私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第7部 才能と現実の壁

3-3休日に連れていかれたのは予想外の場所だった……

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 会社が休みの水曜日。朝起きると、首にタオルを引っ掛けて、屋根裏部屋の階段を下りる。そのまま、物置部屋の中を突っ切り、長い廊下を進んで行く。五階の階段に着くと早足で下って、一階の流しに、顔を洗いに向かった。

 洗顔が終わってサッパリすると、次は、庭に出て準備体操だ。大きく息を吸い込みながら、体をゆっくり動かし温める。やっぱり、早朝の空気は清々しくて、最高に気持ちがいい。

 相変わらず、休みの日も、早朝に起きている。なぜなら、これが、習慣になってしまったからだ。あと、朝市に行く目的もある。

 だいぶ、生活にゆとりは出来たけど、倹約が、趣味みたいになってしまった。お買い得品を探すのって、結構、楽しいんだよね。見つけた時、凄く嬉しいし。色んなお店を回るので、仕事の勉強にもなって、一石二鳥だからだ。

 ちなみに、今日は、ナギサちゃんたちと、会う約束がある。なので、朝市めぐりは、お休み。とりあえず、待ち合わせまでは、大人しく過ごす予定だ。

 とはいえ、特に、やること無いんだよねぇ。待ち合わせは、十一時だから、まだ、かなり時間があるし。走りに行きたい気分だけど、友達と会う前に、汗だくになる訳にも行かない。スピでも見て、適当に、時間をつぶすかなぁ……。

 私は、再び屋根裏部屋に戻ると、マナ・ケトルで、お湯を沸かす。愛用のマグカップで、インスタント・コーヒーを作ると、昨日、買ってきたパンの袋を開けた。パンをかじりながら、マギコンを操作して、スピをチェックする。

 まずは、シルフィード関連のニュースから。主に、上位階級のシルフィードの話題だ。あとは、大手企業の株価や売上、新サービスなどについて。

 そのあと、協会のホームページを開いて、お知らせやイベント関連を、全てチェックして行く。イベントの細かな概要や、開催日時について。また、セミナーや講演会の、講師や日程などが載っている。

 昔は、全く見てなかったけど、今は毎朝の習慣になっていた。流石に、エア・マスターにもなって、業界のことを知らないと、マズイもんね。飛行技術だけでなく、知識や一般常識も、一人前には重要なので。

 一通り確認が終わると、今度は、グルメ系の情報をチェックする。これは、主に、フィニーちゃんに、教えてもらったサイトだ。

 観光案内には、飲食店の情報が、必須だった。美味しい物を目当てに、やって来る観光客も、かなり多いからだ。食べ歩きは、観光の醍醐味だもんね。

 特に、スイーツ系の情報は、超重要。〈ホワイト・ウイング〉は、女性のお客様が多いので、人気のスイーツ情報は、とても喜ばれる。どこの世界も、女性がスイーツ好きなのは、変わらない。

 次々と、サイトを移動しながら、知らない情報を、片っ端からチェックして行く。しばらくすると、私は、いったん手を止めた。ちょっと、目が疲れて来たし、情報収集は充分だ。私は、伸びをしながら、時計を確認する。

「って、まだ、八時かぁ。待ち合わせまで、三時間もあるじゃん――。うーむ、学習ファイルで、勉強でもしようかな。でも、出かける前って、あまり、集中できないだよねぇ……」

 遊びに行く前は、ソワソワして集中できないのは、昔から変わらない。あと、インドアで、時間を潰すのも、相変わらず苦手だ。早く外に出て、体を動かしたい。

 結局、時計とにらめっこしながら、部屋で悶々と過ごすのだった――。


 ******


 時間は、十一時ちょっと前。私は〈新南区〉に来ていた。集まったのは、ナギサちゃんとフィニーちゃんと私の、いつものメンバーだ。今日は、フィニーちゃんも、時間通りに来ている。いつも遅れて来るので、約束通りって、珍しいんだよね。

 しかも、フィニーちゃんは、人が多い場所が、大の苦手なのに。呼び出されたのは〈新南区〉の、メイン・ストリートだった。繁華街の中の、大通りなので、かなり混雑している。

 なお、今回、私たちを誘ったのは、フィニーちゃんだ。何をするかは、まだ聴かされていなかった。

「ところで、今日は、何をするのよ?」 
「まずは、軽く腹ごしらえ」

「昼食には、流石に、時間が早いでしょ? それに、まだ、肝心の目的を、聴いていないじゃない」
「それは、食べたあと話す」
 
 ナギサちゃんは、少し不機嫌そうな表情を浮かべている。でも、フィニーちゃんは、気にせず歩き始めた。

 今日のフィニーちゃんは、何かおかしい気がする。自分から誘うなんて、まず無いし。いつもは、私たちのあとに、ボーッと、ついて来るだけなのに。今日は、自分から積極的に動いている。

 それに、フィニーちゃんって素直だから、口数は少ないけど、隠し事はしないんだよね。でも、今日は今一つ、何がしたいんだか、ハッキリしない。

「ねぇ、どこに行くか、分かる?」 
「知らないわよ。ただ『大事な用がある』としか、聴いてないのだから」

 私は、隣にいたナギサちゃんに、小さな声で訊いてみる。でも、彼女も全く知らないようだ。

 このメンバーだと、毎回ナギサちゃんが、細かくスケジュールを組むから、時間も目的も、ハッキリしている。こんなふうに、何となくぶらつくのは、初めてかもしれない。

「いつもは、こっちから誘ってるし。たまには、付き合ってあげるのも、いいよね」
「どうせ、食べ物関連じゃないの? あまり、いい予感がしないわ」
「あははっ……」

 確かに、フィニーちゃんと言えば、食べ物のこと以外に、何も浮かんでこない。でも『先に腹ごしらえをする』と、言ってるんだから。メインは、そっちじゃなさそうだけど――。

 私たちは、フィニーちゃんに連れられ、ハンバーガー・ショップに入った。私は、ハンバーガーとポテト、あと、アイスコーヒー。ナギサちゃんは、サラダサンドとアイスティー。

 フィニーちゃんは、トレーに、ピラミッドのごとく積み上げられた、ハンバーガー。加えて、メガサイズのフライドポテト。どう見ても、軽く腹ごしらえのレベルじゃない。いつものことなので、ナギサちゃんも、もう突っ込まなかった。

 二十分後。あれだけの量があったにもかかわらず、フィニーちゃんは、あっさり完食。体の大きさは、二年前と全く変わってないのに、食欲は、確実に増してるような気がする。いったい、どんな体の構造をしているのだろうか……?

 食事が終わると、私たちは、再びフィニーちゃんのあとをついて、移動を開始する。でも、何度、尋ねても『行けば分かる』の一点張り。今一つ、要領を得ない。

 隣を歩いているナギサちゃんが、かなりイライラしてるので、そろそろ教えて欲しい――。ナギサちゃんって、何でも計画的に動くから。こういう、行き当たりばったりなの、ダメなんだよね。

 しばらく歩いて行くと、たどり着いたのは、色んなお店が入っている、雑居ビルだった。フローターに乗って向かったのは、ビルの七階。フローターを降りると、目の前には〈エアリア〉という、お店の看板がついていた。

「ねぇ、フィニーちゃん。これ、何のお店?」
「VSカフェ」
「んっ、何それ?」

 初めて聴く言葉だ。MVカフェとは、違うのかな?

「VSカフェは、バーチャル・シミュレーターの店。MMAで使われてる『LLVS』と、似たシステムを使ってる」
「へぇー……そうなんだ? で、何するの――?」

 なるほど、さっぱり分からない。そもそも、私、横文字系は、超苦手なんで。

「今、大人気の『SWS』をやる」
 フィニーちゃんは、目を輝かせながら、壁際にあった空中モニターを、指さした。

 そこには『スカイ・ワールド・ストーリー』の文字と、背中に羽をはやして、空を飛び回っているキャラクターたちの、デモ映像が流れている。

「って、これ、ゲームじゃない?! こんな、くだらない事のために、私たちを呼んだの?」
「ゲームじゃなくて、バーチャル・シミュレーター。くだらなくない」

「でも、似たようなものじゃないのよ!」
 ナギサちゃんは、あからさまに、不快な表情を浮かべた。そうとう苛立っており、今にも、怒りが爆発しそうだった。

 そりゃ、真面目なナギサちゃんが、ゲームなんか、やる訳ないよね。休日も、部屋で一日中、勉強してるような性格なんだから。

 私も、あまりゲームとかは、詳しくないけど。向こうの世界では、たまに、友人たちとゲームセンターに行ったり、スマホアプリぐらいは、たしなんでいた。

「まぁまぁ。せっかく来たんだから、やって行こうよ。人気みたいだし、何事も経験が大事だし。それに、新しいことは、勉強になるんじゃない? 私たち、空の仕事をしてる訳だし、何か発見があるかもよ?」

 私は、キレる寸前だったナギサちゃんを、なだめるために、必死に言葉を並べ立てた。何か、色々と苦しい部分もあるけど。勉強や仕事の言葉が出てくると、ナギサちゃんの表情が変わった。

「はぁ……。しょうがないわね、ちょっとだけよ。まったく、こういうことは、最初から、言っておきなさいよね」

 ナギサちゃんは、納得のいかない表情をしながらも、何とか了解してくれた。

 何だかんだで、ナギサちゃんは、付き合いがいいんだよね。最初は、ブーブー言っても、必ず付き合ってくれるんだから。

 でも、最初から、ここに来ると言ってたら、絶対に断られていたと思う。なるほど、どうりで、フィニーちゃんが、ハッキリ言わなかったわけだ――。

 私たちは、店に入ると、受付で手続きをする。魔力登録をしたあと、指定された番号の部屋に向かった。部屋に入ると、リクライニング・シートが、三台ならんでいた。その隣のテーブルには、ヘアバンドのようなものが置いてある。

「どうすればいいの?」
「これ、頭につける。そしたら、横になる」

 フィニーちゃんは、装置を頭につけると、サッと横になって目を閉じた。

「本当に、それだけでいいの? これって、気持ちよくて、寝ちゃわない?」
「寝て大丈夫。VS中は、仮眠状態になる」
「へぇー、そうなんだ。じゃ、安心して、寝ちゃっていいね」

 私も、フィニーちゃんの真似をして、横になった。シートがふかふかしてるし、体にフィットして、とても気持ちいい。でも、ナギサちゃんは、立ったままだった。

「ナギサちゃんも、早くやろうよ」
「こんな、真昼間から寝るなんて。物凄く、だらしない感じがするわね……」

 えっ?! 気にしてるの、そっち?

「そんなこと無いって、こういうシステムなんだから。それにほら、フィニーちゃんはもう、あんなだし」

 フィニーちゃんは、早くも、安らかな寝息を立てていた。

「はぁ――。まったく、しょうがないわね」
 ナギサちゃんも、頭に装置を付けると、渋々シートに横になった。

 ほどなくして、部屋の照明が薄暗くなる。それと共に、私も夢の中に、いざなわれて行くのだった……。


 ******


 ふと、目を開けると、そこは見知らぬ世界だった。周囲には、たくさんの木々が生い茂っている。どうやら、森の中の小さな広場にいるようだ。

「えーっと。あれ――みんなは?」 
 ナギサちゃんたちの姿が見えない。周囲をきょろきょろ見回すが、人っ子一人いなかった。

 まさか、置いて行かれちゃった? それとも、全員、違う場所からスタート? うーん、これ、どうやって操作すればいいの……?

 ゲームとはいえ、一人ぼっちになり、ちょっと不安になって来た。ふと、初めてこちらの世界に、来た時のことを思い出す。家出して、一人きりで、何一つ分からず、本当に心細かった――。

 しばし、周囲を見回していると、

「風歌、こっち」
「えっ? どこっ?」
「上みて」

 フィニーちゃんの声が、聞こえて来る。
 
 視線を上に向けると、そこには、フィニーちゃんが、フワフワと宙に浮いていた。薄緑色のローブを着て、背中には、薄っすら光る、妖精のような羽が生えている。

「おぉー! 空飛べるの? その衣装、ファンタジーっぽくて、素敵だね」
「SWSは、空を飛ぶゲーム。風歌も、衣装、変わってる」
「ん……本当だ。いつの間に?!」

 私は、白い鎧を着ていた。触ってみると、ちゃんとした、金属の質感と硬さがある。自分の体は、触ると感覚があるし、頬をつねると、普通に痛かった。

「うわぁー、凄いっ! 感覚も、リアルと全然、変わらないんだね」
「LLVSと同じ。全ての感覚が再現される。オプションで、感覚をオフにすることもできる。デフォルトでは、戦闘時は、最小設定になってる」

「へぇー、そうなんだ。てか、凄く詳しいね」
「攻略サイト、軽く目を通して来た。システム周りは、だいたい理解してる」

 今日は、いつになく饒舌だ。興味のあることに対しては、物凄く真剣なんだよね。仕事でも、これぐらい、積極的だといいんだけど――。

「そういえば、ナギサちゃんは、どこ?」
「寝ないと、インできない。一応、VSヘッドに、睡眠導入機能は付いてる」
「あぁ、なるほどね。それで、すぐに眠くなったんだ」

 真面目な、ナギサちゃんのことだ。昼間から寝るのに、抵抗があって、無理矢理、眠気に耐えているのかもしれない。

 しばらくして、私のすぐ横に、スッとナギサちゃんが現れた。彼女は、赤い鎧を着ている。

「……ん、ここは?」
「ナギサ、遅い。不眠症?」

「そんな事ないわよ。こんな時間から寝るなんて、普段、あり得ないだけで」
「私は、いつでも寝れる。仕事中でも、寝れるし」
「って、仕事中に寝て、どうするのよ!」

 結局、いつもの言い合いが始まる。どこに来ても、二人は変わらない。

「まぁまぁ、折角のゲームなんだから、楽しもうよ。それで、何をすればいいのかな?」
 私は、サッと話題を変えた。

「まずは、最初の町に行く。空飛べば、すぐ」
「飛ぶって、どうやるの?」

「飛ぼうと思えば、飛べる」
「えっ?! それだけ――?」

 私は、意識を集中して、いつも、エア・ドルフィンで、空を飛ぶ時をイメージした。すると、フワッと、体が浮き上がった。まるで、無重力になったような感覚だ。

「うわぁー、本当だっ!! 自力で浮いてる!」
「意外と簡単なのね」
 ナギサちゃんも、私のすぐ横で、フワフワと浮いていた。

「じゃ、町行く」
 そう言うと、フィニーちゃんは、一気に高度を上げて行った。

 私たちも、そのあとに続いて、上空に向かっていく。どんどん高度を上げ、かなり高いところまでやって来た。先ほどまでいた森が、とても小さく見える。

 驚くことに、風の感覚も、リアルと全く同じだ。気持ちよい風が、体を吹き抜けていく。でも、エア・ドルフィンに乗っている時とは、少し違う。機体に乗っている時は、上半身だけだが、今は、全身の指先まで風が当たる。

 うーん、最高に気持ちいいー! 自分で飛ぶって、こんなに爽快なんだ。まるで、鳥になった気分。

 私は、くるくるとツイストしたり、ターンしたりして、自力で飛ぶ感覚を楽しんだ。フィニーちゃんは、あおむけになって、ぷかぷか浮きながら飛んでいる。まるで、ラッコみたいだ。

「あははっ、なにコレ。超楽しー」
「空の昼寝も、気持ちいい」
「ちょっと、遊んでないで、さっさと行くわよ!」

 ナギサちゃんが先頭になると、スーッとスピードを上げ、勢いよく飛んでいく。前方の地上には、大きな町が見えて来た。

 私は全身に風を浴び、ワクワクしながら、最初の町に向かうのだった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『たまには全力で遊ぶのもいいかもね』

 遊ぶときはしっかり遊べ。働くときは少しも遊んではいけない
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