【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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52.それはつかの間の平穏でした

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 相変わらずカフェテリアでは、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様とマルティン様がシモンを囲んで昼食をとっていらっしゃる。
 しかし、これまでとは違ってシモンには、魔法騎士団と魔術師団から派遣された護衛がついている。護衛というのは名目で、実際にはシモンの挙動を確認して、本当に魔獣を操ることができるのかどうかを見極めに来ているのだ。
 以前は、ウーリヒ先生がその役割を担っておられた。学校でいち教師が特定の生徒に張り付いているなど、通常ではありえないことだ。しかしながら、シモンが魔獣を操れることに半信半疑な各団が、未だ魔獣の凶暴化が収まらない状況で、怪しい神子候補に人員を割くことができなかったのだ。

 実際にシモンが魔法騎士団で小型の魔獣を扱って確認した時には、操れるものと操れないものがいたらしい。その小型の魔獣は、魔術師棟で実験のために飼育しているものだったそうだ。操れる個体と操れない個体に差があるのではなかろうかと思うのだけれど、それについては詳しく教えてもらってはいない。
 実際に操れる個体があったことと、今回のウーリヒ先生の言動があまりにもシモンに傾倒しておられたことを受けて、魔法騎士団と魔術師団もシモンの監視用の人員を出さなければならなくなったようだ。

 それにしても、操れる個体とそうでない個体がいるのは、どうしてなのか……


「ええー、お勉強、教えてくださいよー」
「それは、担当の先生が指導することになったと聞いている」
「魔法学は、ウーリヒ先生が教えてくれないからっ!」
「それは、フィンク先生が担当してくださるということになっているはずだろうが」
「だってええ! フィンク先生、厳しいから嫌いなんですう!」

 カフェテリアに響き渡るシモンの声に皆が反応している。アルブレヒト様とマルティン様が、シモンに決まりを説いていらっしゃるようだが、聞き入れる様子はない。

 これまでもカフェテリアでは、シモンの相手はアルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様が分担して行われていた。明らかにラインハルト様に近づこうとしているシモンを牽制するために、そうしていたはずだ。それなのに、どうしてラインハルト様がシモンを寵愛しておられるということになるのだろうか。
 シモンは、一生懸命ラインハルト様に向かって話しかけているようだ。しかし、ラインハルト様は穏やかな表情をしていらっしゃるものの、自分からシモンに話しかけることはなさらない。
 だから、シモン自身がラインハルト様から愛されているなどということを言いふらしたとしても、誰も客観的に確認できないのだ。

 そのような噂が大きく広がるのは、意図して拡散している者がいるのだろうと思う。

「おい、レヒナー、誰のことが嫌なんだって?」
「きゃああああっ」

 フィンク先生が、シモンに近づいていかれるのが見える。カフェテリアに入っていらっしゃったことに気づいていなかったシモンは悲鳴を上げた。

「あー、フィンク先生に聞かれたら終わりだね」「あの悲鳴は火に油を注ぎましたわね」「レヒナー男爵令息は魔獣討伐へたくそだからな」「これは頑張るしかないでしょうね」

 皆が、シモンを憐れんでいる声が聞こえる。あのフィンク先生のことを嫌いだと公言するなど、恐るべき所業である。

 まあ、僕は厳しくされたことはないのだけれど。

「おうっ、レヒナー食べ終わってんなら来いっ! 昼休みがあると思うな」
「あああっ! 誰か助けてえええええ!」

 もちろん、誰も助けるはずがない。

 シモンは叫び声の余韻を残しながら、フィンク先生に引きずられるようにしてカフェテリアから出て行った。
 そして、カフェテリアには平穏が訪れる。

 彼一人であれだけ騒がしくできるのだから、たいしたものだ。

 静かになったカフェテリアで、一緒に食事をしていたフローリアン様とブリギッタ様と、食後のお茶をいただこうとした。
 ところが……、離れた座席からこちらをご覧になって微笑んでいらっしゃるラインハルト様と目が合った。あの笑顔は……

「フローリアン様、ブリギッタ様、レヒナー男爵令息が退席されたことですし、殿下方のもとへ参りましょうか」
「はい!」
「ええ、参りましょう」

 お二人は、声を弾ませながらも優雅に立ち上がられた。僕も立ち上がって、ラインハルト様を見て頷いてから、三人そろって皆様の元へ向かった。
 僕たちが近づいたところで、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様も立ち上がられた。

「サロンの方へ移動しましょうか」

 アルブレヒト様がそう言って、ブリギッタ様に手を出された。ディートフリート様も同様にフローリアン様をエスコートして、移動していく。

「ラファエル、わたしたちも行こう」

 ラインハルト様は僕の手をお取りになると、いつものように腰を抱いて歩きだされた。こうしてカフェテリアの中を歩くのは久しぶりのことだ。

 髪に顔をちかづけていらっしゃるのは、やはり匂いを確認なさっているのだろうか。

「ああ、やっぱり眼福ですわね」「仲睦まじくていらっしゃるところを見るとほっとするな」「麗しい……」

 皆が何やら話しているのは、おそらく久しぶりの光景に戸惑っているからだろう。
 


 この日以降、お昼の休憩中は、フィンク先生がシモンの指導をすることになった。つまり、僕たちは以前のようにともにカフェテリアで過ごすことができるようになったのだ。


 それが、つかの間の平穏な日々だったというのは、後になってから思ったことであるが。


 何かが起きるのは、いつもイベントの時。次に開催されるのは、冬至の星祭だ。




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