ラストダンスは僕と

中屋沙鳥

文字の大きさ
5 / 12

5.

しおりを挟む


 僕は定期的に領地に行く。それは婚約者候補になったときからの約束で、植物の品種改良をするためのものだ。王都の屋敷にも、僕専用の庭園と温室がある。しかし、領地の品種改良の技師と相談して進めなければならないこともあるため、領地に足を運ぶ必要があった。
 僕には、卒業までに……正式な婚約までに品種改良を進めてしまいたいものがあったのだ。


 それは僕たちが三年生になった年のことだった。いつものように領地に行っていた僕が、王都に帰って来ると、世界が変わっていたのだ。


「エティエンヌが睨んでいて怖い! パトリック、助けて!」

 ここは、いつもパトリック殿下とロラン様、マチアス様、そして僕の四人で過ごしている学院のサロンだ。パトリック殿下の腕には、ピンクブロンドの髪にピンク色の瞳を持つ、小柄な女生徒が縋るようにしがみついている。彼女は、女生徒はバルべ男爵の庶子、アンヌ嬢だ。市井で平民として暮らしていたが、珍しい聖魔法の使い手であることがわかり、父親の家であるバルべ男爵家に引き取られた。そして、聖女候補として神殿に保護されるとともに、貴族籍を得たため、この学院に通うことになったのだ。
 アンヌ嬢がパトリック殿下と話をしたいと神官長に伝えたため、神殿から王家にその旨の申し入れがあり、今回は学院のサロンで学生同士として話をすることになった。
 サロンには、いつもの四人以外に、マリー様とブーケ侯爵令嬢エルザ様がいる。そこにアンヌ嬢が参加することになった。マリー様はダヴィド兄上の婚約者であり、エルザ様はロラン様の婚約者である。
アンヌ嬢は「パトリックと側近だけでいいのに」と言っていたらしいが、そうもいかないだろう。たとえ人目があっても、男性ばかりのサロンに、令嬢を招くことはあまりないのである。
 アンヌ嬢は聖魔法に目覚めてから、いくつかの過去視や未来視をしているという。しかし、アンヌ嬢が視たというロラン様やマチアス様の過去は、微妙に違うもので、彼らは苦笑をしながら否定もせずに受け流していた。内容的にもかなり私的なことで、サロンで話題にするようなことではなかいように思われた。
 その話の後で、アンヌ嬢は、僕の顔を見ながら「どうしてエティエンヌの顔に傷がないの? おかしいわ」と言ったのだ。その言葉には驚いたが、アンヌ嬢が視た過去の僕の顔には、魔獣につけられた酷い傷跡があったのだそうだ。
 その言葉に唖然として彼女の顔を見ていたら、いきなり怖いと言われたのである。
 僕はどうしたらよかったのだろうか。
 そして、パトリック殿下を呼び捨てにしているのも理解できないし、他人の、ましてや王族の体に簡単に触れているのは非常に無礼なことである。その様子に僕は唖然となったのだが、とにかく落ち着いてもらおうと声をかけた。

「バルべ男爵令嬢、どうされたのですか?」
「いや、こっちを見ないでよ!」
「神殿騎士殿、バルべ男爵令嬢を落ちつける場所へお連れしてくれ」

 パトリック殿下は、アンヌ嬢が連れてきた神殿騎士に彼女を連れて行くよう指示を出した。神殿騎士はアンヌ嬢をパトリック殿下から引き離し、そのままサロンから連れ出した。

「どうしてあたしが出て行かなきゃならないの? エティエンヌが出て行くんでしょう! あたしを睨んだのよ!」

 アンヌ嬢はそんな言葉を残していった。
 僕は睨んでいません。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

KINGS〜第一王子同士で婚姻しました

Q矢(Q.➽)
BL
国を救う為の同盟婚、絶対条件は、其方の第一王子を此方の第一王子の妃として差し出す事。 それは当初、白い結婚かと思われた…。 共に王位継承者として教育を受けてきた王子同士の婚姻に、果たしてライバル意識以外の何かは生まれるのか。 ザルツ王国第一王子 ルシエル・アレグリフト 長い金髪を後ろで編んでいる。 碧眼 188cm体格はしっかりめの筋肉質 ※えらそう。 レトナス国第一王子 エンドリア・コーネリアス 黒髪ウェーブの短髪 ヘーゼルアイ 185 cm 細身筋肉質 ※ えらそう。 互いの剣となり、盾となった2人の話。 ※異世界ファンタジーで成人年齢は現世とは違いますゆえ、飲酒表現が、とのご指摘はご無用にてお願いいたします。 ※高身長見た目タチタチCP ※※シリアスではございません。 ※※※ざっくり設定なので細かい事はお気になさらず。 手慰みのゆるゆる更新予定なので間開くかもです。

メイクオフ後も愛してくれよ

Q矢(Q.➽)
BL
メイクで綺麗になりたいのは、女の子だけの専売特許じゃないよ。 実は溺愛したいフェチ系イケメン×努力型クールビューティ化粧男子(※男の娘ではありません。) 当て馬も出ます。 息抜き短編、不定期ゆる更新。 ※8月10日本編完結しました。 後日になりますが、とある人物視点からの短い番外編を一話載せる予定です。 ありがとうございました。 追記 8/16番外編後編upにて完結しました。ありがとうございました。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

オメガバースBL小説の主役に内定したが、太ってしまった。

Q矢(Q.➽)
BL
繭原 栢(まゆはら かや)は、BL作品のキャラである。 容姿はそれなりに美しく、でもあと一歩というところで主役になれない栢は、キャラを立てるには外見に変化を持たせるべきだとダイエットを決行。努力の甲斐あって、栢を見初めた字書きからの主役の打診を貰うが…。 ※多分次まで間が空くゆる更新なので、それなりの気持ちでの流し読み推奨。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います

卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。 ◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

処理中です...