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第13章 いろいろあります新学期

第86話 新学期が始まって

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 4月。サラが学校に通い始めた結果、また食事当番が少し変わった。
 朝は俺、テディ、フィオナ、ナディアさんの誰かが日替わりで当番。昼も同じ面子で日替わり当番。
 夜だけはサラが作ると譲らなかった。学校行事とか課外活動等もあると思うのだけれども、
「課外活動があってもその後で市場に寄って、調理してで充分間に合います」
とサラが押し切ったのだ。

 本当は朝昼もサラは自分が用意すると言い張っていたのだ。自在袋に入れておけば時間経過が無いので入れた時のまま。だから夜や休日に作り置きしておけば大丈夫という理屈である。
 でも流石に学校があるのにそれは申し訳ない。だから全員でなだめて説得して朝と昼は押し切った格好だ。

 それでも夕食調理時にサラは大量のパンを焼いてストックしてくれている。食事用のパンだけでなくクリームパン、うぐいすパン等おやつ系も含めてだ。
 困った事にサラが焼いたパン、俺たちの好みを熟知しているだけに市販のものより遙かに美味しい。だからつい手が伸びてしまう。この辺サラ離れが出来ないなと悩みつつ、今日も自在袋のストックからクリームパンを出して皆で食べていたりする日々だ。

 なおサラは学校が大変楽しそうで毎日元気に出かけて行っている。

 さて、俺はちょっと冒険的な本を今翻訳している。翻訳というかスティヴァレにあわせたリライトに近い状況だけれども。
 ちなみに訳しているのは『月は無慈悲な夜の女王』の第1章部分だ。間違っても『君は淫らな僕の女王』ではない、念のため。

 簡単に言うと地球の植民地である月の革命を描いた内容だ。月の行政府を制圧するまでの話を領地と領主、更にコンピュータを魔法知性へと置き換えている。この前陛下が食事中に挑発してきたのでそのお返しという奴だ。

 幸いスケジュールには余裕がある。春から仕事の進め方を少し変えたのだ。

 今までは
  ① 初めは日本語からスティヴァレ語に翻訳する俺だけが忙しく他は暇
  ② 翻訳が上がるにつれテディ、ナディアさん、フィオナが忙しくなる。
  ③ 全部の翻訳が終わると俺が暇、3人が忙しい。
という状態だった。

 だから①の段階は10倍速モードを使い一気に仕上げる事にしたのだ。そうすれば暇で無駄な時間が少なくなる。

 なお③の時に10分の1倍速モードで余分に働いた時間の帳尻をあわせるようにしている。そうしないと俺が早く老けそうだからだ。結果的に寝るだけで終わる日もあるけれど、それはまあ仕方ないという事で。

 さて、学校が始まってから1週間が経過した5の曜日。夕食時にサラから相談があった。

「学校の友達なのですが、家が遠くて通うのが大変な子がいるんです。それで学校から近いところで安い下宿かアパートを探しているのですが、なかなか見つからないそうなんです。ですからもし良ければですけれど、4階の部屋の1つを借して貰えればと思ったのですけれど」

「遠いってどれくらいなのかしら」

「歩いて3時間と言っていました。カーモリの家から通っているそうです」

 カーモリか、確かにそれは遠いな。昨年夏に海遊びでボリアスコへ行ったがそれより更に先だ。
 ただこの家は時々危険な客が来る。陛下とか殿下とかだ。だからすぐにいいとは言えない。

「どんな子なのかな」

「ジュリアというんですけれど、親はカーモリで漁師をしていると聞きました。中等学校はボリアスコの学校に通ったけれど、高級学校は近くに無いのでここまで歩いて通っているそうです。ボリアスコの学校で先生に勧められて進学したけれど、思ったより大変だって言っていました。
 この家には時々特別なお客様がいらっしゃいます。ですから難しいのもわかっています。だから無理なら無理とはっきり言ってください。でも出来ればなんとかしてやりたいんです。お願いします」

 サラはそう言って頭を下げる。

 うーん、どうしようか。問題点もまさにサラ自身が言っている通りなのだ。
 俺以外も考え込んでいる。俺もどう判断しようかと悩んでいた時だ。

「アシュの魔法で判断出来ないか?」

 ミランダがよくわからない事を言う。

「どういう事だ?」

「陛下は未来視の魔法を持っているだろうって以前推測したよな。アシュも同じような魔法が使えるのなら、何か判断材料になるものが見えるのではないかと思ってさ」

 なるほど。

「出来るかどうかわからないけれどやってみるか」

 未来視の魔法は魔法武闘会で散々使った事もあって無詠唱で起動できる。 条件はサラの友人を4階の部屋に受け入れると決める事。

 近い将来から順に見ていく。未来は遠くなるにつれてぼやけて形がわからなくなっていく。
 それでも『サラの友人を受け入れる事で起こる事』に意識を絞るとぼんやりと何かを感じる事が出来る。

 感じるのは具体的な姿では無く、嬉しい、楽しい、または失敗した、悲しいという感情や雰囲気に近い何かだ。先をたどるにつれて時間も確かではなくなってくる。

 おっと。何かわからないが嬉しい、成功した、その手の何かだ。
 更に先を辿ってみる。同じようないい方の何かが所々で感じられる。

 ある程度先まで辿ると何もわからなくなった。これは何もないという状態ではない。未確定すぎて何もわからないという状態だと思う。

 念のため次に『受け入れないと決めた上で起こる事』も追ってみる。最初に近い方で失望と思われる何かが入る。しばらく何もなく……

 うん、結論はわかった。
 
「受け入れても大丈夫のようだ。未来視で見た限り問題よりも受け入れるメリットの方が大きく感じた」

「メリットってどんな事かな」

「わからない。未来視でもある程度以上先の事ははっきりとは見えないんだ。ただいい事の方が良くない事より遙かに大きいし多い。そう感じた」

「アシュがそう言うなら大丈夫だな」

「そうですね」

 ミランダとテディがそう言うなら決まったようなものだ。

「ありがとうございます」

 サラが頭を下げるのを手で制する。

「いや、受け入れた方がうちにとってもメリットが多そうだからさ」

「それで家賃等はどうしましょうか?」

 金関係の事になると全員の視線がミランダの方を向く。

「そうだな。別に使わない部屋だし無料でいいくらいだけれど、それじゃ向こうも納得しないだろう。1部屋正銀貨1枚1万円でどうかな」

「それでは安すぎませんか?」

「この家全体が月に正銀貨15枚15万円だからさ。専有面積を考えればそれでも高いくらいだ。あと食事はどうする? サラと同じで皆と一緒に食べていいならプラス小銀貨5枚5千円ってところか。6人分も7人分もそう材料費はかわらないしさ」

「そんなに安くていいんですか?」

「実費だとそんなものだろ。何ならサラの買い出しを手伝って貰ってもいいしさ」

 実際1人増えたところで固定経費はほとんど変わらないだろう。その辺は買い出し担当のサラがよく知っている。

「すみません。それではお言葉に甘えさせて貰います。明日、早速ジュリアに話してきます」

 おいおい。

「明日って休みだろ。往復6時間かけて歩いて行くのは大変だぞ。馬車もボリアスコから先は便が少ないしさ」

「それでも1日でも歩く日が少なくなればジュリアも楽ですから」

「ならアシュに連れて行ってもらえばいいですわ。何でしたら私もご一緒してご挨拶させていただきます。アシュには時間を決めて迎えに来てもらえば大丈夫ですわ」

 確かにテディに挨拶させればいいかな。向こうも大人が来た方が安心できるだろう。

「そうだな。それじゃ明日、何時頃がいい?」

「すみません本当に」

「いや、1人増えるくらいどうって事無いしさ」

「何もなければ朝10時過ぎ位に伺いましょうか」

「それじゃ僕らは部屋の整備をしておくね」

 こうしてジュリアさんの受け入れが決定した。 
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