ラストダンスは僕と

中屋沙鳥

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「お久しぶりです。ブランシャール公爵。秘匿された三男を連れてきてくださってうれしいわ」
「王妃様におかれましては、ご健勝のご様子で何よりです。こちらがエティエンヌです。秘匿されたとは大げさですが、体が弱いので、領地にて過ごさせております」

 父上が自分の姉に慇懃に接しているのも、貴族の習いということであろう。王妃様は、僕の顔を見て、美しい微笑みを浮かべた。

「エティエンヌ、噂通りの美しさね。どうぞ王宮のつる薔薇の観察もしていってちょうだいね」
「エティエンヌ・ド・ブランシャール、お声かけに感謝いたします」

 王妃様が、僕が薔薇の品種改良を目標にしていることをご存じであることに驚く。
 ここでは、僕に満点の答えは望まれていない。平均点で十分なのだ。
 カミーユ殿下がお声をかけてくださったときの微笑ましげな顔と、その後ろに見えるダヴィド兄上の満足げな顔に、領地に引きこもる三男坊の仕事をやり切った気持ちでいっぱいになっていた。
 王族方全員に声をかけていただく必要はない。そもそも、王妃様は、なぜかは知らないけれど僕の顔を見るためにお茶会に呼び出した。ここへ来て声をかけてくださったのは、それに繋がる行動でしかない。そして、このお茶会でパトリック殿下が声をかけることは、その人物に興味があるという意志表示になる。パトリック殿下自身が発言しないことで、婚約者候補や側近候補になる可能性がないことを示すことになるのだ。
 しかし、僕の、いや、その場にいた僕たち全員の予想に反して、パトリック殿下が僕にお声をかけられたのだ。

「わたしが第二王子のパトリックだ。エティエンヌ、王宮の菓子は口に合ったのか?」
「……はい、たいへん美味しゅうございました……が」
「そうか、では、わたしの茶会に招いてやろう。王宮の菓子が沢山食べられるぞ」

 パトリック殿下はにこりと笑うとその淡い青紫色の瞳で、僕の瞳を捉えてそう言ったのだ。
 驚愕のあまり声も出ない僕の返事を待たずに、パトリック殿下は王妃様とカミーユ殿下の後を追うようにして、その場から次へと足を運んだ。
 呆然としたまま、その場に取り残される僕。父上は予想外のことがあったとしても表情に出ないので、何を考えているのかはわからない。とにかく、パトリック殿下のお茶会に誘われたということは、何かしらの候補になる可能性があるということだ。
 そんな馬鹿な。

「父上……僕はどうすればいいのでしょうか」
「わたしが何とかしてやる……」

 貴族らしい曖昧な笑顔を浮かべたまま、父上と僕は小声で話をした。


 結果的に、僕はパトリック殿下のお茶会に行くことになった。つまり、父上に何とかはしてもらえなかったのだ。王妃様もカミーユ殿下も、僕をパトリック殿下の茶会に招くのは難しいと口添えをしてくださったのだ。しかし、パトリック殿下がどうしてもと言って聞かなかったらしいので、父上には文句は言うまい。
 そこで僕は、お茶会で、お側にいるのに相応しい人間ではないと思ってもらえればいいのだと考えた。何をすればいいのかはわからなかったが、そのままで社交性のない人間だということはわかるはずだ。僕が、植物の品種改良にしか興味がない変わり者であることは間違いない。側近としての能力はないということははっきりしている。その辺りを強調するように話題を選び、僕はお茶会に臨んだ。
 王宮のお菓子はやはり美味しかった。

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