異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第14章 2年目夏のバカンス

第102話 被疑者は不明

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「気分転換にゴーレム車で街まで行ってくるよ」

「ついでに何か面白い物があったら買ってくるね」

「私も行ってみます。せっかくですからここの街を見てみたいです」

「私も」

 結果、昨日の買い出しとは逆に俺、テディ、サラだけ別荘居残りとなった。
 ただし3人とも外で海遊びという雰囲気では無い。俺に新しいレシピ本を訳せと目で訴えている。

「わかったから。とりあえずもう1冊レシピ本を召喚するから、それを見て待っていてくれ」

 小銀貨5枚5,000円を置いていつもの呪文だ。

「日本語書物召喚、スティヴァレでも材料が揃いそうな中華料理レシピがわかりやすく写真多めで載っているもので、できるだけメニューが多い本、起動!」

 無茶な条件で魔力が大幅に減った。いつもが1人でゼノアからラツィオまでの移動魔法程度なら、今回は全員がゴーレム車に乗った状態でゼノアとラツィオを往復する位だ。
 それでもちょうどいい感じの分厚いフルカラーの本が出てきたので、そっちをテディ達に渡して俺はさっきの本を翻訳にかかる。

 読者が真横で待っている状態なのでもちろんこの魔法も使おう。
「空間操作! 時流操作、対象俺、加速10倍。起動!」
 更に翻訳魔法まで使って訳す。

 ページ数が少ないのが幸いした。俺の体感時間で4時間、実際には1時間以内で何とか翻訳終了。2人に渡す。

「この世界ではこの麺も種類がいくつもあるのですね」

「本当はもっとある。これは作者が近くで購入できるものだけだろ」

「暖かいメニューもあるんですね」

「本当はラーメンは温かい汁入りが標準なんだ。ここでは焼きそばから始まったけれどさ」

 解説を入れながらゆっくりと3人で読む。

「この製麺機という機械も出来れば欲しいです」

 この程度の機械なら直接取り寄せても問題ないだろう。スティヴァレの技術水準でも充分作れるし。
 正銀貨4枚を置いて大分前に作って数回しか使っていない魔法を起動する。

「地球道具類召喚、小野式製麺機2号型両刃、起動!」

 条件をはっきりすれば召喚に要する魔力も書籍召喚とほとんど変わらない。
 出てきたのはほぼ新品に近い緑色の手回し式鋳物製製麺機だ。

「これでこの麺も自分で作れるのですね」

「ああ。でも切り歯の太さがあるから、その辺は考えるなり改造部品を作ってもらうなりしないとな」

「研究の価値がありそうです」

 ならついでに参考になりそうな本も召喚しておくか。

「日本語書物召喚、この製麺機を使って自作のラーメン等を作るときに参考になる本、起動」

 さっきの10分ラーメン本と同じような本がどさどさっと出てきた。しまったこれ、シリーズものの同人誌だったのか。
 しかしこんな製麺趣味の本があって売れているとは知らなかった。この本、ページ数が少ない割に漫画とかあるから機械的に訳しにくいんだよな。まあその分読み甲斐があるし、いいとするか。

「面白そうですね、その本」

「ただレシピだけでなく読ませる記事もあって、漫画も様々な方法論で描かれていて参考になりそうです」

 つまりこれらも訳せという事だな。悲しいかな了解。自在袋からサラ作のクリームパンを食べ、再び俺は10倍速魔法を自分にかけた。

 ◇◇◇

 とりあえず2冊ほど訳したところで本日は終了。
 それにしても製麺趣味、いやこの人の場合は製麺機趣味というべきだろうか。ここまで面白い世界だとは思わなかった。
 俺の翻訳中にサラが早速麺を自作している。今は麺を寝かしているところだそうだ。

「明日の朝食で美味しいラーメンを作ってみます」

 いやラーメンは朝食べるものじゃないと思うんだけれど。でもスティヴァレにそんな常識は無いか。
 そんな事をしていると皆さんが帰ってきたようだ。足音が近づいてきて、そして扉が開く。

「ただいまー。おっと、何かやっているな」

「製麺機です。これで明日の朝食を作ろうと思いまして」

「楽しそうなところ申し訳ないが悪いお知らせだ」

 ミランダはそう言って自在袋から号外を取り出す。

「またチャールズ・フォート・ジョウントが現れたらしい。今度はエルドヴァ侯爵家だそうだ」

 ミランダから号外を受け取って3人で読む。
 今度の犯行もほぼ同じだ。警備は周りが見えなくなる魔法で無力化され、金銭と書類が奪われる。不正な穀物価格操作の証拠書類は翌朝、トランの国王庁に置かれていたそうだ。

「わからなくなりました」

 ナディアさんがぽつりとつぶやいた。それが妙に気になったので聞いてみる。

「どういう事ですか、ナディアさん」

 ナディアさんはちょっとだけためらってから口を開く。

「私は今まで偽チャールズ・フォート・ジョウントの正体、レジーナさんだと思っていたんです。あの人ならほぼチャールズさんと同じ事が出来ると聞いていますから」

 そうか、確かにそうだ。レジーナさんなら俺や陛下とほぼ同じ事が出来る。何故思い出せなかったのだろう。

 理由はなんとなくわかる。思い出したくなかったからだ。俺を婿にとるつもりで探している存在というのを。
 でも待てよ。

「なら何故レジーナさんが犯人じゃないと判断したんですか」

「今までは犯行現場と書類を提出した国王庁はごく近い場所でした。ブレスタイン伯爵家の時はフロレントの国王庁、ネブロディ商会の時はラツィオの国王庁、そしてテーヴェレ侯爵家の時はウェネティの国王庁です。いずれも現場があった至近の国王庁に書類が提出されています。
 ですから私は犯人は本物のチャールズさんに近い能力を持っているけれど、遠い場所には魔法で移動できない人ではないかと考えたんです」

「でも犯行があったエルドヴァ侯爵家はトランだよな……そうか!」

 言っている最中にミランダは気づいたらしい。

「ええそうです。テーヴェレ侯爵家の事件と今度の事件の間は中2日しかありません。ウェネティからトランまでの間は概ね200離《400km》。国王庁の早馬便でも無ければ普通はたどり着ける距離ではありません」

 確かにそうだ。
 馬車はせいぜい1日に50離100kmから60離120km程度しか走らない。しかも夜間は馬が嫌がるから基本馬車は動かせない。

 暗視持ちで自前の馬車を持っていたりレンタルしたりしても無理だろう。馬はゴーレム車と違い生き物だから疲れるのだ。
  途中で換え馬を用意した上で、馬車を引かず乗馬状態で一気に駆け抜ければ何とか間に合うだろう。しかしそんな事は普通出来ないししたら目立つ筈だ。
 つまり。

「移動できないから、レジーナさんは犯人じゃないという訳か」

「もちろんレジーナさんが本物のチャールズさんと同じように遠くへ移動できる魔法を持っていれば別です。その辺はどうなのでしょうか」

 レジーナさんの使用できる空間軸はそれほど広がりを持っていない。そして移動魔法を使うにはそれなりの広がりが必要なのだ。俺の場合空間軸を4つ以上使ってその広がりを確保している。
 つまりは……

「武闘会の時のままなら、レジーナさんは移動魔法を使えない筈だ。壁を通り抜けたりする位は出来るけれど」

「やはりそうですか」

 なら偽チャールズは誰なのだろう。
 俺と同じような魔法が使える第三者がいるのだろうか。その可能性は俺としてはありえないと思うのだが。
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