私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第2部 母と娘の関係

5-9例え実力で劣っていても負けられない戦いがある

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 いよいよ『サファイア・カップ』の決勝戦。ここまで勝ち残った六人で、雌雄が決する。私はウォーター・ドルフィンに乗り込み、スターティング・ゲートの前で、じっと待機していた。

 私は六番機、キラリスは三番機、アンジェリカは一番機。私にとって、外枠はラッキーだった。他の機体の状況が見やすいし、コーナーに、思い切って突っ込んで行けるからだ。

 私は、チラリと後方を確認すると、キラリスは不敵な笑みを浮かべ、アンジェリカは自信ありげな表情だった。

 他の人たちも、流石に決勝まで上がって来ただけあって、みんな強そうな感じがする。私は、掌を閉じたり開いたりして、少しずつ集中力を高めていった。

 静まり返る選手たちとは対照的に、観客たちからは、すでに応援の声が上がっていた。中には『六番がんばれ!』という声も聞こえてくる。

 応援して貰えるのはありがたいけど、声が聞こえているうちは、まだダメだ。大事なのは、スタートの時に、最高の集中力を発揮すること。これは、中学時代の陸上競技で、散々経験してきたことだ。

 それに、準決勝までは、六百メートルのコースを二周だったが、決勝だけは、三周になっている。だから、さらに強い集中力が必要だ。

 また、想像以上に体力を消耗するため、無駄な力が入っていると、途中で体力も集中力も尽きてしまう。1レース目なんかは、力み過ぎたせいで、かなりグッタリしてたので、注意が必要だ。

 私は、目を閉じると呼吸を整え、ハンドルに軽く手を置く。呼吸に集中していると、しだいに雑音が、気にならなくなって来た……。

 集中力が高まったところで、空中モニターに視線を向ける。すでに、残りが一分を切っていた。集中状態を維持したまま、カウントダウンを冷静に眺める。第1レースの時に比べると、だいぶ落ち着いていて、いい感じに力が抜けていた。

 やがて、残り十秒を切ると、上半身を前傾姿勢にし、アクセルを握る手に軽く力を入れる。カウントダウンの音だけに集中し、静かに開始の時を待った――。

『GO!』のサインと同時に、目の前のマナ・フィールドが消失し、一気に視界が開ける。

 私は、ジャスト・タイミングでアクセルを開くと、ギリギリまで頭を下げ、撃ち出された弾丸のように一気に加速した。

 スピードが乗ってきたところで、少しだけ頭を上げ、周囲を確認する。いい感じで他の機体を引き離し、先頭に躍り出ていた。問題は、第一コーナーだ。思い切り攻め込むか、それとも慎重に行くべきか? 

 今までとは違い、みんなレベルが高い上に、もう、これが最後のレースだ。考えている内に、すでにコーナーが迫ってきていた。

 よし、全力で攻めよう! 例えミスっても、その時はその時。今までよりも、さらに突っ込んで行こう。

 腹をくくって強気で攻め込み、先ほどよりも、さらに深く侵入した。 

 ここだっ! 

 私は息を止め、体重を乗せ右側に傾ける。機体が水面を滑りながら、方向を変えた瞬間、荷重を抜いて機体を立て直した。入れ過ぎると転倒し、早く抜いてしまうと外に流れてしまうので、繊細な力加減が必要になる。

 だが、一つ目のコーナーは大成功。荷重移動のタイミングが、だいぶ掴めてきた。突っ込みも、申し分なかった。ただ、これ以上、踏み込むと、たぶん曲がれない。これ以上、突っ込むのは、止めておこう……。

 チラリと後ろを見ると、アンジェリカとキラリスの二人は、後方について来ていたが、他の機体は、かなり後方にいる。このままトップを守り切れれば、十分に優勝は狙えるはずだ。

 このコースは、直線は長いが、直線で抜くのは難しい。というのも、どの機体も同じ性能で、加速も最高速も同じだからだ。つまり、コーナーで抜かれない限り、順位はほぼ変わらない。なので、先頭を走っているのは、圧倒的に有利だった。

 となると、あとはコーナーでミスらないように、気を付けるだけ。私は、直線コースを走りながら頭の中で、次のコーナーのコース取りを、詳細に思い描いていた。少し先を、仮想した私の機体が曲がって行くところを、リアルにイメージする。

 私は、機体を少し外側に寄せつつ、海面を見ながら、分身が走ったルートをトレースした。ちょうど上手い具合に、同じラインに乗っかる。

 よし、ここっ!! 

 イメージと、全く同じタイミングでハンドルを切り、機体をグッと右側に傾ける。

 数メートル先には、分身の私が走ったラインが、まるで海面に描かれた、光の道のように見えた。私はしっかりとそのラインに合わせ、コーナーを走り抜ける。機体を立て直すと、スーッと滑らかに、真っ直ぐ加速していった。

 今までは、いかに高速で曲がるかだけに集中し、かなり力技で曲がっていたが、今回はラインを意識していたら、思いのほかスムーズにターンできた。

 もしかすると、単に高速で突っ込むよりも、綺麗にライン取りしたほうが、速く曲がれるんじゃないのかな? むしろ、あまり滑らないで曲がったほうが、いいのかも? ならば、もう一度試してみよう――。

 私はもう一度、自分の分身が、コーナーを曲がるところをイメージする。アクセルを抜く位置、進入角度、荷重の掛け方、アクセルを入れるタイミング。ほんの一瞬の間に、細部までイメージする。

 イメージ完了、これなら行けるはず……。

 私は、再び外側に機体を動かすと、分身の通ったルートを、正確にトレースした。海面には、光の道筋が現れる。私は、ラインを正確に合わせることだけに集中した。

 ピタリとラインに乗せ、スーッと滑らかに、コーナリングして行った。無理に曲がろうとせず、立ち上がりも、ワンテンポ遅らせてから、アクセルを開く。すると、水の抵抗も少なく、綺麗にコーナーを抜けきった。

 今までで、一番、上手く曲がれたかも。いやー、すっごくいい感じじゃん!

 しかし『もうラスト一周だし、これなら勝てるかも』と思った瞬間、背後から、物凄いプレッシャーを感じた。

 チラリと後ろを振り返ると、アンジェリカとキラリスの機体が、かなり近くまで迫ってきている。しかも、ひしひしと、追い抜こうとする、強い気迫が伝わってきた。

 しまった――。

 ライン取りばかりに、気を取られて、スピードが落ちていたのかもしれない。やっぱり、付け焼刃じゃダメだ。

 あの二人も、言うだけあって、かなりレベルが高いし、少しでも気を緩めれば、抜かれてしまう。こうなったら、最後の一周は、全力で走るしかない!

 私は、深く考えるのを止め、全身全霊を込めて、突っ走って行く。元々私には、考えるやり方は、あまり向いていない。昔から、何事も当たって砕けろが基本だ。

 ならば、ガーッと行って、ギューンと曲がる。これだけでOKだ。私は、最初のスタイルに戻し、ギリギリの地点まで、果敢に突っ込んで行く。

 今だっ!!

 私はアクセルを抜くと、思いっ切り体重をかけて、豪快に水面を滑って行った。激しい水しぶきを上げながら、コーナー出口に向かう。機体がかなり不安定になるが、力で強引に安定させた。

 先ほどの滑らかなコーナーワークとは、真逆の走り方で、どちらが速いかは、分からなかった。でも、こっちのほうが断然、気持ちがいい。

 コーナーを抜け出し、機体を安定させた瞬間、アクセルを全開にした。とりあえず、トップでコーナーを抜けたが、依然として、背後からは強烈な圧力を感じる。

 おそらく、すぐ後ろの位置につけられていると思うが、今は背後を確認する余裕がなかった。心臓がバクバクと高鳴り、全身から汗が噴き出してきた。

 やばい……やばい、やばい! 色々とやばいっ!! 

 限界ギリギリで突っ込む、高速コーナリング。すぐ後ろに張り付いている、強敵たち。何が何でも優勝しなければならない、強い想い。次の最終コーナーで、全てが決まる……。

 あらゆるものが絡み合って、とてつもなく大きなプレッシャーとして、圧し掛かってきた。こんな気持ちは、久しぶりだ。 

 今までは平気だったのに、全力で突っ込むのが怖くなってきた。何か、機体のスピードが物凄く速く感じる。いくら落ち着こうとしても、心臓が高鳴るばかりで、呼吸も荒くなって来た。心なしか、視界も狭くなった気がする。

 落ち着け、落ち着くんだ、私――。あと一つコーナーを抜ければ、優勝できるんだから。とにかく、今は落ち着いて、冷静に……。

 気持ちを落ち着けている間にも、最終コーナーが、刻々と迫ってきていた。

 ダメだ――心臓が全然、鳴りやまない……。でも、こうなったらもう、やるしかない。私の本気を見せてやる!

 焦りと疲労のせいか、頭がボーッとしてきた。だが、私はアクセル全開のまま、限界ギリギリまで突っ込み続ける。 

 おりゃぁぁ、いっけーー!! 

 私は、機体を思いっ切り傾け、海面を滑りながらコーナリングを始めた。ちょっと突っ込み過ぎたかと思ったが、いい感じで曲がって行く。

 今ままでの、全てのコーナーの動作を、ちゃんと体で覚えていたようだ。コーナー出口が見えると、私は素早く機体を立て直す。

 だが、アクセルを開こうとした瞬間、

「うそっ?!」

 機体が大きく跳ね上がった。もろに、波に乗り上げてしまったのだ。

 激しいプレッシャーと焦り、突っ込むことだけに集中していたせいで、波をしっかり確認するのを忘れていた。

 一瞬、背筋がぞくりとするが、私は宙に飛びあがった瞬間、咄嗟に腰を浮かせてバランスを取った。着水をミスれば、大幅な減速、最悪の場合は、転倒もあり得る。しかも、コーナーを抜けようとしていた時なので、機体が不安定だった。

 着水と同時に、両手両足を使って踏ん張り、何とかバランスを取って、機体を安定させる。辛うじて持ちこたえたが、着水とほぼ同時に、内側から別の機体が、スーッと抜け出してきた。

「なっ、内側から?!」

 ほんの一瞬のスキをついて、非常に狭い内側のコースから、針に糸を通すような操縦テクニックで、アンジェリカの機体が差し込んで来たのだ。さらに、外側からは、キラリスの機体が並んできた。

「ぐぬぬっ!」 
 私は姿勢を低くして、アクセル全開で最後の直線を突っ走った。 

 行けっ、行けっ、行っけぇぇぇぇーー!!

 私は心の中で、祈りにも近い叫びをあげた。

 三人が、横に並んだまま直進する。アクセルは全開にしているが、全く差がつかない。少しでも空気抵抗を減らすため、上半身を低くしているので、細かい状況は分からなかった。

 速くっ、速くっ、もっと速くっ!!

 全身全霊を懸けた想いを胸に、ゴールラインに突っ込んだ。

 直後、観客たちから、大歓声が巻き起こる。

 ゴールを抜けてしばらくすると、私は上半身を起こし、大きく息を吐きだした。最後の直線は、息をする間もなかった。全身から湯気が出そうなほど、体が熱くなっており、頭の中は真っ白になっていた。

 結局……どうなったの――?  

 左右を見回すと、アンジェリカもキラリスも、険しい表情のまま、息を整えていた。最終コーナーを曲がったあたりから思い出そうとしたが、疲労で頭が回らない。完全に、ガス欠状態だ。

 全ての機体が、ゴールを通過したあと、運営のアナウンスが入る。

『ただいまのレース、映像判定を行います。現在、確認作業中ですので、レース結果の確定は、しばらくお待ちください』

 空中モニターには『審議中』の文字が表示されていた。

 私は、ウォーター・ドルフィンの上で、波にゆらゆらと揺られながら、結果の発表を静かに待つ。普通なら、かなり緊張する場面だが、もはや、そんな気力すら残っていなかった。

 でも、やるだけの事はやった。一滴残らず、力を出し切った感じだ。あとは、天命を待つのみ……。私は全身の力を抜き、ぼんやりとモニターを眺めた。

 数分後、モニターにレースの映像が流れる。最後の直線の映像だ。改めて見るとよく分かるが、綺麗に横一線に並んでいた。

 三機とも並んだまま、ゴールラインに突っ込んで行く。ゴールライン直前で、映像が拡大され、スロー再生になった。

 最初の機体が、ゴールラインに触れたところで、一時停止する。さらに一コマ動くと、二番目の機体が、ゴールラインに接触した。さらに一コマ動くと、三番目の機体が、ゴールラインに到達する。

 それぞれの差は、ほんの数センチ。機体の先端の、わずかの差だった。

 映像を見た観客たちから『おぉー!』と、驚きの声が上がる。私も見てて身震いするほど、本当に凄い僅差だった。

 映像が流し終わると、

『ただいまのレースは、一着一番、アンジェリカ・ヴァーズ。二着六番、如月風歌。三着三番、キラリス・ローランド。以上、映像判定により、結果が確定いたしました』 

 運営からのアナウンスが入る。

 それと同時に、観客たちから、盛大な歓声と拍手が沸き上がった。

 アンジェリカは機体を動かし、スーッとコーナーを曲がって行くと、手を振りながら、観客たちの待つビーチに向かう。こうして改めて見ると、本当に洗練された、綺麗な操縦なのが、よく分かった。おそらく、相当、乗り慣れているのだろう。

 付け焼刃の私とは、安定感が違う。それに、大財閥のお嬢様だし、練習には事欠かなかったはずだ。ドルフィンの販売メーカーまで持ってるわけだし、負けてもしょうがない。

 とはいえ、負けたのは凄く悔しかった。本気で勝つ気でいたし、立場の違いなんかを、負けた理由にはしたくない。単に、私の努力不足と、能力不足が原因だ……。

「はぁ――完敗だったなぁー」
 私は青い空を見上げ、脱力しながら呟いた。 

 わずか数センチの差だけど、一緒に走った私ならよく分かる。限りなく遠い、数センチだった。

 それに、最後の一周で、強烈なプレッシャーを与えてきたのは、間違いなくアンジェリカだった。何というか、彼女からは、物凄く強い力を感じる。圧倒的な自信が、体からにじみ出ており、悔しいことに、実力も伴っていた。

 今回は、ただのイベントレースの勝敗だったけど。いずれ、シルフィードとして、大きなライバルになる予感がする。

「なぜだ……この我が負けるなど、あり得ぬ――。くっ、闇の力が足りなかったのか? いや、星の位置が悪かったのか?」 

 となりでは、キラリスが訳の分からないことを、ブツブツと呟いていた。

「キラリンちゃん、私たちも戻ろ」
 他の選手たちは、すでにビーチのほうに、帰って行っている。

「キ・ラ・リ・ス! そんな、ゆるい呼び方しないで! っていうか、私より順位が上だったからって、いい気になるなよ!」

「いい気になんて、なる訳ないよ。勝ったのは、一着のアンジェリカだけ。二着以降は、負けだもん。入賞したぐらいで満足するほど、私は謙虚じゃないから」

「フッ、言うではないか。流石は我が認めし、魂のライバル」
 キラリスは、再びカッコをつけて語るが、

「先にいくよー」
 私はスルーして、さっさとビーチに戻る。

「あ、ちょっと、待ってー!」
 キラリスは、慌てて追いかけて来た。

 やるだけやって、スッキリした半面、色々と反省点や実力不足が、痛いほど分かったレースだった。

 これから、もっともっと自分を磨いて、成長して行かないとね……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『本物のお嬢様ってやっぱいるもんなんだねぇ』

 口を慎みなさいブロンズ庶民! ゴールドお嬢様のお通りでしてよ!
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