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第6部 飛び立つ勇気
1-7大きな決意を胸に秘めた二度目の旅立ち
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一月四日の朝。私たち三人は、お父さんの運転する車で、空港に向かっていた。朝五時半に起きて、外で準備運動と庭の掃き掃除を終えたあと、荷物の最終確認。朝七時には、朝食を済ませ、帰りの準備も完ぺきに整った。
昔とは、比べ物にならない手際のよさだ。以前なら、出掛ける直前まで、バタバタしていたのに。向こうでの仕事は、色々な所で役立っているようだ。そもそも、観光案内の仕事なんだから、お出掛けぐらいで慌ててたら、お話にならないもんね。
早めに準備が終わったので『早く着いたら、どこかで適当に時間を潰せばいいでしょ』という、お母さんの意見で、八時四十分には、家を出た。今日から、仕事始めの人も多いようで、道は結構、車が走っている。
私は、助手席に座って、ずっと町の様子を、目に焼き付けるように見つめていた。懐かしさもあるけど、次にいつ帰って来れるか、分からないからだ。
マイアとエレクトラは、時空航行船に乗れば、数時間で行き来できる。特急便なら、二時間なので、東京から大阪に行くよりも早い。ただ、物理的な距離ではなく、精神的な距離が、物凄く遠いのだ。
久々に帰ってきて分かったけど、やはり、文化の差は大きい。それに、環境も違うから、あまり頻繁に行き来すると、自分のライフスタイルや価値観が、崩れてしまいそうだ。
「それにしても、何で二人とも、そんなにお洒落してるの? ただ、空港に行くだけなのに」
何か二人とも、早起きして、妙に身だしなみに、気合いを入れていた。旅行に行くならまだしも、単に見送りをするだけなのに。
「だって、娘の晴れ舞台だぞ。それなりに、ちゃんとした格好をしないとな」
お父さんは、スーツとネクタイで、ビシッと決めていた。
「いやいや、そんな大げさな。単に、時空航行船に乗るだけなのに」
昨年、家を飛び出して、一人孤独に航行船に乗った時とは、大違いだ。
「風歌こそ、空港に行くのに、何でそんな普段着なの? 社会人をやっているなら、もう少し、身だしなみに気を遣いなさい」
お母さんから、突っ込みが入る。
うーん。部屋着よりは、いい服を選んで着たんだけどなぁ。まぁ、高級ホテルに行く訳じゃないし。そんなに、フォーマルな格好じゃなくても、いいかと思って。
向こうでは、ほとんど一日中、シルフィードの制服で過ごしてたので。あまり、私服には、気を遣っていなかった。でも、さすがにこっちの世界で、シルフィードの制服を着るのもねぇ……。
「何か、久しぶりだな。こうやって、家族で出かけるのは」
お父さんが車を運転ながら、ボソッと呟く。
「確かに、そうだね。最後に、家族旅行をしたのって、いつだっけ?」
「風歌が、小五の時でしょ。川でおぼれかけた」
「あぁ、あの時は驚いたな。風歌が川で流されて」
「んがっ――。そういえば、そんなことも有った気が」
「本当に風歌は、昔から、おてんばだったからなぁ」
「ただの馬鹿なのよ。人の言うことを、全く聴かないから」
ぐっ……。全くもって、その通りなので、何も言い返せない。今は、だいぶマシになったけど。昔は輪をかけて、無謀なことやってたよね。基本、どんなに成功率が低かったり、危険なことでも、やってみないと、気が済まない性格なので――。
その後も、私の過去の黒歴史の話が、どんどん出て来る。お父さんが、次々と思い出話をすると、お母さんが冷静に突っ込んで行く。
「……」
私は、ただ聴いているだけで、何も言い返せなかった。だって、今考えてみると、自分でも、そうとう馬鹿な行動だった思うもん。
ギャー!! もうやめてー! このままじゃ、向こうに帰る前に、精神力が完全に削られてしまうから――。
そんなこんなで、進んで行くうちに、途中でデパートに、寄って行くことになった。向こうに持って行く、お土産を買うためだ。
私は、てっきり、空港でお土産を買うのかと思ってたけど。『お世話になっているのに、適当な物は渡せないでしょ』と、お母さんは息巻いていた。お母さんは、こういった進物やお土産は、昔から物凄くこだわる。
逆に、お父さんは、こういうのは割と大雑把だ。でも、家族で買い物ができると、喜んでいる様子だった。基本、私の楽天的で単純な性格は、お父さん似だと思う。
デパートの、地下の食品売り場に行き、色んなお土産を選んでいく。チョコレートやクッキーなどの洋菓子。お茶の詰め合わせなど。あと、お煎餅やようかんなどの、和菓子も選んでいく。
お母さんは、ウィンドウを見ながら、滅茶苦茶、真剣に選んでいた。一方、お父さんは、面白そうなものを見つけるたびに、声を掛けて来る。
「やっぱり、お土産は『東京バナナ』は、外せないだろ?」
「へぇー、ラッコ型のもあるんだ」
「何をふざけているの? そんな物、渡せるわけないでしょ」
「いやいや、外国人とか、こういうの喜ぶんだって」
「そっか。異世界の人も、一応、外国人だもんね」
「とにかく、そんなものはダメよ! デパートに来た意味ないじゃない」
お母さんの一言で、私たちは黙り込む。まぁ、昔から、いつもこんな感じだ。でも、私とお父さんは、また面白い物を見つけては、ワーワー言い始めた。で、また、お母さんに突っ込まれる。
なんかこの感じ、ナギサちゃんとフィニーちゃんのやり取りに、凄く似てるかも。だから、お母さんの厳しい突っ込みも、つい、微笑ましく思えてしまう。
その後も、色々なやり取りがありながら、三十分ほどかけて、買い物を続ける。両手いっぱいに、お土産袋を抱え、とんでもない量になっていた。結局、全部お母さんのセンスで、選んだお土産だ。でも、私たちが選ぶよりは、確実だと思う。
「いくら何でも、買い過ぎじゃない?」
てか、いったいお土産で、いくら使ったの……? 間違いなく、私のお給料の、数ヶ月分のお金は、掛かっていると思う。
「お世話に、なりっぱなしなのだから。これでも、少ないぐらいよ。一人前を目指すなら、こういった常識も、しっかり覚えなさい。大人というのは、ただお礼を言えば、済むものでは無いのよ」
確かに、それは、ごもっとも。言葉だけじゃなくて、形でお礼をするのも、大事だとは分かっている。ただ、今の私には、形にする力もお金も、ないだけで――。
「まぁ、いいじゃないか。お土産もらって、嫌な人は誰もいないだろ? 持って行けるだけ、持って行けば」
「それは、そうだけど……。これ、空港、通るのかな?」
確か、空港でお土産のチェックがあって。物によっては、検疫に回されるはずだ。
「大丈夫よ。肉製品や果物、野菜などは入ってないから。観光関係の仕事をするなら、それぐらい、覚えておなさいよ」
「んがっ――。確かに」
てか、何でお母さん、そこまで詳しいの?
お土産を、車のトランクに積み込むと、私たちは再び、空港に向かうのだった……。
******
空港に着いたのは、十一時半ごろだった。混雑のピークは、三日までらしいので、今日は、そんなに混んでいない。
まずは、各種、搭乗手続きや、荷物を預けたりする。ここら辺は、以前、お客様に、やってあげたこともあるので、スムーズにできた。
搭乗前に、保安検査場を通過する必要があるけど、これは、三十分前までに行けば大丈夫。まだ、時間があるので、三人でカフェに入って、少し時間を潰すことに。ついでに、軽く昼食も済ませてしまう。
その後、お茶を飲みながら、他愛もない話をしながら、のんびり過ごす。でも、私は、何度も時計を確認していた。刻々と搭乗時間が近づくにつれ、だんだん、複雑な心境になって来る。
向こうの世界に帰れるという、大きな期待感。それと共に、この世界を離れることへの寂しさ。二つの想いが交錯して、何とも言えない気分になっていた。
寂しさ――? 何で? だって、私は一刻も早く、向こうに帰りたいのに。覚悟だって、とうの昔に決めたはず。なのに、何でいまさら、心残りなんかが有るんだろうか……?
両親と再会して、和解できたから? それとも、昔の友達たちに会えたから? いや、そうじゃないと思う。たぶん、進み始めたら、もう戻れないからだ。向こうに行ったら、次に戻って来れるのは、はるか先になるだろうから。
十二時ニ十分になったところで、私たちはカフェを出て、保安検査場に向かった。ゲートのそばまで来ると、向き直って、二人と言葉を交わす。
「何か、あっという間だったな。せっかく帰って来たんだから、もう少し、ゆっくりして行けばよかったのに」
「お父さん、ゴメンね。何かせわしなくて」
「風歌が、せわしないのは、昔からでしょ」
「あははっ、そうかも。お母さんも、ゴメンね。いつも急で」
お父さんは、物凄く寂しそうにしている。でも、お母さんは、いつも通り表情一つ変えず、いたって冷静だった。
「なぁ、風歌。次はいつ帰って来るんだ? 夏休みはあるのか?」
「シルフィードは、夏休みは、ないんだよね。サービス業だから、みんなが休みの時のほうが、むしろ忙しいから」
「じゃあ、年末年始には、また帰って来れるんだろう?」
「それは――」
私は、口ごもった。なぜなら、私の考えは、物凄く自分勝手かもしれないからだ。今回だって、同意書をもらいに来ただけなのに、ここまで、よくして貰えて。その想いと優しさに、感謝したい気持ちで一杯だった。でも、私は……。
「風歌は、これから先のこと、どう考えているの? はっきり言いなさい」
その時、お母さんが、私に声を掛けてきた。その目は、とても真剣だった。
私は、大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着けると、
「お父さん、お母さん、今回は、本当にありがとう。でも、私には、やらなければならない事があるの」
自分の想いを込め、力強く答えた。
「たぶん、しばらくは、帰って来れないと思う。ちゃんとした、結果を出して。自分も、そして、お父さんにも、お母さんにも、納得してもらえるまでは。だから、次にいつ帰って来れるかは、分からないんだ」
これが、今の私の本心だ。もう、中途半端な形では、帰って来たくない。
「何を言ってるんだ、風歌? いいじゃないか、年末年始ぐらい。それに、頑張ってるんだから、結果なんて、そんなに気にしなくても。それとも、帰って来るのが、嫌なのか?」
お父さんは、複雑そうな表情で尋ねてくる。
「ううん、そんなことないよ。久しぶりに帰ってきて、数日間、私はとても幸せだった。向こうの、ギリギリの生活とは大違い。それに、やっぱり家族がいるって、いいね。いつも、部屋では、一人で過ごしてたから、とても暖かくて」
「でもね。あまりにも居心地がよすぎて、ダメなんだ。私ここにいたら、お父さんやお母さんに甘えて、ダメになっちゃいそうな気がする。だから、向こうの厳しい生活のほうが、いいと思うんだ」
私は、基本ぐうたらな性格だ。昔は、本当に、だらしない生活をしてたし。今、しっかりとやっているのは、そうせざるを得ない、厳しい環境にいるからだ。
「でもな、風歌。まだ、子供なんだから、親に甘えたって……」
お父さんが話すのを静止して、お母さんが、前に進み出てきた。
「それで、向こうに戻って。これから、どうするつもりなの?」
「まだまだ、だけど。立派な一人前になるために、私、全力で頑張るよ。どこまで行けるかは、分からないけど。頑張って、上を目指すよ」
「甘いわね」
「えっ?」
「頑張るぐらい、誰だって言えるのよ。頑張ったから何? それで満足なの? どうせやるなら、頂点を獲るぐらいのことを、しなさいよ。その程度の覚悟もない人間が、上を目指せるとでも思ってるの? そんな、甘い世界じゃないでしょ?」
あぁ、そうだ――そうだった。シルフィード業界は、物凄い競争社会だ。
ただ、ここのところ、色々トラブルがあったから。少し、弱気になっていたのかもしれない。以前は、何の疑いもなく『グランド・エンプレスになる!』なんて言ってたのに。
でも、お母さんの言う通りだ。頂点を目指すぐらいの気持ちが無ければ、一人前にすら、なれないかもしれない。どんな時だって、意識は高く持たないと。
「うん! 私、頂点を獲って来るよ。それまでは、帰れないから」
私は、お母さんの目を見つめると、力強く決意を口にした。
「次は、手ぶらで帰って来るんじゃないわよ。トップの称号を、持って来なさい」
私は、お母さんの言葉に、小さくうなずいた。
「それじゃ、私、行ってきます!」
二人に向かって、深々と頭を下げたあと、踵を返し、ゲートに向かって行った。
まるで、これから戦場にでも、向かうような気持だった。こんな高揚感は、家出して、異世界に向かった時以来だ。ただ、向こうの世界に行くだけじゃない。私は、いつだってチャレンジャーで、勝ちをどん欲に目指すのだから。
ここからが、本当の戦で、本物のシルフィードへの、第一歩だと思う。勝つまでは、二度と故郷の地を踏まないつもりで。私の全身全霊を懸けて、頂点を目指して行こう……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『新年って何か生まれ変わった気分になるよね』
生まれ変わることは簡単だ、己を見つめ直す勇気さえ持てればいい
昔とは、比べ物にならない手際のよさだ。以前なら、出掛ける直前まで、バタバタしていたのに。向こうでの仕事は、色々な所で役立っているようだ。そもそも、観光案内の仕事なんだから、お出掛けぐらいで慌ててたら、お話にならないもんね。
早めに準備が終わったので『早く着いたら、どこかで適当に時間を潰せばいいでしょ』という、お母さんの意見で、八時四十分には、家を出た。今日から、仕事始めの人も多いようで、道は結構、車が走っている。
私は、助手席に座って、ずっと町の様子を、目に焼き付けるように見つめていた。懐かしさもあるけど、次にいつ帰って来れるか、分からないからだ。
マイアとエレクトラは、時空航行船に乗れば、数時間で行き来できる。特急便なら、二時間なので、東京から大阪に行くよりも早い。ただ、物理的な距離ではなく、精神的な距離が、物凄く遠いのだ。
久々に帰ってきて分かったけど、やはり、文化の差は大きい。それに、環境も違うから、あまり頻繁に行き来すると、自分のライフスタイルや価値観が、崩れてしまいそうだ。
「それにしても、何で二人とも、そんなにお洒落してるの? ただ、空港に行くだけなのに」
何か二人とも、早起きして、妙に身だしなみに、気合いを入れていた。旅行に行くならまだしも、単に見送りをするだけなのに。
「だって、娘の晴れ舞台だぞ。それなりに、ちゃんとした格好をしないとな」
お父さんは、スーツとネクタイで、ビシッと決めていた。
「いやいや、そんな大げさな。単に、時空航行船に乗るだけなのに」
昨年、家を飛び出して、一人孤独に航行船に乗った時とは、大違いだ。
「風歌こそ、空港に行くのに、何でそんな普段着なの? 社会人をやっているなら、もう少し、身だしなみに気を遣いなさい」
お母さんから、突っ込みが入る。
うーん。部屋着よりは、いい服を選んで着たんだけどなぁ。まぁ、高級ホテルに行く訳じゃないし。そんなに、フォーマルな格好じゃなくても、いいかと思って。
向こうでは、ほとんど一日中、シルフィードの制服で過ごしてたので。あまり、私服には、気を遣っていなかった。でも、さすがにこっちの世界で、シルフィードの制服を着るのもねぇ……。
「何か、久しぶりだな。こうやって、家族で出かけるのは」
お父さんが車を運転ながら、ボソッと呟く。
「確かに、そうだね。最後に、家族旅行をしたのって、いつだっけ?」
「風歌が、小五の時でしょ。川でおぼれかけた」
「あぁ、あの時は驚いたな。風歌が川で流されて」
「んがっ――。そういえば、そんなことも有った気が」
「本当に風歌は、昔から、おてんばだったからなぁ」
「ただの馬鹿なのよ。人の言うことを、全く聴かないから」
ぐっ……。全くもって、その通りなので、何も言い返せない。今は、だいぶマシになったけど。昔は輪をかけて、無謀なことやってたよね。基本、どんなに成功率が低かったり、危険なことでも、やってみないと、気が済まない性格なので――。
その後も、私の過去の黒歴史の話が、どんどん出て来る。お父さんが、次々と思い出話をすると、お母さんが冷静に突っ込んで行く。
「……」
私は、ただ聴いているだけで、何も言い返せなかった。だって、今考えてみると、自分でも、そうとう馬鹿な行動だった思うもん。
ギャー!! もうやめてー! このままじゃ、向こうに帰る前に、精神力が完全に削られてしまうから――。
そんなこんなで、進んで行くうちに、途中でデパートに、寄って行くことになった。向こうに持って行く、お土産を買うためだ。
私は、てっきり、空港でお土産を買うのかと思ってたけど。『お世話になっているのに、適当な物は渡せないでしょ』と、お母さんは息巻いていた。お母さんは、こういった進物やお土産は、昔から物凄くこだわる。
逆に、お父さんは、こういうのは割と大雑把だ。でも、家族で買い物ができると、喜んでいる様子だった。基本、私の楽天的で単純な性格は、お父さん似だと思う。
デパートの、地下の食品売り場に行き、色んなお土産を選んでいく。チョコレートやクッキーなどの洋菓子。お茶の詰め合わせなど。あと、お煎餅やようかんなどの、和菓子も選んでいく。
お母さんは、ウィンドウを見ながら、滅茶苦茶、真剣に選んでいた。一方、お父さんは、面白そうなものを見つけるたびに、声を掛けて来る。
「やっぱり、お土産は『東京バナナ』は、外せないだろ?」
「へぇー、ラッコ型のもあるんだ」
「何をふざけているの? そんな物、渡せるわけないでしょ」
「いやいや、外国人とか、こういうの喜ぶんだって」
「そっか。異世界の人も、一応、外国人だもんね」
「とにかく、そんなものはダメよ! デパートに来た意味ないじゃない」
お母さんの一言で、私たちは黙り込む。まぁ、昔から、いつもこんな感じだ。でも、私とお父さんは、また面白い物を見つけては、ワーワー言い始めた。で、また、お母さんに突っ込まれる。
なんかこの感じ、ナギサちゃんとフィニーちゃんのやり取りに、凄く似てるかも。だから、お母さんの厳しい突っ込みも、つい、微笑ましく思えてしまう。
その後も、色々なやり取りがありながら、三十分ほどかけて、買い物を続ける。両手いっぱいに、お土産袋を抱え、とんでもない量になっていた。結局、全部お母さんのセンスで、選んだお土産だ。でも、私たちが選ぶよりは、確実だと思う。
「いくら何でも、買い過ぎじゃない?」
てか、いったいお土産で、いくら使ったの……? 間違いなく、私のお給料の、数ヶ月分のお金は、掛かっていると思う。
「お世話に、なりっぱなしなのだから。これでも、少ないぐらいよ。一人前を目指すなら、こういった常識も、しっかり覚えなさい。大人というのは、ただお礼を言えば、済むものでは無いのよ」
確かに、それは、ごもっとも。言葉だけじゃなくて、形でお礼をするのも、大事だとは分かっている。ただ、今の私には、形にする力もお金も、ないだけで――。
「まぁ、いいじゃないか。お土産もらって、嫌な人は誰もいないだろ? 持って行けるだけ、持って行けば」
「それは、そうだけど……。これ、空港、通るのかな?」
確か、空港でお土産のチェックがあって。物によっては、検疫に回されるはずだ。
「大丈夫よ。肉製品や果物、野菜などは入ってないから。観光関係の仕事をするなら、それぐらい、覚えておなさいよ」
「んがっ――。確かに」
てか、何でお母さん、そこまで詳しいの?
お土産を、車のトランクに積み込むと、私たちは再び、空港に向かうのだった……。
******
空港に着いたのは、十一時半ごろだった。混雑のピークは、三日までらしいので、今日は、そんなに混んでいない。
まずは、各種、搭乗手続きや、荷物を預けたりする。ここら辺は、以前、お客様に、やってあげたこともあるので、スムーズにできた。
搭乗前に、保安検査場を通過する必要があるけど、これは、三十分前までに行けば大丈夫。まだ、時間があるので、三人でカフェに入って、少し時間を潰すことに。ついでに、軽く昼食も済ませてしまう。
その後、お茶を飲みながら、他愛もない話をしながら、のんびり過ごす。でも、私は、何度も時計を確認していた。刻々と搭乗時間が近づくにつれ、だんだん、複雑な心境になって来る。
向こうの世界に帰れるという、大きな期待感。それと共に、この世界を離れることへの寂しさ。二つの想いが交錯して、何とも言えない気分になっていた。
寂しさ――? 何で? だって、私は一刻も早く、向こうに帰りたいのに。覚悟だって、とうの昔に決めたはず。なのに、何でいまさら、心残りなんかが有るんだろうか……?
両親と再会して、和解できたから? それとも、昔の友達たちに会えたから? いや、そうじゃないと思う。たぶん、進み始めたら、もう戻れないからだ。向こうに行ったら、次に戻って来れるのは、はるか先になるだろうから。
十二時ニ十分になったところで、私たちはカフェを出て、保安検査場に向かった。ゲートのそばまで来ると、向き直って、二人と言葉を交わす。
「何か、あっという間だったな。せっかく帰って来たんだから、もう少し、ゆっくりして行けばよかったのに」
「お父さん、ゴメンね。何かせわしなくて」
「風歌が、せわしないのは、昔からでしょ」
「あははっ、そうかも。お母さんも、ゴメンね。いつも急で」
お父さんは、物凄く寂しそうにしている。でも、お母さんは、いつも通り表情一つ変えず、いたって冷静だった。
「なぁ、風歌。次はいつ帰って来るんだ? 夏休みはあるのか?」
「シルフィードは、夏休みは、ないんだよね。サービス業だから、みんなが休みの時のほうが、むしろ忙しいから」
「じゃあ、年末年始には、また帰って来れるんだろう?」
「それは――」
私は、口ごもった。なぜなら、私の考えは、物凄く自分勝手かもしれないからだ。今回だって、同意書をもらいに来ただけなのに、ここまで、よくして貰えて。その想いと優しさに、感謝したい気持ちで一杯だった。でも、私は……。
「風歌は、これから先のこと、どう考えているの? はっきり言いなさい」
その時、お母さんが、私に声を掛けてきた。その目は、とても真剣だった。
私は、大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着けると、
「お父さん、お母さん、今回は、本当にありがとう。でも、私には、やらなければならない事があるの」
自分の想いを込め、力強く答えた。
「たぶん、しばらくは、帰って来れないと思う。ちゃんとした、結果を出して。自分も、そして、お父さんにも、お母さんにも、納得してもらえるまでは。だから、次にいつ帰って来れるかは、分からないんだ」
これが、今の私の本心だ。もう、中途半端な形では、帰って来たくない。
「何を言ってるんだ、風歌? いいじゃないか、年末年始ぐらい。それに、頑張ってるんだから、結果なんて、そんなに気にしなくても。それとも、帰って来るのが、嫌なのか?」
お父さんは、複雑そうな表情で尋ねてくる。
「ううん、そんなことないよ。久しぶりに帰ってきて、数日間、私はとても幸せだった。向こうの、ギリギリの生活とは大違い。それに、やっぱり家族がいるって、いいね。いつも、部屋では、一人で過ごしてたから、とても暖かくて」
「でもね。あまりにも居心地がよすぎて、ダメなんだ。私ここにいたら、お父さんやお母さんに甘えて、ダメになっちゃいそうな気がする。だから、向こうの厳しい生活のほうが、いいと思うんだ」
私は、基本ぐうたらな性格だ。昔は、本当に、だらしない生活をしてたし。今、しっかりとやっているのは、そうせざるを得ない、厳しい環境にいるからだ。
「でもな、風歌。まだ、子供なんだから、親に甘えたって……」
お父さんが話すのを静止して、お母さんが、前に進み出てきた。
「それで、向こうに戻って。これから、どうするつもりなの?」
「まだまだ、だけど。立派な一人前になるために、私、全力で頑張るよ。どこまで行けるかは、分からないけど。頑張って、上を目指すよ」
「甘いわね」
「えっ?」
「頑張るぐらい、誰だって言えるのよ。頑張ったから何? それで満足なの? どうせやるなら、頂点を獲るぐらいのことを、しなさいよ。その程度の覚悟もない人間が、上を目指せるとでも思ってるの? そんな、甘い世界じゃないでしょ?」
あぁ、そうだ――そうだった。シルフィード業界は、物凄い競争社会だ。
ただ、ここのところ、色々トラブルがあったから。少し、弱気になっていたのかもしれない。以前は、何の疑いもなく『グランド・エンプレスになる!』なんて言ってたのに。
でも、お母さんの言う通りだ。頂点を目指すぐらいの気持ちが無ければ、一人前にすら、なれないかもしれない。どんな時だって、意識は高く持たないと。
「うん! 私、頂点を獲って来るよ。それまでは、帰れないから」
私は、お母さんの目を見つめると、力強く決意を口にした。
「次は、手ぶらで帰って来るんじゃないわよ。トップの称号を、持って来なさい」
私は、お母さんの言葉に、小さくうなずいた。
「それじゃ、私、行ってきます!」
二人に向かって、深々と頭を下げたあと、踵を返し、ゲートに向かって行った。
まるで、これから戦場にでも、向かうような気持だった。こんな高揚感は、家出して、異世界に向かった時以来だ。ただ、向こうの世界に行くだけじゃない。私は、いつだってチャレンジャーで、勝ちをどん欲に目指すのだから。
ここからが、本当の戦で、本物のシルフィードへの、第一歩だと思う。勝つまでは、二度と故郷の地を踏まないつもりで。私の全身全霊を懸けて、頂点を目指して行こう……。
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次回――
『新年って何か生まれ変わった気分になるよね』
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