【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥

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49.シャルロットの思いつき

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◇◇◇◇◇


「アンヌ、ヴェールはこれにしようと思うのだけれどもどうだろうか」

 アントワーヌがフロレルの部屋を訪れると、フロレルは、シャルロットとともに婚姻式の衣装を選んでいるところだった。
 フロレルは、美しいレースを両手で広げてアントワーヌに見せた。腕や頭に何枚かのレースをかけたままなのはシャルロットのせいだろう。いつも落ち着いた様子のフロレルが、まるで子どものような仕草をするのが楽しいのか、シャルロットも満面に笑みを浮かべている。
 
「ああ、フロルにとても似合うと思う」

 アントワーヌはシャルロットに勧められるままにフロレルの隣に座ると、広げているレースの模様を眺める。繊細で落ち着いた模様はフロレルの美しさを際立たせることだろうと思うと、アントワーヌは思わず笑顔になった。

「アントワーヌも来たことだし、少し休憩しましょうね」

 シャルロットはそう言って、侍女にお茶の用意をするように指示を出した。
 アントワーヌが、フロレルの肩にかけられたレースをどけてやり、選んだレースを頭に載せる。二人が微笑みあうのを見ながら、シャルロットは満足気の目を細めた。

 フロレルがアントワーヌへの愛情を自覚したこともあってか、婚姻式の準備は順調に進んでいる。

 シャルロットは、フロレルに幸せな婚姻を結んでほしいと思っていた。愛する一人息子なのだから当然のことだろう。
 最初からフロレルはアントワーヌと婚約をして楽しい学園生活を送ることができていればとシャルロットは思う。そもそもフロレルがシャルルと婚約したことは、シャルロットにとって不本意なことだった。
 王妃はオメガを蔑んでいて、国王が望んで側妃にしたペシェ家の令嬢はかなり酷いことをされたということを知っていたからだ。なんと言っても発情期に国王が側妃の閨へ行けないように王妃が工作したというのは、許されないことだとシャルロットは考えていた。まあ、フロレルが王宮へ行くまでに王妃のことはジョゼフがどうにかするはずだと思ってはいたのだが。
 しかし、その婚約は解消されてフロレルが王宮へ行くことはなくなった。可愛い息子はずっとシャルロットの側にいるのだ。そのうえ、元凶だった王妃は自滅してこの世にいないのだから、どうでもいいことになったのだ。そう思いながら、シャルロットは香り高い紅茶を口に含んだ。

 それより、シャルロットの心配事は別のところにある。
 それは、フロレルの発情を調整する薬の調剤がなかなかうまくいかないことだ。発情期が安定しないオメガの辛さは、思春期に自分も経験しているため、シャルロットにはよくわかる。
 シャルロットにはジョゼフがいたから、思春期の不安定な発情期を何とか過ごすことができたのだ。フロレルの投薬がうまくいかないのも、シャルロットに体質が似てしまったからなのかもしれない。
 目の前で優雅にお茶を飲んでいる可愛いフロレル。大切なシャルロットの一人息子だ。

 何とかしてあげないと。

 シャルロットはとある決心をし、拳を握りしめて、立ち上がった。

「お母様? どうなさいました」
「フロレル、わたくしにまかせておきなさい」
「え? いったい何を……」
「ヴェールは決まったし、お衣装の生地はフロレルとアントワーヌとで揃いになるように打ち合わせてね。またあとでお部屋に来ますから」
「はい、義母上……」

 フロレルの質問にシャルロットは答えたつもりだ。しかし、シャルロットが何を考えていたのかわからないフロレルは、首を傾げるしかない。
 フロレルはアントワーヌとともにシャルロットの指示に頷き、部屋を出て行く後ろ姿を見送った。


「ねえジョゼフ、フロレルとアントワーヌのことだけれど、わたくし良いことを思いついたのよ」
「良いこと?」
「ええ」

 シャルロットが執務室に入って来るなり始めた話に、ジョゼフは面食らう。もっともジョゼフが、シャルロットが何か決意をするのが突然であることには慣れているともいえるのだが。いずれにせよ、アルファが愛しいオメガに逆らうことなど到底無理なのだ。

「どのようなことかな?」

 ジョゼフは、シャルロットの笑顔を見つめて、その美しい唇からもたらされる言葉を待った。


◇◇◇◇◇


 その日の朝、フロレルは体が熱っぽくて重い感覚になっていた。それは、以前に医者から発情期の前駆症状になっていると言われたときと同じ感覚であった。

「今回の薬も合っていないのだな……」

 フロレルは枕元にある水を飲み干し、ため息を吐いた。

「アントワーヌと婚姻をしていれば楽にしてもらえる……のか……?」

 フロレルは以前にシャルロットから聞いたことを思い出していた。

『自分のアルファがいれば、オメガは発情期に不安になることはないのよ』という言葉だ。

 アルファの精を注がれれば、オメガは発情期を安心して過ごすことができる。一人で過ごす発情期はとても苦しいという。そう、以前に薬が合わなくて発情期の前駆症状を迎えたときも、フロレルは身体が熱く、特に下半身が熱を持ってとてもつらかったのだ。

「アンヌ……」

 フロレルは、アントワーヌとキスをしたときのことを思い出して、身体が余計に暑くなるのを感じた。右手を自分の中心に伸ばしかけたフロレルだったが、はたと正気に戻って枕を抱きしめた。

「何をしているのだ。わたくしは……」

 以前より、身体が熱くなるのが早い。
 フロレルは、どんどん熱くなる身体の欲望に耐えきれるかが不安になってくるが、このまま一人で寝台の上にいるわけにはいかないだろうとぼんやりと考える。

 フロレルは、理性を振り絞って、医者の手配を命じるために侍従を呼ぶベルを鳴らした。




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