【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

文字の大きさ
53 / 86

53.冬至の星祭が始まります

しおりを挟む


 冬至の星祭は、シュテルン王国の初代国王の生誕祭でもある。星の名を持つシュテルン王国においては、大変重要な行事となっている。

 星祭は、シュテルン王国の年中行事の中で一番大きいものだ。物語の構成として、ここで何もないということはないだろう。

 星祭の前日から一週間は学校が休みとなるので、『ヒカミコ』のイベントがあるとすれば、王都内で開催される星祭の行事の中で起きるのだと思われる。

 そもそも題名が『光の神子は星降る夜に恋をする』なのだから、この星祭には重要なイベントとして避けて通れない何かがあると予想するのが順当だ。

 シモンがあんな様子だったので、間際まで気づかなかったのだけれども。

 迂闊だった。

 ちょうど冬至にあたる星祭の日、王族は王宮前の広場で初代国王の生誕を寿ぎ、国王が代表して祝賀の挨拶を行う。そののちに、騎士団と魔法騎士団、魔術師団の演武や楽団の演奏が披露される。

 これは、一般市民も観覧することができる国家主催の大掛かりな式典だ。

 市街も星祭の飾りつけをされ、商店もそのための売り出しをする。星祭当日の夜は各自の家で晩餐をいただき、満天に広がる星を眺めて楽しむ。その翌日から五日間は、露店が並ぶ市街での祭りを楽しむのが通常の流れだ。

 僕自身は、星祭当日には王族の婚約者として祝賀の席に並んでいるか、ヒムメル侯爵領にいるかのどちらかの経験しかない。
 しかし、王族の婚約者としての務めを果たした後は、ヒムメル侯爵家で晩餐の時を過ごしてきたのだが。イルゼ様も、現在は婚約者の身分であるため、晩餐についてはハーラー公爵家で過ごしていらっしゃる。



 星祭の前日から僕は王宮に泊まり込み、夜が明けぬうちから準備を始める。なんといっても、冬至は一年で一番日が短いのだからそれは仕方ないことだろう。

 僕が断罪されれば、来年はこれほどの早起きはしなくても良いかもしれないが。その時は、ヒムメル侯爵領にいることができれば良いなと思う。

 ヒムメル侯爵領は北に位置するため、星祭の時期は雪に覆われている。しかし、王都に続く街道は魔法で除雪するため、吹雪にならない限り往来に支障があるということはない。
 ヒムメル侯爵領都の除雪された市街は、王都ほどではないにしても、華やかに飾り付けられ、領民は祭りを楽しむのだ。
 家族で晩餐を済ませた後は、皆で夜空に宝石を散りばめたように輝く星を見たことを思い出す。
 王都で見るものとは比較にならぬほどの美しい星空を。

 僕は、何年ヒムメル侯爵領の星祭に行っていないのだろうか。


「うむ。揃いの衣装が映えるのう」
「ありがとうございます母上。ラファエル、今日は特に美しいね」
「王妃殿下、ラインハルト殿下、ありがとうございます」

 王妃殿下の誉め言葉にラインハルト様は答えながら、僕のことを気にかけてくださる。本当にラインハルト様はお優しい。
 星祭用に仕立てられた衣装は、僕とラインハルト様で対になるように作られている。ラインハルト様の衣装は薄い水色で銀の刺繍が施され、僕の衣装は青色で金の刺繍が施されている。
 ヘンドリック殿下とイルゼ様の衣装も対になっていて、ヘンドリック殿下の衣装は黒地で若草色の刺繍が施され、イルゼ様のドレスは金色で青い色の刺繍とともに宝石が縫い付けられていて、大変豪華な仕上がりになっている。お二人ともお美しくて、お似合いでいらっしゃる。

 そして、王妃殿下とイルゼ様、僕の三人は、星祭の花である寒白菊の花冠を頭に飾る。僕が保護魔法をかけておいたので、式典の間は生花の美しさを保つことができるだろう。

「皆、用意はできたか?」

 国王陛下がゆるりと声をかけてくださる。それぞれに諾と返事をするが、昨年までとは違う緊張感がそこにはあった。

 国王陛下とヘンドリック殿下、ラインハルト様は長剣を、王妃殿下とイルゼ様はレイピアを、そして僕は長剣とダガーを身につけている。それは、式典に相応しい装飾が施されてはいるが、鞘から抜けば武器として十分な働きをする代物だ。

 そして、王家とその婚約者が勢揃いするこの式典は、通常でも厳重な警備のもとで開催される。僕たちが並ぶ演台には、騎士団長と魔法騎士団長、魔術師団長が勢ぞろいして護衛をすることになっている。それは例年通りだ。
 しかし、例年と異なり、今年は僕たちも帯剣して式典に参加する。それは、現在の王都近辺での魔獣の凶暴化に、王家としても立ち向かう姿勢をみせるということになっているからだ。

 ただしそれは、名目上のことで、本当のところは、もっと切羽詰まった理由による。

 僕たちも参加していた魔獣の凶暴化に関する専門チームの調査をもとにして、国防の関係者はこの現象がほぼ人為的なものであろうと推定した。そのため、万全の態勢で星祭を迎えなければならなくなったのだ。

 つまり、星祭の式典で王族が襲われる可能性があるということだ。


 楽団がファンファーレを奏でて、星祭の開催を告げる。

「さあ、では皆で参るぞ」

 国王陛下のお言葉を合図に、僕たちは、明るく開けた演台向かう。まず、王陛下が王妃殿下をエスコートして歩き出された。ヘンドリック殿下とイルゼ様がそれに続かれる。

 ラインハルト様は、僕に向かって美しく微笑み、額にキスをされた。

「さあ、愛しいわたしのラファエル、わたしたちも行こう」
「はい、僕の大切なラインハルト殿下」

 僕は、ラインハルト様の頬にキスをお返ししてから、正面を向いて姿勢を整えた。

 たとえ何があろうと、僕のお役目を果たして見せる。


 そう決意しながら僕は、ラインハルト様とともに演台に向かって歩を進めた。




しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

処理中です...