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53.冬至の星祭が始まります
しおりを挟む冬至の星祭は、シュテルン王国の初代国王の生誕祭でもある。星の名を持つシュテルン王国においては、大変重要な行事となっている。
星祭は、シュテルン王国の年中行事の中で一番大きいものだ。物語の構成として、ここで何もないということはないだろう。
星祭の前日から一週間は学校が休みとなるので、『ヒカミコ』のイベントがあるとすれば、王都内で開催される星祭の行事の中で起きるのだと思われる。
そもそも題名が『光の神子は星降る夜に恋をする』なのだから、この星祭には重要なイベントとして避けて通れない何かがあると予想するのが順当だ。
シモンがあんな様子だったので、間際まで気づかなかったのだけれども。
迂闊だった。
ちょうど冬至にあたる星祭の日、王族は王宮前の広場で初代国王の生誕を寿ぎ、国王が代表して祝賀の挨拶を行う。そののちに、騎士団と魔法騎士団、魔術師団の演武や楽団の演奏が披露される。
これは、一般市民も観覧することができる国家主催の大掛かりな式典だ。
市街も星祭の飾りつけをされ、商店もそのための売り出しをする。星祭当日の夜は各自の家で晩餐をいただき、満天に広がる星を眺めて楽しむ。その翌日から五日間は、露店が並ぶ市街での祭りを楽しむのが通常の流れだ。
僕自身は、星祭当日には王族の婚約者として祝賀の席に並んでいるか、ヒムメル侯爵領にいるかのどちらかの経験しかない。
しかし、王族の婚約者としての務めを果たした後は、ヒムメル侯爵家で晩餐の時を過ごしてきたのだが。イルゼ様も、現在は婚約者の身分であるため、晩餐についてはハーラー公爵家で過ごしていらっしゃる。
星祭の前日から僕は王宮に泊まり込み、夜が明けぬうちから準備を始める。なんといっても、冬至は一年で一番日が短いのだからそれは仕方ないことだろう。
僕が断罪されれば、来年はこれほどの早起きはしなくても良いかもしれないが。その時は、ヒムメル侯爵領にいることができれば良いなと思う。
ヒムメル侯爵領は北に位置するため、星祭の時期は雪に覆われている。しかし、王都に続く街道は魔法で除雪するため、吹雪にならない限り往来に支障があるということはない。
ヒムメル侯爵領都の除雪された市街は、王都ほどではないにしても、華やかに飾り付けられ、領民は祭りを楽しむのだ。
家族で晩餐を済ませた後は、皆で夜空に宝石を散りばめたように輝く星を見たことを思い出す。
王都で見るものとは比較にならぬほどの美しい星空を。
僕は、何年ヒムメル侯爵領の星祭に行っていないのだろうか。
「うむ。揃いの衣装が映えるのう」
「ありがとうございます母上。ラファエル、今日は特に美しいね」
「王妃殿下、ラインハルト殿下、ありがとうございます」
王妃殿下の誉め言葉にラインハルト様は答えながら、僕のことを気にかけてくださる。本当にラインハルト様はお優しい。
星祭用に仕立てられた衣装は、僕とラインハルト様で対になるように作られている。ラインハルト様の衣装は薄い水色で銀の刺繍が施され、僕の衣装は青色で金の刺繍が施されている。
ヘンドリック殿下とイルゼ様の衣装も対になっていて、ヘンドリック殿下の衣装は黒地で若草色の刺繍が施され、イルゼ様のドレスは金色で青い色の刺繍とともに宝石が縫い付けられていて、大変豪華な仕上がりになっている。お二人ともお美しくて、お似合いでいらっしゃる。
そして、王妃殿下とイルゼ様、僕の三人は、星祭の花である寒白菊の花冠を頭に飾る。僕が保護魔法をかけておいたので、式典の間は生花の美しさを保つことができるだろう。
「皆、用意はできたか?」
国王陛下がゆるりと声をかけてくださる。それぞれに諾と返事をするが、昨年までとは違う緊張感がそこにはあった。
国王陛下とヘンドリック殿下、ラインハルト様は長剣を、王妃殿下とイルゼ様はレイピアを、そして僕は長剣とダガーを身につけている。それは、式典に相応しい装飾が施されてはいるが、鞘から抜けば武器として十分な働きをする代物だ。
そして、王家とその婚約者が勢揃いするこの式典は、通常でも厳重な警備のもとで開催される。僕たちが並ぶ演台には、騎士団長と魔法騎士団長、魔術師団長が勢ぞろいして護衛をすることになっている。それは例年通りだ。
しかし、例年と異なり、今年は僕たちも帯剣して式典に参加する。それは、現在の王都近辺での魔獣の凶暴化に、王家としても立ち向かう姿勢をみせるということになっているからだ。
ただしそれは、名目上のことで、本当のところは、もっと切羽詰まった理由による。
僕たちも参加していた魔獣の凶暴化に関する専門チームの調査をもとにして、国防の関係者はこの現象がほぼ人為的なものであろうと推定した。そのため、万全の態勢で星祭を迎えなければならなくなったのだ。
つまり、星祭の式典で王族が襲われる可能性があるということだ。
楽団がファンファーレを奏でて、星祭の開催を告げる。
「さあ、では皆で参るぞ」
国王陛下のお言葉を合図に、僕たちは、明るく開けた演台向かう。まず、王陛下が王妃殿下をエスコートして歩き出された。ヘンドリック殿下とイルゼ様がそれに続かれる。
ラインハルト様は、僕に向かって美しく微笑み、額にキスをされた。
「さあ、愛しいわたしのラファエル、わたしたちも行こう」
「はい、僕の大切なラインハルト殿下」
僕は、ラインハルト様の頬にキスをお返ししてから、正面を向いて姿勢を整えた。
たとえ何があろうと、僕のお役目を果たして見せる。
そう決意しながら僕は、ラインハルト様とともに演台に向かって歩を進めた。
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