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第17章 状況の始まり

第138話 本家登場

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 いくら近衛騎士団でも駐屯中の第二騎士団に無断で攻め入ったりしないだろう。
 そう考えたので俺は第二騎士団のいるスベイ伯爵家の領主館に移動。
 表門が見える塀の上に腰掛ける形で様子をうかがう。
 無論他からは見えないモードでだ。

 それほど待つまでもなかった。
 乗用車型のゴーレム車が門で停止。
 警備にあたっている兵と話した後中へ入っていく。

 どれどれついて行ってみよう。
 拠点にしている領主館に入る。
 どうやらゴーレム車で来たのは近衛騎士団の中隊長クラスのようだ。
 百卒長の階級章の他に部隊長を表す星マークがついている。
 俺も一応元貴族だったからそれくらいは知っているのだ。

 その近衛騎士団の中隊長と副官らしき者、そして護衛2名は第二騎士団の将校に案内され、ある部屋に入った。
 俺も壁をすりぬけて中へと入らせて貰う。
 どうやらここが駐屯部隊の部隊長室だったようだ。

 部屋内に置かれた応接セットで双方の部隊長による話し合いが始まった。
 ただ俺はすぐに気付く。
 これは話し合いというか近衛騎士団側による恫喝だ。
 要求はここにいる第二騎士団の部隊の指揮権を近衛騎士団に明け渡せというもの。

 どうやら近衛騎士団の部隊長は侯爵家の嫡男らしい。
 一方で第二騎士団の部隊長は平民出身。
 その辺の身分差も利用し不法な要求を宮中序列を使って無理矢理押し通そうとしている。
 第二騎士団の部隊長は法律論争を交えつつ要求をかわしている状態だ。

 第二騎士団の部隊長は一方的な要求をうまくかわしている。
 でもこれはどう見ても貴族位を嵩にきたパワハラだよな。
 見ていられないなと思いつつ未来視を使って今出るべきか部隊が動いてから出るべきかを伺う。
 どうやら今出た方が良さそうだ。
 ならば仕方ない。

 一度部屋の外に出て、扉の前に立っている兵を睡眠魔法で眠らせる。
 何せこの距離だし気づかれていない状態。
 失敗する筈もない。
 あっさりと倒れたところに手をやり、音が響かないよう静かに寝かせる。
 さて、それでは久しぶりに登場するとしよう。
 本家チャールズ・フォート・ジョウントとして。

 扉をわざとらしくノックしたのち開け放つ。
 空間操作魔法で俺の位相を少し変えて向こうから見えるようにする。
 同時に部隊長以外、つまり護衛と副官に問答無用で睡眠魔法。
 残った部隊長2名がこっちを見て一瞬固まった。
 やはりこの服装の効果は絶大なようだ。

 自己紹介はいらなそうだが一応やっておこう。
『近衛騎士団の動きがあまりに愚かだったので登場させて貰った。ご存じの事とは思うがチャールズ・フォート・ジョウントだ。以降宜しくお願いする』
 わざとらしく一礼しつつ、声がバレないよう伝達魔法で2人にそう伝える。

「チャールズ・フォート・ジョウントめ。まさか第二騎士団とグルだったとは……」
『いや、愚かな近衛騎士団の動きを観察した結果ここへたどり着いただけだ。グルなら衛士達を眠らせる必要はないと思わないかな。愚かすぎてわからないか』

 手近にあった椅子を引き寄せ、わざとらしく足を組んでふんぞり返って座る。
 こういった座り方には慣れていないがこれも様式美だ。
 それでは愚かそうな近衛の部隊長に対して、更に状況を説明させて貰うとしよう。

『関係ない者をゼノアで襲ったり、秘密裏に戦闘用ゴーレムを量産したり。近衛騎士団もご苦労な事だ。それにしても非常事態法なんてものまで持ち出す程に愚かとは思わなかった。このように近衛騎士団の諸君があまりに愚かな行動を繰り返すので、仕方なく私がここにやってきた訳だ』

「非常事態法だと」
 第二騎士団の部隊長が近衛騎士団の部隊長を見る。
 この件については知らなかった模様だ。
 
「チャールズ・フォート・ジョウント及び不逞の暴徒による貴族及び商会襲撃事件。これら事件はこの国の統治に関する重大な事件だ。故に国のこの現状を危惧されたカシム騎士団長の名の下に非常事態が宣告された」
『その割には今、合法ならざる方法で第二騎士団の部隊を指揮下に入れようとしていたがな』
「国の為の超法規的措置だ」

 奴の詭弁をわざとらしく鼻で笑ってやる。

『国の為の超法規的措置か。ならば私もこの国の行く末を憂う上での超法規的措置をとらせて貰うとしよう。具体的には諸君達2人の身柄を預からせて貰う。
 なお第二騎士団の部隊長殿は動きを止めさせて貰おう』

 第二騎士団の方の部隊長はどうやらまともな人間だ。
 しかも今までの話し合いを聞いた限り頭も悪くなさそうに感じる。
 だから万が一、部隊の行動の邪魔にならないようと自死を選ばれたらまずい。
 なので睡眠魔法で眠って貰う。
 一方で近衛騎士団の方の貴族のボンボンはそういった心配は無さそうだ。
 だから思う存分活用させて貰う事にしよう。

「くそう」
 立ち上がって逃げようとするボンボン君を空間操作魔法で封じ込める。
 その場から動けないだけで双方見えるし声も聞こえる状態だ。

『さて、副官君達に起きて貰おうとしようか。近衛騎士団の指揮をとって引き上げて貰わないとならないからな。副官君達、起床!』
 わざとらしく指パッチンをしつつ無詠唱で睡眠解除を起動し、2人を叩き起こす。

『おはよう。世間はもう昼だがね』
 直後に第二騎士団の副官が攻撃魔法を放ってきた。
 起きがけというのに流石だな。
 だが残念ながらこの状態の俺には効かない。

『私はチャールズ・フォート・ジョウント。その程度の魔法は効かない。今後の為におぼえておいてくれたまえ。
 さて、貴君らの指揮官は私の手のうちにある。近衛騎士団がここから撤退することを条件に彼らを解放してやるつもりだ。
 寝起きのところ申し訳ないが、早速実行に移してくれ給え』

「ゼリル、奴の言う通りにしろ」
 ボンボン指揮官は根性無しのようだ。
 だろうと思ったから自由に喋らせているのだけれども。

『私はどこからでも君達の部隊の動きを全て見ることが出来る。近衛騎士団の部隊がラツィオの本拠地まで撤退したと確認出来た時点で彼らを解放しよう。貴殿らのゴーレム車なら馬と違って疲れない。とんぼ返りでも問題無いだろう。違うかね』

「貴様の言葉を信じられるか」
 近衛の副官殿は鼻っ柱が強いようだ。
 なおかつ自分の立場をまったくわかっていない様子。

『なら貴殿の部隊長は永遠に囚われるまでだ。なお食料や水を与えるなんて面倒をする気はない。貴殿らはこいつが生きているうちにラツィオまで撤退した方がいいと忠告しよう』
「ゼリル!」
 近衛の隊長が副官にそう怒鳴る。
 駄目だなこのボンボンは。
 こんなのが指揮官をやっていられるとは近衛も落ちたものだ。
 駄目駄目な方が俺には都合がいいのだけれど。

 なお実際は部隊が撤収しここを出た時点で、2人とも解放するつもりだ。
 無論解放した事がすぐにはわからないように配慮はするが。
 こんなのを抱えているのは面倒だからな。

『では副官諸君、行くがいい。護衛達は先程の君達と同様、睡眠魔法で眠っているだけだ。解除魔法で起こして連れて行け。近衛騎士団が撤退して本拠地に着くまで2人の身柄は預からせて貰う。その意味をよく考えて、急ぐかどうかを決めた方がいい』

 ここバジリカタはラツィオとネイプルの中間地点よりややネイプル寄りの場所。
 ラツィオまで馬車でも朝出れば暗くなる前に着く程度の距離だ。
 ゴーレム車なら今からでも本日中にラツィオに戻れるだろう。

 副官達が出て行った後。
「こんな事をしてただで……」
 ボンボン部隊長はお怒りのようだ。
 怒っても何も出来ないのだけれど。

『まだご自分の立場がおわかりいただけていないようだ』
 彼も役目を終えたので睡眠魔法でお眠りいただく。
 台詞も表情も不愉快だ。
 本当にどうしようもない奴だな。

 念の為部屋の扉の部分の空間を少しずらして常人が扉に触れられないように細工。
 これでこの部屋を襲撃されたりする心配は無い。
 近衛の方はともかく第二騎士団の方はそれなりの精鋭のようだから用心した方がいいだろう。
 さっきも副官が起きた直後にこっちに魔法を放ってきたし。

 しばらくこの状態で外を観察する。
 到着したばかりの近衛騎士団部隊が再び動き始めた。
 この様子なら2~3時間で俺も帰る事が出来るだろう。
 暇なので読書でもして待つか。
 俺は別荘の本棚から召喚魔法で本を取り寄せる。
 撤退完了するまでの間、しばし読書タイムとしよう。
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