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第10章 犯人は俺じゃない

第72話 事案進行中

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 ロッサーナ殿下からの手紙を読んで少し考えて結論を下す。見なかった事にしよう! なんていう訳にはいかないよな。

 仕方ないのでお仕事の準備だ。本当は医学書とか児童書をやる筈だったのだが仕方ない。小銀貨3枚3,000円をテーブルに置く。

「日本語書物召喚! 1冊で完結するこの時代でも通用しそうなちょっと古めの架空の義賊もの。起動!」

 ががががーっと魔力を吸い取られる。いい加減な選択条件だとこうなるのは仕方ない。だいたい通常の日本語書物召喚の10倍近い魔力を使っただろうか。

 それでもちゃんと条件にあった書物が出てくるところは流石魔法だ。どういう仕組みで検索しているのだろうか。かつての日本で悩まされた役に立たないサイトばかり出てくるいい加減な検索エンジンに爪の垢を煎じて飲ませたい。

 出てきたのは怪傑ゾロ、鼠小僧次郎吉、石川五右衛門、運玉義留、ロビン・フッドといったラインナップ。
 この中ではやはり怪傑ゾロだな。本当は怪傑ゾロよりかいけつゾロリの方が俺の好みなのだが仕方ない。

 取り敢えずささっと読んで……と言いたいところだが結構長い。文庫本で300頁超だ。しかしきちんとした内容を知らないので読むしかない。2時間もあれば読めるだろう。

 なおサラは隣の隣、つまりテディの席のとなりで勉強中。静かで本を読むには適した環境だ。

 ◇◇◇

「アシュノールさん」

 ……俺は読書中だ。

「アシュノールさん!!」

 ……

「もう迎えに行く時間ですよ」

 ……あ、そう言えば。

「サラ、済まない」

 俺は本から目を離す。
 うん、こういった古典的かつ分かりやすい善というのはいい。ストーリーがわかりやすくて悪が最後まで悪であるところなんか。しかもちょい書き直せば十分スティヴァレでも通用しそうだ。
 いや待て今は本の感想ではない。奴らを迎えに行くのだった。

「悪いサラ。教えてくれてありがとう」

「本を読んでそうなるのは仕方ないです」

 サラは自分も本好きだので読書にのめり込むことについては寛大だ。
 さて、行くか。

「空間操作! 遠隔移動、対象俺、場所バルマンのリゾート、テディがいる付近。起動!」 

 寒い。思い切り寒い。つまり屋外だ。
 何をしているかというと、スキーでは無く露天風呂。

「掃除はどうしたんだ?」

「テルメ館の方は全て終わらせましたわ」

「あとはここのお湯を抜いて仕舞うだけだよ」

「これくらいはすぐ終わるからさ。アシュが来るまでここで待ってようという事にしたんだ」

 それはわかる。わからないでもない。
 でも俺は言いたい。何故に全裸なんだ! 水着はどうした!

 3人は俺が指摘する前に何を言わんとしているのか気付いた模様。

「やっぱり風呂は裸で入るものだよな」

「アシュが出してくれた写真でもそうでしたしね」

「水着なしの方が気持ちいいよ」

 わかったけれど俺の目を考えろ!はあ……
 文句を言っても多分意味は無い。

「なら迎えに来たから早く準備してくれ」

 そう言った次の瞬間、俺は今言ったばかりの台詞を後悔した。全裸で入っていたなら当然風呂から出ても全裸だ。
 そして雪の屋外で全裸3人というのはかなり異常な光景で……ヤバい。

「取り敢えず服を着てくれ!」

「長湯の後だからでしょうか、この寒さもちょうどいい感じですわ」

「どうせ他にアシュしかいないし問題ないよね」

 充分問題あるぞ! 
 そう言ってもどうせ無駄だし手伝わないわけにもいかない。だから極力見ないようにして手伝う。
 魔法でお湯を蒸発させ、カバー代わりに帆布を引っ張って固定して、最後に木材部分を魔法で乾燥・消毒・殺菌して完了だ。

 なお露天風呂は大浴槽以外は全て片付けてあった。テルメ館の中も見たが一応掃除は終わっている模様。

「はいはい終わったからさっさと服を着る!」

「でもここで着替えるのは寒いよね」

「じゃあ服をさっさと持ってきて。寝室へ移動するから」

 何だかなと思うが仕方ない。妙な光景を見てしまったのでムラムラもしているが今はそういう時間でもない。ナディアさんはお買い物中だろうしサラは勉強中だ。
 そうだ、それにあの件があるのだった。

「殿下からリクエストがまた来ていたぞ」

「それを早く言って下さい」

 はいはい。服を手に取った全裸の3人をとりあえず家の俺の寝室へ移動させる。

「事務所で待っているから」

 これで着ていた服なり自分の部屋にある服なり勝手に着るだろう。
 それにしても何故俺はこんな昼間からムラムラしなければならないんだ!こんな事誰にも言えないけれどさ。
 強いて相談するとすれば陛下くらいだろう。笑われるのがオチだとは思うけれど。

 ◇◇◇

 買い物中のナディアさん以外は事務所に揃った。ミニ龍2頭はいないけれど。
 あの2頭は基本的に事務所内には入らないようにしている。客に見られると問題があるから。仕事中は大体2階のリビング、ソファーの上でお昼寝だ。

 全員で手紙を回し読みした後、意見を聞いてみる。

「殿下も相変わらずですわ」

「だよね」

 これはテディとフィオナの反応だ。

「でも今なら義賊もの、間違いなく売れるな。国立図書館ではまずいからワカードカ社辺りに話を通して急げば1月かからずに出せるだろう。チャールズ・フォート・ジョウント騒動がおさまる前に出版出来れば……」

 ミランダの口からよからぬ考えが漏れているような……これも商機と考えるあたりいっそ立派というべきだろうか。
 サラは我関せずと勉強中。その辺の集中具合は見事だと思う。

「ただいま帰りました。あれ皆さんどうされましたか?」

 ナディアさんが市場から帰ってきた。

「いやさ。ちょい殿下からあやしい手紙を受け取ってさ」

「こちらも市場でちょっと興味がある号外を見つけてきました。書き方がそれぞれ違うので3部購入しています」

 どれどれ。
 今度はサラも我慢できなかったらしい。視線がナディアさんの出した号外紙の方へ向いている。
 こっちを向いた一面にでかでかと見出しが躍っていた。

『チャールズ・フォート・ジョウントまた出没! ネブロディ商会襲われる!』

「予測、当たったね」

 台詞通り、確かにミランダやフィオナが言っていた商会だ。確かに見張っていたら今頃正体がわかったかもしれない。そんな事をする気は無いけれど。

 ロッサーナ殿下は陛下が空間操作魔法を教えないだろうから実行犯ではない筈。でも実行犯が陛下本人だったら目もあてられない。俺まで悪徳貴族・商会征伐の片棒を担がされそうだ。

「とりあえず読んでみないとな。どんな状況なのかさ」

 何だかなあ。そう思いながら俺もテディやサラと一緒に記事を読み始めた。
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