【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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63.これも主人公補正なのでしょうか

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 散々な星祭の休暇明けに学校に行こうとすると、屋敷の前には我が家の馬車ではなく、王家の馬車が止まっていた。

「ラファエル、おはよう」
「ラインハルト様、おはようございます」

 ラインハルト様は、僕が玄関から出てくるのをご覧になって馬車から降りてこられた。知らぬこととはいえ、ラインハルト様を馬車の中でお待たせしていたなどとは、とんでもないことである。

「ラインハルト様をお待たせしてしまうなどと……」
「ラファエル、わたしが先触れもなく訪れたのだから気にするのはやめなさい」

 ラインハルト様はそうおっしゃると、僕を抱き寄せて額にキスをなさった。僕も、ラインハルト様の頬にキスをお返しする。
 ラインハルト様は、僕の体調を心配して迎えに来てくださったのだという。本当にお優しくて素晴らしい方でいらっしゃる。

「ラファエルの体調だけが心配なわけではないのだよ。リンドヴルムの毒で倒れてから、何か物思いに沈んでいただろう?」

 なんとラインハルト様は、僕の心の葛藤に気づいていらっしゃったのか。僕の顔は、完璧な無表情だと思っていたのに。油断していた。

「どうして……」
「わたしが、愛するラファエルのことを気にかけないはずがないだろう?
 思っていることを聞きたい気持ちはあるけれど、話したくないのならば話さなくて良い。だけど、いつでも頼っておくれ」

 ラインハルト様は美しく微笑みながらそうおっしゃると、僕を強く抱きしめてくださる。僕の前世の記憶のことなど、どう話せばよいのだろうか。今の僕に、それをラインハルト様に打ち明ける勇気はない。僕は結局何も話すことはなく、ラインハルト様の背に腕を回して抱きつくことしかできなかった。

 王家の馬車で学校に到着すると、アルブレヒト様とブリギッタ様、ディートフリート様とフローリアン様、そしてマルティン様が僕たちを待っていてくださった。錚々たる顔ぶれが馬車止めから校舎へ続く回廊の辺りにいるのだから、一般の生徒にすればいい迷惑ではなかったのかと一瞬思ったものの、周囲の目線は概ね好意的なものだった。

「ああ、ご無事なラファエル様にお会いできてよかった」
「本当に。無敵のラファエル様が倒れたときには、どうなることかと思いました」

 マルティン様とディートフリート様は、僕が王宮前の広場で倒れたところを見ていらっしゃる。お二人とも、僕が無事であるとは聞いていたが、その姿を目にしてようやく安心することができたとおっしゃった。

「ご心配をおかけしてしまいました。この通り回復しておりますので」

 僕は回復の報告をしてから、お見舞いにくださった花やお菓子のお礼を伝えた。

 僕は、以前のようにラインハルト様に腰を抱かれて校内を移動し、ともに行動する。いつもの日常が戻って来たかのように思ってしまいそうだけれど、僕の周りには以前より多い人員の護衛騎士が配置されている。
 ウーリヒ先生が担当していた魔法学の授業は、急遽派遣された魔術師団の魔術師がしてくださっている。ウーリヒ先生は未だに黙秘を貫いているようだ。
 ウーリヒ先生に共犯者がいる可能性があるうちは、僕につけられた護衛騎士が減ることはないだろう。

 そして、シモンは行方不明のままだ。騎士団が捜索しているが、なかなか見つからないという。
 レヒナー男爵はシモンのことをあまり心配していないどころか、このまま見つからなくても良いと思っている節があるそうだ。以前は無邪気で可愛い息子だったのに、最近は傍若無人で常識はずれなことをする厄介な息子に変わってしまったと考えているという。
 シモンは最初から傍若無人で常識外れだったと思うのだけれど、レヒナー男爵にすれば、それすらも可愛い姿に見えていたのだろう。
 やはり、シモンには主人公ならではの可愛らしさがあるようだ。これも、主人公補正の一種なのだろうか。

 解決していないことはあるものの、比較的平和な日々を僕たちは過ごしていた。


 そんなある日。久しぶりに魔獣の凶暴化に関する調査の会議が行われることになり、僕たちは、魔術師団の研究棟に呼び出された。

「凶暴化した魔獣の魔核から検出された魔力は、巧妙に複数の魔力を混ぜて誰のものか検出しにくいようにされていたので解析するのに時間がかかりました」

 ジークフリート様が、魔力解析についての報告を淡々としてくださる。通常はいくつかの魔力を混ぜて魔石などを加工したとしても、個別の魔力を解析することは比較的容易だ。しかし、魔獣の核に仕込まれた魔力は、わかりにくいように念入りに加工されていた。ジークフリート様によると「天才の仕事」らしい。

「その中から、ウーリヒのものが見つかりました。おそらく、魔力を加工した天才はウーリヒ本人でしょう」
「え? そんな……」
「なんだって?」

 シュトール様とオイラー様から、思わずといったような声が出る。感情を抑える訓練をなさっている魔法騎士団と騎士団のエリートにとっても衝撃だったのだろう。
 それは、天才が犯罪者となったということによるものなのか、取り調べ中の犯罪者が天才であったことによるものなのか。
 ウーリヒ先生が逮捕されてから、凶暴化した魔獣の出没報告はなくなっている。従って、ウーリヒ先生がそれに深く関わっているだろうと予想されていたのだが、今回の魔法解析により、それが決定的になったのだ。

「しかし、ウーリヒが一連の事件の主犯だったのかと問われると、未だにわからないといえるでしょうね」
「ああ、そうだな。家宅捜索では何も出てこなかったから余計に怪しい。共犯者がいるのは間違いないと思うのだが、その形跡が追えない」

 ジークフリート様の言葉に、オイラー様が答えるように反応した。
 ウーリヒ先生は、研究と言って何度か王都の外に出かけた記録が残っているものの、魔獣の出没報告と比較すると回数が少ないという。協力者がいたと考えるのが妥当だ。

「魔力解析で出てきた魔力に合致する者がいれば共犯者といえるのでしょうが」

 精神汚染魔法にかかっていた魔法騎士の中にも、魔力が合致する者がいたようだが、彼らは共犯者というよりは洗脳されて利用されていたと考える方が合理的な状態だという。

「ああ、それから、魔力解析で出てきた魔力の中にレヒナー男爵令息のものもありました」

 それを聞いて、僕は声が出なかったし、皆が沈黙した。

 王宮前の広場でのリンドヴルムによる襲撃の際に連れ去られてから行方不明のシモン。


 シモンは、主人公じゃなかったのか? 犯罪者の仲間?

 こんな主人公補正があるのか……?






★★★★★★★★

「花の名の王子、鳥の名の王子」という連載も始めました。お読みくださいましたら幸いです。



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