異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
93 / 176
第13章 いろいろあります新学期

第87話 散歩の収穫

しおりを挟む
 翌日。サラに場所の説明を聞いた後、地図と照らし合わせて近くて人通りの少なそうな場所を選んで遠隔移動する。
 海を見下ろす高台にある墓地に出た。墓地と言っても緑が多く半ば公園のような場所だ。

「それじゃ2人がここへ戻ってきたら迎えに行くから」

「時間を決めなくて大丈夫でしょうか」

「位置だけを捕捉し続ける魔法があってさ。これを使えば周りの景色とか何をしているかはわからないけれど、場所だけはずっと意識しなくても補足し続けるんだ。地図上のこの点に今居るなという感じでさ。それを使ってこの場所に戻って来た時に俺がわかるようにしておくよ。だからゆっくりでも早く終わっても問題ない」

 これは陛下が俺を捕捉していた魔法の応用だ。陛下は最初、この魔法で俺が一人になった時を狙って接触してきた。

 なお今でも陛下は俺をこの魔法で捕捉し続けているようだ。でもこの魔法、座標だけを自動的に捕捉し続けるだけなので実害は無い。

 正直陛下は迷惑な人ではある。しかし友達が他にいないとかたまにはそういう存在に絡みたいとか、その辺の気持ちがわからないでもない。だから今のところこの魔法を解除したり抵抗《レジスト》したりしていない。

 さて、少しカーモリの街を散策するとしようか。普段あまり外に出ないからこういう時くらいは出歩かないとな。それに知らない街を散策するのも結構面白そうだ。
 俺はテディ達とは違う方向へゆっくり歩き出す。

 一応地図である程度この街の事は予習済みだ。確かこっち側に市場があったはずだ。まずはその辺をゆっくり見させて貰おう。

 歩いて行くと道はゆっくり下り坂になる。坂道の向こうに港が見えた。港が一番低い場所にあり、それを囲むように斜面に家々が立ち並んでいる。
 低い場所に平地が無いので主要産業はやはり漁業なのだろうか。そんな事を思いながら低い方へ向かって歩く。

 漁港のすぐ横に魚市場があり、更に道路を挟んで市場街になっていた。時間的にもちょうどいい感じで品物がずらりと並んでいる。
 やはり漁港の街だからか海産物が多い。ゼノアの市場より3割くらいは安い値段で並んでいる。

 あのスズキ、大きさの割に安いし美味しそうだ。刺身にしてもいいしフライにしてもいいよな。
 そっちにあるホンビノスらしい平たい貝もいい。ワイン蒸しなんてするといい感じだろう。

 まずい、気を抜くと爆買いモードに突入しそうだ。しかし食事の買い出しは基本的にサラの仕事であり権限でもある。だから何とか我慢して歩く。

 ハムとかソーセージ、肉類はゼノアの方が豊富かな。値段もだいたい同じくらいと見た。
 野菜はそこそこ、柑橘類は季節の割に多いかな。そんな風に他で気を紛らわせて。

 だが俺は見てしまったのだ。大きい箱に海水を入れてそのまま大量に売っているアレを。

 間違いない、これは牡蠣だ。以前ボリアスコで採った時の牡蠣は岩牡蠣系統だったがこれは真牡蠣系統。しかも半重3kgあたり小銀貨1枚1,000円とゼノアに比べて激安。
 パチン! 俺の精神的なたがが外れてしまった。

「すみません。この牡蠣をいただけますか」

「何重にしますか」

「全部」

 おかみさんはえっ、という顔をする。

「全部下さい。自在袋で持ち帰ります」

 ふふふふふ、これで昔憧れていた牡蠣小屋ごっこが出来る。食べ放題的に焼いて食べ焼いて食べするアレだ。
 でもカキオコ用に少し残してもいいな。いずれにせよ買い占めだ!

「わ、わかりました。それでは重さを量りますから」

 よしよし。
 柑橘類もついでに買っておこうかな。焼いた牡蠣にさっと絞ると最高だ。
 トマトケチャップも一応作っておこう。フライ用にタルタルソースも必要だな。ああ妄想がはかどる!

「ありがとうございます。5重30kgになります。入れ物はどうされますか」

「直接これに入れていきます」

 自在袋に突っ込んでおけばいくらでも保存できる。中の物を汚す心配もない。
 俺は小銀貨10枚を出した後、計った後の牡蠣を自在袋に詰め込む。全部で187個。これではうちの大食い軍団相手には充分ではないな。

 俺は更に周りの店を見回す。まだまだ牡蠣を売っている店はありそうだ。
 ついでだから思う存分買い占めておこう。うちの大食い連中に負けないように。
 俺は狙いを定め、次の店へ……

 ◇◇◇

 約1時間経過後。テディの位置が動き始めた。もう少しであの公園墓地かな。
 俺は手近な路地へ入り来た時の墓地へと魔法で移動する。

「どうだった?」

「早速明日の放課後から来るそうですわ。家財道具類は自在袋の一番大きいのを貸しましたので、明日それにいれてくるそうです」

「本当にありがとうございました」

「いや、こっちはこっちで嬉しい収穫があったからさ」

 サラが頭を下げるのを俺は止める。 

「そう言えばアシュ、とっても機嫌が良さそうですね。何があったのでしょうか」 

 テディ気づいたか。しかしかまわない。どうせ昼食時には気づかれるのだから。

「市場を見たら色々掘り出し物があった。今日の昼食と夕食は俺に任せてくれ」

 収穫は牡蠣だけではない。ここの人はウニも食べるらしくしっかり売っていたのだ。更に新鮮で美味しそうな魚や他の貝類も。
 結果、大人買い通り越したお大尽買いを決行。いい金額が吹っ飛んだが後悔はしていない。

 さて今日の昼は何にしようかな。まずは牡蠣小屋形式で焼き牡蠣か。
 自分が食べたければ生で食べてもいいだろう。魔法で殺菌できるから食中毒を起こす可能性は低い。
 卵に小麦粉、パン粉とオリーブ油を用意してセルフ牡蠣フライさせてもいいな。もう希望は無限大だ。

 夜は久しぶりの豪華海鮮丼にしよう。うひひひひひひひ……

 ◇◇◇

 昼食のセルフ牡蠣尽くしは大好評。ウン百単位であった牡蠣がごそっと減った。
 夕食の海鮮丼ももちろん大好評だ。俺だけで無く全員に。

 その結果、安息日にはカーモリの市場街を見回るのが俺の習慣になってしまった。牡蠣やウニだけではない。新鮮なサバをしめさばにしたり小鯛のささ漬けもどきをつくったり、もう素材が新鮮かつ安くて色々楽しめるのだ。

 酢締めのような保存食は冷凍魔法や自在袋が使えるこの世界では普及していない。食べたければ自作するしかないのだ。
 そして新鮮な魚で作れば間違いなく美味しい。俺だけで無く家の皆様にも好評だ。

 数週間経過後。カーモリの市場街では魚介類専門の上得意様扱いとなってしまった。
 歩いているだけで魚屋が挨拶して今日のお勧めとかを出してくれる。漁港の街だけあってそのお勧めが毎回毎回俺のツボにはまるのだ。 

 結果毎週正銀貨万円単位で俺の小遣いを投入してしまう状態。
 カモにされているとは思っていない。お互いWin-Winな関係だ。
 なにより美味しいは正義。間違いないし問題ないのだ。多分、きっと。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...