47 / 52
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ
勇者仲間 ④
しおりを挟む
ホーッ、ホーッ。
私たち橘家が囲むテーブルの上を、小さなフクロウが旋回するように飛んでいる。
「……動いたな」
私が作った編みぐるみに魔力を注いだ兄は、呆然とクルクル回るフクロウを眺めている。姉と小次郎はワクワクと期待の眼で私を見るが、新しい編みぐるみを作るのはちょっと待ってほしい。
「たぶん、カラーシープの毛糸じゃないと魔力を注いでも動かないと思うの。そして、そのカラーシープの毛糸はバカ高い」
シーン……。
そう、編みぐるみを作ってほしかったら、冒険者ギルドで依頼をこなして稼がないといけないのだ。小次郎はまだしも、ちょっとしたかすり傷しか治せない姉にはハードルが高い条件だろう。ま、姉に動く編みぐるみなどという危ないものは渡したくない気もするから、これでいいと思う。
「おい、菊華。こいつ……どうやったら言うこときくんだ?」
「別に? 命令すればいいじゃない」
最初に作った白い犬じゃなかった、オオカミはちゃんと命令すれば言うことを聞きますよ?
「さっきから、こいつに下りてこいって言っても無視するんだが?」
……あれ? もしかして私のスキル「手芸創作」がミスったか?
「名前じゃないかな?」
小次郎がフクロウを目で追いながらポツリと呟いた。
「名前? そういえば、オオカミにはブランって名前を付けたっけ?」
「そうよ! 名づけってとっても重要なのよ! この子も名前を付ければきっと言うことをきいてくれるわよ」
両手を祈りの形に組んで目をキラキラとさせる姉にやや圧倒された兄は、ポリポリと後ろ頭を掻き困り顔だ。
「名前か……。俺にそのセンスがあるのか……」
そうだね。私の兄だもんね。きっと、ピーちゃんみたいベタな名前しか思いつかないでしょうね。
「橘一号とかどうだ?」
そんな、キラーンとした瞳で見てもダメ。私は思いっきり顔を顰めたし、姉は「あらあら」と苦笑い。小次郎はそぉーっと顔を背けた。心なしか編みぐるみ状態のブランの鼻が不満げに鳴らされた気がした。
「ダメか……。フクロウの名前なんて気にしたことないしなぁ。インコじゃないからピーちゃんはダメだし……」
やっぱり「ピーちゃん」は名前候補に上がっていたらしい。ピーちゃんはないでしょ? ピーちゃんは!
「そうねぇ。オウルはそのままの意味だし、茶色の毛糸だから色から……キャメルとかは意味が違うし」
フクロウにラクダでは頭がこんがらがってしまう。茶色でかわいい名前だとマロンとかキャラメルとか……。あ~甘いもの食べたい。
「フクロウ……森の哲学者や森の忍者って呼ばれているんだよね」
小次郎が大人三人を超える知識を披露する。哲学者はともかく忍者ってなに?
「フクロウは獲物を仕留めるとき、音もなく飛んでくるらしい。視野は狭いが首がグルグル動くから見えないわけじゃないしな」
兄からのミニ知識に、私と姉は感嘆の声をあげた。
「へぇ~」
やばい。茶色の毛糸と作れる編みぐるみから適当に選んだフクロウだったという事実は隠蔽しよう。ええ、ええ、私はフクロウがとっても役に立つとわかって作りましたとも! 頭は良さそうと思ってたし。
「じゃあ、森にちなんで名前を付ける?」
「森……フォレスト。じゃあフォレスだな。お~い、お前の名前、フォレスにしたからなぁ」
姉のヒントから兄が安直に名前を付けた。付けてしまった。「フォレス」と呼ばれたフクロウはヒラリとテーブルの上に着地し、コテンと首を傾げた。
「もしかして、お兄ちゃんの魔力を与えて名づけするんじゃないの?」
「菊華のとはきそうだったのか?」
「さあ? そもそもブランは勝手に大きくなって動き出したから、よくわからないわ」
こっそりと魔力を盗まれていても気づかないと思う。むしろ、名前を付けたことによって私とブランの間に何かが繋がった気がするし。
「そうか。じゃあ、もう一度だな。魔力を注ぎながら……お前の名前はフォレスだ」
フクロウの頭に手を乗せた兄はゴクリと唾を飲み込み、ぐっと力を込めて名前を呼んだ。
「あっ……」
パァーッと広がる光の奔流。兄とフクロウから放たれる眩しい光に私たちはきつく目を瞑った。
名前 フォレス
レベル 1
HP 10/10
MP 5/5
風魔法 ←NEW
身体強化 ←NEW
気配察知
ネズミ捕り
眩しい光が収まって、小次郎にフクロウ改めフォレスの鑑定をしてもらった。レ……レベルが1しかない……。よわっ。
「しょうがないだろう? ブランはダンジョンでボスモンスターを倒すアシストをした経験値でレベルが上がったんだから。まぁ、レベル1も3もたいしてかわらないって」
カラカラと兄は笑うが、ブランが聞いたら拗ねると思います。
「じゃあ、フォレスも魔物を倒せばレベルが上がるんじゃないかしら?」
「お姉ちゃん……」
その理屈は私たちにも当てはまるでしょ? 私たちもレベルを上げるために魔物を倒さないとダメなのよ。怖いから弱い魔物限定になるけど。弱い魔物だと経験値なんてたかが知れているから、レベルが上がるのは長い道のりだよ。トホホ。
「明日……薬草採取で森の近くまで行ってみるか。ネズミ捕りのスキルがあるんだから、フォレスも小さな魔物なら倒せるよな」
ツンツンと兄の指に突かれたフォレスは、てちてちと二、三歩歩いて主人である兄と距離を置いた。
「薬草採取か……。冒険者最初の仕事にはいいんじゃない?」
隣でハスハスと鼻息の荒い姉のことは放っておいて。小次郎もどこか嬉しげに笑っているし。よし! 明日は編みぐるみたちのレベル上げを兼ねた薬草採取だ!
私たち橘家が囲むテーブルの上を、小さなフクロウが旋回するように飛んでいる。
「……動いたな」
私が作った編みぐるみに魔力を注いだ兄は、呆然とクルクル回るフクロウを眺めている。姉と小次郎はワクワクと期待の眼で私を見るが、新しい編みぐるみを作るのはちょっと待ってほしい。
「たぶん、カラーシープの毛糸じゃないと魔力を注いでも動かないと思うの。そして、そのカラーシープの毛糸はバカ高い」
シーン……。
そう、編みぐるみを作ってほしかったら、冒険者ギルドで依頼をこなして稼がないといけないのだ。小次郎はまだしも、ちょっとしたかすり傷しか治せない姉にはハードルが高い条件だろう。ま、姉に動く編みぐるみなどという危ないものは渡したくない気もするから、これでいいと思う。
「おい、菊華。こいつ……どうやったら言うこときくんだ?」
「別に? 命令すればいいじゃない」
最初に作った白い犬じゃなかった、オオカミはちゃんと命令すれば言うことを聞きますよ?
「さっきから、こいつに下りてこいって言っても無視するんだが?」
……あれ? もしかして私のスキル「手芸創作」がミスったか?
「名前じゃないかな?」
小次郎がフクロウを目で追いながらポツリと呟いた。
「名前? そういえば、オオカミにはブランって名前を付けたっけ?」
「そうよ! 名づけってとっても重要なのよ! この子も名前を付ければきっと言うことをきいてくれるわよ」
両手を祈りの形に組んで目をキラキラとさせる姉にやや圧倒された兄は、ポリポリと後ろ頭を掻き困り顔だ。
「名前か……。俺にそのセンスがあるのか……」
そうだね。私の兄だもんね。きっと、ピーちゃんみたいベタな名前しか思いつかないでしょうね。
「橘一号とかどうだ?」
そんな、キラーンとした瞳で見てもダメ。私は思いっきり顔を顰めたし、姉は「あらあら」と苦笑い。小次郎はそぉーっと顔を背けた。心なしか編みぐるみ状態のブランの鼻が不満げに鳴らされた気がした。
「ダメか……。フクロウの名前なんて気にしたことないしなぁ。インコじゃないからピーちゃんはダメだし……」
やっぱり「ピーちゃん」は名前候補に上がっていたらしい。ピーちゃんはないでしょ? ピーちゃんは!
「そうねぇ。オウルはそのままの意味だし、茶色の毛糸だから色から……キャメルとかは意味が違うし」
フクロウにラクダでは頭がこんがらがってしまう。茶色でかわいい名前だとマロンとかキャラメルとか……。あ~甘いもの食べたい。
「フクロウ……森の哲学者や森の忍者って呼ばれているんだよね」
小次郎が大人三人を超える知識を披露する。哲学者はともかく忍者ってなに?
「フクロウは獲物を仕留めるとき、音もなく飛んでくるらしい。視野は狭いが首がグルグル動くから見えないわけじゃないしな」
兄からのミニ知識に、私と姉は感嘆の声をあげた。
「へぇ~」
やばい。茶色の毛糸と作れる編みぐるみから適当に選んだフクロウだったという事実は隠蔽しよう。ええ、ええ、私はフクロウがとっても役に立つとわかって作りましたとも! 頭は良さそうと思ってたし。
「じゃあ、森にちなんで名前を付ける?」
「森……フォレスト。じゃあフォレスだな。お~い、お前の名前、フォレスにしたからなぁ」
姉のヒントから兄が安直に名前を付けた。付けてしまった。「フォレス」と呼ばれたフクロウはヒラリとテーブルの上に着地し、コテンと首を傾げた。
「もしかして、お兄ちゃんの魔力を与えて名づけするんじゃないの?」
「菊華のとはきそうだったのか?」
「さあ? そもそもブランは勝手に大きくなって動き出したから、よくわからないわ」
こっそりと魔力を盗まれていても気づかないと思う。むしろ、名前を付けたことによって私とブランの間に何かが繋がった気がするし。
「そうか。じゃあ、もう一度だな。魔力を注ぎながら……お前の名前はフォレスだ」
フクロウの頭に手を乗せた兄はゴクリと唾を飲み込み、ぐっと力を込めて名前を呼んだ。
「あっ……」
パァーッと広がる光の奔流。兄とフクロウから放たれる眩しい光に私たちはきつく目を瞑った。
名前 フォレス
レベル 1
HP 10/10
MP 5/5
風魔法 ←NEW
身体強化 ←NEW
気配察知
ネズミ捕り
眩しい光が収まって、小次郎にフクロウ改めフォレスの鑑定をしてもらった。レ……レベルが1しかない……。よわっ。
「しょうがないだろう? ブランはダンジョンでボスモンスターを倒すアシストをした経験値でレベルが上がったんだから。まぁ、レベル1も3もたいしてかわらないって」
カラカラと兄は笑うが、ブランが聞いたら拗ねると思います。
「じゃあ、フォレスも魔物を倒せばレベルが上がるんじゃないかしら?」
「お姉ちゃん……」
その理屈は私たちにも当てはまるでしょ? 私たちもレベルを上げるために魔物を倒さないとダメなのよ。怖いから弱い魔物限定になるけど。弱い魔物だと経験値なんてたかが知れているから、レベルが上がるのは長い道のりだよ。トホホ。
「明日……薬草採取で森の近くまで行ってみるか。ネズミ捕りのスキルがあるんだから、フォレスも小さな魔物なら倒せるよな」
ツンツンと兄の指に突かれたフォレスは、てちてちと二、三歩歩いて主人である兄と距離を置いた。
「薬草採取か……。冒険者最初の仕事にはいいんじゃない?」
隣でハスハスと鼻息の荒い姉のことは放っておいて。小次郎もどこか嬉しげに笑っているし。よし! 明日は編みぐるみたちのレベル上げを兼ねた薬草採取だ!
85
あなたにおすすめの小説
異世界のんびり放浪記
立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。
冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。
よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。
小説家になろうにも投稿しています。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中
奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」
女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。
****
またもや勘違いものです。
主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。
目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。)
どうしても間に合わない場合はXにて告知します。
感想!貰えたら!!嬉しいです!!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる