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19.真実を
しおりを挟むボンボン子爵家の馬車を襲ったのは表向きには強盗犯であると発表された。余罪については取り調べ中ということになっているが、騎士団がその背景を捜査しているのは明らかだろう。
ルネは学園を一週間ほど休んだが、その後は登園し、休んでいた間の学習を図書室でアントワーヌやカミュから教えてもらっていた。
シャルルは、ルネの様子を可愛いと思いながら見ている。そして、ルネを襲撃した者たちに激しい怒りを抱いていた。
シャルルは、ルネを傷つけようとした者に必ず報復してやると決心していた。
愛しいと思うオメガを傷つけようとした者を、アルファは決して許さない。
シャルルもまた、アルファであるのだから。
◇◇◇
それは、冬季試験が終了してから数日の後のことだった。
シャルルは、国王の私室で父親と向かい合っていた。
「父上、フロレルとの婚約を破棄していただきたい!」
「……シャルル、面会を求めてきたと思えば、いきなり何を言うのだ?」
「フロレルは、醜い嫉妬から学園の生徒を害しようとするような邪悪な人間なのです!」
「お前は……」
戸惑う国王を説得しなければならないと、シャルルは声に力を込めた。
「とにかく、フロレルの非道を聞いてください!」
シャルルはフロレルが自分の友人であるルネを害したと国王に訴えた。そして、そんな邪悪な人間は王家に相応しくないと。
国王も、学園にいるオメガの子爵令息にシャルルが執心しているのは知っている。しかし、あくまで友人関係以上には進展していないようであるし、そのまま傍観していたのだ。
若気の至りであろうし、一線を越えなければ問題はないだろうと思っていた。
しかし、シャルルから聞かされるのは、まるで愛する者を害された人間の言葉のようだ。
「お前はそれを本気で言っているのか」
「当たり前ではありませんか。とにかくあいつは、無垢で可愛らしい俺の友人を害したのです。あのような者と添うなどとは考えられません!」
シャルルが、見てもいないフロレルの醜い行動を語る姿を見て、国王は絶望的な気持ちになった。それは、王妃が側妃を謗る時とそっくり同じだったのだ。
『わたくしに嫉妬して意地悪をする卑しいオメガなど、側妃に相応しくありませんわ!』
その一言を聞いた時から、国王は王妃を遠ざけた。王妃は、側妃が自分に嫉妬するあまりペシェを使って王妃宮の予算を削減したと訴えたのだ。その王妃の言葉は、単なる被害妄想だった。実際には王妃の浪費が度を越していて、予算がたりなくなっただけだったのである。
国王は自分と面差しの似たシャルルを可愛がっていた。だから、ジョゼフに無理を言った。ジョゼフが可愛がっている一人息子のフロレルに婚約者となることを命じた。そしてショコラ公爵家の後ろ盾により、シャルルが立太子できるようにと考えていた。
それがどうだろう。
期待していたシャルルは、国王が疎んでいる王妃そっくりになってしまったのだ。
王妃と同じ振る舞いをするのであれば……
「わかった。お前がそれほどまでにフロレルを受け入れられないというのならば……」
「ありがとうございます! 父上!」
「しかし、すぐにというわけにはいかぬ。いろいろと手続きがあるからな」
「わかりました!」
話が終わったとばかりに、王族らしからぬ満面の笑みを浮かべて去っていくシャルルの背に、国王は声をかけた。
「シャルル、ほんの一年ほど前までの其方は、フロレルと支え合っていたように見えていたのだが」
国王の声に振り向いたシャルルは少し首を傾げて、その問いに答えた。
「フロレルは、変わってしまったのです」
その一言を返してシャルルが出て行った扉の方に視線を向けながら国王はため息を吐いた。
国王は、王の影からフロレルが清廉で誠実な行動をとっていることを聞いている。フロレルがルネを害したというようなことは、シャルルの思い込みにすぎない。しかしシャルルは、自分には真実を確認する手立てがあるということにすら気づいていないようだ。
王妃の言葉に惑わされているようにも思えるが、もしそうであったとしても、十八歳にもなる王族の行動ではない。
あれは、王の器ではない。
国王はそう判断する。
そして、敢えて聞かなかったが、ショコラ公爵家の後ろ盾がなくなることをシャルルは理解していないのではないかと国王は考える。
「さて、変わってしまったのはどちらなのだろうな……」
国王は誰にも聞こえない声で小さく呟くと、背を伸ばし側にいる侍従に命じる。
「ペシェ宰相を呼んで参れ」
◇◇◇
「アントワーヌ、お前に調べてほしいことがある」
「シャルル殿下、何でございましょう」
図書室で学習会をした後、シャルルはアントワーヌだけを呼び止めて話を始めた。
「ルネが学園内で虐めを受けているという件だ。それと、暴漢に襲撃されたことについて……」
「殿下、学園内のことは学園長に、暴漢の件につきましては騎士団に任せるべきだと思いますが」
「信用できんのだ」
「殿下、それは……」
シャルルは、情報がショコラ公爵家によって操作されているのではないかという疑いを持っている。学園内の虐めも暴漢の襲撃の件も、犯人がフロレルだと思っているからだ。
それなのに、学園も騎士団もフロレルが犯人だと言わない。
シャルルはそれにより、ひどい焦燥感に駆られていた。
だから、自分の側近を使うことにした。
ショコラ公爵家がいくら隠蔽しようとしても、その家の者であれば真実にたどり着くことができるだろうと。
ショコラ公爵家の継嗣であるアントワーヌ。自分に忠誠を誓う優秀な側近。
「殿下、承知いたしました。真実をお示しいたしましょう」
シャルルの意図を悟ったアントワーヌは、胸に手を当てて恭しく答える。
そう、どのようなものであっても、真実を。
誰に何を命じたのかわかっていない王子様に示すのだと。
アントワーヌはこれからの展開を思い描いて、唇の両端を吊り上げた。
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