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17話 落ちてた王子①
なぜ、あの王子がここに? しかもこんなボロボロの格好で。
意味がわからない。頭には疑問符が乱舞していた。
「メリア、知り合いか? コイツ、人間だよな?」
「う、うん。まあ……」
「でも、メリアと違って別にそばにいても元気にはなんねーな。メリアが特別?」
「……イージス」
大きく首を傾げるイージスを諌めるように、魔王さまは目つきを鋭くさせる。
「えーと、生きて……る?」
「うん、脈もあるし息してるし、あったかいよ」
イージスがポン、と王子の身体を投げ出す。扱いが雑だ。ゴロンと床に転がった王子を、魔王さまの陰に隠れながら恐る恐る覗き込む。上等な設えの衣服は見る影もなく、泥と埃に塗れている。サラサラのブロンドヘアも、いまやゴワゴワのモップのよう。
「この人以外には誰もいなかった?」
「いなかった。すっげえ悲鳴が聞こえてきてさ。なんだなんだ、って見に行ったらコイツがいてさ。そんで、オレの顔見るなり失神したんだ」
「……で、担いで帰ってきたと」
「うん。メリアがおもしれー奴だったし。人間ってなんかなんつーの? いいのかな、って」
あまりにも雑、大雑把なイージスの認識にわたしも魔王さまとおそろいで頭を抱える。
どうしよう、元の場所に返す……ってわけにもいかないし。そもそも、元の場所って、イージスが発見した草原? それとも、王宮? ……草原にまた転がしといたら絶対死ぬよなあ。わたしにとって嫌な人でも、死ぬとわかって放り出すのは抵抗がある。
(まあ、わたしは普通の人なら死ぬはずのそこに、この人に追放されていったんですけどね!!!)
心のうちで毒を吐くくらいは善良な一市民としても、許されたい。代わりに善良なので、やられたからって、そのままやり返す根性は持ち合わせていないので。毒吐くくらいは許されたい。
うーん。なんで、腐っても王子さまが一人で草原なんかにいたのはまるで意味がわからないけど、拾っちゃったからには……やっぱ、送り返すかなあ……。
「メリア、この男は……」
「あっ、この人、あの、王子さまです。あの国の」
「……これが?」
魔王さまの眉ががっつり顰められる。わたしが頷いてみせると、魔王さまは「マジか」とばかりに眼を細くしてしげしげとぼろぼろの王子を眺めた。いや、魔王さまは「マジか」なんて言わないだろうけど。
「……メリア。お前はこの男をどうしたい?」
「……そうですね、外に放り出しても、死んでしまうだけだと思うので……安全な場所に連れてってやるくらいのことはしたいと思いますが」
「優しいな」
「だ、だって、死ぬって分かってて放り出したら、殺したみたいなもんじゃないですか」
わたしの言葉に、魔王さまはフッと笑みを浮かべる。なんだかその慈愛の眼差しがくすぐったい。
「そうか、お前が……この男に報いてやりたいのなら、それを止める気はなかったが……。そういうことなら、コレは俺の都合の良いように扱っても構わないか?」
魔王さまはずたぼろの王子をヒョイと指差す。
報いるって……何を想定されていたんだろうか……。
「そ、それは全然、構いませんが……」
「まさか、王子を拾ってこられるとは思わなかったが……。イージス、お前の拾い物のセンスはなかなかいい」
「おう! コイツはよくわかんねーけど、メリアは良かったろ?」
魔王さまの褒め言葉をイージスは素直に受け取る。拾い物のセンスがいい、とは。
そしてわたしも拾い物カウントなのか、と。
「メリア、この男の性格は?」
「うーん……。高圧的で、自分の権力を傘に着るタイプですかね……。自己愛がすごくて、自分は間違ってない! という自信はすごいです!」
「なるほど。話して理があるとすれば納得するような男か?」
「いえ、それはないかと。自分が正しいと思ったことは譲りませんし、そもそも話し合いができない人だと思いますが……」
「……そうか……」
魔王さまは静かに、王子を見下ろす。何か考えを巡らしているようだった。
そして、やおら口を開く。
「じゃあ、縛って物置にでも転がしておくか。イージス」
「おうわかった! 紐持ってくる!」
「……えっ!?」
魔王さまの発言に驚愕する。けど、イージスは躊躇なく、紐を探すべくどこかに走っていった。脚の速い彼はあっという間に戻ってくる。
みるみる内にボロの王子はぐるぐる巻になった。
「あ、あの、魔王さま。どうして……」
「暴れられても面倒だ。話し合いができるのなら、もう少し捕虜として丁重に扱うが、そうじゃないらしいしな」
「捕虜……」
物騒な響きの言葉を復唱する。
展開について行けていないわたしを見かねて、魔王さまは言った。
「メリア。さっきの話の続きにもなるのだが……。この男は、俺たちがこれからしようとすることに、役に立つ」
「……は、はあ」
「どうしたものか、と思っていたが、どうも天は俺たちに向いているようだな」
ニヤリ、と普段見せない口角を釣り上げた笑みを、魔王さまが浮かべる。
一言で言えば、悪い顔。『魔王』らしいイメージ通りの顔というか。
……魔王さま、何をしようとなさっているんだろう。
なんとなく、なんとなくだけど、王子が手に入って喜んでいるということは……。
……侵略するのかな?
可能性を思案して、でもやはり、よくわからなくて、わたしはぶんぶん首を振る。
(……まあ、魔王さまがご機嫌そうだから、いっか!)
意味がわからない。頭には疑問符が乱舞していた。
「メリア、知り合いか? コイツ、人間だよな?」
「う、うん。まあ……」
「でも、メリアと違って別にそばにいても元気にはなんねーな。メリアが特別?」
「……イージス」
大きく首を傾げるイージスを諌めるように、魔王さまは目つきを鋭くさせる。
「えーと、生きて……る?」
「うん、脈もあるし息してるし、あったかいよ」
イージスがポン、と王子の身体を投げ出す。扱いが雑だ。ゴロンと床に転がった王子を、魔王さまの陰に隠れながら恐る恐る覗き込む。上等な設えの衣服は見る影もなく、泥と埃に塗れている。サラサラのブロンドヘアも、いまやゴワゴワのモップのよう。
「この人以外には誰もいなかった?」
「いなかった。すっげえ悲鳴が聞こえてきてさ。なんだなんだ、って見に行ったらコイツがいてさ。そんで、オレの顔見るなり失神したんだ」
「……で、担いで帰ってきたと」
「うん。メリアがおもしれー奴だったし。人間ってなんかなんつーの? いいのかな、って」
あまりにも雑、大雑把なイージスの認識にわたしも魔王さまとおそろいで頭を抱える。
どうしよう、元の場所に返す……ってわけにもいかないし。そもそも、元の場所って、イージスが発見した草原? それとも、王宮? ……草原にまた転がしといたら絶対死ぬよなあ。わたしにとって嫌な人でも、死ぬとわかって放り出すのは抵抗がある。
(まあ、わたしは普通の人なら死ぬはずのそこに、この人に追放されていったんですけどね!!!)
心のうちで毒を吐くくらいは善良な一市民としても、許されたい。代わりに善良なので、やられたからって、そのままやり返す根性は持ち合わせていないので。毒吐くくらいは許されたい。
うーん。なんで、腐っても王子さまが一人で草原なんかにいたのはまるで意味がわからないけど、拾っちゃったからには……やっぱ、送り返すかなあ……。
「メリア、この男は……」
「あっ、この人、あの、王子さまです。あの国の」
「……これが?」
魔王さまの眉ががっつり顰められる。わたしが頷いてみせると、魔王さまは「マジか」とばかりに眼を細くしてしげしげとぼろぼろの王子を眺めた。いや、魔王さまは「マジか」なんて言わないだろうけど。
「……メリア。お前はこの男をどうしたい?」
「……そうですね、外に放り出しても、死んでしまうだけだと思うので……安全な場所に連れてってやるくらいのことはしたいと思いますが」
「優しいな」
「だ、だって、死ぬって分かってて放り出したら、殺したみたいなもんじゃないですか」
わたしの言葉に、魔王さまはフッと笑みを浮かべる。なんだかその慈愛の眼差しがくすぐったい。
「そうか、お前が……この男に報いてやりたいのなら、それを止める気はなかったが……。そういうことなら、コレは俺の都合の良いように扱っても構わないか?」
魔王さまはずたぼろの王子をヒョイと指差す。
報いるって……何を想定されていたんだろうか……。
「そ、それは全然、構いませんが……」
「まさか、王子を拾ってこられるとは思わなかったが……。イージス、お前の拾い物のセンスはなかなかいい」
「おう! コイツはよくわかんねーけど、メリアは良かったろ?」
魔王さまの褒め言葉をイージスは素直に受け取る。拾い物のセンスがいい、とは。
そしてわたしも拾い物カウントなのか、と。
「メリア、この男の性格は?」
「うーん……。高圧的で、自分の権力を傘に着るタイプですかね……。自己愛がすごくて、自分は間違ってない! という自信はすごいです!」
「なるほど。話して理があるとすれば納得するような男か?」
「いえ、それはないかと。自分が正しいと思ったことは譲りませんし、そもそも話し合いができない人だと思いますが……」
「……そうか……」
魔王さまは静かに、王子を見下ろす。何か考えを巡らしているようだった。
そして、やおら口を開く。
「じゃあ、縛って物置にでも転がしておくか。イージス」
「おうわかった! 紐持ってくる!」
「……えっ!?」
魔王さまの発言に驚愕する。けど、イージスは躊躇なく、紐を探すべくどこかに走っていった。脚の速い彼はあっという間に戻ってくる。
みるみる内にボロの王子はぐるぐる巻になった。
「あ、あの、魔王さま。どうして……」
「暴れられても面倒だ。話し合いができるのなら、もう少し捕虜として丁重に扱うが、そうじゃないらしいしな」
「捕虜……」
物騒な響きの言葉を復唱する。
展開について行けていないわたしを見かねて、魔王さまは言った。
「メリア。さっきの話の続きにもなるのだが……。この男は、俺たちがこれからしようとすることに、役に立つ」
「……は、はあ」
「どうしたものか、と思っていたが、どうも天は俺たちに向いているようだな」
ニヤリ、と普段見せない口角を釣り上げた笑みを、魔王さまが浮かべる。
一言で言えば、悪い顔。『魔王』らしいイメージ通りの顔というか。
……魔王さま、何をしようとなさっているんだろう。
なんとなく、なんとなくだけど、王子が手に入って喜んでいるということは……。
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