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第7部 才能と現実の壁
3-2一回り大人なった夢を追い掛ける少女との再会
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午後、一時半。私は、エア・ドルフィンに乗って〈東地区〉の上空を飛んでいた。午前中に一件、観光案内の仕事を終え、そのあと、途中で買ってきたパンで、軽く昼食。午後は、フリーだったので、お使いにやって来た。
買い出しなどの、雑用系全般は、私の仕事だ。リリーシャさんは、毎日、切れ間なく、予約が入っているし。私は、デスクワーク系は、からっきしなので。結局、体を動かす仕事でしか、貢献ができないからだ。
まぁ、雑用系は好きだから、いいんだけど。その中でも、買い出しは、一番、好きな仕事だ。色んな商品が見られるので、とても、ワクワクするし。特に、食料品の買い出しは、物凄く、テンション上がるんだよね。
見習い時代は、お金がなくて、会社で出るおやつが、重要な栄養源だった。気分が上がるのは、たぶん、そのなごりだと思う……。
今向かっているのは、いつも通っている、洋菓子店の〈ウインド・ベル〉だ。お菓子を買う時は、必ずこの店に行く。お客様用はもちろん、会社のティータイム用も、ここで買い置きをする。
最近は、お給料も上がって、懐具合に余裕ができた。なので、個人用にお菓子を買うこともある。頑張ってる自分への、ご褒美だ。と言っても、節約生活は続けてるので、月に一、二回だけどね。
住宅街の上を飛んでいくと、青い屋根に、金色の鐘の、大きなオブジェが見えて来た。上空からでも、大きな鐘は、よく目立つ。
私は、店の前に静かに着陸すると、窓から、中をそっと眺めた。どのお店もそうだけど、すぐに入らずに、まずは、外から見て楽しむ。ウインドウ・ケースには、色ととりどりのケーキが並んでいて、入る前から、期待感が高まる。
うーん、どれも美味しそう。どうしよう、ケーキ、買っちゃおうかなぁー? いやいや、先日、買ったばかりだし。でも、あの新作ケーキ、凄く美味しそう――。
しばし、目で堪能したあと、扉をゆっくり開けた。すると、扉に付いていた小さな鐘が、カランカランと、音を立てて鳴り響く。入った瞬間、女将のロナさんが、優しい笑顔を向けてくれた。
「あら、風歌ちゃん、いらっしゃい」
「ロナさん、こんにちは」
いつ見ても、ロナさんは、明るく素敵な笑顔だ。私が、このお店に来る、楽しみの一つは、ロナさんに会うことだった。気さくで、話していて楽しいし。何と言っても、物凄い情報通なのだ。
「また、いつもので、いいかしら?」
「はい、お願いします」
アリーシャさんの代から、ずっと常連だし。買うものは、毎回、ほぼ同じなので『いつもの』で通じてしまう。ここのお菓子は、すっごく美味しいから、何回、食べても、飽きないんだよね。うちのお客様たちからも、とても評判がいい。
「仕事の調子はどう? エア・マスターに昇級してから、仕事が増えたんじゃないの?」
「いやー、ボチボチですねぇ。リリーシャさんは、常に予約が一杯で、目の回る忙しさですけど。私は、今でも、飛び込み営業がメインなので」
リリーシャさんから、予約を回して貰うことはあるけど。相変わらず、私個人への予約は、たまにしか来ない。しかも、その予約も、九割方は、ユメちゃんなんだよね。悲しいけど、これが、シルフィード業界の、厳しい現実だ。
「あら、そう。風歌ちゃんなら、絶対に、人気が出ると思うのに」
「いえ。私は、まだまだ、修行中の身ですので」
「そういう、謙虚なところが、いいのよね。将来、必ず大物になるわよ。私、人を見る目には、自信あるから」
「あははっ、ありがとうございます」
私って、昔からよく『将来、大物になる』って、言われるんだよね。いい意味で言われてるのか、悪い意味で言われてるのか、よく分からないんだけど……。
「あ、そうそう。今、ロゼが帰って来ているのよ」
「えっ、本当ですか?! でも、ロゼちゃんって、大陸で就職したのでは?」
ロゼちゃんは、中学を卒業後、自分の夢を果たすべく、大陸に渡って、アパレル・メーカーに就職した。本来なら、専門学校に、二年通ってから就職なんだけど。彼女は、独学で、様々な知識や技術を習得した。
元々三年間、普通科の予定だったし。夢に向かって動き出したのが、少し遅かったのもある。あと、親の説得までに、少し時間が掛かったからだ。
「ちょうど、連休中で、帰って来てるのよ。今はちょっと、外に出てるけど。風歌ちゃんに、会いたがっていたわ」
「じゃあ、あとで、連絡してみますね」
私は、ロナさんと少し世間話をしたあと、お菓子を受け取り、挨拶をして店を出た。エア・ドルフィンに乗ると、スーッと舞い上がり、ある場所に向かって、急いで飛んで行った――。
******
〈グリュンノア〉のあちこちにある、人工的に作られた水路。まだ、マナ・フローターエンジンがなかったころ、輸送や移動に使われていたものだ。当時は、船で埋め尽くされ、とても賑わっていたらしい。
でも、今は空路がメインなので、全く使われておらず、ほとんど埋め立てられてしまった。なので、残っている水路も、ただ水が流れているだけで、ひっそり静まり返っている。特に、住宅街の中の水路は、とりわけ静かだ。
私は〈ウインド・ベル〉から、少し離れた場所にある、小さな水路に向かった。水路沿いに飛んでいくと、すぐに、目的の人物を発見した。
「よかったー。やっぱり、ここだったんだ」
私は、少し離れた場所に、静かに着陸する。
彼女は、水路のそばにある、小さな階段に腰掛け、手にはスケッチブックを持っていた。集中しているようで、こちらには、全く気付いていない。
私は、しばし、彼女の様子を眺める。邪魔をするのも悪いし、何だか、物凄く懐かしい気分になったからだ。彼女と、初めて話したのも、この場所だった。何だか、ずいぶん、昔のことのように感じる。
当時の彼女と、一瞬、姿が重なるが、かなり雰囲気が変わっていた。彼女は、カジュアルなスーツを着ていて、いかにも、社会人っぽい格好だ。それに、ずいぶんと、大人になった感じがする。
私は、静かに近づいて行くと、そっと声を掛けた。
「こんにちは、ロゼちゃん」
「えっ……?! 風歌さん、なぜ、ここに?」
彼女は、私を見て、驚いた表情を浮かべ、慌てて立ち上がった。まぁ、こんな場所、普通は、誰も来ないもんね。
「さっき、お店に、買い物に行ったんだけど。ロナさんに、ロゼちゃんが帰ってきてる、って聴いたから。もしかしたら、ここかなぁー、と思って」
「そうだったんですか。すいません、ご挨拶が遅れて。あとで、連絡しようと思っていたのですが」
「あぁ、気にしないで。久しぶりの実家だし。ご家族とも、色々話すことがあったでしょ。ちゃんと、お話できた?」
ロゼちゃんは、昨日の夜、帰って来たらしい。しかも、一月に就職してから、一度も帰っていないので、半年ぶりの帰郷だ。
「はい、何とか。でも、もっと、マメに帰ってこいと、怒られましたが」
「あははっ。やっぱり、心配なんだろうね。いくら、就職したとはいえ、親にとっては、いくつになっても、子供だから」
「それは、そうですけど。いい加減、子供扱いは、やめて欲しいです。私も、もうすぐ、十六ですし」
ロゼちゃんは、少しむくれた表情をする。
分かるなぁ、その気持ち。私も昔は、子ども扱いされるの、凄く嫌だったし。でも、社会の厳しさを知って、改めて、子供だって思い知らされたけど。
ちなみに〈グリュンノア〉では、十六歳で成人扱いになる。十六で、お酒も飲めるし、ほとんどの人は、就職していた。それに、十代で結婚する人も多い。そのため、大人の意識を持つのが、向こうの世界に比べて早いのだ。
「でも、ちゃんと、認めて貰えたんだから、よかったじゃない。ファッションの仕事をすることも、大陸に行くことも」
「それは、確かに――」
彼女は、私とは違い、親としっかり話し合って、正式に許可をもらった上で、自分の進路を決めた。親の理解を得て、夢に向き合っているのだから、とても理想的な形だと思う。もちろん、それには、彼女自身の努力があったからだ。
彼女は、急に真剣な表情になると、
「その節は、本当に、色々ありがとうございました。私が今、こうして、自分の夢に向かって進めているのも、大陸で働けているのも、全ては、風歌さんのお蔭です」
深々と頭を下げる。
「いやいや、全部、ロゼちゃんの、努力の賜物だから。頭を上げてよ、私は、何もしてないし」
「いえ。何度も、相談に乗っていただきましたし。聴けば、母にも、色々と口添えしてくださったとか」
「えーっと、そうだったっけ……?」
確かに、ロナさんには『ロゼちゃんを見守ってあげて欲しい』とか『応援してほしい』とか、言ったような記憶もある。私の二の舞には、絶対に、なって欲しくなかったからだ。
「そもそも、夢に向かって、本気で進もうと思ったのは、風歌さんの姿を見ていたからなんです。ちょうど、出会ったのが、夢を諦め掛けていた時なので。本当に、沢山の勇気をいただきました」
「そう――。なら、嬉しいな」
私の無謀ともいえる行動と経験が、誰かが前に進むための、原動力になっていたのなら。これ以上に、嬉しいことはない。
「ところで、仕事のほうはどう? 上手く行ってる?」
二人で階段に腰掛けると、一番、気になっていたことを、訊いてみる。私も、ロゼちゃんのことは、ずっと心配していた。彼女の背中を押した、張本人だし。境遇も、どことなく、似ていたから。
「一応、仕事は、こなしています。でも、上手く……とは、程遠いかもしれません。日々沢山の雑用を、ひたすら、処理しているだけで。何もかもが、一杯一杯で」
「お仕事、忙しいの?」
「うちは、私を含めて四人だけの、小さなアパレル・ブランドです。なので、残業や休日出勤は、当たり前で。時には、泊まり込みもありますし」
「うわぁー。デザインの仕事って、そんなにハードなんだ?」
私がイメージしていたのとは、ちょっと違う。
「私は、まだ、仕事がそんなに早くないですし。あと、ダメ出しやリテイクが、物凄く多いんです。毎日『遅い』とか『下手くそ』って、怒鳴られてばかりですし」
「えぇっ?! そんなに上手いのに? その服だって、自作でしょ?」
ロゼちゃんが着ているスーツは、彼女が仕立てた物だ。普段、着ている服も、ほとんどが、手作りだった。
「素人感覚の上手さとは、ちょっと違うんです。プロの世界は、ミリ単位を要求されるので。裏地の見えない部分の縫い目も、完璧にしないとダメですし。うちは、ハイブランドですから」
ロゼちゃんが働いているのは、新進気鋭のデザイナーが経営する、ハイブランドの会社だ。オートクチュールが専門で、個人だけではなく、企業から、展示用やイベント用の服の、大量注文が来る場合もあるらしい。
全て手作りの一点物なので、当然、作業には時間が掛かる。高級な服というのは、素材だけでなく、仕立ての技術も、極めて高いものが要求されるらしい。
「何か、完全に職人の世界だね。でも、勉強や裁縫の練習は、十分にして行ったんでしょ?」
「勉強は、一通りしましたけど。私の場合、専門学校に行ってませんから、ほとんどが、独学なんです。そのせいか『基礎が出来てない』って、いつも怒られています」
専門職に就く場合、通常は、普通の中学に一年だけ通い、あとの二年は、専門学校に行く。でも、彼女が決意したのは、中学二年の後半。しかも、彼女が親に話して許可を貰ったのは、三年になってからだ。
私と出会うまでは、半ば諦めていたみたいだし。途中からのスタートだったので、専門学校に行っている暇はなかった。だから、空いている時間の全てを使い、独学で必死に学んだのだ。
「そっかー。私も、専門学校に行ってないから、分かるけど。色々大変だよね。他の人が、当たり前に知っていることを、全く知らないから」
「そうなんですよ。言っている意味が、全然、分からなかったりとか」
私も最初は、全然、知識がなくて大変だった。でも、リリーシャさんが、物凄く優しく教えてくれたから、何とかやってこれた。
しかし、彼女の会社は、そうとう厳しいようで、新人が何人も辞めているらしい。割と名の知れてるブランドなのに、社員が少ないのは、そのせいみたいだ。
「ロゼちゃん、ちょっと痩せた? というか、やつれてない?」
「あまり、寝てないですし。食事も、とらないことが多いので。そのせい……ですかね?」
「えぇっ?! それは、マズイんじゃない?」
「残業で、夜遅くに終わったあと。勉強したり、裁縫の練習をしたりするので。朝までやってることも、結構、多いんです」
彼女は、昔からそうだったけど、物凄い努力家だ。それに、かなり根性もある。でも、寝ないのは、さすがにやり過ぎだと思う。
「あまり、いい事では、ないかもしれませんが。私の場合、ここまでやって、ようやく、周りの人に、ついていける状態なんです」
「そうなんだ……。きつくない?」
これは、訊くまでもないと思う。明らかに、疲れた感じがするし。顔にも、疲労がにじみ出ている。
「正直、きついです。日々仕事だけで、一杯一杯ですし。怒られるたびに、心が折れそうになることも、何度もありました。これから先、ずっと続けて行けるかも、自信はありません――」
ほんの一瞬、表情が暗くなる。だが、
「でも、私が望んで、選んだ道ですから。だから、何度へこんでも、すぐに立ち直れるんです。それに、心地よいキツさなんですよ。おかしいでしょうか?」
再び、目に強い光が灯った。
「ううん。その気持ち、凄く分かる。望んだ道のキツさや厳しさって、むしろ『生きてるなぁー』って実感できて、気持ちがいいんだよね。おそらく、それが、充実感なんだと思う」
今のシルフィード業界は、一部を除いては、物凄くゆるい感じだ。特に、うちの会社は、リリーシャさんが、滅茶苦茶、優しいから。仕事で、キツイとか厳しいとか、一度も思ったことはない。業界でも屈指の、ホワイト企業なので。
それでも、私だって、今まで何の問題もなく、ここまで来れた訳じゃない。見習いの内は、ギリギリの生活で、日々生きるのがやっとだったし。勉強が苦手な私が、この世界の知識を、一から学ぶのは、とんでもない苦労があった。
あと、怪我したり、協会に呼び出されたり、事故に遭ったり。他にも、細かなミスは、数えきれないほどあって、へこんだことも、一杯あった。
一人前になって、生活が安定したと思ったら、今度は、お客様の問題が出てきた。いくら昇級しても、完全な能力社会なので、芽が出なければ、そこで終了だ。
でも、自分で選んだ道だからこそ、日々頑張れるし。どんなに大変でも、どんなにへこんでも、また前を向いて、進んで行ける。どんな業界でも、大変なのは、変わらないよね。
「話を聴いて、安心したよ。とても、順調そうで」
「えっ……? 私、物凄く、一杯一杯ですけど」
「でも、凄くいい顔してる。目が回るほど忙しいけど、楽しいんでしょ?」
「そうですね。日々楽しいです」
ロゼちゃんは、迷いなく答えた。
きっと彼女は、私がシルフィードを、始めたばかりのころと、同じなんだ。誰もが通る道を、今進んでいる。最初は大変でも、そこを抜ければ、光が見えてくるはず。まだ、道半ばの私が言うのも、なんだけど。
「お互いに、自分の夢の実現のために、頑張ろうね」
「はい、全力で頑張ります!」
私たちは、その後も、お互いの仕事や夢について、じっくり語り合った。業界は違っても、目指すべき場所は同じ。上に登り詰め、自分の目指す夢や理想を、現実にすることだ。
彼女なら、必ず成功できると、私は信じている。私自身も、負けないように、ひたすら前に、進み続けて行こう……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『休日に連れていかれたのは予想外の場所だった……』
明日がすばらしい日だといけないから、うんと休息するのさ……
買い出しなどの、雑用系全般は、私の仕事だ。リリーシャさんは、毎日、切れ間なく、予約が入っているし。私は、デスクワーク系は、からっきしなので。結局、体を動かす仕事でしか、貢献ができないからだ。
まぁ、雑用系は好きだから、いいんだけど。その中でも、買い出しは、一番、好きな仕事だ。色んな商品が見られるので、とても、ワクワクするし。特に、食料品の買い出しは、物凄く、テンション上がるんだよね。
見習い時代は、お金がなくて、会社で出るおやつが、重要な栄養源だった。気分が上がるのは、たぶん、そのなごりだと思う……。
今向かっているのは、いつも通っている、洋菓子店の〈ウインド・ベル〉だ。お菓子を買う時は、必ずこの店に行く。お客様用はもちろん、会社のティータイム用も、ここで買い置きをする。
最近は、お給料も上がって、懐具合に余裕ができた。なので、個人用にお菓子を買うこともある。頑張ってる自分への、ご褒美だ。と言っても、節約生活は続けてるので、月に一、二回だけどね。
住宅街の上を飛んでいくと、青い屋根に、金色の鐘の、大きなオブジェが見えて来た。上空からでも、大きな鐘は、よく目立つ。
私は、店の前に静かに着陸すると、窓から、中をそっと眺めた。どのお店もそうだけど、すぐに入らずに、まずは、外から見て楽しむ。ウインドウ・ケースには、色ととりどりのケーキが並んでいて、入る前から、期待感が高まる。
うーん、どれも美味しそう。どうしよう、ケーキ、買っちゃおうかなぁー? いやいや、先日、買ったばかりだし。でも、あの新作ケーキ、凄く美味しそう――。
しばし、目で堪能したあと、扉をゆっくり開けた。すると、扉に付いていた小さな鐘が、カランカランと、音を立てて鳴り響く。入った瞬間、女将のロナさんが、優しい笑顔を向けてくれた。
「あら、風歌ちゃん、いらっしゃい」
「ロナさん、こんにちは」
いつ見ても、ロナさんは、明るく素敵な笑顔だ。私が、このお店に来る、楽しみの一つは、ロナさんに会うことだった。気さくで、話していて楽しいし。何と言っても、物凄い情報通なのだ。
「また、いつもので、いいかしら?」
「はい、お願いします」
アリーシャさんの代から、ずっと常連だし。買うものは、毎回、ほぼ同じなので『いつもの』で通じてしまう。ここのお菓子は、すっごく美味しいから、何回、食べても、飽きないんだよね。うちのお客様たちからも、とても評判がいい。
「仕事の調子はどう? エア・マスターに昇級してから、仕事が増えたんじゃないの?」
「いやー、ボチボチですねぇ。リリーシャさんは、常に予約が一杯で、目の回る忙しさですけど。私は、今でも、飛び込み営業がメインなので」
リリーシャさんから、予約を回して貰うことはあるけど。相変わらず、私個人への予約は、たまにしか来ない。しかも、その予約も、九割方は、ユメちゃんなんだよね。悲しいけど、これが、シルフィード業界の、厳しい現実だ。
「あら、そう。風歌ちゃんなら、絶対に、人気が出ると思うのに」
「いえ。私は、まだまだ、修行中の身ですので」
「そういう、謙虚なところが、いいのよね。将来、必ず大物になるわよ。私、人を見る目には、自信あるから」
「あははっ、ありがとうございます」
私って、昔からよく『将来、大物になる』って、言われるんだよね。いい意味で言われてるのか、悪い意味で言われてるのか、よく分からないんだけど……。
「あ、そうそう。今、ロゼが帰って来ているのよ」
「えっ、本当ですか?! でも、ロゼちゃんって、大陸で就職したのでは?」
ロゼちゃんは、中学を卒業後、自分の夢を果たすべく、大陸に渡って、アパレル・メーカーに就職した。本来なら、専門学校に、二年通ってから就職なんだけど。彼女は、独学で、様々な知識や技術を習得した。
元々三年間、普通科の予定だったし。夢に向かって動き出したのが、少し遅かったのもある。あと、親の説得までに、少し時間が掛かったからだ。
「ちょうど、連休中で、帰って来てるのよ。今はちょっと、外に出てるけど。風歌ちゃんに、会いたがっていたわ」
「じゃあ、あとで、連絡してみますね」
私は、ロナさんと少し世間話をしたあと、お菓子を受け取り、挨拶をして店を出た。エア・ドルフィンに乗ると、スーッと舞い上がり、ある場所に向かって、急いで飛んで行った――。
******
〈グリュンノア〉のあちこちにある、人工的に作られた水路。まだ、マナ・フローターエンジンがなかったころ、輸送や移動に使われていたものだ。当時は、船で埋め尽くされ、とても賑わっていたらしい。
でも、今は空路がメインなので、全く使われておらず、ほとんど埋め立てられてしまった。なので、残っている水路も、ただ水が流れているだけで、ひっそり静まり返っている。特に、住宅街の中の水路は、とりわけ静かだ。
私は〈ウインド・ベル〉から、少し離れた場所にある、小さな水路に向かった。水路沿いに飛んでいくと、すぐに、目的の人物を発見した。
「よかったー。やっぱり、ここだったんだ」
私は、少し離れた場所に、静かに着陸する。
彼女は、水路のそばにある、小さな階段に腰掛け、手にはスケッチブックを持っていた。集中しているようで、こちらには、全く気付いていない。
私は、しばし、彼女の様子を眺める。邪魔をするのも悪いし、何だか、物凄く懐かしい気分になったからだ。彼女と、初めて話したのも、この場所だった。何だか、ずいぶん、昔のことのように感じる。
当時の彼女と、一瞬、姿が重なるが、かなり雰囲気が変わっていた。彼女は、カジュアルなスーツを着ていて、いかにも、社会人っぽい格好だ。それに、ずいぶんと、大人になった感じがする。
私は、静かに近づいて行くと、そっと声を掛けた。
「こんにちは、ロゼちゃん」
「えっ……?! 風歌さん、なぜ、ここに?」
彼女は、私を見て、驚いた表情を浮かべ、慌てて立ち上がった。まぁ、こんな場所、普通は、誰も来ないもんね。
「さっき、お店に、買い物に行ったんだけど。ロナさんに、ロゼちゃんが帰ってきてる、って聴いたから。もしかしたら、ここかなぁー、と思って」
「そうだったんですか。すいません、ご挨拶が遅れて。あとで、連絡しようと思っていたのですが」
「あぁ、気にしないで。久しぶりの実家だし。ご家族とも、色々話すことがあったでしょ。ちゃんと、お話できた?」
ロゼちゃんは、昨日の夜、帰って来たらしい。しかも、一月に就職してから、一度も帰っていないので、半年ぶりの帰郷だ。
「はい、何とか。でも、もっと、マメに帰ってこいと、怒られましたが」
「あははっ。やっぱり、心配なんだろうね。いくら、就職したとはいえ、親にとっては、いくつになっても、子供だから」
「それは、そうですけど。いい加減、子供扱いは、やめて欲しいです。私も、もうすぐ、十六ですし」
ロゼちゃんは、少しむくれた表情をする。
分かるなぁ、その気持ち。私も昔は、子ども扱いされるの、凄く嫌だったし。でも、社会の厳しさを知って、改めて、子供だって思い知らされたけど。
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「でも、ちゃんと、認めて貰えたんだから、よかったじゃない。ファッションの仕事をすることも、大陸に行くことも」
「それは、確かに――」
彼女は、私とは違い、親としっかり話し合って、正式に許可をもらった上で、自分の進路を決めた。親の理解を得て、夢に向き合っているのだから、とても理想的な形だと思う。もちろん、それには、彼女自身の努力があったからだ。
彼女は、急に真剣な表情になると、
「その節は、本当に、色々ありがとうございました。私が今、こうして、自分の夢に向かって進めているのも、大陸で働けているのも、全ては、風歌さんのお蔭です」
深々と頭を下げる。
「いやいや、全部、ロゼちゃんの、努力の賜物だから。頭を上げてよ、私は、何もしてないし」
「いえ。何度も、相談に乗っていただきましたし。聴けば、母にも、色々と口添えしてくださったとか」
「えーっと、そうだったっけ……?」
確かに、ロナさんには『ロゼちゃんを見守ってあげて欲しい』とか『応援してほしい』とか、言ったような記憶もある。私の二の舞には、絶対に、なって欲しくなかったからだ。
「そもそも、夢に向かって、本気で進もうと思ったのは、風歌さんの姿を見ていたからなんです。ちょうど、出会ったのが、夢を諦め掛けていた時なので。本当に、沢山の勇気をいただきました」
「そう――。なら、嬉しいな」
私の無謀ともいえる行動と経験が、誰かが前に進むための、原動力になっていたのなら。これ以上に、嬉しいことはない。
「ところで、仕事のほうはどう? 上手く行ってる?」
二人で階段に腰掛けると、一番、気になっていたことを、訊いてみる。私も、ロゼちゃんのことは、ずっと心配していた。彼女の背中を押した、張本人だし。境遇も、どことなく、似ていたから。
「一応、仕事は、こなしています。でも、上手く……とは、程遠いかもしれません。日々沢山の雑用を、ひたすら、処理しているだけで。何もかもが、一杯一杯で」
「お仕事、忙しいの?」
「うちは、私を含めて四人だけの、小さなアパレル・ブランドです。なので、残業や休日出勤は、当たり前で。時には、泊まり込みもありますし」
「うわぁー。デザインの仕事って、そんなにハードなんだ?」
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「私は、まだ、仕事がそんなに早くないですし。あと、ダメ出しやリテイクが、物凄く多いんです。毎日『遅い』とか『下手くそ』って、怒鳴られてばかりですし」
「えぇっ?! そんなに上手いのに? その服だって、自作でしょ?」
ロゼちゃんが着ているスーツは、彼女が仕立てた物だ。普段、着ている服も、ほとんどが、手作りだった。
「素人感覚の上手さとは、ちょっと違うんです。プロの世界は、ミリ単位を要求されるので。裏地の見えない部分の縫い目も、完璧にしないとダメですし。うちは、ハイブランドですから」
ロゼちゃんが働いているのは、新進気鋭のデザイナーが経営する、ハイブランドの会社だ。オートクチュールが専門で、個人だけではなく、企業から、展示用やイベント用の服の、大量注文が来る場合もあるらしい。
全て手作りの一点物なので、当然、作業には時間が掛かる。高級な服というのは、素材だけでなく、仕立ての技術も、極めて高いものが要求されるらしい。
「何か、完全に職人の世界だね。でも、勉強や裁縫の練習は、十分にして行ったんでしょ?」
「勉強は、一通りしましたけど。私の場合、専門学校に行ってませんから、ほとんどが、独学なんです。そのせいか『基礎が出来てない』って、いつも怒られています」
専門職に就く場合、通常は、普通の中学に一年だけ通い、あとの二年は、専門学校に行く。でも、彼女が決意したのは、中学二年の後半。しかも、彼女が親に話して許可を貰ったのは、三年になってからだ。
私と出会うまでは、半ば諦めていたみたいだし。途中からのスタートだったので、専門学校に行っている暇はなかった。だから、空いている時間の全てを使い、独学で必死に学んだのだ。
「そっかー。私も、専門学校に行ってないから、分かるけど。色々大変だよね。他の人が、当たり前に知っていることを、全く知らないから」
「そうなんですよ。言っている意味が、全然、分からなかったりとか」
私も最初は、全然、知識がなくて大変だった。でも、リリーシャさんが、物凄く優しく教えてくれたから、何とかやってこれた。
しかし、彼女の会社は、そうとう厳しいようで、新人が何人も辞めているらしい。割と名の知れてるブランドなのに、社員が少ないのは、そのせいみたいだ。
「ロゼちゃん、ちょっと痩せた? というか、やつれてない?」
「あまり、寝てないですし。食事も、とらないことが多いので。そのせい……ですかね?」
「えぇっ?! それは、マズイんじゃない?」
「残業で、夜遅くに終わったあと。勉強したり、裁縫の練習をしたりするので。朝までやってることも、結構、多いんです」
彼女は、昔からそうだったけど、物凄い努力家だ。それに、かなり根性もある。でも、寝ないのは、さすがにやり過ぎだと思う。
「あまり、いい事では、ないかもしれませんが。私の場合、ここまでやって、ようやく、周りの人に、ついていける状態なんです」
「そうなんだ……。きつくない?」
これは、訊くまでもないと思う。明らかに、疲れた感じがするし。顔にも、疲労がにじみ出ている。
「正直、きついです。日々仕事だけで、一杯一杯ですし。怒られるたびに、心が折れそうになることも、何度もありました。これから先、ずっと続けて行けるかも、自信はありません――」
ほんの一瞬、表情が暗くなる。だが、
「でも、私が望んで、選んだ道ですから。だから、何度へこんでも、すぐに立ち直れるんです。それに、心地よいキツさなんですよ。おかしいでしょうか?」
再び、目に強い光が灯った。
「ううん。その気持ち、凄く分かる。望んだ道のキツさや厳しさって、むしろ『生きてるなぁー』って実感できて、気持ちがいいんだよね。おそらく、それが、充実感なんだと思う」
今のシルフィード業界は、一部を除いては、物凄くゆるい感じだ。特に、うちの会社は、リリーシャさんが、滅茶苦茶、優しいから。仕事で、キツイとか厳しいとか、一度も思ったことはない。業界でも屈指の、ホワイト企業なので。
それでも、私だって、今まで何の問題もなく、ここまで来れた訳じゃない。見習いの内は、ギリギリの生活で、日々生きるのがやっとだったし。勉強が苦手な私が、この世界の知識を、一から学ぶのは、とんでもない苦労があった。
あと、怪我したり、協会に呼び出されたり、事故に遭ったり。他にも、細かなミスは、数えきれないほどあって、へこんだことも、一杯あった。
一人前になって、生活が安定したと思ったら、今度は、お客様の問題が出てきた。いくら昇級しても、完全な能力社会なので、芽が出なければ、そこで終了だ。
でも、自分で選んだ道だからこそ、日々頑張れるし。どんなに大変でも、どんなにへこんでも、また前を向いて、進んで行ける。どんな業界でも、大変なのは、変わらないよね。
「話を聴いて、安心したよ。とても、順調そうで」
「えっ……? 私、物凄く、一杯一杯ですけど」
「でも、凄くいい顔してる。目が回るほど忙しいけど、楽しいんでしょ?」
「そうですね。日々楽しいです」
ロゼちゃんは、迷いなく答えた。
きっと彼女は、私がシルフィードを、始めたばかりのころと、同じなんだ。誰もが通る道を、今進んでいる。最初は大変でも、そこを抜ければ、光が見えてくるはず。まだ、道半ばの私が言うのも、なんだけど。
「お互いに、自分の夢の実現のために、頑張ろうね」
「はい、全力で頑張ります!」
私たちは、その後も、お互いの仕事や夢について、じっくり語り合った。業界は違っても、目指すべき場所は同じ。上に登り詰め、自分の目指す夢や理想を、現実にすることだ。
彼女なら、必ず成功できると、私は信じている。私自身も、負けないように、ひたすら前に、進み続けて行こう……。
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次回――
『休日に連れていかれたのは予想外の場所だった……』
明日がすばらしい日だといけないから、うんと休息するのさ……
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北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
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酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
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酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
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都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
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おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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