私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
161 / 363
第4部 理想と現実

5-5例外が認められないのは自分が一番よく知っていることなのに……

しおりを挟む
 朝の定例ミーティングのあと。私はミス・ハーネスの、マネージャー室の前に来ていた。普段は、まず訪れる機会のない場所だ。しかし、先日の『無断外出の調査』の件を、報告しなければならない。

 昨夜〈新南区〉で、エマリエールと話したあと、自分なりに、色々と考えてみた。最も無難なのは、あった出来事をそのまま、ミス・ハーネスに伝えることだ。そうすれば、何事もなく、無事に今回の依頼を達成できる。

 だが、それだと、私自身が無事なだけで、エマリエールの問題は、何一つ解決していない。彼女の行動は、規則には反しているが、色々な事情を考えると、放っておく訳にもいかなかった。
 
 私も母子家庭であるため、他人事とは思えない。それに、あれだけ真剣な想いを持っている者を、脱落させたくはなかった。甘い考えでやっている新人が多い中、彼女からは、強い覚悟が感じられた。

 となると、やはり、ミス・ハーネスを説得するしかない。しかし、彼女の厳格な性格からして、けっして規則を曲げることは無いはずだ。

 もちろん、情で動くような甘い人ではないのも、よく知っている。全てにおいて、理論的かつ合理的だ。そう考えてみると、かなり『難しい状況』と言わざるを得なかった。

 ここはもう、誠心誠意、私自身の言葉で、お願いするしかない。幸い、私は普段の成績も品行も、文句の付けようもなく優秀だ。その私の言葉なら、聴いてもらえる可能性も、十分にあるだろう。

 私自身の、ミス・ハーネスからの心象も、悪くはないはずだ。実際、今回の件も、私を評価しているからこそ、任せてくれたのだから。

 昨夜、一通りの会話パターンを、色々とシミュレートしてみた。だが、やはり、実際に話してみないと、結果は分からなかった。

 そもそも、ミス・ハーネスとは、普段、ほとんど話したことがない。業務連絡以外の無駄なことは、一切、話さない人だからだ。なので、どんな反応が返って来るかは、想像がつかなかった。

 彼女は〈ファースト・クラス〉のマネージャーの中で、最も厳しい人だ。だが、けっして冷たい人ではないと、私は思っている。あとはもう、彼女の思いやりや情に賭けるしかない。

 私は部屋の前で深呼吸し、背筋をピンと伸ばすと、扉をノックした。すると、すぐに『どうぞ』と、彼女の声が聞こえて来た。私は静かに扉を開き、中に入る。

「失礼します、ミス・ハーネス。先日の無断外出の件で、進展がありましたので、報告に参りました。今、お時間は、よろしいでしょうか?」  
「ええ、話を聴きましょう」

 私は彼女に勧められ、ソファーに腰掛けた。

 いざ、対面してみると、物凄く緊張し、心臓の動きが一気に速くなった。普段であれば、緊張など全くせずに、淡々と要件を話して終わりだ。

 しかし、今回は、色々と事情が複雑だった。しかも、ミス・ハーネスの、意に反する話を、しなければならない。

「昨日〈エミールノルデ館〉の管理室で、監視をしていたところ、十九時半ごろに、無断外出をしている者を発見しました」
「なるほど。やはり、噂は本当だったのですね」

「直接、見つけた訳では、なかったのですか?」
「ええ、少し小耳に挟んだだけです。だから、調査の必要がありました」

 なるほど。じゃあ、エマリエールが、特定されていた訳ではないのね。となると、本人の名前を伏せたうえで、話を持って行くことも出来るわ……。

「それで、無断外出している者の、顔は見たのですか?」
「監視カメラでは、よく分かりませんでした。なので、エア・ドルフィンで、あとをつけたところ〈新南区〉に向かったのです」
 
 私は、エマリエールの名前を出さないよう、慎重に情報を小出しにして行った。最悪の場合『個人を特定できなかった』という話をすればいい。

「つまり、繁華街で夜遊びをしていた、ということですか?」
 ミス・ハーネスの顔が険しくなる。

「私も、最初はそう思っていました。しかし、あとをつけて、入って行った店を見てみると、彼女はそこで働いていたのです」

「つまり、禁止されている、副業をしていた訳ですね?」
「そうなりますが――。これには、込み入った事情があるのです」

 彼女のあまりにも冷徹な反応に、少し不安になる。はたして、こちらの主張を聴いてもらえるのだろうか……?

 ミス・ハーネスは、表情をまったく動かさないまま、私のことをじっと見つめていた。まるで思考が読まれているようで、さらに緊張が高まる。

 しばしの沈黙のあと、
「詳しく聴きましょうか」
 彼女は静かに口を開いた。

 私はその言葉で、少しホッとする。話を聴いて貰えさえすれば、説得の可能性は、十分にあるはずだ。

「実は、彼女の母親が入院しており、治療や手術の費用が必要です。母子家庭のため、彼女が働くしか、方法がありませんでした。彼女も、規則違反は重々承知しており、かなり悩んだそうです」

「しかし、一流のシルフィードになる夢を捨てきれず、母親も見捨てられず。苦しみながら、今回の行動に至りました」

 ミス・ハーネスは瞬き一つせず、黙って話を聴いていた。微動だにしないので、反応は分からない。だが、迷っても仕方ないので、話を続ける。

「そのため、今回は、やむを得ない行為だったと思います。けっして、遊び回ったり、浮ついた気持から、やっている行動ではありません」 

 言うべきことは、全て伝えた。あとは、彼女の判断しだいだが……。

「事情は、よく分かりました。それで、結局、誰だったのですか?」
 
 ミス・ハーネスは、表情を全く変えなかったが、これはいつものことだ。だが、特に不快な様子はないので、納得はしてくれたみたいだ。怒っているかどうかは、目を見れば分かる。これなら、大丈夫そうだ。

「私の同期の、エマリエール・ローウェンです」
「なるほど、彼女が――」

 ミス・ハーネスは、少し考えこんだあと、

「ナギサさん、やはり、あなたに頼んで正解でした。これほど短期間で、ここまで細かく事情を調べ上げるとは、流石ですね」

 先ほどに比べ、柔らかな声で話し掛けてきた。

 どうやら、上手く伝わったようだ。これなら、何とかなるかもしれない。私は、ほっと胸をなでおろす。

「いえ、私はただ、やるべき事をやっただけです」
「約束通り、今後の昇級に際しては、私が推薦人になりましょう。今回の件に関わらず、あなたの成績・品行を考えれば、当然のことですが」

 これほどまでに、評価して貰えているとは思わなかった。ミス・ハーネスは、社内で最も厳格なマネージャーだが、発言力も非常に大きい。彼女に後ろ盾になって貰えれば、今後の昇級では、圧倒的に有利だ。

「心より感謝いたします、ミス・ハーネス。一つだけ、お訊きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」 

 ミス・ハーネスは、静かに頷いた。  

「お訊きしたいのは、エマリエールの処遇についてです。彼女はとても真面目で、やる気もあります。今回の件は、多目に見ていただけるのでしょうか?」

 今回の本当の目的は、こちらのほうだ。私の待遇など、どうでもいい。それよりも、よい回答をもらって、一刻も早く、彼女に知らせたい。クビが掛かっているため、今もそうとう悩んでいるに、違いないからだ。

「ナギサさん、あなたは、規則とは、どういうものだと思いますか?」
「それは、必ず守るべきものだと思います」

 私は、常に規則を最優先に行動する。だから、今までの人生で、ただの一度だって、規則を破ったことはない。規則は守るのが当然であり、私の生き方そのものだ。

「ええ、まさにその通りです。何があっても、守るべきが規則。もし、破れば、既定の罰則を適用するだけのこと。違いますか?」

 ミス・ハーネスは淡々と語る。そこには、一切の感情は含まれていないし、まったくもって正論だ。私も、その意見には、全面的に賛成だった。だが……。

「確かに、おっしゃる通りです。しかし、今回は、やむを得ない事情があり、情状酌量の余地が、あるのではないでしょうか?」

 こんな意見を口にするのは、生まれて初めてだ。『罰則を受けるのは、規則を破る者が悪い』と、信じていたから。まして、目上の者に、反論するだなんて――。

「規則は規則。一度、例外を認めれば、規則を破る者が、次々と出るでしょう。『やむを得なかった』で、違反行為を認めれば、規則の意味がなくなります」

「もちろん、その通りです。しかし、今回は本当に、他にどうしようもない状況だったと思います。やる気のある人材を切り捨てるのは、会社にとっても、不利益ではないでしょうか?」

 彼女の言いうことは、本当によく分かる。なぜなら、私が今まで、ずっと言い続けていたことと、全く同じだからだ。だからこそ、その意見を覆そうとするたびに、心が軋む。まるで、自分の存在を否定しているみたいで……。

 だが、その言葉をいった瞬間、ミス・ハーネスの表情が急変した。

「ナギサさん、自分の立場をわきまえなさい! いつからあなたは、会社の規則にまで、意見できる立場になったのですか?」
 私を鋭い目で睨みつけ、語調を荒げる。彼女のこんな表情は、初めて見た。

「――出過ぎたことを。大変、失礼いたしました……」
「話は以上です。退出なさい」 
「はい、失礼いたします」

 私は静かに立ち上がると、頭を下げ、大人しく部屋を退出する。彼女を怒らせてしまったことで、これ以上、話しても無駄なことを、瞬時に悟ったからだ。

 だが、私は強くこぶしを握り締めた。悔しい――。自分にもっと力があれば、もっと階級が高ければ。ちゃんと話を聴いてもらえたはずなのに。階級の低い者が、何を言っても聴いてもらえないのは、この業界では当たり前のことだ。

 私が甘かった……。いくら成績がいいと言っても、しょせんは、最底辺の見習いにすぎないのだ。

 はぁ、エマリエールに、どんな顔をして会えばいいのかしら? 同僚一人、救えないなんて。私は、あまりにも無力だ。

 もっと――もっと、強い力が欲しい……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『時には理屈よりも想いが大事な時もあるのかもしれない』

 ときどき理屈にあわないことをするのが人間なのよ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

処理中です...