【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥

文字の大きさ
20 / 53

19.真実を

しおりを挟む


 ボンボン子爵家の馬車を襲ったのは表向きには強盗犯であると発表された。余罪については取り調べ中ということになっているが、騎士団がその背景を捜査しているのは明らかだろう。
 ルネは学園を一週間ほど休んだが、その後は登園し、休んでいた間の学習を図書室でアントワーヌやカミュから教えてもらっていた。
 シャルルは、ルネの様子を可愛いと思いながら見ている。そして、ルネを襲撃した者たちに激しい怒りを抱いていた。
 シャルルは、ルネを傷つけようとした者に必ず報復してやると決心していた。

 愛しいと思うオメガを傷つけようとした者を、アルファは決して許さない。

 シャルルもまた、アルファであるのだから。


◇◇◇


 それは、冬季試験が終了してから数日の後のことだった。
 シャルルは、国王の私室で父親と向かい合っていた。

「父上、フロレルとの婚約を破棄していただきたい!」
「……シャルル、面会を求めてきたと思えば、いきなり何を言うのだ?」
「フロレルは、醜い嫉妬から学園の生徒を害しようとするような邪悪な人間なのです!」
「お前は……」

 戸惑う国王を説得しなければならないと、シャルルは声に力を込めた。

「とにかく、フロレルの非道を聞いてください!」

 シャルルはフロレルが自分の友人であるルネを害したと国王に訴えた。そして、そんな邪悪な人間は王家に相応しくないと。
 国王も、学園にいるオメガの子爵令息にシャルルが執心しているのは知っている。しかし、あくまで友人関係以上には進展していないようであるし、そのまま傍観していたのだ。
 若気の至りであろうし、一線を越えなければ問題はないだろうと思っていた。
 しかし、シャルルから聞かされるのは、まるで愛する者を害された人間の言葉のようだ。

「お前はそれを本気で言っているのか」
「当たり前ではありませんか。とにかくあいつは、無垢で可愛らしい俺の友人を害したのです。あのような者と添うなどとは考えられません!」

 シャルルが、見てもいないフロレルの醜い行動を語る姿を見て、国王は絶望的な気持ちになった。それは、王妃が側妃を謗る時とそっくり同じだったのだ。

『わたくしに嫉妬して意地悪をする卑しいオメガなど、側妃に相応しくありませんわ!』

 その一言を聞いた時から、国王は王妃を遠ざけた。王妃は、側妃が自分に嫉妬するあまりペシェを使って王妃宮の予算を削減したと訴えたのだ。その王妃の言葉は、単なる被害妄想だった。実際には王妃の浪費が度を越していて、予算がたりなくなっただけだったのである。

 国王は自分と面差しの似たシャルルを可愛がっていた。だから、ジョゼフに無理を言った。ジョゼフが可愛がっている一人息子のフロレルに婚約者となることを命じた。そしてショコラ公爵家の後ろ盾により、シャルルが立太子できるようにと考えていた。
 それがどうだろう。
 期待していたシャルルは、国王が疎んでいる王妃そっくりになってしまったのだ。

 王妃と同じ振る舞いをするのであれば……

「わかった。お前がそれほどまでにフロレルを受け入れられないというのならば……」
「ありがとうございます! 父上!」
「しかし、すぐにというわけにはいかぬ。いろいろと手続きがあるからな」
「わかりました!」

 話が終わったとばかりに、王族らしからぬ満面の笑みを浮かべて去っていくシャルルの背に、国王は声をかけた。

「シャルル、ほんの一年ほど前までの其方は、フロレルと支え合っていたように見えていたのだが」

 国王の声に振り向いたシャルルは少し首を傾げて、その問いに答えた。

「フロレルは、変わってしまったのです」

 その一言を返してシャルルが出て行った扉の方に視線を向けながら国王はため息を吐いた。

 国王は、王の影からフロレルが清廉で誠実な行動をとっていることを聞いている。フロレルがルネを害したというようなことは、シャルルの思い込みにすぎない。しかしシャルルは、自分には真実を確認する手立てがあるということにすら気づいていないようだ。
 王妃の言葉に惑わされているようにも思えるが、もしそうであったとしても、十八歳にもなる王族の行動ではない。

 あれは、王の器ではない。
 国王はそう判断する。

 そして、敢えて聞かなかったが、ショコラ公爵家の後ろ盾がなくなることをシャルルは理解していないのではないかと国王は考える。

「さて、変わってしまったのはどちらなのだろうな……」

 国王は誰にも聞こえない声で小さく呟くと、背を伸ばし側にいる侍従に命じる。

「ペシェ宰相を呼んで参れ」


◇◇◇


「アントワーヌ、お前に調べてほしいことがある」
「シャルル殿下、何でございましょう」

 図書室で学習会をした後、シャルルはアントワーヌだけを呼び止めて話を始めた。

「ルネが学園内で虐めを受けているという件だ。それと、暴漢に襲撃されたことについて……」
「殿下、学園内のことは学園長に、暴漢の件につきましては騎士団に任せるべきだと思いますが」
「信用できんのだ」
「殿下、それは……」

 シャルルは、情報がショコラ公爵家によって操作されているのではないかという疑いを持っている。学園内の虐めも暴漢の襲撃の件も、犯人がフロレルだと思っているからだ。
 それなのに、学園も騎士団もフロレルが犯人だと言わない。
 シャルルはそれにより、ひどい焦燥感に駆られていた。
 だから、自分の側近を使うことにした。
 ショコラ公爵家がいくら隠蔽しようとしても、その家の者であれば真実にたどり着くことができるだろうと。
 ショコラ公爵家の継嗣であるアントワーヌ。自分に忠誠を誓う優秀な側近。

「殿下、承知いたしました。真実をお示しいたしましょう」

 シャルルの意図を悟ったアントワーヌは、胸に手を当てて恭しく答える。

 そう、どのようなものであっても、真実を。
 誰に何を命じたのかわかっていない王子様に示すのだと。

 アントワーヌはこれからの展開を思い描いて、唇の両端を吊り上げた。



しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

公爵家令息と幼馴染の王子の秘め事 ~禁じられても溺愛は止められない~

すえつむ はな
BL
代々王家を支える公爵家の嫡男として生まれたエドウィンは、次代の王となるアルバート王太子の話し相手として出会い、幼い頃から仲の良い友人として成長した。 いつしかエドウィンの、そしてアルバートの中には、お互いに友人としてだけでない感情が生まれていたが、この国では同性愛は禁忌とされていて、口に出すことすら出来ない。 しかもアルバートの婚約者はでエドウィンの妹のメアリーである…… 正直に恋心を伝えられない二人の関係は、次第にこじれていくのだった。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います

卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。 ◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。

死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい
BL
オリジナル小説を書いているのですが長くてモチベーションの維持が難しく、作成途中のものを公開して更新しようと考えています。もしご興味がありましたらう応援してくださると嬉しいです。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ノーマルの俺を勝手に婚約者に据えた皇子の婚約破棄イベントを全力で回避する話。

Q矢(Q.➽)
BL
近未来日本のようでもあり、中世の西洋のようでもある世界。 皇国と貴族と魔力が存在する世界。 「誰が皇子と婚約したいなんて言った。」 過去に戻った主人公が、自分の死を回避したいが故に先回りして色々頑張れば頑張るほど執着されてしまう話。 同性婚は普通の世界。 逃げ切れるかどうかは頑張り次第。 ※ 生温い目で優しく暇潰し程度にご覧下さい。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

処理中です...