迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

文字の大きさ
50 / 52
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

勇者仲間 ⑦

しおりを挟む
なんか……違う。

以前、冒険者パーティー「ライゼ」と共に潜った初心者用ダンジョンとは、どこか違う気がした。兄も姉も小次郎も、その違和感に気づき始めている。今回は、「ライゼ」の代わりにブランとフォレスが魔物の攻撃と探索を担ってくれているので、私たちへっぽこ冒険者でも、周りを見る余裕がちょっぴりあるのだ。

「ねぇ、お兄ちゃん……」

「ああ、以前とは違うな。こんな浅い階層で出てくるレベルの魔物じゃないぞ」

両手にしっかりと長剣を握って、兄はキョロキョロと辺りを警戒する。確かに、ダンジョン一階は子どもでもウロウロできる階層だし、そのあと冒険者のみが下へと進める階段を下りても、スライムやネズミ型魔物が湧いて出てくるだけだった。

なのに……ブランがヘッヘッと舌を出して、主人である私に「褒めて、褒めて」とアピールするその足元には、角のある兎とマッドドッグと呼ばれる中型犬サイズの魔物が横たわっている。そのうち、ダンジョンに吸収されてドロップ品が現れるだろう。

……犬型魔物ってもっと下層じゃないと出てこないんじゃなかった?

「菊華ちゃん、ブランたちを少し休ませて。ぼく、攻撃するから」

「えっ!」

私は、小次郎の耳にこそっと「周りにいっぱい人がいるよ」と忠告する。人の眼があるところで聖剣を振り回したら、すぐに噂になってしまう。せっかく、異世界から召喚された勇者ということを隠して、ここまで逃げてきたのに。

「大丈夫、ナイフで攻撃するから」

ニコーッと輝く笑顔で言われたけど、危ないでしょ? むしろ、小次郎の代わりに兄が無双するべきでは?

「菊華。睨むなよ、俺も頑張ってるだろう?」

しかし、悲しいかな……長剣を振り回しても一撃で倒せない。私たちにとっては脅威なダンジョンでも、冒険者にとっては文字通り初心者用ダンジョンなのに。

「菊華ちゃん、お姉ちゃんも頑張るわ!」

「……お姉ちゃんは、まだスライムで経験値が入るでしょ。あっちでプチプチ潰しててよ」

ぶーっと両頬を膨らましても知らんがな。いまはお姉ちゃんに付き合っている場合ではない。兄がフォレスに姉のお守りを頼んで、私はブランをぬいぐるみサイズに戻しポケットに入れた。

「さて、レベル上げしますか!」

怖いけど、私もナイフを手に頑張ります!
後で思い出したけど……小次郎って『身体強化』が使えるから、犬型魔物を無双できる強さがあったんだ。心配しなくても大丈夫だったみたい。



























なんとか……レベル上げに成功しました。

しかし、橘家長男は2UP、橘家末っ子の私も2UP、橘家長女の姉は1UP……オイッ! 勇者の小次郎は3UP上がりました。

「え? 小次郎のレベルの上り方、おかしくない? お兄ちゃんの倍は倒してたでしょう?」

兄の経験値はフォレスが倒したネズミ型魔物も加算されるが、そのネズミ型魔物よりも強い犬型魔物を中心に倒していた小次郎は、兄の倍の経験値を稼いでいたと思う。
私は、犬型魔物を二匹とネズミ型魔物を五匹しか倒してないが、ブランが大活躍だったので兄と同じ経験値を稼いでいたと思う、姉は……、しょうがないよね? スライムだけでレベルが上がったことを喜ぼう。

「そうだよな……俺よりも経験値は稼いでいると思うし……魔物のレベルも上だったはずだ」

まぁ、小次郎はレベル上げても、年齢を重ねて成長しないと魔法のストッパーは外れないから、ものすごく強い魔法をぶっ放すことはできないけど。

「あれかしら?」

姉が片手を頬に添えてコテンと首を傾げた。ダンジョンにいるのに、高級ホテルのラウンジでアフターヌーンティーを楽しんでいる風である。ズルイ。

「あれってなに?」

「ゲームではよくあるのよ。職業によってレベルを上げるのに必要な経験値が違うの!」

……なんで、そんな重要なことをいま嬉しそうに話すのよっ! つまり、勇者である小次郎のレベルは上がりにくいってこと?

「小次郎は勇者。桜は回復役ヒーラーだとして、菊華と俺はなんだろう?」

兄も眉間にシワを寄せて考え込む。いやいや、ここはまだダンジョン内ですけど? もっと周りを警戒してよっ。代わりにフォレスが旋回しているけども!

「菊華ちゃんはテイマーかな?」

小次郎が私のポケットに入っているブランを指差すが、別に従魔契約をしているわけではないからテイマーとは言い難いような……。

「勇者は一番成長が遅いとして、やっぱり私もレベルが上がりにくいと思うわ」

姉が残念そうに肩を落としているが、本当に? 強い魔物を倒してないからじゃないの?

「勇者と回復役の成長が遅いのはゲームではセオリーだもんな。こりゃ、菊華に早くレベルを上げてもらって、編みぐるみ隊を作ってもらわないとな!」

「なんでよっ」

「だって、桜はこのままじゃ、ずっとスライムしか倒せないぞ? 菊華が強いぬいぐるみを作って桜の魔力と繋がれば、そいつが倒した魔物の経験値が桜に与えられるじゃないか」

ええ、理屈はわかってますけど……。攻撃する術を持たない姉には、一日も早く編みぐるみを作ってあげたい気持ちもありますけど……。

「カ、カラーシープの毛糸さえ、買えれば……」

毛糸、もうちょっと安くならないかなぁーっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」 女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** またもや勘違いものです。 主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。 目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。) どうしても間に合わない場合はXにて告知します。 感想!貰えたら!!嬉しいです!!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...