私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第3部 笑顔の裏に隠された真実

5-11暗闇に輝く2つの光と燃えよシルフィード魂

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 私は真っ暗な空間の中にいた。地面もなく天上もない。横たわっているのか、浮いているのかも、よく分からなかった。光だけでなく、音もなにもない世界。体も全く動かず、声も出ない。しかも、息すらしていなかった。

 もしかして、私死んじゃったの? かなり無茶したから、しょうがないか……。

 まるで、他人事のように感じる。何の感情も湧いてこない。体だけでなく思考まで、完全に停止しているようだ。

 静寂の闇の中にいると、色んなものが、どんどん消えて行く。記憶も、感情も、想いも。最後には、私の体も消えてしまうのだろうか――? 

 どうでもいいので、目を閉じ、考えるのやめようとした。だが、かすかな光を感じ、辛うじて動く目で探してみる。すると、かなり遠くのほうに、小さな光が2つ見えた。

 光の点が、少しずつ近づいてくる。光は徐々に大きくなり、私の近くまで来ると、ピタリと止まった。バレーボールぐらいの大きさで、とても明るいけど、まぶしくは感じない。

 一つは赤い光を発し、もう一つは緑色に輝いていた。なんだか、優しい感じがする光だった。私はその光を眺めながら、しばらくボーッとする。

 そういえば、二人はどうしたんだろう……?

 次の瞬間、一気に視界が開け、明るい光が目に入り込んでくる。目の前には、見知らぬ天井があった。

「んー、何だコレ?」
 心の中で言ったつもりだったが、声になっていた。

「ちょっと風歌、大丈夫なの?」  
「風歌、生きてる――?」
 ナギサちゃんとフィニーちゃんが、心配そうにのぞき込んでいる。

「え、えーっと……状況が飲み込めないんだけど。ここ、どこ――?」
 全く見覚えのない場所だ。それに、私って何やってたんだっけ? 状況がよく分からないし、頭がボーッとして、何も思い出せない。

「ここは、救護テント。倒れて気絶したから、担架でここに運ばれたのよ。走っていた時のこと、覚えていないの?」

 あぁ、そうだ……。私ってば、走ってたんだっけ? ノア・マラソンって、どうなったんだろ――?

「うーむ……記憶が今一つあいまいで。でも、倒れたってことは、最後まで完走できなかったんだ――」

 不思議な幻覚みたいのを見たり、途中で意識が飛んでたり、変な夢を見たり。もう、どこからどこまでが現実なのか、全く分からなくなっていた。

「それは大丈夫よ。あなたが倒れたのは、ゴールラインを過ぎてからだから。もっとも、完走扱いになるかは、微妙なところだけど」
「へっ、ゴールしたのに、完走じゃないの?」

 どゆこと? なにがなんだか、サッパリ分かんないよ。残り百メートルぐらいまでしか、記憶が残ってないし。最後は、どうなったんだっけ……?

「これ、見れば分かる」

 フィニーちゃんが、マギコンを操作すると、空中モニターが現れた。そこには、私の名前とゼッケン番号、走破タイムが表示されている。タイムは、七時間三分八秒。これって――。

「まさかの、制限時間切れ? そこまで意識が回らなかった……。あー、悔しい」
「ここ、見て」

 フィニーちゃんが指したのは、タイムの右端だった。そこには、小さく『審議中』と表示されていた。

「えっ――審議中? 私、何かルール違反とかしちゃったの?」
 
 後半は、かなりフラフラ走ってたし、もしかして進路妨害とか? もしくは、運営スタッフの助言を、無視し続けたから? 意識がハッキリしてなかったから、何をやらかしたのか、全く記憶にない。

「そうじゃないわよ。風歌の記録について、観客や視聴者から、公式記録として認めるべきだと、意見が殺到したらしいわ。あまりにも数が多かったので、運営委員会のほうで、現在、対応を協議している最中なのよ」 
 
「ほへぇー……。でも、制限時間すぎちゃってるし、普通、失格だよね? なんでまた、そんなことに?」

 ルールはルール。実際、悔しくはあるけど、ここはスポーツマンとして、真摯に結果を向け止めるべきだ。今回は、いつリタイアしても、おかしくなかった。それに、走り切れたこと自体が、奇跡に近いのだから、ぜいたくを言ってはいけない。

「これ」
 フィニーちゃんが出した画面は、スピのとある掲示板だった。

『マラソンとか興味なかったけど、何かスゲーの見せてもらったわ』
『最後の百メートル、超胸熱だったな。史上最高のレースだったんじゃね?』
『俺シルフィード舐めてたわ。見かけだけじゃなくて根性あるのな』

『制限時間を越えてるけど、結局どうなるんだこれ?』
『もし失格になったら、運営大炎上で、来年から開催できなくなるだろ』
『空気読めよ運営。協議なんかしてないで、三分ぐらいオマケしてやれよ』

『やっぱ、ホワイト・ウイング神ってるな。今年入った新人でこのレベルとか』
『ノア・マラソンの完走って、シルフィード史上初なんだろ?』
『これで失格になったら、絶対に暴動起きるぞ』

 なにやら掲示板では、私の話題で物凄く盛り上がっている。しかも、短時間のうちに、千を越える書き込みが行われていた。酷い走りだった割に、好意的な意見ばかりだ。

「何で、こんなに盛り上がってるの?! 私がシルフィードだから?」
 予想外の事態に、目が点になった。 

「それもあるけど、MVで物凄く目立っていたからでしょ。後半なんか、ずっと風歌しか、映っていなかったんだから。しかも、全世界中継で」
「って、私のヘロヘロな姿が全世界に?」  

 そうだった。『ノア・マラソン』って、この町だけの、ローカル放送じゃなかったんだ。しかし、あんなボロボロの姿を、世界中の人に見られたなんて、恥ずかし過ぎる――。

「トレンドにも、入ってる」

 フィニーちゃんが、新しく開いた画面は、トレンドワード・ランキングだった。スピで最も多く検索されている、キーワードのランキングだ。

 一位から順に『如月風歌』『シルフィード魂』『ノアマラソン審議』『ホワイトウイング』『ノアマラソン動画』こんな感じで並んでいた。

「えぇーっ?! 私の名前が一位? なぜに?」
「シルフィード名鑑とスピぺティアにも、風歌の項目が追加された」

 フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、淡々と説明する。

『シルフィード名鑑』は、歴代と現役の、全シルフィードのデータが載っていた。ただし、一人前以上の人に限る。あと『スピペディア』は、向こうの世界のウィキペディアと同じものだ。

「何が何だか、訳わかんないよ。目が覚めたら、こんな大事になってるなんて……」

「私だって、まさか、ここまで風歌が注目されるとは、思わなかったわよ。ただ、あれだけ目立っていれば、ある意味、当然よね」

 私は前に進むだけで必死だったから、MVに映ってることすら、全く知らなかった。しかも、そんなに目立つ映り方をしていたとは――。

「ところで、二位の『シルフィード魂』って何? 何でこんなに検索されてるの?」
「これ見れば、わかる」

 フィニーちゃんが、ササッと操作して、ある動画を表示した。フィニーちゃんって、普段はのんびりしてるけど、マギコンの操作は、滅茶苦茶、速いんだよね。

 表示された動画のタイトルは『燃えよシルフィード魂』だった。何かカンフー映画とかで、ありそうなタイトルだよね。

 動画が再生されると、そこにはフラフラと歩いている、私の姿が映っていた。目は虚ろになり、体には力が入っておらず、いつ倒れても、おかしくない状態だった。

「ひゃー、私こんなにひどい状態だったの? 超恥ずかしー……」
 改めて見ると、とんでもない状態だった。よくこんなので、ゴールにたどり着いたと思う。

 息も絶え絶えの私が、よろよろ進んで行くと、途中でピタリと停止した。周囲からは、物凄い数の応援が飛び交っている。すぐ脇で見守っていた大会スタッフたちも、本気になって声援を送っていた。それでも、私は動かなかった。

 いや、動けなかったのだ――。気力も体力も、完全に尽きていたから。あの時はもう、本当にダメだと思った。

 だが、その時、とても力強い声が響き渡る。

『何やってるのよ風歌!! あなた、こんな所で終わっていいの? シルフィード魂はどこにいったのよ?』  

 必死に叫ぶナギサちゃんに、映像が切り替わった。

「あぁ、確かにこの時、ナギサちゃんが言ってたよね『シルフィード魂』って。でも、ナギサちゃんが、こんなスポ根っぽいことを言うとは、本当に意外だったよ」

「はぁー……。何で私、こんな恥ずかしい台詞を、言ってしまったのかしら。まさか、こんなにデカデカと映っているとは。一生の不覚だわ――」

 ナギちゃんは、額に手を当て、大きなため息をついた。

「でも、あの言葉は心に響いたよ。本当にありがとね。ナギサちゃんが、カツを入れてくれたから、最後まで走り切れたんだもん。きっと、みんなの心にも響いたんじゃないかな、あの言葉が」 

「トレンド二位。世界中に超響いた」

 フィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。

「もう、止めて。悪夢だわ……」
「でも、動画が超拡散してる」

 表示された検索画面には、私のゴール直前の動画が、大量にアップされていた。

「んがっ――。こんなに映ってるんだったら、もっとカッコよく走ってるところを撮って欲しかった。当分は、このヘロヘロ映像、残るんだろうなぁ。ナギサちゃんは、カッコイイとこ映ってるんだから、別にいいじゃない」

「どこが格好いいのよ? 恥ずかしいだけじゃない。そもそも、出場していない私が、何でこんなに目立たなきゃならないの? それに、シルフィードとは、もっと上品な存在なのに。はぁー、頭が痛いわ……」

 ナギサちゃんって、自己主張が強い割には、目立つのが苦手なんだよね。

「フィニーちゃんも、応援ありがとね。『食べ放題』って言葉、凄く元気でたよ」
「じゃ、今から行く? 焼肉食べ放題」
「う――さすがに今は、疲れ過ぎてて、肉はきついかも」

 完全にガス欠だと思うんだけど、もう食べる体力すらなく、空腹を感じない。

「なら、スイーツ食べ放題?」 
「あー、それなら行けるかも」

 くたくたの体には、やっぱり糖分だよね。甘いものは別腹だから、スイーツなら行けそう。明日の仕事に備えて、栄養補給して、早く体力を回復しないと。

「って、待ちなさい! そんなボロボロの状態で、食べ放題なんか行ける訳ないでしょ? 脱水症状に加え、低血糖症になっていて、下手をすれば命が危なかったって、診察した医師が言ってたのよ」

「そうなんだ。それで私、点滴うたれてたのね……」
 私の腕には、点滴のチューブが伸びていた。

「まったく、あれだけ無茶をするなと言ったのに。毎回毎回、こんな危険なことばかりやって。心臓がいくつあっても足りないわよ」

 ナギサちゃんは、厳しく言うが、その言葉からは優しさを感じる。本気で、心配してくれていたんだよね。いつもゴメンね、ナギサちゃん。

「ナギサママ、きびしい」
「誰がママよっ!」

 フィニーちゃんとナギサちゃんの、いつものやり取りが始まると、ホッとする。ようやく、いつもの日常に帰ってきた感じだ。

 しばらくして、私はゆっくり上半身を起こすが、体がギシギシして、全身に痛みが走った。

「あだだっ――。なんか全身が激しく痛い……」
 体中が、筋肉痛になっているみたいだ。いつもは、翌日になるのに、今日は偉く早く来ていた。

「もうちょっと、寝てなさいよ。まだ、起き上がれる状態じゃないでしょ?」
「でも、会社に顔を出して、リリーシャさんに報告しなきゃだし。明日の仕事に備えて、栄養補給も必要だから。何か食べるもの買いに行かないと――」

 今日は、会社はお休みだけど、特別なお客様の対応があるので、リリーシャさんは、午後から出勤している。

 仕事のあとは、書類整理などもあるので、定時まではいるはずだ。それに、明日からはまた、普通に仕事があるので、早く体力を回復しないと。

「連絡なら、マギコンでも出来るじゃない。それに、食事なら消化が良くて、栄養の付きそうな物を私が用意するから。どうせまた、パンで済ますつもりでしょ?」

「まぁ、その通りなんだけど……。でも、いつも助けてくれて、ありがとね。私、本当にナギサちゃんの娘になりたいよ。それで、一生、面倒見てもらいたい」

「はぁ? こんな出来の悪い娘なんて、死んでもお断りよ!」

 おっかない目で睨み付けながら、力一杯に、お断りされる。冗談にマジレスするの、止めて欲しい。場を和ませるための、おちゃめな軽口なのに――。

「んがっ、そこまでハッキリ拒絶しなくても。確かに、出来は悪いけど……」
「私も、ナギサママに面倒みてもらう。ご飯だけは、おいしい」

 フィニーちゃんが、ボソッと呟く。

「だから、誰がママよ! それに、ご飯だけって、どういう意味?」
「ナギサママが、おこったー」

 逃げるフィニーちゃんに、怒って追いかけるナギサちゃん。実に平和な光景だ。

 とんでもなく、大変な目にあったけど、一応は走り切ったわけだし。とりあえずは、目標達成ってことでいいのかな? しっかり気持ちを切り替えて、明日からは、本業に専念しよう。

 色々反省点もあったけど、細かいことは、後日のんびり考える方向で……。


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次回 第3部・最終話――
『シルフィード業界追放って私これからどうなっちゃうの……?』

 どうしてこうなったのぉぉぉーー?!
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