126 / 363
第3部 笑顔の裏に隠された真実
5-11暗闇に輝く2つの光と燃えよシルフィード魂
しおりを挟む
私は真っ暗な空間の中にいた。地面もなく天上もない。横たわっているのか、浮いているのかも、よく分からなかった。光だけでなく、音もなにもない世界。体も全く動かず、声も出ない。しかも、息すらしていなかった。
もしかして、私死んじゃったの? かなり無茶したから、しょうがないか……。
まるで、他人事のように感じる。何の感情も湧いてこない。体だけでなく思考まで、完全に停止しているようだ。
静寂の闇の中にいると、色んなものが、どんどん消えて行く。記憶も、感情も、想いも。最後には、私の体も消えてしまうのだろうか――?
どうでもいいので、目を閉じ、考えるのやめようとした。だが、かすかな光を感じ、辛うじて動く目で探してみる。すると、かなり遠くのほうに、小さな光が2つ見えた。
光の点が、少しずつ近づいてくる。光は徐々に大きくなり、私の近くまで来ると、ピタリと止まった。バレーボールぐらいの大きさで、とても明るいけど、まぶしくは感じない。
一つは赤い光を発し、もう一つは緑色に輝いていた。なんだか、優しい感じがする光だった。私はその光を眺めながら、しばらくボーッとする。
そういえば、二人はどうしたんだろう……?
次の瞬間、一気に視界が開け、明るい光が目に入り込んでくる。目の前には、見知らぬ天井があった。
「んー、何だコレ?」
心の中で言ったつもりだったが、声になっていた。
「ちょっと風歌、大丈夫なの?」
「風歌、生きてる――?」
ナギサちゃんとフィニーちゃんが、心配そうにのぞき込んでいる。
「え、えーっと……状況が飲み込めないんだけど。ここ、どこ――?」
全く見覚えのない場所だ。それに、私って何やってたんだっけ? 状況がよく分からないし、頭がボーッとして、何も思い出せない。
「ここは、救護テント。倒れて気絶したから、担架でここに運ばれたのよ。走っていた時のこと、覚えていないの?」
あぁ、そうだ……。私ってば、走ってたんだっけ? ノア・マラソンって、どうなったんだろ――?
「うーむ……記憶が今一つあいまいで。でも、倒れたってことは、最後まで完走できなかったんだ――」
不思議な幻覚みたいのを見たり、途中で意識が飛んでたり、変な夢を見たり。もう、どこからどこまでが現実なのか、全く分からなくなっていた。
「それは大丈夫よ。あなたが倒れたのは、ゴールラインを過ぎてからだから。もっとも、完走扱いになるかは、微妙なところだけど」
「へっ、ゴールしたのに、完走じゃないの?」
どゆこと? なにがなんだか、サッパリ分かんないよ。残り百メートルぐらいまでしか、記憶が残ってないし。最後は、どうなったんだっけ……?
「これ、見れば分かる」
フィニーちゃんが、マギコンを操作すると、空中モニターが現れた。そこには、私の名前とゼッケン番号、走破タイムが表示されている。タイムは、七時間三分八秒。これって――。
「まさかの、制限時間切れ? そこまで意識が回らなかった……。あー、悔しい」
「ここ、見て」
フィニーちゃんが指したのは、タイムの右端だった。そこには、小さく『審議中』と表示されていた。
「えっ――審議中? 私、何かルール違反とかしちゃったの?」
後半は、かなりフラフラ走ってたし、もしかして進路妨害とか? もしくは、運営スタッフの助言を、無視し続けたから? 意識がハッキリしてなかったから、何をやらかしたのか、全く記憶にない。
「そうじゃないわよ。風歌の記録について、観客や視聴者から、公式記録として認めるべきだと、意見が殺到したらしいわ。あまりにも数が多かったので、運営委員会のほうで、現在、対応を協議している最中なのよ」
「ほへぇー……。でも、制限時間すぎちゃってるし、普通、失格だよね? なんでまた、そんなことに?」
ルールはルール。実際、悔しくはあるけど、ここはスポーツマンとして、真摯に結果を向け止めるべきだ。今回は、いつリタイアしても、おかしくなかった。それに、走り切れたこと自体が、奇跡に近いのだから、ぜいたくを言ってはいけない。
「これ」
フィニーちゃんが出した画面は、スピのとある掲示板だった。
『マラソンとか興味なかったけど、何かスゲーの見せてもらったわ』
『最後の百メートル、超胸熱だったな。史上最高のレースだったんじゃね?』
『俺シルフィード舐めてたわ。見かけだけじゃなくて根性あるのな』
『制限時間を越えてるけど、結局どうなるんだこれ?』
『もし失格になったら、運営大炎上で、来年から開催できなくなるだろ』
『空気読めよ運営。協議なんかしてないで、三分ぐらいオマケしてやれよ』
『やっぱ、ホワイト・ウイング神ってるな。今年入った新人でこのレベルとか』
『ノア・マラソンの完走って、シルフィード史上初なんだろ?』
『これで失格になったら、絶対に暴動起きるぞ』
なにやら掲示板では、私の話題で物凄く盛り上がっている。しかも、短時間のうちに、千を越える書き込みが行われていた。酷い走りだった割に、好意的な意見ばかりだ。
「何で、こんなに盛り上がってるの?! 私がシルフィードだから?」
予想外の事態に、目が点になった。
「それもあるけど、MVで物凄く目立っていたからでしょ。後半なんか、ずっと風歌しか、映っていなかったんだから。しかも、全世界中継で」
「って、私のヘロヘロな姿が全世界に?」
そうだった。『ノア・マラソン』って、この町だけの、ローカル放送じゃなかったんだ。しかし、あんなボロボロの姿を、世界中の人に見られたなんて、恥ずかし過ぎる――。
「トレンドにも、入ってる」
フィニーちゃんが、新しく開いた画面は、トレンドワード・ランキングだった。スピで最も多く検索されている、キーワードのランキングだ。
一位から順に『如月風歌』『シルフィード魂』『ノアマラソン審議』『ホワイトウイング』『ノアマラソン動画』こんな感じで並んでいた。
「えぇーっ?! 私の名前が一位? なぜに?」
「シルフィード名鑑とスピぺティアにも、風歌の項目が追加された」
フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、淡々と説明する。
『シルフィード名鑑』は、歴代と現役の、全シルフィードのデータが載っていた。ただし、一人前以上の人に限る。あと『スピペディア』は、向こうの世界のウィキペディアと同じものだ。
「何が何だか、訳わかんないよ。目が覚めたら、こんな大事になってるなんて……」
「私だって、まさか、ここまで風歌が注目されるとは、思わなかったわよ。ただ、あれだけ目立っていれば、ある意味、当然よね」
私は前に進むだけで必死だったから、MVに映ってることすら、全く知らなかった。しかも、そんなに目立つ映り方をしていたとは――。
「ところで、二位の『シルフィード魂』って何? 何でこんなに検索されてるの?」
「これ見れば、わかる」
フィニーちゃんが、ササッと操作して、ある動画を表示した。フィニーちゃんって、普段はのんびりしてるけど、マギコンの操作は、滅茶苦茶、速いんだよね。
表示された動画のタイトルは『燃えよシルフィード魂』だった。何かカンフー映画とかで、ありそうなタイトルだよね。
動画が再生されると、そこにはフラフラと歩いている、私の姿が映っていた。目は虚ろになり、体には力が入っておらず、いつ倒れても、おかしくない状態だった。
「ひゃー、私こんなにひどい状態だったの? 超恥ずかしー……」
改めて見ると、とんでもない状態だった。よくこんなので、ゴールにたどり着いたと思う。
息も絶え絶えの私が、よろよろ進んで行くと、途中でピタリと停止した。周囲からは、物凄い数の応援が飛び交っている。すぐ脇で見守っていた大会スタッフたちも、本気になって声援を送っていた。それでも、私は動かなかった。
いや、動けなかったのだ――。気力も体力も、完全に尽きていたから。あの時はもう、本当にダメだと思った。
だが、その時、とても力強い声が響き渡る。
『何やってるのよ風歌!! あなた、こんな所で終わっていいの? シルフィード魂はどこにいったのよ?』
必死に叫ぶナギサちゃんに、映像が切り替わった。
「あぁ、確かにこの時、ナギサちゃんが言ってたよね『シルフィード魂』って。でも、ナギサちゃんが、こんなスポ根っぽいことを言うとは、本当に意外だったよ」
「はぁー……。何で私、こんな恥ずかしい台詞を、言ってしまったのかしら。まさか、こんなにデカデカと映っているとは。一生の不覚だわ――」
ナギちゃんは、額に手を当て、大きなため息をついた。
「でも、あの言葉は心に響いたよ。本当にありがとね。ナギサちゃんが、カツを入れてくれたから、最後まで走り切れたんだもん。きっと、みんなの心にも響いたんじゃないかな、あの言葉が」
「トレンド二位。世界中に超響いた」
フィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。
「もう、止めて。悪夢だわ……」
「でも、動画が超拡散してる」
表示された検索画面には、私のゴール直前の動画が、大量にアップされていた。
「んがっ――。こんなに映ってるんだったら、もっとカッコよく走ってるところを撮って欲しかった。当分は、このヘロヘロ映像、残るんだろうなぁ。ナギサちゃんは、カッコイイとこ映ってるんだから、別にいいじゃない」
「どこが格好いいのよ? 恥ずかしいだけじゃない。そもそも、出場していない私が、何でこんなに目立たなきゃならないの? それに、シルフィードとは、もっと上品な存在なのに。はぁー、頭が痛いわ……」
ナギサちゃんって、自己主張が強い割には、目立つのが苦手なんだよね。
「フィニーちゃんも、応援ありがとね。『食べ放題』って言葉、凄く元気でたよ」
「じゃ、今から行く? 焼肉食べ放題」
「う――さすがに今は、疲れ過ぎてて、肉はきついかも」
完全にガス欠だと思うんだけど、もう食べる体力すらなく、空腹を感じない。
「なら、スイーツ食べ放題?」
「あー、それなら行けるかも」
くたくたの体には、やっぱり糖分だよね。甘いものは別腹だから、スイーツなら行けそう。明日の仕事に備えて、栄養補給して、早く体力を回復しないと。
「って、待ちなさい! そんなボロボロの状態で、食べ放題なんか行ける訳ないでしょ? 脱水症状に加え、低血糖症になっていて、下手をすれば命が危なかったって、診察した医師が言ってたのよ」
「そうなんだ。それで私、点滴うたれてたのね……」
私の腕には、点滴のチューブが伸びていた。
「まったく、あれだけ無茶をするなと言ったのに。毎回毎回、こんな危険なことばかりやって。心臓がいくつあっても足りないわよ」
ナギサちゃんは、厳しく言うが、その言葉からは優しさを感じる。本気で、心配してくれていたんだよね。いつもゴメンね、ナギサちゃん。
「ナギサママ、きびしい」
「誰がママよっ!」
フィニーちゃんとナギサちゃんの、いつものやり取りが始まると、ホッとする。ようやく、いつもの日常に帰ってきた感じだ。
しばらくして、私はゆっくり上半身を起こすが、体がギシギシして、全身に痛みが走った。
「あだだっ――。なんか全身が激しく痛い……」
体中が、筋肉痛になっているみたいだ。いつもは、翌日になるのに、今日は偉く早く来ていた。
「もうちょっと、寝てなさいよ。まだ、起き上がれる状態じゃないでしょ?」
「でも、会社に顔を出して、リリーシャさんに報告しなきゃだし。明日の仕事に備えて、栄養補給も必要だから。何か食べるもの買いに行かないと――」
今日は、会社はお休みだけど、特別なお客様の対応があるので、リリーシャさんは、午後から出勤している。
仕事のあとは、書類整理などもあるので、定時まではいるはずだ。それに、明日からはまた、普通に仕事があるので、早く体力を回復しないと。
「連絡なら、マギコンでも出来るじゃない。それに、食事なら消化が良くて、栄養の付きそうな物を私が用意するから。どうせまた、パンで済ますつもりでしょ?」
「まぁ、その通りなんだけど……。でも、いつも助けてくれて、ありがとね。私、本当にナギサちゃんの娘になりたいよ。それで、一生、面倒見てもらいたい」
「はぁ? こんな出来の悪い娘なんて、死んでもお断りよ!」
おっかない目で睨み付けながら、力一杯に、お断りされる。冗談にマジレスするの、止めて欲しい。場を和ませるための、おちゃめな軽口なのに――。
「んがっ、そこまでハッキリ拒絶しなくても。確かに、出来は悪いけど……」
「私も、ナギサママに面倒みてもらう。ご飯だけは、おいしい」
フィニーちゃんが、ボソッと呟く。
「だから、誰がママよ! それに、ご飯だけって、どういう意味?」
「ナギサママが、おこったー」
逃げるフィニーちゃんに、怒って追いかけるナギサちゃん。実に平和な光景だ。
とんでもなく、大変な目にあったけど、一応は走り切ったわけだし。とりあえずは、目標達成ってことでいいのかな? しっかり気持ちを切り替えて、明日からは、本業に専念しよう。
色々反省点もあったけど、細かいことは、後日のんびり考える方向で……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回 第3部・最終話――
『シルフィード業界追放って私これからどうなっちゃうの……?』
どうしてこうなったのぉぉぉーー?!
もしかして、私死んじゃったの? かなり無茶したから、しょうがないか……。
まるで、他人事のように感じる。何の感情も湧いてこない。体だけでなく思考まで、完全に停止しているようだ。
静寂の闇の中にいると、色んなものが、どんどん消えて行く。記憶も、感情も、想いも。最後には、私の体も消えてしまうのだろうか――?
どうでもいいので、目を閉じ、考えるのやめようとした。だが、かすかな光を感じ、辛うじて動く目で探してみる。すると、かなり遠くのほうに、小さな光が2つ見えた。
光の点が、少しずつ近づいてくる。光は徐々に大きくなり、私の近くまで来ると、ピタリと止まった。バレーボールぐらいの大きさで、とても明るいけど、まぶしくは感じない。
一つは赤い光を発し、もう一つは緑色に輝いていた。なんだか、優しい感じがする光だった。私はその光を眺めながら、しばらくボーッとする。
そういえば、二人はどうしたんだろう……?
次の瞬間、一気に視界が開け、明るい光が目に入り込んでくる。目の前には、見知らぬ天井があった。
「んー、何だコレ?」
心の中で言ったつもりだったが、声になっていた。
「ちょっと風歌、大丈夫なの?」
「風歌、生きてる――?」
ナギサちゃんとフィニーちゃんが、心配そうにのぞき込んでいる。
「え、えーっと……状況が飲み込めないんだけど。ここ、どこ――?」
全く見覚えのない場所だ。それに、私って何やってたんだっけ? 状況がよく分からないし、頭がボーッとして、何も思い出せない。
「ここは、救護テント。倒れて気絶したから、担架でここに運ばれたのよ。走っていた時のこと、覚えていないの?」
あぁ、そうだ……。私ってば、走ってたんだっけ? ノア・マラソンって、どうなったんだろ――?
「うーむ……記憶が今一つあいまいで。でも、倒れたってことは、最後まで完走できなかったんだ――」
不思議な幻覚みたいのを見たり、途中で意識が飛んでたり、変な夢を見たり。もう、どこからどこまでが現実なのか、全く分からなくなっていた。
「それは大丈夫よ。あなたが倒れたのは、ゴールラインを過ぎてからだから。もっとも、完走扱いになるかは、微妙なところだけど」
「へっ、ゴールしたのに、完走じゃないの?」
どゆこと? なにがなんだか、サッパリ分かんないよ。残り百メートルぐらいまでしか、記憶が残ってないし。最後は、どうなったんだっけ……?
「これ、見れば分かる」
フィニーちゃんが、マギコンを操作すると、空中モニターが現れた。そこには、私の名前とゼッケン番号、走破タイムが表示されている。タイムは、七時間三分八秒。これって――。
「まさかの、制限時間切れ? そこまで意識が回らなかった……。あー、悔しい」
「ここ、見て」
フィニーちゃんが指したのは、タイムの右端だった。そこには、小さく『審議中』と表示されていた。
「えっ――審議中? 私、何かルール違反とかしちゃったの?」
後半は、かなりフラフラ走ってたし、もしかして進路妨害とか? もしくは、運営スタッフの助言を、無視し続けたから? 意識がハッキリしてなかったから、何をやらかしたのか、全く記憶にない。
「そうじゃないわよ。風歌の記録について、観客や視聴者から、公式記録として認めるべきだと、意見が殺到したらしいわ。あまりにも数が多かったので、運営委員会のほうで、現在、対応を協議している最中なのよ」
「ほへぇー……。でも、制限時間すぎちゃってるし、普通、失格だよね? なんでまた、そんなことに?」
ルールはルール。実際、悔しくはあるけど、ここはスポーツマンとして、真摯に結果を向け止めるべきだ。今回は、いつリタイアしても、おかしくなかった。それに、走り切れたこと自体が、奇跡に近いのだから、ぜいたくを言ってはいけない。
「これ」
フィニーちゃんが出した画面は、スピのとある掲示板だった。
『マラソンとか興味なかったけど、何かスゲーの見せてもらったわ』
『最後の百メートル、超胸熱だったな。史上最高のレースだったんじゃね?』
『俺シルフィード舐めてたわ。見かけだけじゃなくて根性あるのな』
『制限時間を越えてるけど、結局どうなるんだこれ?』
『もし失格になったら、運営大炎上で、来年から開催できなくなるだろ』
『空気読めよ運営。協議なんかしてないで、三分ぐらいオマケしてやれよ』
『やっぱ、ホワイト・ウイング神ってるな。今年入った新人でこのレベルとか』
『ノア・マラソンの完走って、シルフィード史上初なんだろ?』
『これで失格になったら、絶対に暴動起きるぞ』
なにやら掲示板では、私の話題で物凄く盛り上がっている。しかも、短時間のうちに、千を越える書き込みが行われていた。酷い走りだった割に、好意的な意見ばかりだ。
「何で、こんなに盛り上がってるの?! 私がシルフィードだから?」
予想外の事態に、目が点になった。
「それもあるけど、MVで物凄く目立っていたからでしょ。後半なんか、ずっと風歌しか、映っていなかったんだから。しかも、全世界中継で」
「って、私のヘロヘロな姿が全世界に?」
そうだった。『ノア・マラソン』って、この町だけの、ローカル放送じゃなかったんだ。しかし、あんなボロボロの姿を、世界中の人に見られたなんて、恥ずかし過ぎる――。
「トレンドにも、入ってる」
フィニーちゃんが、新しく開いた画面は、トレンドワード・ランキングだった。スピで最も多く検索されている、キーワードのランキングだ。
一位から順に『如月風歌』『シルフィード魂』『ノアマラソン審議』『ホワイトウイング』『ノアマラソン動画』こんな感じで並んでいた。
「えぇーっ?! 私の名前が一位? なぜに?」
「シルフィード名鑑とスピぺティアにも、風歌の項目が追加された」
フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、淡々と説明する。
『シルフィード名鑑』は、歴代と現役の、全シルフィードのデータが載っていた。ただし、一人前以上の人に限る。あと『スピペディア』は、向こうの世界のウィキペディアと同じものだ。
「何が何だか、訳わかんないよ。目が覚めたら、こんな大事になってるなんて……」
「私だって、まさか、ここまで風歌が注目されるとは、思わなかったわよ。ただ、あれだけ目立っていれば、ある意味、当然よね」
私は前に進むだけで必死だったから、MVに映ってることすら、全く知らなかった。しかも、そんなに目立つ映り方をしていたとは――。
「ところで、二位の『シルフィード魂』って何? 何でこんなに検索されてるの?」
「これ見れば、わかる」
フィニーちゃんが、ササッと操作して、ある動画を表示した。フィニーちゃんって、普段はのんびりしてるけど、マギコンの操作は、滅茶苦茶、速いんだよね。
表示された動画のタイトルは『燃えよシルフィード魂』だった。何かカンフー映画とかで、ありそうなタイトルだよね。
動画が再生されると、そこにはフラフラと歩いている、私の姿が映っていた。目は虚ろになり、体には力が入っておらず、いつ倒れても、おかしくない状態だった。
「ひゃー、私こんなにひどい状態だったの? 超恥ずかしー……」
改めて見ると、とんでもない状態だった。よくこんなので、ゴールにたどり着いたと思う。
息も絶え絶えの私が、よろよろ進んで行くと、途中でピタリと停止した。周囲からは、物凄い数の応援が飛び交っている。すぐ脇で見守っていた大会スタッフたちも、本気になって声援を送っていた。それでも、私は動かなかった。
いや、動けなかったのだ――。気力も体力も、完全に尽きていたから。あの時はもう、本当にダメだと思った。
だが、その時、とても力強い声が響き渡る。
『何やってるのよ風歌!! あなた、こんな所で終わっていいの? シルフィード魂はどこにいったのよ?』
必死に叫ぶナギサちゃんに、映像が切り替わった。
「あぁ、確かにこの時、ナギサちゃんが言ってたよね『シルフィード魂』って。でも、ナギサちゃんが、こんなスポ根っぽいことを言うとは、本当に意外だったよ」
「はぁー……。何で私、こんな恥ずかしい台詞を、言ってしまったのかしら。まさか、こんなにデカデカと映っているとは。一生の不覚だわ――」
ナギちゃんは、額に手を当て、大きなため息をついた。
「でも、あの言葉は心に響いたよ。本当にありがとね。ナギサちゃんが、カツを入れてくれたから、最後まで走り切れたんだもん。きっと、みんなの心にも響いたんじゃないかな、あの言葉が」
「トレンド二位。世界中に超響いた」
フィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。
「もう、止めて。悪夢だわ……」
「でも、動画が超拡散してる」
表示された検索画面には、私のゴール直前の動画が、大量にアップされていた。
「んがっ――。こんなに映ってるんだったら、もっとカッコよく走ってるところを撮って欲しかった。当分は、このヘロヘロ映像、残るんだろうなぁ。ナギサちゃんは、カッコイイとこ映ってるんだから、別にいいじゃない」
「どこが格好いいのよ? 恥ずかしいだけじゃない。そもそも、出場していない私が、何でこんなに目立たなきゃならないの? それに、シルフィードとは、もっと上品な存在なのに。はぁー、頭が痛いわ……」
ナギサちゃんって、自己主張が強い割には、目立つのが苦手なんだよね。
「フィニーちゃんも、応援ありがとね。『食べ放題』って言葉、凄く元気でたよ」
「じゃ、今から行く? 焼肉食べ放題」
「う――さすがに今は、疲れ過ぎてて、肉はきついかも」
完全にガス欠だと思うんだけど、もう食べる体力すらなく、空腹を感じない。
「なら、スイーツ食べ放題?」
「あー、それなら行けるかも」
くたくたの体には、やっぱり糖分だよね。甘いものは別腹だから、スイーツなら行けそう。明日の仕事に備えて、栄養補給して、早く体力を回復しないと。
「って、待ちなさい! そんなボロボロの状態で、食べ放題なんか行ける訳ないでしょ? 脱水症状に加え、低血糖症になっていて、下手をすれば命が危なかったって、診察した医師が言ってたのよ」
「そうなんだ。それで私、点滴うたれてたのね……」
私の腕には、点滴のチューブが伸びていた。
「まったく、あれだけ無茶をするなと言ったのに。毎回毎回、こんな危険なことばかりやって。心臓がいくつあっても足りないわよ」
ナギサちゃんは、厳しく言うが、その言葉からは優しさを感じる。本気で、心配してくれていたんだよね。いつもゴメンね、ナギサちゃん。
「ナギサママ、きびしい」
「誰がママよっ!」
フィニーちゃんとナギサちゃんの、いつものやり取りが始まると、ホッとする。ようやく、いつもの日常に帰ってきた感じだ。
しばらくして、私はゆっくり上半身を起こすが、体がギシギシして、全身に痛みが走った。
「あだだっ――。なんか全身が激しく痛い……」
体中が、筋肉痛になっているみたいだ。いつもは、翌日になるのに、今日は偉く早く来ていた。
「もうちょっと、寝てなさいよ。まだ、起き上がれる状態じゃないでしょ?」
「でも、会社に顔を出して、リリーシャさんに報告しなきゃだし。明日の仕事に備えて、栄養補給も必要だから。何か食べるもの買いに行かないと――」
今日は、会社はお休みだけど、特別なお客様の対応があるので、リリーシャさんは、午後から出勤している。
仕事のあとは、書類整理などもあるので、定時まではいるはずだ。それに、明日からはまた、普通に仕事があるので、早く体力を回復しないと。
「連絡なら、マギコンでも出来るじゃない。それに、食事なら消化が良くて、栄養の付きそうな物を私が用意するから。どうせまた、パンで済ますつもりでしょ?」
「まぁ、その通りなんだけど……。でも、いつも助けてくれて、ありがとね。私、本当にナギサちゃんの娘になりたいよ。それで、一生、面倒見てもらいたい」
「はぁ? こんな出来の悪い娘なんて、死んでもお断りよ!」
おっかない目で睨み付けながら、力一杯に、お断りされる。冗談にマジレスするの、止めて欲しい。場を和ませるための、おちゃめな軽口なのに――。
「んがっ、そこまでハッキリ拒絶しなくても。確かに、出来は悪いけど……」
「私も、ナギサママに面倒みてもらう。ご飯だけは、おいしい」
フィニーちゃんが、ボソッと呟く。
「だから、誰がママよ! それに、ご飯だけって、どういう意味?」
「ナギサママが、おこったー」
逃げるフィニーちゃんに、怒って追いかけるナギサちゃん。実に平和な光景だ。
とんでもなく、大変な目にあったけど、一応は走り切ったわけだし。とりあえずは、目標達成ってことでいいのかな? しっかり気持ちを切り替えて、明日からは、本業に専念しよう。
色々反省点もあったけど、細かいことは、後日のんびり考える方向で……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回 第3部・最終話――
『シルフィード業界追放って私これからどうなっちゃうの……?』
どうしてこうなったのぉぉぉーー?!
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる