16 / 33
16話 本当にそうだったのかな?
しおりを挟む
ディグレスさんは屋敷に戻ってきたばかりだというのに、また壁の中の都市へと出発していった。まるでとんぼ返り。
(……私が仕送り渡すの頼んじゃったからかなあ)
もう少し、のんびりしていてもよかっただろうに。ディグレスさんは人間の文化を面白がっているようではあったけれど、慣れ親しんだ住居を離れて一人異文化で生活するには、苦労やストレスもあるだろう。
つい、やっと仕送りを渡せる! とはしゃいでしまったけれど、ディグレスさんにもう少し気を遣うべきだったと後悔する。もちろん、自分のためにディグレスさんが急いで両親の元へ向かっていってくれたことは──嬉しいけれど。
最悪、自分の足であの都市の門まで赴いて、良い顔はされないだろうが、門番になんとかお願いして渡してもらおうと考えていたのだ。パーシー、オルソン、リカルドに念押しはしておいたけれど、はたしてそれが本当に遂行されるかは定かじゃなかった。ディグレスさんになら、安心して頼める。
「……お父さん、お母さん、元気かなあ」
彼ら二人が調子の良い時なんてない。でも、ただ、生きてさえいてくれればと願う。
「……エミリーも、大丈夫かしら……」
ディグレスさんに、「ついでに聖女エミリーの噂があったら教えてください」と言おうか、言わまいか悩んで、結局やめてしまった。ただでさえ、わたしのわがままを聞いてとんぼ返りさせてしまったのだし……。
草原に出て、魔物狩りをしていると、彼女のことをよく思い出す。彼女は今、この草原のどこかに……いいえ、城郭都市の北にある関所を目指すルートを、今もいろんな人を引き連れて頑張っているんだろうか。
魔王さまや、イージスと一緒に狩りをして、屋敷に戻らずその場でキャンプみたいなことをすることがたびたびある。イージスの調理した新鮮な魔物肉はおいしいし、みんなで外でご飯を食べるのはとても楽しいのだけれど、ふと、こういう温かい料理をエミリーは食べられているのかしら、と気にかかる。
ご飯を食べるわたしの手が止まっていると、魔王さまはいつもそれに気がついて、わたしを心配そうに見つめてくださっていた。視線を感じて、俯いた顔を上げると、いつも魔王さまと目が合う。
最初のうちは気まずそうに目を逸らされてしまっていたけど、最近、わたしが頻繁に顔を俯かせるようになってからは、目があった後も魔王さまはそのままじっとわたしを見つめていた。
きれいな青い瞳は、わたしが自分でも気づかないような、心の奥底までも見透かしてきそうでちょっとドキリとするのだけれど、でも、その眼差しはとても温かで、優しかった。
魔王さまは、優しい。……と思う。
本当にこの人が、大昔、人間を侵略しようとして当時の聖女に存在を封印されたのだろうか? と疑問に思ってしまうくらい。
魔族のところに、しかも魔王さまのところに転がり込むなんて、いくらお金に困っているからって、わたしったらどうなっちゃうのかしらと思っていたけれど、魔王さまもイージスも、ディグレスさんも、魔族はみんな優しかった。ちょっと人間とは感覚が違うのかな、と思うことはあっても、この人たちが、少なくともわたしを害そうとするとは、とてもじゃないけれど考えられなかった。
……そういえば。
ふと、わたしは居間でくつろいでいた魔王さまに尋ねた。
「魔物って、魔王さまの配下だったんじゃないんですか?」
「……ああ、そういう時期もあったな」
だけど、草原にいる魔物たちは魔王さまのことも襲ってくる。いわば、雇用主に対する反逆だ。
「今の俺には、コイツらを支配するだけの力がない。いわば、野生の魔物とでもいうべきか」
「今はフリーの魔物……ということですね? 魔物からしたら、自分たちの生存圏を侵されたから、防衛のために襲いかかってくる……んでしょうか?」
「自発的に襲っている、というよりもその方が近いだろうな」
だから、俺にも襲いかかってくるのだと魔王さまは言った。そういう生存本能が強い生き物たち、なのかしら。
「魔物も魔力を糧として生きている。俺が魔王だった頃は、自分の魔力を分け与えることで奴らを従わせる契約をしていたんだが……もうアイツらを制御できるほどの魔力が今の俺にはない」
「……家畜として飼っている魔物もいますよね?」
「ああ。アレが今の俺の精一杯だな」
魔王さまは屋敷の近くに家畜小屋を構えていて、そこに牛や鶏と似た姿の魔物を飼っていた。彼らはおとなしくて人間のわたしが近づいても攻撃してきたりしないいい子たちだ。
あの子たちは魔王さまと魔力で契約しているから大人しいのね。
「魔物が人間を襲うようになったのは、俺が力を失ったからだ」
ぽつりと、魔王さまが口を開く。
「俺の力による支配がなくなり、自由になった魔物が無秩序に人間を襲っているだけだ。とはいえ、魔物からすれば、自分の縄張りをズケズケと荒らされて、自己防衛のために襲っているに過ぎない。別に、魔物に人間を積極的に襲う習性はない」
「魔王さまにも襲いかかってくるくらいですもんね」
わたしが言うと、魔王さまは頷いた。『人間』という種族だから、という理由で人を襲うわけではない、らしい。
「……あの、魔王さまが支配されていた時の魔物って……」
「……わざわざ人間を襲わせるなど、そんな面倒な指示は出していない」
「……」
もしかして、魔王さま。そして、魔物たちって。
(……別に、本当は悪いことってしてきてないんじゃ?)
そんな憶測が、ぽっと胸に湧いてきた。
だからなんだ、どうした、ということもないんだけど、そうだったらいいな、と思う。
でも、もしもそうだったなら、どうしてこの人たちはわたしの国で凶悪な存在として語られてきたんだろう、というのは疑問だけれど。
「……どうした?」
魔族って悪い人たちじゃなかったんじゃないかな、と思って顔をにやつかせたり、なんでその人たちが悪く言われているんだ? と思ってしかめっ面したり、一人で忙しなくコロコロ表情を変えているのを、魔王さまが怪訝な顔で見ていた。
整った眉を下げ、本当に心配そうに顔を覗き込んでくださっている。
「あ、いえ、色々、考えちゃって」
「そうか」
魔王さまは少し目線を彷徨わせて、なんだか難しい顔をされていた。
「……メリア」
逡巡する様子を見せていた魔王さまは、やがて低い声でわたしの名前を呼ぶ。
「……おまえには、言わなくてはならないことがある」
「? はい」
どうしたんだろう、ときょとんと答えてから、わたしはハッとする。
(ままままままま、まさか、クビ!?)
あり得る。だって、ろくな仕事をしてきてないのだ。そのわりにちゃっかり、今月分の給料はしっかりもらってしまった。
クビ、のちの追放かもしれない。
魔王さまに追い出されたら今度こそ、どうやって両親の仕送りのお金を稼げばいいかわからなくなってくる。こうなったら、草原を歩くあくどい商人や違法な傭兵に声をかけて闇社会をズブズブになるしかない! かもしれない。
唾も飲み込めないほど緊張したわたしの顔を魔王さまがじっと見つめる。普段はそんなこと思わないのに、恐怖心から整ったきれいなお顔が今は威圧的に見えてしまう。
「メリア。お前には特別な力がある。だから、これから俺たちがやろうとすることに協力してもらうことになる」
「え……あっ!!! はい! 喜んで!!!」
クビじゃ、なかった!!!
ホッとするあまり、声が大きくなる。顔を輝かせたわたしとは対照的に魔王さまの表情は重々しいままで、わたしは首を傾げる。
「魔王さま?」
「お前は、自分が持っている力の正体を知っているのか?」
「いいえ……。聖女と、呼ばれてましたけど、本当の聖女は他にいましたから……。自分でも、この力が何なのか、サッパリです」
本当は、きっと、『魔力』なんだろうとは思っているけど、でも、なんで自分に『魔力』があるのかはわからない。
魔王さまの青い瞳が窄められる。
「お前は、王の命でここを訪れたわけではないのだよな」
「まさか! だってわたし、王太子殿下直々に国外追放されたんですから!」
「そうか。……いや、そうだったな」
何かを、確認されようとして魔王さまは張り詰めた声でわたしに言った。
わたしが否定すると、こわばった顔をしていた魔王さまは、ようやっと瞳を柔らかく細められて、優しい声をあげた。その声の響きに、わたしもなんだかホッとする。魔王さまの、こういう顔とお声、好きだなあ、と。
「……ディグレスが戻り次第、今後の話をさせてくれ」
魔王さまのオーダーにわたしは「はい」と力強く答えて頷いた。
「──おーい!!! ロイドー! メリアー!!!」
と、ここで、居間にまで響き渡るほどおおきな音を立てて玄関の扉がバン! と開かれ、イージスの大きな声が屋敷中に轟いた。
「なんかさー、落ちててさー! おーい!!!」
「……アイツは。騒々しいな」
「どうしたんでしょうね?」
魔王さまと二人、顔を見合わせて、イージスの声がする玄関まで向かう。
そこで、イージスの片手に握られたソレを見て、わたしはギョッとする。
「コイツ、外に落ちててさぁ。メリアも面白かったじゃん? なんかとりあえず拾ってみたんだけど」
「……イージス。人間を簡単に拾ってくるな……」
尖った犬歯を見せながら大きく笑うイージスに、魔王さまはため息混じりに頭を抱えた。
そう、人間。イージスが拾ってきた……というのは、人間だった。
ただの人間ならわたしもこんなにびっくりはしないんだけど。
「……王太子殿下……?」
わたしを追放した、壁の中の国の王子さまが、イージスに首根っこ掴まれてボロ雑巾のような姿でそこにいた。
(……私が仕送り渡すの頼んじゃったからかなあ)
もう少し、のんびりしていてもよかっただろうに。ディグレスさんは人間の文化を面白がっているようではあったけれど、慣れ親しんだ住居を離れて一人異文化で生活するには、苦労やストレスもあるだろう。
つい、やっと仕送りを渡せる! とはしゃいでしまったけれど、ディグレスさんにもう少し気を遣うべきだったと後悔する。もちろん、自分のためにディグレスさんが急いで両親の元へ向かっていってくれたことは──嬉しいけれど。
最悪、自分の足であの都市の門まで赴いて、良い顔はされないだろうが、門番になんとかお願いして渡してもらおうと考えていたのだ。パーシー、オルソン、リカルドに念押しはしておいたけれど、はたしてそれが本当に遂行されるかは定かじゃなかった。ディグレスさんになら、安心して頼める。
「……お父さん、お母さん、元気かなあ」
彼ら二人が調子の良い時なんてない。でも、ただ、生きてさえいてくれればと願う。
「……エミリーも、大丈夫かしら……」
ディグレスさんに、「ついでに聖女エミリーの噂があったら教えてください」と言おうか、言わまいか悩んで、結局やめてしまった。ただでさえ、わたしのわがままを聞いてとんぼ返りさせてしまったのだし……。
草原に出て、魔物狩りをしていると、彼女のことをよく思い出す。彼女は今、この草原のどこかに……いいえ、城郭都市の北にある関所を目指すルートを、今もいろんな人を引き連れて頑張っているんだろうか。
魔王さまや、イージスと一緒に狩りをして、屋敷に戻らずその場でキャンプみたいなことをすることがたびたびある。イージスの調理した新鮮な魔物肉はおいしいし、みんなで外でご飯を食べるのはとても楽しいのだけれど、ふと、こういう温かい料理をエミリーは食べられているのかしら、と気にかかる。
ご飯を食べるわたしの手が止まっていると、魔王さまはいつもそれに気がついて、わたしを心配そうに見つめてくださっていた。視線を感じて、俯いた顔を上げると、いつも魔王さまと目が合う。
最初のうちは気まずそうに目を逸らされてしまっていたけど、最近、わたしが頻繁に顔を俯かせるようになってからは、目があった後も魔王さまはそのままじっとわたしを見つめていた。
きれいな青い瞳は、わたしが自分でも気づかないような、心の奥底までも見透かしてきそうでちょっとドキリとするのだけれど、でも、その眼差しはとても温かで、優しかった。
魔王さまは、優しい。……と思う。
本当にこの人が、大昔、人間を侵略しようとして当時の聖女に存在を封印されたのだろうか? と疑問に思ってしまうくらい。
魔族のところに、しかも魔王さまのところに転がり込むなんて、いくらお金に困っているからって、わたしったらどうなっちゃうのかしらと思っていたけれど、魔王さまもイージスも、ディグレスさんも、魔族はみんな優しかった。ちょっと人間とは感覚が違うのかな、と思うことはあっても、この人たちが、少なくともわたしを害そうとするとは、とてもじゃないけれど考えられなかった。
……そういえば。
ふと、わたしは居間でくつろいでいた魔王さまに尋ねた。
「魔物って、魔王さまの配下だったんじゃないんですか?」
「……ああ、そういう時期もあったな」
だけど、草原にいる魔物たちは魔王さまのことも襲ってくる。いわば、雇用主に対する反逆だ。
「今の俺には、コイツらを支配するだけの力がない。いわば、野生の魔物とでもいうべきか」
「今はフリーの魔物……ということですね? 魔物からしたら、自分たちの生存圏を侵されたから、防衛のために襲いかかってくる……んでしょうか?」
「自発的に襲っている、というよりもその方が近いだろうな」
だから、俺にも襲いかかってくるのだと魔王さまは言った。そういう生存本能が強い生き物たち、なのかしら。
「魔物も魔力を糧として生きている。俺が魔王だった頃は、自分の魔力を分け与えることで奴らを従わせる契約をしていたんだが……もうアイツらを制御できるほどの魔力が今の俺にはない」
「……家畜として飼っている魔物もいますよね?」
「ああ。アレが今の俺の精一杯だな」
魔王さまは屋敷の近くに家畜小屋を構えていて、そこに牛や鶏と似た姿の魔物を飼っていた。彼らはおとなしくて人間のわたしが近づいても攻撃してきたりしないいい子たちだ。
あの子たちは魔王さまと魔力で契約しているから大人しいのね。
「魔物が人間を襲うようになったのは、俺が力を失ったからだ」
ぽつりと、魔王さまが口を開く。
「俺の力による支配がなくなり、自由になった魔物が無秩序に人間を襲っているだけだ。とはいえ、魔物からすれば、自分の縄張りをズケズケと荒らされて、自己防衛のために襲っているに過ぎない。別に、魔物に人間を積極的に襲う習性はない」
「魔王さまにも襲いかかってくるくらいですもんね」
わたしが言うと、魔王さまは頷いた。『人間』という種族だから、という理由で人を襲うわけではない、らしい。
「……あの、魔王さまが支配されていた時の魔物って……」
「……わざわざ人間を襲わせるなど、そんな面倒な指示は出していない」
「……」
もしかして、魔王さま。そして、魔物たちって。
(……別に、本当は悪いことってしてきてないんじゃ?)
そんな憶測が、ぽっと胸に湧いてきた。
だからなんだ、どうした、ということもないんだけど、そうだったらいいな、と思う。
でも、もしもそうだったなら、どうしてこの人たちはわたしの国で凶悪な存在として語られてきたんだろう、というのは疑問だけれど。
「……どうした?」
魔族って悪い人たちじゃなかったんじゃないかな、と思って顔をにやつかせたり、なんでその人たちが悪く言われているんだ? と思ってしかめっ面したり、一人で忙しなくコロコロ表情を変えているのを、魔王さまが怪訝な顔で見ていた。
整った眉を下げ、本当に心配そうに顔を覗き込んでくださっている。
「あ、いえ、色々、考えちゃって」
「そうか」
魔王さまは少し目線を彷徨わせて、なんだか難しい顔をされていた。
「……メリア」
逡巡する様子を見せていた魔王さまは、やがて低い声でわたしの名前を呼ぶ。
「……おまえには、言わなくてはならないことがある」
「? はい」
どうしたんだろう、ときょとんと答えてから、わたしはハッとする。
(ままままままま、まさか、クビ!?)
あり得る。だって、ろくな仕事をしてきてないのだ。そのわりにちゃっかり、今月分の給料はしっかりもらってしまった。
クビ、のちの追放かもしれない。
魔王さまに追い出されたら今度こそ、どうやって両親の仕送りのお金を稼げばいいかわからなくなってくる。こうなったら、草原を歩くあくどい商人や違法な傭兵に声をかけて闇社会をズブズブになるしかない! かもしれない。
唾も飲み込めないほど緊張したわたしの顔を魔王さまがじっと見つめる。普段はそんなこと思わないのに、恐怖心から整ったきれいなお顔が今は威圧的に見えてしまう。
「メリア。お前には特別な力がある。だから、これから俺たちがやろうとすることに協力してもらうことになる」
「え……あっ!!! はい! 喜んで!!!」
クビじゃ、なかった!!!
ホッとするあまり、声が大きくなる。顔を輝かせたわたしとは対照的に魔王さまの表情は重々しいままで、わたしは首を傾げる。
「魔王さま?」
「お前は、自分が持っている力の正体を知っているのか?」
「いいえ……。聖女と、呼ばれてましたけど、本当の聖女は他にいましたから……。自分でも、この力が何なのか、サッパリです」
本当は、きっと、『魔力』なんだろうとは思っているけど、でも、なんで自分に『魔力』があるのかはわからない。
魔王さまの青い瞳が窄められる。
「お前は、王の命でここを訪れたわけではないのだよな」
「まさか! だってわたし、王太子殿下直々に国外追放されたんですから!」
「そうか。……いや、そうだったな」
何かを、確認されようとして魔王さまは張り詰めた声でわたしに言った。
わたしが否定すると、こわばった顔をしていた魔王さまは、ようやっと瞳を柔らかく細められて、優しい声をあげた。その声の響きに、わたしもなんだかホッとする。魔王さまの、こういう顔とお声、好きだなあ、と。
「……ディグレスが戻り次第、今後の話をさせてくれ」
魔王さまのオーダーにわたしは「はい」と力強く答えて頷いた。
「──おーい!!! ロイドー! メリアー!!!」
と、ここで、居間にまで響き渡るほどおおきな音を立てて玄関の扉がバン! と開かれ、イージスの大きな声が屋敷中に轟いた。
「なんかさー、落ちててさー! おーい!!!」
「……アイツは。騒々しいな」
「どうしたんでしょうね?」
魔王さまと二人、顔を見合わせて、イージスの声がする玄関まで向かう。
そこで、イージスの片手に握られたソレを見て、わたしはギョッとする。
「コイツ、外に落ちててさぁ。メリアも面白かったじゃん? なんかとりあえず拾ってみたんだけど」
「……イージス。人間を簡単に拾ってくるな……」
尖った犬歯を見せながら大きく笑うイージスに、魔王さまはため息混じりに頭を抱えた。
そう、人間。イージスが拾ってきた……というのは、人間だった。
ただの人間ならわたしもこんなにびっくりはしないんだけど。
「……王太子殿下……?」
わたしを追放した、壁の中の国の王子さまが、イージスに首根っこ掴まれてボロ雑巾のような姿でそこにいた。
2
あなたにおすすめの小説
幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね
柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』
王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――
「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?
今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。
しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。
その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。
一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです
木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
「君の代わりはいくらでもいる」と言われたので、聖女をやめました。それで国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
聖女であるルルメアは、王国に辟易としていた。
国王も王子達も、部下を道具としか思っておらず、自国を発展させるために苛烈な業務を強いてくる王国に、彼女は疲れ果てていたのだ。
ある時、ルルメアは自身の直接の上司である第三王子に抗議することにした。
しかし、王子から返って来たのは、「嫌ならやめてもらっていい。君の代わりはいくらでもいる」という返答だけだ。
その言葉を聞いた時、ルルメアの中で何かの糸が切れた。
「それなら、やめさせてもらいます」それだけいって、彼女は王城を後にしたのだ。
その後、ルルメアは王国を出て行くことにした。これ以上、この悪辣な国にいても無駄だと思ったからだ。
こうして、ルルメアは隣国に移るのだった。
ルルメアが隣国に移ってからしばらくして、彼女の元にある知らせが届いた。
それは、彼の王国が自分がいなくなったことで、大変なことになっているという知らせである。
しかし、そんな知らせを受けても、彼女の心は動かなかった。自分には、関係がない。ルルメアは、そう結論付けるのだった。
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる