異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
106 / 176
第14章 2年目夏のバカンス

第100話 漁師直伝の泳ぎ方

しおりを挟む
 飲み過ぎた翌朝はお茶漬けがよく似合う。
 なおスティヴァレでは茶が全て輸入なので高価。だから実際は茶ではなく冷たいだし汁漬けだ。
 塩辛もちょうどいい具合に仕上がっているし、他のおかずもさっぱり系で揃えた。

 ご飯よりパン派がいるかもしれないので一応パンも用意してある。でも見る限り二日酔い組5名はごはんを選んだようだ。

「頭がガンガンするな、今日は」

「奇遇だね。僕もだよ」

 それは二日酔いの典型的症状だ。度数がかなり高い蒸留酒を半分に割った程度でガンガン飲んでいたからな。

「私も今朝は少しゆっくりしようと思いますわ」

「私もそうします」

 テディとサラも似たようなものだ。スティヴァレの果実酒はアルコール度数が強烈だから。

「飲んだ次の日はこういった朝食がいいですね。サラッとおなかに入るし胃に優しい感じです」

 飲んだ中でただひとりナディアさんだけは平気な模様。こう見えても昨年まで軍の最精鋭の1人。鍛え方が違うのだろう、きっと。

「昨日いい場所を見つけたのですが行きませんか。3人ならゴーレムボートと引っ張るボートとで行けますから」

「行く」

 ジュリアは乗り気のようだ。

「俺も行こうかな」

「留守番していますから」

 テディ以下は午前中は動かない模様だ。

「用意した方がいいものはありますか?」

「太陽が暑いからシャツは着ていた方がいいです。あと水中眼鏡とシュノーケルはあった方が楽しいと思います。自在袋は私も持って行きますけれど自分用が必要なら」

 なるほど。魚を捕るのだろうか。

 別荘の庭まで引き上げておいた水上バイクとバナナボートもどきごと海へ移動。水上バイクはナディアさんの運転で、俺とジュリアはバナナボートもどきに乗って出発だ。

 ボートはかなり速い速度で沖へと向かう。牽引されるボートの後ろに乗っている俺でも少し怖いくらいの速度。
 俺は怖くてボートから手を離せず動けない状態。しかしジュリアは平気で周りを見回したり下をのぞき込んだりしている。それでいて全くバランスを崩す様子が無い。

 ボートは別荘のある砂浜からかなり沖に出て、かつ南下した場所で停止する。ナディアさんがアンカーを下ろしたところを見るとここが目的地のようだ。

「ここは下が岩場で少し浅くなっています。そのおかげで他の場所より魚が多いようです」

「了解」

 ジュリアがボートからいきなり海へ飛び込んだ。見事な動きで回転し、下へと潜っていったようだ。魚を捕りに行ったのかな。

 俺も行こうかなと思って自在袋をボートに縛り付け、水中眼鏡とシュノーケルを装備したところでジュリアが上へ上がってきた。

「収納」

 でっかい鰹っぽい魚をつついて水面に浮かび上がらせる。魚は既に締めてあるようだ。おいおい早速かよ。

 とりあえず収納してやったら彼女はまたふっと水面下へと消える。相当に泳ぎ慣れているようだ。
 今度こそ俺も行こうと思ったらまたすぐにジュリアがあがってきた。しかも今度はタコを抱えている。

「これも」

「俺も潜るから自分で入れてくれ。ここに収納袋をくくりつけてあるから」

 水面からでも手が届く場所へ自在袋を縛り直す。これなら海中からでも使える筈だ。
 自在袋の出し入れは持ち主が袋に触れながら念じればいいだけだからな。持ち主指定は家の全員やってあるし。

「感謝」

 タコを収納してジュリアは再び海中へ。

 どうやっているのだろう。俺も飛び込むようにして潜ってみる。
 おっとシュノーケルに海水が入った。水中眼鏡も微妙に水が入ってくる。慣れないから仕方ない。

 水面でボートに捕まりながら直しつつ、海中の様子を見る。
 ボートの下はナディアさんが言った通り少し高くなった岩場だ。岩の頂点から海面まで1腕2m程度というところだろうか。
 ただ周りはそこそこ深い。見た限り砂地になっている部分は水面から5腕10m以上あるだろう。
 全体的に砂底で、この付近だけ岩場になっている感じだ。そのせいか岩場を中心に魚がそこそこ多い。

 見るとナディアさんは海面を泳ぎながら海中を見ているようだ。泳ぐと言っても腕も脚も最小限だけ動かして水面を漂う感じ。
 一方でジュリアはというと、すっと岩近くの場所から水面へと戻っていった。また獲物を捕った模様だ。

 俺もやってみようか。まずは下の岩場の方へ行ってみよう。頭を下げて腕を使って潜ろうと試みる。
 だが何故か下へと進まない。
 ちょっと潜りかけるが身長程度が限界。つまり逆さになると足が水面に出るくらいだ。

 仕方ない。一度上に出て、ボートをつかんで呼吸を整えてからもう一度。
 ターンはそこそこうまくいったと思う。しかしやはり身長程度が限界だ。腕と足の力ですこしだけ下に行くが身長くらいでやはり潜れなくなる。

 もう一度ボートに捕まって考える。何故俺があまり下まで行けないかを。
 海水は塩分がある分重い。水中眼鏡には空気が入っている。人間の身体の比重は確か水とそう変わらない程度の筈。

 という事は肺に思い切り空気を吸って潜ったのが失敗の原因かもしれない。空気は当然海水より遙かに軽い。だから息を吸って体積が増えた分、軽くて潜りにくくなっている可能性がある。

 ただ息を全部吐いた状態で潜ったら空気が足りなくて溺れてしまう。だから思い切り息を吸うより少し少なめで挑戦。
 今度は微妙にさっきより下に行けた気がする。考え方は間違っていなかったようだ。
 でもこの状態だと息が続かない。すぐ苦しくなる。うん、俺にはジュリアの真似は無理だ。

 ただどうやって獲物を捕っているのかは気になる。何せ銛などの漁具は一切使っていないのだ。どうやっているのだろう。

 そう思ったらまたジュリアが上へと戻ってきた。そして今度はボートの上へ乗る。
 どうやら上で少し休憩するようだ。ちょうどいいので聞いてみる。

「ジュリア。さっきから魚とかタコとか捕っているけれどどうやって捕っているんだ? 手づかみだと無理だろあれって」
「水魔法。魚の頭を狙う。当てたら取寄魔法アポートで手元に持ってきて、水魔法で血抜き」

 そうか。生物は取寄魔法アポートで取り寄せできない。だから魔法でまず殺して、そして取り寄せる訳か。

「潜るときも水魔法で水流を作ると楽。紡錘形のイメージで自分を含めた場所全体を海水ごと水魔法で動かす。あと身体強化魔法を使うと沈みやすくなる」

 なるほど、魔法併用という訳か。そうすれば確かに普通に泳ぐより楽だし速いだろう。言われてみれば当たり前の方法だけれど目から鱗だ。

「こうやって捕った魚は身の傷みが少なく高値。漁師の常識」

 なるほど、漁師プロはそうやって魚を捕ると。
 ジュリアの親は漁師と聞いている。彼女もその辺を親から教わったか見て当然のように身につけたかしたのだろう。

 よし、まずは魔法を使って泳ぐところから挑戦してみよう。身体強化を使った後、自分の周りの水ごと水魔法で動かせばいいんだな。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...