【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥

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22.断罪される

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 フロレルはシャルルに対峙して立つ。その凛とした姿は、周囲から賞賛を受けこそすれ蔑まれるようなものではない。
 シャルルの隣には戸惑うように目を潤ませるルネがいる。そして、シャルルの後ろにはアントワーヌとカミュ、ジャックが控えるように立っていた。
 既にフロレルとシャルルの婚約は白紙となっている。卒業式が終わってから周知されるはずなので、この場にいるのはそのことを知らぬ者がほとんどだろう。

 しかし、シャルルは当事者なのである。

 果たして、シャルルはそれを知っていてこのような行動に出たのか、それとも知らずにこのような行動に出たのか。

 フロレルにはシャルルの行動が理解できない。

 フロレルが来賓として訪れている国王と王妃の顔を見やると、国王は全くの無表情になっており、王妃は笑みを浮かべている。
 表情を見る限り、王妃はこの状況を楽しんでいるようだ。
 ジョゼフは卒業パーティーが始まった時から楽しそうにしていて、今でもその表情は変わっていない。
 周囲の状況から、フロレルは瞬時にこの場で最も望ましい行動を考える。
 この場の主役は国王や王妃ではない。卒業生一人ひとりなのだから、それを考慮した行動をすべきだと。
 そして、みなが楽しんでいる卒業パーティーを騒がせるべきではないと判断したフロレルは、早急にこの場を立ち去ることを選ぶことにした。

「殿下とわたくしの婚約がなくなります件につきましては、承知いたしました。では、御前失礼いたします」

 フロレルは表情を消したまま、真実に近い言葉を選んでシャルルの宣言に答える。既に婚約は既に白紙になっているのだから『破棄』という言葉に同調する必要はない。そして礼を取ったフロレルは踵を返し、ホールから去ろうとしたのだが。

「フロレル、待てっ! 話は終わっておらぬぞ!」

 シャルルが大きな声でフロレルを呼び止めた。フロレルはゆっくりと振り返り、憎々し気に自分を見つめるシャルルの顔をみてから、ルネに目を向けた。フロレルと目が合ったルネは、ふるりと身体を震わせ、今にもこぼれんばかりの涙をその瞳に湛えている。

 このようなことに巻き込まれて、可哀想なことだ。

 フロレルは、平民から子爵令息になってしまったばかりに王族と公爵家の婚約の話に巻き込まれてしまったルネに、哀れみの感情を持った。
 そのようなことを知らぬシャルルは、ルネの肩を抱き、微笑をその可愛らしい、哀れな青年に向けていた。

「俺が守ってやるから安心せよ」
「シャルル様……」

 フロレルは目の前で繰り広げられている勘違い劇にため息を吐きながら、再び言葉を発する。

「第一王子殿下。まだ、わたくしに何かお話がおありなのでしたら、別室でお伺いしとうございます。ただ今この場では、みなの楽しい卒業パーティーが行われておりますのでそれを台無しにするのは……」
「黙れ! お前の悪辣な行為をみなに知らしめるには、卒業パーティーという場はむしろ好都合である! お前のルネに対する暴力と殺人未遂を、この場で断罪してやるから覚悟しろ!」
「第一王子殿下、何を……?」

 衝撃的なシャルルの発言に、ホールの空気がざわりと揺れる。そして、流石のフロレルも驚きのあまり、ぱたぱたと瞬きを繰り返す。

 暴力と殺人未遂。

 フロレルには全く身に覚えのないことだ。しかし……、王命が白紙撤回になったことに、それは関係があるのかもしれない。
 シャルルとの婚約が白紙になった理由を、王命が白紙になるほどの何があったのかをアントワーヌに聞いておかなかったフロレルは後悔するが、今はこの場をどう納めるかを考えるのが先だ。

 フロレルは冷静だった。

 ところで、国王も王妃も臨席している場でのシャルルの暴挙である。
誰もこれを止めないのだろうか?
 疑問に思ったフロレルが再び来賓の方を見ると、国王は王らしからぬ青い顔をしており、それとは対照的に王妃は喜悦の表情を浮かべている。
 そしてジョゼフは、フロレルと目が合うと唇の両端を少し上げた。
 国王も王妃も、そして自分の父であるジョゼフも、シャルルを止める気はないらしい。周囲の様子を見てそう判断したフロレルは、自分の力でこの場を乗り切らねばならぬのだという諦念を持った。そしてフロレルは、シャルルと対峙すべく腹を括った。

「フロレル! お前は俺に可愛がられているルネに嫉妬するあまり、取り巻きを使って学園内でルネに陰湿な悪口を繰り返し、挙句には直接暴力を振るったな! その場には俺もいたのだから誤魔化せんぞ! そのうえ、ルネの馬車を暴漢に襲わせて殺そうと計画しただろう!」
「そのようなこと、身に覚えがございません」

 シャルルの中では、フロレルが馬車止めに向かう廊下で気分が悪くなったルネを助けたことが暴力をふるったことになり、身に覚えのない暴漢の襲撃もフロレルが計画したことになっている。

 そのような冤罪をかけられてはたまらない。

 フロレルは、シャルルの言葉を毅然として否定した。

「フロレル! お前がしらばっくれて誤魔化そうとするのはわかっていた。おおかたショコラ公爵家の力があれば隠し通せると思ったのだろうが、アントワーヌは俺の側近だ。俺のために真実を調査してくれたぞ! アントワーヌ、真実をここで話してやれ!」
「かしこまりました」

 アントワーヌは一歩前に出ると、さり気なくルネをシャルルから引き離してカミュとジャックに預けた。そしてアントワーヌは、内ポケットから書類のようなものを取り出すと、フロレルを見つめた。

「アントワーヌ……?」

 フロレルが金色の瞳でその濃い青い瞳を見つめて名前を呟く。その声を聞いたアントワーヌは、ふわりと微笑を浮かべた。それは、周囲の者たちが戸惑うほどに、状況にそぐわない楽し気で美しい笑顔だった。


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