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第17章 状況の始まり
第137話 久しぶりの衣装
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俺達の家の入口にはロープが張ってあった。
ロープに次のように書かれた板切れが張り付いている。
『立入禁止・スティヴァレ近衛騎士団』
どうやら襲ってきた連中、正体を隠す気はさらさら無い模様だ。
家の中を確認する。
扉は全て開けられ床やカーペットは土足の跡がガンガンに残っている。
清拭魔法を使えば済む事だがどうしても怒りを感じてしまう。
ただ運べる物はほとんど別荘に持ってきてしまったから何も残っていない。
調べたところで証拠として出てくる物は何も無いだろう。
「アシュ、いいでしょうか」
おっと。
「どうした?」
テディとナディアさんがもう戻ってきていた。
「ちょうどいい場所がありましたので木を何本か切り倒して障害を作っておきました。その場所にアシュが言っていた侵入者を感知する魔法をかけて欲しいのです」
「どの辺かな」
「家の前から道を辿って行けばすぐわかると思いますわ」
どれどれ。
空間操作魔法で視覚だけ道を辿って確認してみる。
道が岩場を巻いて海側を通るところで木々が道を塞いでいた。
切り倒した木を枝つきのまま、枝先が家と反対方向を向くよう並べて置いてある。
いわゆる逆茂木という奴だ。
道幅いっぱいをしっかり防いでいるのでこのままではまず通行不可能。
なお道の右は海への崖、左は山方向への崖のような斜面。
つまり道以外の場所を通る事は不可能に近い。
塞いだ場所が微妙なカーブだから身体強化してジャンプして超えるのも不可能。
なかなかいい場所を選んだものだ。
勿論魔法を使えば、例えば熱魔法で炭化させてしまえば通るのは可能だろう。
でもその手間がかかる分時間も使うので、こっちも備える事が出来る訳だ。
「わかった。この逆茂木に魔法か何かで手をつけたらわかるようにすればいいな」
「ええ。それで大丈夫だと思います」
ナディアさんがそう言うなら間違いないだろう。
俺は空間操作魔法で監視状態にしておく。
「アシュ、急ぎで物の転送お願い」
今度はフィオナの声が聞こえた。
例のゴーレムを使った通信だ。
ゴーレムで通信する際の呼び出し音は評判が悪いから無くしたのだが、俺としてはやはりあったほうがいいな。
声だけ聞こえるとどうも落ち着かない。
俺の意識に電話というものがあるせいかもしれないけれど。
「場所は何処で何を転送すればいいんだ」
「オッタービオさんの工房の奥。転送するものは青い戦闘ゴーレム全部と僕自身」
「わかった」
急ぎだから理由は後で聞くことにしよう。
フィオナの居場所は最初に馬無し馬車を紹介された、工房の奥にあるオッタービオさんの場所。
青い戦闘ゴーレム合計18体とフィオナを問答無用でここに転送する。
人より一回り大きいゴーレムで部屋がいっぱいになるが、まあ仕方ない。
「何なんだ、一体」
「オッタービオさんから依頼されたんだ。近衛騎士団に接収される前に何とかしてくれって」
ちょっと待て。
「何が起きているのでしょうか。オッタービオさんは何故そんなお願いをフィオナにしたのでしょうか」
「今日の午前中にこんな命令が回って来たらしいんだ。無論全部の家という訳じゃなくて、ラツィオの一部の商家等だけだろうけれど」
フィオナが紙を取り出す。
どれどれ。
『チャールズ・フォート・ジョウント及び不逞の暴徒による貴族及び商会襲撃事件の解決の為、非常事態法4条2項により貴商会の所有する物資の特別徴発を実施する。貴商会にあっては下記の物資を対象とするので早急に準備されたい。また徴発した物資の対価については後日相応の額を支払う予定である。
記
1.ゴーレム車と称される乗用高速運搬機械 全機
2.戦闘用自律型ゴーレム 全機
3.自律型ゴーレム用魔法水晶 全在庫
近衛騎士団騎士団長 カシム・ド・クリニウム伯爵』
「非常事態法は確か、外敵との戦争行為や大規模な災害の際にのみ発動する法律だった筈ですわ」
「偽チャールズ事案とスベイ伯爵家領主館打ち壊し事案。これらをそれに準ずる事案とみなしたんだろうね。非常時用の法律だから国王や評議会の了解を得ず、騎士団の独断で行動できる。その規定を悪用したんだよ」
なるほど。
「だから徴用される前に僕が自律型ゴーレムと魔法水晶、あと通信用試作型の小型ゴーレムを全部買い取ったんだ。格安かつ後日払いでね」
「オッタービオさんは私達について何処まで知っているのでしょうか?」
テディの質問にフィオナは首を横に振る。
「わからない。アシュがチャールズ・フォート・ジョウントである事にひょっとしたら気づいているのかもしれないね。でも本人は何も言わなかったな。
『近衛騎士団に不法に徴発されるよりは梟《イービス》商会にある方が後日の為になるでしょう』
そうとだけ言っていたよ」
うーむ。
ナディアさんがいる事でばれてしまったのだろうか。
それとも元々気づいていたのだろうか。
それとも気づいていないのか。
なんとも言いがたい。
「それにしても近衛騎士団、ゼノアの家を襲撃した以外にも動いているようですね。前々から準備をしていたのでしょうか」
ナディアさんの台詞にテディが少し考え込む。
いや、考え込んでいるのでは無いな。
何か魔法を使っている気配がする。
待てよ。
近衛騎士団がもし以前から今日の為に準備をしていたなら……
チャールズ・フォート・ジョウント以外にも襲撃をかける恐れがある場所がある。
バジリカタだ。
現在は第二騎士団が臨時で駐留しているけれど、そこに近衛騎士団が仕掛けたら……
魔法で確認する。
まだ戦いは始まっていない。
第二騎士団が整然と臨時の駐屯地であるスベイ伯爵家に陣取っているだけだ。
だがバジリカタに向かう街道上に不穏な車列を発見した。
荷車を引っ張っているゴーレム車の車列だ。
魔法で荷車を確認する。
積載されているのは緑色の戦闘用ゴーレム。
つまり近衛騎士団で量産されたものだ。
ざっと見てゴーレムは50体。
それに騎士団員が1個中隊100人ちょいってところか。
間違いなく襲撃用だろう。
第二騎士団はどう出るだろう。
命令系統上は近衛騎士団も第二騎士団も同格。
ただし序列としては近衛騎士団の方が上だ。
騎士団長の階級も近衛騎士団長は正千卒長だが第二騎士団は副千卒長。
更に言えば近衛騎士団はほぼ貴族階級で第二騎士団は平民出身者が多い。
近衛騎士団が無理を通してきた場合、第二騎士団は抵抗できるだろうか。
戦闘ゴーレムを投入した場合住民はどうなるか。
世論はどう傾くか。
「悪い。ミランダから連絡があったら代わりに聞いておいてくれ。出かけなければならない場所があるようだ」
「バジリカタですね」
テディは既に気づいていたようだ。
「ああ、後は頼む」
自在袋の中にチャールズ・フォート・ジョウントの一式は入れたままになっている。
黒子衣装一式と鎧と杖を出して着装魔法で着替えてと。
金髪ウィッグが間に合わなかったが仕方ない。
それは次回からとしよう。
「それじゃ行ってくる。後は頼むな」
「無理はしないで下さいね」
「ああ」
バジリカタの街へ向け、俺は移動魔法を発動する。
ロープに次のように書かれた板切れが張り付いている。
『立入禁止・スティヴァレ近衛騎士団』
どうやら襲ってきた連中、正体を隠す気はさらさら無い模様だ。
家の中を確認する。
扉は全て開けられ床やカーペットは土足の跡がガンガンに残っている。
清拭魔法を使えば済む事だがどうしても怒りを感じてしまう。
ただ運べる物はほとんど別荘に持ってきてしまったから何も残っていない。
調べたところで証拠として出てくる物は何も無いだろう。
「アシュ、いいでしょうか」
おっと。
「どうした?」
テディとナディアさんがもう戻ってきていた。
「ちょうどいい場所がありましたので木を何本か切り倒して障害を作っておきました。その場所にアシュが言っていた侵入者を感知する魔法をかけて欲しいのです」
「どの辺かな」
「家の前から道を辿って行けばすぐわかると思いますわ」
どれどれ。
空間操作魔法で視覚だけ道を辿って確認してみる。
道が岩場を巻いて海側を通るところで木々が道を塞いでいた。
切り倒した木を枝つきのまま、枝先が家と反対方向を向くよう並べて置いてある。
いわゆる逆茂木という奴だ。
道幅いっぱいをしっかり防いでいるのでこのままではまず通行不可能。
なお道の右は海への崖、左は山方向への崖のような斜面。
つまり道以外の場所を通る事は不可能に近い。
塞いだ場所が微妙なカーブだから身体強化してジャンプして超えるのも不可能。
なかなかいい場所を選んだものだ。
勿論魔法を使えば、例えば熱魔法で炭化させてしまえば通るのは可能だろう。
でもその手間がかかる分時間も使うので、こっちも備える事が出来る訳だ。
「わかった。この逆茂木に魔法か何かで手をつけたらわかるようにすればいいな」
「ええ。それで大丈夫だと思います」
ナディアさんがそう言うなら間違いないだろう。
俺は空間操作魔法で監視状態にしておく。
「アシュ、急ぎで物の転送お願い」
今度はフィオナの声が聞こえた。
例のゴーレムを使った通信だ。
ゴーレムで通信する際の呼び出し音は評判が悪いから無くしたのだが、俺としてはやはりあったほうがいいな。
声だけ聞こえるとどうも落ち着かない。
俺の意識に電話というものがあるせいかもしれないけれど。
「場所は何処で何を転送すればいいんだ」
「オッタービオさんの工房の奥。転送するものは青い戦闘ゴーレム全部と僕自身」
「わかった」
急ぎだから理由は後で聞くことにしよう。
フィオナの居場所は最初に馬無し馬車を紹介された、工房の奥にあるオッタービオさんの場所。
青い戦闘ゴーレム合計18体とフィオナを問答無用でここに転送する。
人より一回り大きいゴーレムで部屋がいっぱいになるが、まあ仕方ない。
「何なんだ、一体」
「オッタービオさんから依頼されたんだ。近衛騎士団に接収される前に何とかしてくれって」
ちょっと待て。
「何が起きているのでしょうか。オッタービオさんは何故そんなお願いをフィオナにしたのでしょうか」
「今日の午前中にこんな命令が回って来たらしいんだ。無論全部の家という訳じゃなくて、ラツィオの一部の商家等だけだろうけれど」
フィオナが紙を取り出す。
どれどれ。
『チャールズ・フォート・ジョウント及び不逞の暴徒による貴族及び商会襲撃事件の解決の為、非常事態法4条2項により貴商会の所有する物資の特別徴発を実施する。貴商会にあっては下記の物資を対象とするので早急に準備されたい。また徴発した物資の対価については後日相応の額を支払う予定である。
記
1.ゴーレム車と称される乗用高速運搬機械 全機
2.戦闘用自律型ゴーレム 全機
3.自律型ゴーレム用魔法水晶 全在庫
近衛騎士団騎士団長 カシム・ド・クリニウム伯爵』
「非常事態法は確か、外敵との戦争行為や大規模な災害の際にのみ発動する法律だった筈ですわ」
「偽チャールズ事案とスベイ伯爵家領主館打ち壊し事案。これらをそれに準ずる事案とみなしたんだろうね。非常時用の法律だから国王や評議会の了解を得ず、騎士団の独断で行動できる。その規定を悪用したんだよ」
なるほど。
「だから徴用される前に僕が自律型ゴーレムと魔法水晶、あと通信用試作型の小型ゴーレムを全部買い取ったんだ。格安かつ後日払いでね」
「オッタービオさんは私達について何処まで知っているのでしょうか?」
テディの質問にフィオナは首を横に振る。
「わからない。アシュがチャールズ・フォート・ジョウントである事にひょっとしたら気づいているのかもしれないね。でも本人は何も言わなかったな。
『近衛騎士団に不法に徴発されるよりは梟《イービス》商会にある方が後日の為になるでしょう』
そうとだけ言っていたよ」
うーむ。
ナディアさんがいる事でばれてしまったのだろうか。
それとも元々気づいていたのだろうか。
それとも気づいていないのか。
なんとも言いがたい。
「それにしても近衛騎士団、ゼノアの家を襲撃した以外にも動いているようですね。前々から準備をしていたのでしょうか」
ナディアさんの台詞にテディが少し考え込む。
いや、考え込んでいるのでは無いな。
何か魔法を使っている気配がする。
待てよ。
近衛騎士団がもし以前から今日の為に準備をしていたなら……
チャールズ・フォート・ジョウント以外にも襲撃をかける恐れがある場所がある。
バジリカタだ。
現在は第二騎士団が臨時で駐留しているけれど、そこに近衛騎士団が仕掛けたら……
魔法で確認する。
まだ戦いは始まっていない。
第二騎士団が整然と臨時の駐屯地であるスベイ伯爵家に陣取っているだけだ。
だがバジリカタに向かう街道上に不穏な車列を発見した。
荷車を引っ張っているゴーレム車の車列だ。
魔法で荷車を確認する。
積載されているのは緑色の戦闘用ゴーレム。
つまり近衛騎士団で量産されたものだ。
ざっと見てゴーレムは50体。
それに騎士団員が1個中隊100人ちょいってところか。
間違いなく襲撃用だろう。
第二騎士団はどう出るだろう。
命令系統上は近衛騎士団も第二騎士団も同格。
ただし序列としては近衛騎士団の方が上だ。
騎士団長の階級も近衛騎士団長は正千卒長だが第二騎士団は副千卒長。
更に言えば近衛騎士団はほぼ貴族階級で第二騎士団は平民出身者が多い。
近衛騎士団が無理を通してきた場合、第二騎士団は抵抗できるだろうか。
戦闘ゴーレムを投入した場合住民はどうなるか。
世論はどう傾くか。
「悪い。ミランダから連絡があったら代わりに聞いておいてくれ。出かけなければならない場所があるようだ」
「バジリカタですね」
テディは既に気づいていたようだ。
「ああ、後は頼む」
自在袋の中にチャールズ・フォート・ジョウントの一式は入れたままになっている。
黒子衣装一式と鎧と杖を出して着装魔法で着替えてと。
金髪ウィッグが間に合わなかったが仕方ない。
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