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第10章 犯人は俺じゃない
第73話 義賊もの小説の是非
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犯行は前回のブレスタイン伯爵家とほぼ同じだ。事務所に侵入して金銭と書類一式を奪い、邪魔な警備は倒すか無力化して逃走。
翌日、ラツィオの国王庁公聴室に不正を示す書類が届けられていたのも同様だ。
ただ前回と違ったのは衛視庁の警備体制。
衛視庁もネブロディ商会が襲われるだろうと予測していたらしい。犯行発覚後即座に該当市外区域を一斉閉鎖、内部の人間を全員確認したそうだ。ご丁寧にも最寄りの公聴室がある国王庁にも同時に見張りをつけたらしい。
だが夜11時から明け方までかかった捜査の結果、内部にいた全員が犯人でない事を確認。厳重に見張っていた公聴室にもいつの間にか書類が置かれていたという有様だ。
『当時取材していた記者が自分の目や魔法で感じた状況からして衛視庁の発表が嘘だとは思えない。ここで思い出すのが魔法武闘会決勝で勝負を決めた直後、チャールズ・フォート・ジョウント選手が姿をくらませた事案だ。あの時は大勢の観客の目前で姿を消しておりその後の目撃証言も一切無い状況である。ブレスタイン伯爵家や今回の強盗事件の犯人がチャールズ・フォート・ジョウント氏本人かは定かではない。しかし同等の能力を持っているのは明らかであると記者は考える』
号外の記事はこんな感じで結ばれている。おいおいおい。勘弁してくれ。
「秘話魔法、この事務所全体、起動!」
テディが急に魔法を発動した。理由は想像がつく。
「さて、正直な意見をお伺いしたいのですけれど、皆さんはこの事案に陛下がかかわっていらっしゃると思われますか?」
俺的には陛下が関わっていると思えてならない。理由は魔法だ。
俺なら偽チャールズ・フォート・ジョウントがやった事は全て可能。そして俺以外で可能な人物となると陛下しか思いつかないからだ。
しかしあえて今は黙っておく。皆さんの意見を聞きたいから。
「正直に言おう。私はこの事件を見て少なくとも殿下は大喜びをしていると思う。おそらく陛下も同じだろう。しかし事件そのものは少なくとも陛下とは関係ないところで行われていると思う。テディもそう思っているんじゃないか?」
えっ。俺は意外に思う。てっきりこの件は陛下が関わっていそうだと言うと思ったのに。
しかしテディは頷いた。
「ええ。同意ですわ。ただ殿下はともかく陛下はきっと苦い顔をしていると思います。何度か話しただけですが、陛下自身はこういう違法行為による解決を好まない印象が強いです。結果が善ならば法を犯しても正義、そういう考え方は施政者として危険であると以前話されていたのを聞いた事もあります。あの時はクーデターで王権を得た自分に対する戒めのようにも聞こえましたけれど。
陛下自身がなさるなら素直に監察部隊をブレスタイン伯爵家やネブロディ商会に送り込んだ筈です。それをする権限も他貴族に内通されないよう即時送り出すことも陛下なら可能です。ブレスタイン伯爵家程度なら陛下の独断でそうしても問題は出ませんし、その方が国法に沿って解決可能ですから。
殿下も基本的には陛下の意向に従って動く筈ですわ。ただ陛下と違ってあの方は必要と判断すれば搦め手でも何でも選ばない方です。ですが殿下ご自身の魔法ではこうした事は出来ないでしょう。私の知る限り殿下はそういった特殊な魔法をお持ちではない筈ですから」
なるほど。
「私もテオドーラさんに賛成です。陛下は本来自他ともに厳しい御方です。ですので今回の事案に関わっているとは私も思えません」
そうなのかナディアさん。俺にとって陛下はくだけた印象しかないのだけれども。
「テディやナディアさんのような陛下をよく知っている人ににそう言われると説得力があるよな。でも私も陛下は関与していないという意味では同じ考えだ。
あとアシュが関わっていないのも確かだろう。アシュ自身はあまりそういった事に興味を持たないし、社会正義とかいう体面や看板で動くタイプでも無いからさ。アシュが自分から動くとすればあくまで身近な誰かや何かの為だろう。
だからこの偽チャールズ・フォート・ジョウント事案には陛下もアシュも関わっていないと思う」
「でもそれなら犯人は何故チャールズ・フォート・ジョウントなんて名乗ったんだろう。単に武闘会で事実上優勝出来る位強くて、かつ正体不明だったからかな」
「その辺はあえて考えない方がいいような気がするんだ。誰が犯人や黒幕なのかで色々理由も変わってくるしさ。だから今はあえて触れない方針で行くのか正解かなと思っている。
さて、ここまでが前提条件だ。これからがここの仕事に関わる本題になる。今までの事を鑑みた上で、殿下がリクエストしてきた『義賊物の小説』を翻訳して出版に回すべきだろうか。皆はどう思う?」
難しいな。
「ロッサーナ殿下は出して欲しいと思っているよね。でも陛下にとっては多分出して欲しくない本なんじゃないかな。それにこの件には関わらない方が正しいって気がするし。そう考えると出さない方が正解って気がするな」
俺もフィオナの意見と同じだ。うっかり翻訳候補の本まで取り寄せてしまったけれど。
ただテディには別の答えが見えているようだ。
「出す方が正解。ミランダはそう思っているのですね」
「何故そう思う?」
ミランダの表情を見る限りいまのテディの台詞は図星だ。しかし俺にはその理由がわからない。
「殿下は出して欲しいと思っている。そして陛下はそれを止めていない。もしくはここに止めてくれと言う連絡が無い。だからですわ」
また俺がわからない理屈が出てきた。しかしミランダは大きく頷く。
「その通りだ。ちょい説明するとさ。以前アシュにはこんな話をしなかったかな。ロッサーナ殿下は自分が未来視の魔法を持っているか、身近に未来視の魔法を持っている人がいるって」
俺とフィオナは頷く。サラとナディアさんは知らないだろうけれど。
「おそらく未来視の魔法を持っている人というのは陛下の事なんだろう。そう思うと色々とつじつまがあうんだ。考えてみると殿下自身は未来視の魔法を使えないようだった。今日は確か真っすぐ帰れない日なのですよねなんて言いながら帰る前にメモを見たりしていたしさ。
そうなるとロッサーナ殿下の身近に誰か未来視をもっている人がいる筈だ。でも学校にいた当時のロッサーナ殿下にとって身近な人って陛下かお付きの女官くらいしかいない。母である王妃は既に亡くろくな後ろ盾貴族もいないからな。それ以外に身近な人がいるとすれば今の陛下1人だけ。現陛下が幽閉中の間でもロッサーナ殿下とは連絡がとれていたみたいだからさ」
「だから陛下はロッサーナ殿下がやろうとしている事に気づいている筈ですわ。殿下が陛下に話しても話さなくても。それでもここに連絡なり忠告が来ない。つまりこの件に関しては黙認しているという事です。黙認でなければ既に陛下の予定や考えの中に組み込まれていると。
ですから今回の件に関しては翻訳をして本を出すべき、そう判断出来るのですわ」
なるほど。
確かに陛下は未来視を使うことが出来る。そしてロッサーナ殿下の行動に範囲を絞ればその辺の事も関知出来るだろう。論理に間違いはない。
「ただ陛下の能力の件とかは他言無用だな」
「だね」
「わかりました」
「それでは秘話魔法を解除しますわ」
すっと事務所全体を覆っていた魔力が消える。
「それでアシュは既に翻訳する本を取り寄せたようですわね。それはどのような内容の本でしょうか?」
「これは怪傑ゾロという小説でさ……」
俺のあらすじ解説が始まる。
翌日、ラツィオの国王庁公聴室に不正を示す書類が届けられていたのも同様だ。
ただ前回と違ったのは衛視庁の警備体制。
衛視庁もネブロディ商会が襲われるだろうと予測していたらしい。犯行発覚後即座に該当市外区域を一斉閉鎖、内部の人間を全員確認したそうだ。ご丁寧にも最寄りの公聴室がある国王庁にも同時に見張りをつけたらしい。
だが夜11時から明け方までかかった捜査の結果、内部にいた全員が犯人でない事を確認。厳重に見張っていた公聴室にもいつの間にか書類が置かれていたという有様だ。
『当時取材していた記者が自分の目や魔法で感じた状況からして衛視庁の発表が嘘だとは思えない。ここで思い出すのが魔法武闘会決勝で勝負を決めた直後、チャールズ・フォート・ジョウント選手が姿をくらませた事案だ。あの時は大勢の観客の目前で姿を消しておりその後の目撃証言も一切無い状況である。ブレスタイン伯爵家や今回の強盗事件の犯人がチャールズ・フォート・ジョウント氏本人かは定かではない。しかし同等の能力を持っているのは明らかであると記者は考える』
号外の記事はこんな感じで結ばれている。おいおいおい。勘弁してくれ。
「秘話魔法、この事務所全体、起動!」
テディが急に魔法を発動した。理由は想像がつく。
「さて、正直な意見をお伺いしたいのですけれど、皆さんはこの事案に陛下がかかわっていらっしゃると思われますか?」
俺的には陛下が関わっていると思えてならない。理由は魔法だ。
俺なら偽チャールズ・フォート・ジョウントがやった事は全て可能。そして俺以外で可能な人物となると陛下しか思いつかないからだ。
しかしあえて今は黙っておく。皆さんの意見を聞きたいから。
「正直に言おう。私はこの事件を見て少なくとも殿下は大喜びをしていると思う。おそらく陛下も同じだろう。しかし事件そのものは少なくとも陛下とは関係ないところで行われていると思う。テディもそう思っているんじゃないか?」
えっ。俺は意外に思う。てっきりこの件は陛下が関わっていそうだと言うと思ったのに。
しかしテディは頷いた。
「ええ。同意ですわ。ただ殿下はともかく陛下はきっと苦い顔をしていると思います。何度か話しただけですが、陛下自身はこういう違法行為による解決を好まない印象が強いです。結果が善ならば法を犯しても正義、そういう考え方は施政者として危険であると以前話されていたのを聞いた事もあります。あの時はクーデターで王権を得た自分に対する戒めのようにも聞こえましたけれど。
陛下自身がなさるなら素直に監察部隊をブレスタイン伯爵家やネブロディ商会に送り込んだ筈です。それをする権限も他貴族に内通されないよう即時送り出すことも陛下なら可能です。ブレスタイン伯爵家程度なら陛下の独断でそうしても問題は出ませんし、その方が国法に沿って解決可能ですから。
殿下も基本的には陛下の意向に従って動く筈ですわ。ただ陛下と違ってあの方は必要と判断すれば搦め手でも何でも選ばない方です。ですが殿下ご自身の魔法ではこうした事は出来ないでしょう。私の知る限り殿下はそういった特殊な魔法をお持ちではない筈ですから」
なるほど。
「私もテオドーラさんに賛成です。陛下は本来自他ともに厳しい御方です。ですので今回の事案に関わっているとは私も思えません」
そうなのかナディアさん。俺にとって陛下はくだけた印象しかないのだけれども。
「テディやナディアさんのような陛下をよく知っている人ににそう言われると説得力があるよな。でも私も陛下は関与していないという意味では同じ考えだ。
あとアシュが関わっていないのも確かだろう。アシュ自身はあまりそういった事に興味を持たないし、社会正義とかいう体面や看板で動くタイプでも無いからさ。アシュが自分から動くとすればあくまで身近な誰かや何かの為だろう。
だからこの偽チャールズ・フォート・ジョウント事案には陛下もアシュも関わっていないと思う」
「でもそれなら犯人は何故チャールズ・フォート・ジョウントなんて名乗ったんだろう。単に武闘会で事実上優勝出来る位強くて、かつ正体不明だったからかな」
「その辺はあえて考えない方がいいような気がするんだ。誰が犯人や黒幕なのかで色々理由も変わってくるしさ。だから今はあえて触れない方針で行くのか正解かなと思っている。
さて、ここまでが前提条件だ。これからがここの仕事に関わる本題になる。今までの事を鑑みた上で、殿下がリクエストしてきた『義賊物の小説』を翻訳して出版に回すべきだろうか。皆はどう思う?」
難しいな。
「ロッサーナ殿下は出して欲しいと思っているよね。でも陛下にとっては多分出して欲しくない本なんじゃないかな。それにこの件には関わらない方が正しいって気がするし。そう考えると出さない方が正解って気がするな」
俺もフィオナの意見と同じだ。うっかり翻訳候補の本まで取り寄せてしまったけれど。
ただテディには別の答えが見えているようだ。
「出す方が正解。ミランダはそう思っているのですね」
「何故そう思う?」
ミランダの表情を見る限りいまのテディの台詞は図星だ。しかし俺にはその理由がわからない。
「殿下は出して欲しいと思っている。そして陛下はそれを止めていない。もしくはここに止めてくれと言う連絡が無い。だからですわ」
また俺がわからない理屈が出てきた。しかしミランダは大きく頷く。
「その通りだ。ちょい説明するとさ。以前アシュにはこんな話をしなかったかな。ロッサーナ殿下は自分が未来視の魔法を持っているか、身近に未来視の魔法を持っている人がいるって」
俺とフィオナは頷く。サラとナディアさんは知らないだろうけれど。
「おそらく未来視の魔法を持っている人というのは陛下の事なんだろう。そう思うと色々とつじつまがあうんだ。考えてみると殿下自身は未来視の魔法を使えないようだった。今日は確か真っすぐ帰れない日なのですよねなんて言いながら帰る前にメモを見たりしていたしさ。
そうなるとロッサーナ殿下の身近に誰か未来視をもっている人がいる筈だ。でも学校にいた当時のロッサーナ殿下にとって身近な人って陛下かお付きの女官くらいしかいない。母である王妃は既に亡くろくな後ろ盾貴族もいないからな。それ以外に身近な人がいるとすれば今の陛下1人だけ。現陛下が幽閉中の間でもロッサーナ殿下とは連絡がとれていたみたいだからさ」
「だから陛下はロッサーナ殿下がやろうとしている事に気づいている筈ですわ。殿下が陛下に話しても話さなくても。それでもここに連絡なり忠告が来ない。つまりこの件に関しては黙認しているという事です。黙認でなければ既に陛下の予定や考えの中に組み込まれていると。
ですから今回の件に関しては翻訳をして本を出すべき、そう判断出来るのですわ」
なるほど。
確かに陛下は未来視を使うことが出来る。そしてロッサーナ殿下の行動に範囲を絞ればその辺の事も関知出来るだろう。論理に間違いはない。
「ただ陛下の能力の件とかは他言無用だな」
「だね」
「わかりました」
「それでは秘話魔法を解除しますわ」
すっと事務所全体を覆っていた魔力が消える。
「それでアシュは既に翻訳する本を取り寄せたようですわね。それはどのような内容の本でしょうか?」
「これは怪傑ゾロという小説でさ……」
俺のあらすじ解説が始まる。
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