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しおりを挟むパトリック殿下は僕の手を取り、口付けをした。
「わたしの婚約者になってくれてありがとう」
「僕こそ、パトリック殿下が選んでくださったことを光栄に思います」
再び割れんばかりの拍手が会場を埋め尽くす中に、金切り声が聞こえた。
「何を言ってるの! なんでエティエンヌがパトリックの婚約者になるの! パトリックの婚約者はあたしでしょ?
そんな、みすぼらしい男と政略結婚しなくてもいいじゃない! あたしの方がずっと可愛いのに!
家柄だって心配ないわ。聖女のあたしとなら結婚できるでしょ?」
そう言って僕に飛び掛かろうとしたアンヌ嬢を、まるで予想していたかのように護衛が取り押さえて連れ出した。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます。お幸せに!」
祝福する声が会場に溢れ、アンヌ嬢のことはなかったかのようにパーティーは終了した。アンヌ嬢の取り巻きだった一部の男子生徒が、祝福するでもなく、反発するでもなくぼんやりとしていて、奇妙な感じだったのが気になったけれど。
パーティー会場から連れ出されたアンヌ嬢は錯乱状態で、で落ち着かせるのが大変だったと聞いた。自分がパトリック殿下と結婚しないと、彼が幸せになれないと言って。
どうしてアンヌ嬢はそう思い込んでいるのだろうか。彼女の周囲にあるものは、どれも不思議なぐらい奇妙な感じがする。
アンヌ嬢の幸せというのは何なのか。彼女は何を求めていたのだろうか。
僕を襲ったエルブ子爵子息のことや、狂言であろう暴行事件のこともあり、アンヌ嬢はそのまま神殿に連れて行かれ、騎士団と魔術師団から話を聞かれることになったという。取り調べまではいかないのだろうが、カミーユ殿下や医師も同席してのことだったようだ。
神殿側は、暴行事件があってから、アンヌ嬢の行動に疑いを持つようになった。神殿騎士を撒くというのは、聖女候補にはあってはならないことなのだ。これまでも何度か神殿騎士を撒くことがあったらしいが、注意ですませていたようだ。そのたびに、嫌がらせをされていたと訴えていたようなのに。何度も撒かれる神殿騎士の能力にも、疑問符がつくように思う。
アンヌ嬢は聖魔法に目覚めたときに、様々な人の過去や未来を見たのだと話した。神殿やパトリック殿下のサロンで話したことは断片的なことで、かなりくわしい光景も見ていたとのことだ。
ただし、彼女の見たものは、実際には正確なものではないことは僕たちも知っていることだ。神殿も、今の段階ですでに真実でないとわかっている過去視や未来視であるため、それを語ることは禁じていた。
アンヌ嬢が視た世界では、パトリック殿下は王妃とカミーユ殿下に虐げられて、感情の凍り付いた王子だったそうだ。政略結婚のために婚約を結んだ公爵令息は、顔の傷にコンプレックスがあり、暗くて陰惨な性格の男で、パトリック殿下を束縛している。そこへ、無邪気で美しい聖女が表れてパトリック殿下と恋に落ち、二人は結ばれて幸せになるというものだったそうだ。僕が、王宮のお茶会に行かなければ、或いは領地で魔獣に出会って傷つけられる世界があったのかもしれない。
でもそれは、実際にはなかったことなのだ。
そして、男子生徒がアンヌ嬢のために他者を攻撃していたのは、禁術である魅了魔法を使っていたからだという。 彼女の魅了は、それほど強い力があるものではなく、魔力の強い者や意志の強い者には効果がなかった。また、もともとアンヌ嬢に好意を持っていれば、強く作用したようだ。
パトリック殿下が男子生徒と話さないようにとアンヌ嬢に言ったのは、あの時点で魅了魔法が使われていることのではという疑いを、魔術師団長が持っていたからだった。
アンヌ嬢は聖魔法に目覚めたばかりで、精神的に不安定だったのだろうということになり、神殿での監視の元、修業を行うこととなった。魔法や行動が安定すれば、聖女になるか、男爵令嬢として過ごすかを選ぶことになる。
僕を陥れようとした狂言については、ブランシャール公爵家から正式に神殿に苦情を申し入れて示談とし、一定の賠償を得ることになっている。
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