9 / 12
9.
しおりを挟む僕が自分の屋敷に帰ったのは卒業式の二日前だ。帰ったら、家には騎士団の副団長と学院長がいた。
「ふむ、予定通りのお帰りですね」
「そうだと思ってはいたのですが」
いったい何のことだろうか。
学院長によると、表沙汰にはなっていないが、二日前にアンヌ嬢が西校舎で暴行されそうになったらしい。アンヌ嬢が、襲ったのは僕だと言っているため、我が家を訪問されたようだ。
まだあるのか。冤罪が。
「バルべ男爵令嬢は、パトリック殿下を奪われたブランシャール公爵子息が自分を恨んで暴行しようとしたのだと言っているのですよ」
学院長はため息を吐きながら、父上と僕にそう言った。
「バルべ男爵令嬢は自分から神殿騎士を撒いていますのでね、状況がいろいろと奇妙なのです」
そう言って騎士団副団長は、首をひねった。
結局、僕に犯行は不可能だということで、騎士団副団長と学院長は帰って行った。
卒業式当日には、何があるのだろうか。
卒業パーティーには国王ご夫妻も来られるはずだ。そこでパトリック殿下の婚約者も発表されるだろう。
その時僕は……
考えるのはやめておこう。
卒業式はつつがなく終了し、卒業パーティーは華やかに開催された。様々な色の薔薇が飾られた学院のホールで、着飾った生徒たちはそれぞれのパートナーとパーティーに参加する。
パトリック殿下が僕のパートナーであるし、ロラン様はエルザ様の手を取っている。マチアス様の婚約者は、来年学院に入学する可愛らしい少年だ。マリー様とダヴィド兄上は安定の関係だ。
ピンク色の可愛いドレスを纏ったアンヌ嬢は、神官長と入場した。聖女候補であるから当然なのだろうが、大層不満げだった。パトリック殿下にパートナーになってくれるようにと強請ったという噂は聞いている。しかし、たとえパトリック殿下がそうしたいと思っていても、国王ご夫妻が参加しているパーティーで、パートナーを変更するなどということはできないのだ。
アンヌ嬢は、誰かと踊ってはパトリック殿下に声をかけに来る。パトリック殿下の腕にしなだれかかり、甘えているのがわかる。僕はパトリック殿下が見える場所でそれを見つめていた。
「では、これで最後のダンスとなります。卒業生のみなさんは、これで学院とはお別れです」
一瞬の静寂の後に、司会の声が会場に響いた。
嬉々として手を出そうとするアンヌ嬢に目もくれず、パトリック殿下はまっすぐこちらに歩いてくる。
そして、僕の目の前に、手が差し出された。
「エティエンヌ、約束通り、最後の1曲はそなたと踊ろう」
「はい、パトリック殿下、ありがとうございます」
僕たちは、手を取り合い、音楽に合わせて足を踏み出した。
世界一、優雅に美しく見えるように僕たちは踊る。パトリック殿下は白地に金の糸で刺繍を施したテールコートを、僕は黒地に薄い青紫色の糸で刺繍を施したテールコートを身に纏っている。
身を寄せて踊る僕たちの周囲には、いつしか踊っている人はいなくなった。
この会場の全ての人たちが、パトリック殿下と僕のダンスに注目しているのを感じた。うっとりとした眼差しの中に、悪意の籠ったものがいくつかある。
その一つはピンク色をしていた。
ターンを決めて、周囲のため息を誘う。
愛する人の腕に抱かれて、僕は夢中になって踊った。
やがて音楽は終わり、僕たちの最後のダンスも終わった。
パトリック殿下が静かに国王ご夫妻の方に向き直り、礼を取った。顔を上げたパトリック殿下の口から郎とした声が響く。
「父上、母上、ここで、わたしの婚約者について、正式に発表したいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、会場の皆が良いというのであれば、許可しよう」
国王陛下の言葉に応じるように割れんばかりの拍手が会場を埋め尽くした。
アンヌ嬢がこちらに駆けて来るのが見える。
なんて嬉しそうな顔をしているのだろうか。僕には許されない感情の発露。人前であからさまな感情を出すことは、僕には許されていない。
僕は貴族らしい曖昧な笑みを浮かべたまま、そこに佇む。
アンヌ嬢の、感情をはっきりと表すところに、惹かれた男子生徒も多くいるのだろう。
「ヴァンロゼ王国第二王子であるわたくし、パトリック・ド・ヴァンローゼは……」
会場は静寂に包まれている。
「エティエンヌ・ド・ブランシャールを正式な婚約者とすることをここに発表します」
336
あなたにおすすめの小説
KINGS〜第一王子同士で婚姻しました
Q矢(Q.➽)
BL
国を救う為の同盟婚、絶対条件は、其方の第一王子を此方の第一王子の妃として差し出す事。
それは当初、白い結婚かと思われた…。
共に王位継承者として教育を受けてきた王子同士の婚姻に、果たしてライバル意識以外の何かは生まれるのか。
ザルツ王国第一王子
ルシエル・アレグリフト
長い金髪を後ろで編んでいる。 碧眼 188cm体格はしっかりめの筋肉質
※えらそう。
レトナス国第一王子
エンドリア・コーネリアス
黒髪ウェーブの短髪 ヘーゼルアイ
185 cm 細身筋肉質
※ えらそう。
互いの剣となり、盾となった2人の話。
※異世界ファンタジーで成人年齢は現世とは違いますゆえ、飲酒表現が、とのご指摘はご無用にてお願いいたします。
※高身長見た目タチタチCP
※※シリアスではございません。
※※※ざっくり設定なので細かい事はお気になさらず。
手慰みのゆるゆる更新予定なので間開くかもです。
メイクオフ後も愛してくれよ
Q矢(Q.➽)
BL
メイクで綺麗になりたいのは、女の子だけの専売特許じゃないよ。
実は溺愛したいフェチ系イケメン×努力型クールビューティ化粧男子(※男の娘ではありません。)
当て馬も出ます。
息抜き短編、不定期ゆる更新。
※8月10日本編完結しました。
後日になりますが、とある人物視点からの短い番外編を一話載せる予定です。
ありがとうございました。
追記 8/16番外編後編upにて完結しました。ありがとうございました。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
オメガバースBL小説の主役に内定したが、太ってしまった。
Q矢(Q.➽)
BL
繭原 栢(まゆはら かや)は、BL作品のキャラである。
容姿はそれなりに美しく、でもあと一歩というところで主役になれない栢は、キャラを立てるには外見に変化を持たせるべきだとダイエットを決行。努力の甲斐あって、栢を見初めた字書きからの主役の打診を貰うが…。
※多分次まで間が空くゆる更新なので、それなりの気持ちでの流し読み推奨。
悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います
卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。
◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる