるけれど。

 あと転んで気づいたのだがここの雪、乾いたパウダースノーだ。転んでもはたけば雪が落ちてくれる。
 これでは雪だるまとか雪合戦とかは出来ないな。滑る方に専念するのが良さそうだ。
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