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33.『狩』の獲物が少なくて残念でした
しおりを挟む森の中を皆で歩いていく。魔法学校の実地演習では人が拓いた道を行くのだが、腕に自信のある者が『狩』を行う時には、けもの道を通る。
ラインハルト様はロルバッハ魔法騎士団長と話しながら歩いていらっしゃるので、僕とマルティン様はその後ろへ続く。
実地演習の時と変わらず飛び出してくるコカトリスは、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息がざくざくと切り捨てていく。今日の魔法騎士団は、コカトリスの肉を回収するつもりで参加しているので、道の端に固めていく必要はない。
魔法騎士が所々で魔素を計測しているが、場所によってムラがあるものの、王都近くで人間が多くいる場所としては濃いという。
最近は、魔獣の凶暴化の調査のため、騎士団と魔法騎士団、魔術師団が魔素の計測と大規模な魔獣の捕獲を行っているのだが、魔獣は減っていない。
この世界には『定期的に魔獣が増え、聖なる神子が世界を浄化して救う』などという伝説はない。『光の神子は星降る夜に恋をする』とは似ているけど、違う世界なのだろうかと考えてしまう。
シモンを見ていると、主人公らしい輝きがあるという感じがするのだけれど、この世界の背景と……ラインハルト様の態度が違いすぎる。
最初に光魔法が発現したとき、シモンは魔獣を手懐けることができると思っていた。彼の知っている物語がそうだったのだろう。
それが今の、魔獣凶暴化を解決する鍵かもしれないと思うともどかしい。
そのようなことを考えながら歩いていると、前方が何やらあわただしい様子になった。
「大物のコカトリスが出たぞ! 戦闘態勢に入れ!」
先陣を切っている部隊の魔法騎士が指示を出している声が、聞こえる。
ギエエエエエエエエエエッ!
前方を見ると、馬ほどの大きさのコカトリスが雄たけびを上げていた。実地演習の時のヘルハウンドのときと同様、その足元では、先ほどから狩っていた通常の大きさのコカトリスが群れを成すように飛び跳ねている。コカトリスが群れるのは幼獣のうちだけだ。
どうしてこのようにおかしなことになっているのか。
「この獲物、ローレンツ・フォン・ケーニヒにくださいっ!」
「いや、ゲレオン・フォン・ハッセンにっ!」
名乗りを上げながら、ビュッセル侯爵令息がレイピアを、ヴァネルハー辺境伯令息が長剣を携えて獲物にかかる。
「二人で、協力をしてみなさいっ」
ロルバッハ魔法騎士団長から二人に声がかかる。それ以外にも魔法騎士に指示を出して、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息の支援をさせている。
コカトリス自体はそれほど強い魔獣でもないが、大きくなったことによってどれぐらい凶暴化しているのかが気になるところである。
ラインハルト様は、通常の大きさのコカトリスをバサバサと切り捨てている。美しい太刀筋を、ゆっくりと見ることができないのが残念だ。そして、当然マルティン様と僕も、ラインハルト様を防御できるようにしながらコカトリスを捌いた。今日はディートフリート様がいらっしゃらないので、いざとなれば、防御壁は僕が構築しなければならない。
本当は、魔獣は他の方々にお任せして、ラインハルト様の防御だけを考えたい。
ラインハルト様の安全を考えるのであれば……!
ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は、魔法騎士からの支援もあり、危なげなくコカトリスを討伐した。今回は、周囲のコカトリスは大物が倒されると、森の中へ逃げ込んでしまった。
どうやら、同じようなことになるわけではないらしい。
「いやあ素晴らしい討伐だった。二人とも、優秀だね」
ロルバッハ魔法騎士団長は満足気な笑顔を浮かべて、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息を称えた。
その後は大した獲物に巡り合わなかったのだが、有能な下級生の討伐を見ることができたのは収穫だったと言えるだろう。
それに、ロルバッハ魔法騎士団長が率いているときの魔法騎士団の動き方も、勉強になった。ヒムメル侯爵領では、騎士も魔法騎士も魔術師もすべて我が領の私兵となる。
ただ、僕の狩の様子をロルバッハ魔法騎士団長からご指導いただけなかったことは、残念だ。
「俺は、ヒムメル侯爵令息の討伐も拝見したかったです」
「僕もです。疑似魔獣を仕留めたところしか見ていません。ヘルハウンドの時はすごかったと聞きました」
「そうでしたか。今回は獲物があまり出ませんでしたからね」
「また、皆で『狩』に行けばよいのではないか? ローレンツにもゲレオンにも声をかけてやれば良いだろう」
ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は、僕が戦っているところを見たかったようだ。そんな話をしていると、ラインハルト様が横手から、ご提案くださった。
「本当でございますか?」
「ありがたき幸せにございます!」
「絶対に行けるという約束ではないからな。機会があればということだ」
「お忙しいのですから、わかっております!」
二人は大喜びでラインハルト様にお礼を言っている。
「ラインハルト様、よろしいのですか? そのような時間がとれますでしょうか」
「大丈夫だ、調査の時に少しばかり協力してもらえるかもしれないからね」
そういうことなら、わからなくはない。二人は優秀だ。
「ビュッセル侯爵にもヴァルネハー辺境伯にも話を通しておく。ラファエルは心配しなくて良いよ」
ラインハルト様はそう言うと、僕を抱き寄せて額にキスをされた。僕も頬にキスを返す。
「ああー本当に仲がよろしくていらっしゃる」「目の毒というか眼福というか……」
何やら魔法騎士たちが話しているが、今日の反省会でもされているのだろうか?
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