虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
32 / 57

32

しおりを挟む
「ユーニス……レイフには言ったのか?」

「……いえ……言ったとしても、レイフ様はウェイン公爵という立場。離れるのは厳しいかと思います。それに、私は身分を隠して行きたいのです」

「なるほどね……我が妹はなかなかに強いな」

「イアン兄さま。私は皇女となって日が浅いです、それでもそのことは言い訳にはなりません。皇女であるならば、皇族の一員であるならば、私にも義務が発生します。その義務は、日が浅いなどという理由で、放棄していいものではありません」

タイミングよく、レイフ様はいない状態でイアン兄さまと話をする機会が訪れた。結局、彼には何も相談していないが、彼にも仕事がある。私のことで手を煩わせるのはよろしくない。

「言いたいことはわかる、しかし……さすがに心配だ。無理をしているようにしか見えない」

「イアン兄さま……私は、無理など……」

「焦りを感じるのもわかる。でも、だからと言って無理を通していい理由にはならないよ。たしかに、ユーニスの言う通り、皇族の義務がある。その身分があるのであれば、放棄してはならないということもね。だが、俺は心配だよ、それでも」

「……兄さま……」

悔しいけれど、イアン兄さまの言っていることは正しい。無理を通してまで視察に行けたとしても、それが必ずしもいい結果へとつながるわけではない。焦りを感じているのも、事実だし。

「ユーニス、全日程をこのスケジュールで組むのは反対だ。その代わり、長期的にこのスケジュールを組み直すのはどうだ?」

「長期で、ですか……?」

「ああ、どちらにせよ、視察は重要な案件だ。タイトなスケジュールでは見抜かることもあるかもしれない。それなら、じっくり一つひとつを大切に見ていけるように、期間を長く取るんだ。いきなり、たくさんの結果を出さなくても、少しずつ出していけばいろいろな面が見えてくると、俺は思うよ」

「わかりました、長期で組み直します。イアン兄さまにお任せしてもいいですか?」

「構わないよ。護衛に関しては今度、実際に顔合わせをしながら決めようと思う」

「はい、お願いします」

自分の中で折り合いをつけた私は、イアン兄さまの言葉にうなずき、スケジュール調整などを含めてお願いした。護衛や他の視察員の任命、各地域の気候状況、どれもまだ帝国に来て日が浅い私ではできないものだ。

「そういえば、この視察の件、最終的にレイフには言うのかい?」

「……正直に言うと、迷っています。言ったところで、仕事の都合があるでしょうし。着いてきてもらうつもりが、私にはないですから」

「レイフの立場なら、言ってもらいたいだろうけど……まあ、ユーニスの気持ちもわかるからなぁ……難しいところだね」

「はい……」

イアン兄さまは、私に何かをしなさい、と強制することはないし、自分の意見を押し付けることもしない。あくまでも主体は私だから、私の意見を優先する。その中でさっきのように、無理があるとわかるなら妥協案を一緒に出してくれる。味方がいることの心強さが、兄さまのおかげでよくわかった。

「ユーニスの案、最大限に活かせるようにはするよ。不安になることはない、大丈夫。身分を隠すのは大事なことだ、皇女の身分は武器であると同時に弱みでもある。身を守る術をきっちりと身に着けてからでないと、有事の際に困る。自分で身を守れるかどうかは、護衛の選出にもかかわってくるし、ユーニスはどうしたい?」

「護衛の件に関しては……私では判断ができませんから……身を守る力を、つけたいとは思いますが」

「いい答えだね。護身術も覚えられるように手配しておこうか。すぐに身に着くものではないから、実戦まで持っていけなくとも、何もできないよりはいいだろう」

「ありがとうございます、イアン兄さま」

「でも、レイフには言っておくこと。護身術の練習となると、怪我をすることもあるから、アイツも心配する」

「……はい」

「そんなに不安にならなくても大丈夫。アイツはそんな心の狭いやつじゃないよ」

「兄さまが、そういうならきっと、大丈夫ですね。私も、レイフ様の心の広さは良く知っていますし」

彼が心の狭い人だとは思わないけれど、それでも心配なものは心配だった。もしかしたら、ダメだといわれるかもしれない、なんて。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...