【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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51.お茶会に供される三種のベリータルトは美味しいのです

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 結局、ヒムメル侯爵家からは、学校へは教師の管理責任の抗議を行い、レヒナー男爵家とディール子爵家及びヨラ男爵家へは根拠なく中傷したことへの抗議を行った。
 そして、王家からはウーリヒ先生の発言に対する学校の管理責任について問う内容の抗議が行われた。要するに、ウーリヒ先生が、教師の立場でラインハルト様がシモンを寵愛しているなどという風評を広めるというあり得ない暴挙に対する抗議だ。

 それは、教師の行動ではないだろう。

 結果として、ウーリヒ先生はシモンの担当を外されて、副学長他の監視を受けながら授業を行うことになった。
 学校が、人手不足になりそうだ。

 いや、そもそもラインハルト様に限らず、他人の気持ちを勝手に代弁してはいけないのだ。

 ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様がシモンの課題の手伝いをさせられていたのもどうやらウーリヒ先生が独断で指示していたことらしく、それについてはしなくてもよくなった。
 しかし、シモンの待遇については、校内では変わらず一年生としての活動中はヴァネルハー辺境伯令息が付き添い、昼休みや放課後に何かある時は、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様が付き添うということで変わりない。
 シモンの発言を考えれば、そのようなことになるはずがないと思われるのだが、様々な思惑が絡んでそのままになるようだ。

 これも物語補正なのだろうか。

「どうして、ラファエル様に無礼を働いたレヒナー男爵令息が、特別扱いされているのですかっ! はっはあっ……」
「フローリアン様、落ち着いてください」

 フローリアン様は、怒りのあまり、過呼吸になっていらっしゃった。ハンカチを手渡して、呼吸を調整してもらったが、しばらく具合が悪そうだった。
 一般生徒の中にも、不信感を抱く者が出て来ても仕方ないだろう。

 この強制逆ハーレム状態は、いろいろとどうにかしなければならないと思うのだ。なるべく早く。

 シモンの為人は、どうも皆に愛される主人公とは考えにくい。傍若無人で頭の悪い子どものようにしか見えないのだ。
 見た目が可愛らしいから、その部分での人気はあるけれど、誰も自分の伴侶にしたいとは思っていないだろう。ましてや、王族の伴侶になるなどあり得ないぐらいマナーも成績も悪い。

 神子認定がされれば、王族の伴侶にすることはできるかもしれないけれど、あの様子では公務をこなすことはできないだろう。

 シモンにもっと厳しい教育を施さなければ、このシュテルン王国の瑕疵になってしまうのではないか。

 僕が心配することではないかもしれないが。



「学校はなかなかに大変なようじゃのう」

 王子の伴侶教育の後のお茶会で、王妃殿下は笑いながらそうおっしゃった。
 つまり、現在の事態は、まだ笑ってやり過ごさなければならない状況だということだ。僕の精神には、堪えているのだけれども。

「このような状況では、ラインハルト殿下の婚約者としての責務も十分にこなせていないのではないかと思い、申し訳ない気持ちでいっぱいでございます」
「ふむ、ラファエルは相変わらず真面目じゃ。ラインハルトが学校で行っていることは、王族の責任を果たすために、魔法騎士団と魔術師団との協力のもとに現在の状況になっておるのじゃからな。ラファエルが学校内で関われないことは、仕方がない」

 ラインハルト様とその側近に保護して欲しいという要求は、確かにシモンから出たものだ。しかし、そんな要求が他の意図なしに通るわけがない。魔法騎士団長も魔術師団長もシモンが神子であるとは思っていない。しかし、シモンに魔獣を操れる可能性があるなら、それなりに保護をしたり監視をしたりした方が良いと考えているのだ。
 魔法騎士団と魔術師団の一部に、シモンが神子であると考えている者たちがいるが、多数派ではない。彼らは、どうしてこの王国に伝わる神子の概念に合致しないシモンを神子と考えたのだろうか。

 それは、ウーリヒ先生もそうだ。なぜ彼はシモンを神子だと考えているのか。

「あの教師については、監視がつけやすくなった。あれほど一人の生徒に入れ込んでおるのは、異常じゃからのう」

 王妃殿下はそう言うと、美しい微笑を浮かべて香り高い紅茶を口にされた。

「授業は続けていらっしゃるようですが」
「自分がどう思われておるかは、わかっておるじゃろう。これからどう動くかであるな」
「それは、校外ということでございましょうか」
「ふふ。そうじゃな……」

 ウーリヒ先生は、かなり厳しい監視を受けているとは聞いている。しかし、学校外での行動にどの程度の制限が掛かっているのかは、知らない。
 王妃様の話から判断すると、行動制限はないが、一日中監視体制の中にいると考えても良さそうである。
 王都に個人の家を借りているウーリヒ先生は、実家のコンツ伯爵家にもあまり出入りはしていないようだ。どちらかというと、魔術師棟の魔術師のところへ行くことの方が多いと聞いている。もちろん、今となってはそのすべてが監視対象だ。

「ラファエルはどうやら狙われておるようだから、気をつけるようにな」
「かしこまりました」
「そうじゃな。事情聴取できない体にしてしまうのでなければ、どのような攻撃を加えても良いぞ。殺したり、再起不能にせぬよう気をつけよ」
「……かしこまりました」
「ささ、其方の好きなベリーのタルトが減っておらんぞ。もっと食べなさい」
「はい、いただきます」

 食欲がなくなるような話題だったので、菓子を食べるのが止まっていた。
 王妃殿下のお茶会で供される三種のベリータルトは、非常に美味しい。勧められるがままに口に運ぶ。

 その美味しさに浸ることで、僕はひと時、悩ましい事を頭の中から放棄した。




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