私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第2部 母と娘の関係

5-10本物のお嬢様ってやっぱいるもんなんだねぇ

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 レースが終了したあと〈サファイア・ビーチ〉では、表彰式が行われていた。砂浜には、表彰台が用意され、私たち三人は、その上に立っている。

 中央にはアンジェリカ、その右は私、左のほうはキラリス。たくさんの観客が見守る中、表彰式が始まった。

 キラリスは、三位の銅メダル。私は、二位の銀メダルが渡された。優勝トロフィーが貰えないのは残念だけど、表彰台に立つのは、生まれて初めてだ。なので、何だかんだで凄く嬉しい。

 最後に、優勝したアンジェリカに、優勝トロフィーと、商品券が渡された。彼女がトロフィーを高々と掲げると、観客たちから、盛大な拍手が巻き起こる。

 隣にいた私も、微笑みながら、彼女に拍手を送った。試合が終わったあとは、全力で勝者を褒めたたえる。これこそが、スポーツマン精神だ。

 実際に、彼女の操縦技術は、素晴らしかったし、素直に凄かったと思う。キラリスも、不満を漏らしていた割には、ちゃんと笑顔で拍手をしていた。割と、スポーツマンシップはあるみたい。

 一通り表彰式が終わると、私たち三人の所に、ナギサちゃんとフィニーちゃんがやって来た。

 その時、アンジェリカが、

「これから、皆さんで一緒に、打ち上げをいたしませんこと? 事前に、パーティー会場は、用意してありますのよ」

 と唐突に提案してきたのだ。

 私は驚いて、ナギサちゃんの様子を、ちらりと確認する。元々打ち上げは、やろうと思っていた。けれど、アンジェリカが提案して来るとは、完全に予想外だった。

 過去に揉めたこともあるし、ナギサちゃんは、どう思ってるんだろう……?

 しかし、
「打ち上げ、大賛成!」
 フィニーちゃんが、真っ先に食い付いた。まぁ、この反応は予想通りだ。

「やっぱり、戦いのあとは、打ち上げだよな!」
 キラリスも、あっさり同意する。意外と、結果は引きずらないタイプみたい。

「私はいいわよ。レースに参加した訳じゃないし」
 やはり、ナギサちゃんは、あまり気乗りしない様子だ。そもそも、騒いだりするの、あまり好きじゃないもんね。

「何を言っていますの、ナギサさん。観戦しているだけで、立派な参加者ですわよ。すでに、迎えが来ておりますから。さぁ、皆さん参りましょう!」

 アンジェリカは、笑顔で言うと、さっさと先頭を進んで行った。そのあとに、フィニーちゃんとキラリスも、楽しそうについて行く。

「まぁ、みんなが行くなら、私たちも行こっか」 
「はぁー。まったく、しょうがないわね――」

 結局、ナギサちゃんはいつも通り、断り切れずに参加する形に。

 そんなこんなで、みんな揃って、アンジェリカの用意したパーティー会場に、向かうのだった……。


 ******


 私たちは〈新南区〉のホテル〈ロイヤル・ガーデン〉に来ていた。あらかじめ会場を予約して、準備してあるらしい。さらに『無料で食べ放題』という話だ。

 過去に、アンジェリカとは言い合いになって、ちょっとした敵対関係にあった。しかし、レース後で、凄くお腹空いてたし『無料』という言葉に、思わず惹かれてしまったのだ。

 それに、ホテルでパーティーということは『かなり美味しい料理が、出て来るのでは?』なんて期待感も、あったり、なかったり――。

 結局『空腹には勝てなかった……』ってことね。

 私は、普通のホテルを想像していたんだけど、いざ到着してみると、あまりの凄さに、圧倒されてしまった。巨大な敷地内には、綺麗な庭園があり、まるで、貴族のお屋敷みたいな建物が、どーんと立っていた。

 ちょっと、ヤバくないコレ? 滅茶苦茶、高級そうなんですけど――。

「何だか、凄いホテルだね……。もしかして、物凄く高いんじゃない?」
 私は隣にいたナギサちゃんに、小声で話し掛ける。

「この〈ロイヤル・ガーデン〉は、世界でも五本の指に入る、高級ホテルよ。政財界のトップ・著名人・他国から来たVIPたちが泊まるホテルだから。それ相応の、お値段でしょうね」

「普通の部屋に泊まっても、食事代込みで、だいたい、一泊五万ベルぐらいじゃないかしら」
 
 ナギサちゃんは、得に驚いた様子もなく、淡々と説明する。

「ごっ――五万ベル?!」
 その話を聴いて、私は卒倒しそうになった。

 たった一泊で、私の月給以上って……。何だか、急に不安になってきたよ。

「ねぇ、無料って言ってたけど、本当に大丈夫なの? 私、屋台で買い物するぐらいしか、お金持ってないよ――」

「アンジェリカが、そう言っているのだから、大丈夫でしょ。それに、泊まる訳じゃないのだから。いくら高くても、一、二万ベルあれば大丈夫よ」

 ナギサちゃんは、サラッと答える。

 いやいや、私にとって一万ベルとか、超大金なんですけど! もし、有料だったらどうしよう? 私の今の全財産、ギリギリ一万ベルぐらいなんですけど……。

 私の不安とは対照的に、隣にいたフィニーちゃんは、目をキラキラさせ、待ちきれない様子だった。アンジェリカの提案に、真っ先に食い付いたのも、フィニーちゃんだ。食べ物のことになると、反応が速いよね。

「というか、私のこの格好で、大丈夫なのかな? 高級ホテルって、ドレスコードとか、あるんじゃなかったっけ……?」 

 今日は、レースに出場するため、ウエットスーツに着替えやすいように、制服ではなく私服で来ていた。なので、ショートパンツにTシャツという、物凄くラフな格好だ。普段も、私服の時は、動きやすいから、この格好が多いんだよね。

 そもそも私、お出かけ用の服なんて、一着も持ってないし。一番のオシャレ着が、シルフィードの制服なので。

「大丈夫ですわよ。プライベートなパーティーですし、参加するのは気心の知れた、このメンバーだけですから」 

 私の声が聞こえたのか、アンジェリカが声を掛けてきた。

「そ、そうなんだ――」

 ん……? って、いつの間に気心の知れた仲に? まだ、ロクに話したこともないんだけど。それに、以前カフェで喧嘩になったこと、気にしてないのかな?

「宿泊する訳ではないのだから、気にする必要ないわよ。私だって、パーティーに出席する予定はなかったから、普段着で来ているし」

 ナギサちゃんはサラッと言うが、相変わらずビシッとした、凄くオシャレな服装で来ている。普段着がそれって、ナギサちゃんの普通って、レベルが高すぎるんだよね。

 話ながら歩いていると、やがて大きな入口に到着した。大理石の柱が立ってるし、入り口からして、高級感が漂っている。

 黒いタキシードを着た、初老の男性が近付いて来ると、

「ようこそ、おいで下さいました、アンジェリカお嬢様。私は当ホテルの支配人、ラザルと申します」

 彼は深々とお辞儀をする。

「支配人さんが、直接お出迎えしてくださるとは、痛みいりますわ。でも、今日はプライベートな、小さなパーティーですの。そこまで気を遣っていただかなくても、大丈夫ですわ」

「とんでも御座いません。アンジェリカお嬢様に来て頂けるとは、我がホテルの、大変に名誉なことでございます。滞在中、誠心誠意、おもてなしさせて頂きますので、何でもお申し付け下さいませ」

 私は、まるで映画の中のワンシーンのようなやり取りを、ポカーンとしながら眺めていた。どうやら『ヴァーズ財閥』って、本当に凄いらしい。

 いやー、本物のお嬢様って、やっぱいるもんなんだねぇ。私、初めて見たわ、誰かが『お嬢様』って呼ばれてるの……。

 支配人に案内され、建物の中に入ると、左右にズラッと並んだ従業員の人が、
「ようこそ、お待ちしておりました!」
 一斉に頭を下げて、綺麗にそろった挨拶をした。

 私は、驚いてビクッとする。でも、アンジェリカとナギサちゃんは、何事もなかったかのように、平然と進んで行った。フィニーちゃんは、食べ物で頭が一杯なのか、気にした様子もない。

 唯一、キラリスだけは、オロオロしていたので、それを見て少し安心した。一般人なら、絶対に驚くよね、こんな状況……。

 外観も凄かったけど、建物の中も、物凄い豪華さだった。高い天井には、凝った作りの、大きなシャンデリアが釣り下がっている。床には、いかにも高そうなじゅうたんが、敷き詰められていた。

 また、あちこちに、観葉植物やオブジェが置いてあり、ロビーの前には、小さな噴水もあった。

 壁には絵画が飾られており、あちこちに、ゆったりとした大きなソファーが置いてある。そこに座っている宿泊客の人たちは、物凄くフォーマルな格好をしており、いかにもセレブな感じだった。

 何か私、完全に場違いだよね――。

 ロビーを通り抜け、私たちは長い廊下を歩いて行った。途中、両開きの扉の部屋を、いくつか通過する。

 開いている扉から中をのぞくと、広々とした部屋に、テーブルがいくつも置いてあった。おそらく一階は、パーティーなどで使う、ホールがメインなのだろう。

 キョロキョロしながらついて行くと、廊下の突き当りの部屋に到着する。大きな扉の横の、空中モニターには『アンジェリカ・ヴァーズ様御一行 パーティー会場』と表示されていた。

 お祭りの打ち上げにしては、ちょっと大げさ過ぎない? もうこれ、打ち上げじゃなくて、本格的なパーティーだよね? 私の想像していた打ち上げとは、全く違うんだけど。

 支配人が扉を開けた瞬間、私は思わず息をのんだ。なぜなら、そこには、まるで別世界のような光景が広がっていたからだ……。


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次回――
『超高級ホテルのパーティー会場ではしゃぎまくる私たち』

 人生は継続的なパーティーでなければならないと思う
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