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第一章 王子様のプロポーズ
⑤
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社長はご満悦な表情で運転手さんにミラー越しで笑顔を向ける。なぜか悩みから解き放たれたような清々しい顔だ。
「いやいやいや、待ってください。おかしいでしょう、名前も知らないような女とそんな理由で結婚するのは」
「名前なら知っているぞ。営業一課の工藤捺美だ。俺は全社員の名前を覚えている」
うわ、記憶力おばけだ。
「それはさすがですね。でも、結婚って相手ありきの問題だと思います。ノリと勢いで決めていいものではないですよね」
「俺は直感を信じてここまできた男だ」
社長はやけに自信満々で目が輝いている。本気で危険な人かもしれないと思ってきた。
「それは凄いと思いますけど、あの、ええと、私の気持ちはどうなるのですか?」
「お前の気持ち?」
私は社長の目を見て、大きく頷いた。
すると、社長は鼻で笑うと、横柄な態度で足を組みなおした。
「俺のどこに不満があるとでも?」
そう言って、自信満々な態度で、魅惑的な目を私に向ける。
(うっわ~、一番苦手なタイプ)
たしかに社長は誰が見てもかっこいいし、優秀だし、おまけにお金持ちだ。
だからといって全ての女性があなたのお嫁さんになりたいなんて思っているとしたら、それは盛大なる勘違いである。
性格が無理だわ……。
俺様系男子は一番苦手。自信満々で傲慢で人を見下した態度が鼻につく。
「社長、めちゃくちゃドン引きされているじゃないですか!」
運転手さんは、ハンドルを叩きながら爆笑して、なぜかとても嬉しそうだった。
社長は、『あれ? こんなはずでは』と言いたげに戸惑っている。
「私、入社してまだ三年目ですし、今は結婚なんて考えられません。仕事を頑張りたいからです」
だから残業代もつかないのに、夜にこっそり会社に侵入して仕事を片付けていたのだ。
「結婚しても仕事は辞めなくていい」
はっきり断ったにも関わらず、社長はぐいぐい攻めてくる。
「だからそういうことじゃなくて、結婚する気はないって言っているじゃないですか」
だんだん苛々してきて、相手が社長だというのに強めに言ってしまった。
妙に強気だった社長から笑みが消えて、真面目な顔になった。
雰囲気がガラリと変わり、仕事モードに入ったことがわかった。
社長は腕組みをして、私を冷たい目で見つめる。
「じゃあ、離婚前提ならどうだ?」
「え?」
離婚前提の結婚ってどういうこと?
「これは交渉だ。ビジネスのように、互いの利益を考えて契約しよう。俺は昨日までに結婚相手を決めなければいけなかった。それは、祖父の死期が迫っているからだ。生きている間に結婚式を挙げてほしいと懇願されている。結婚してくれるならば、深夜に仕事をして俺から逃げたことは水に流そう」
「それを出してくるのは卑怯じゃないですか? 職権乱用です。それにそれくらいで結婚を決められるわけないじゃないですか」
「まて、話はこれからだ。お前の望みはなんだ? 俺に叶えられることなら全力を尽くそう」
「私の望み……?」
社長は真剣な目で私を見つめた。
(私の望みは、あの家から出ることだ。でも……)
押し黙った私の欲望を引きだすような甘い声で社長は囁く。
「お金ならあるぞ」
まるで悪魔の囁きだなと思った。
離婚前提の結婚。死期が迫っているというのなら、そこまで長い結婚生活にはならないだろう。
でも、だからといってこんな怪しい申し出……。俯いたまま黙る私に、悪魔はなおも続ける。
「たしか、借金があるのだよな?」
「どうしてそれを!」
驚いて顔を上げた私に、社長は不敵に笑った。
「最終面接の時にお前自身が言っていただろう? 私はなりふり構っていられないと」
そういえばそんなことも言ったような気がする。借金というか、高額な奨学金。そのせいで一人暮らしができずにいる。
「もしも結婚したら、奨学金を全額返済してくれますか?」
「ああ、もちろん。一括で返済してやる。それに住むところだって与える。家賃は当然タダだ」
急に心が揺れてきた。どうしよう、この案、とてもおいしい話なのではないか。
契約期間が過ぎたら私はバツイチになるけれど、その程度で高額な奨学金がなくなってあの家から自由になれるなら安いものだ。
このままだと結局搾取され続けて自由を奪われる可能性も高い。
この契約結婚は、私にとって唯一の救いの道かもしれない。
でも……。
「あの、言いにくいのですが、結婚ってことは、その……妻としての役割も求められるってことですか?」
顔を赤らめながら恥ずかしそうに聞くも、社長は私の言わんとしている意味がわかっていないようだった。
「妻としての役割? 家同士の集まりとか家事とかってことか? それは全く心配しなくていい。一切やらなくていい。ただ結婚してくれればそれでいい」
「いや、あの、そうじゃなくて……」
もごもごと口籠っていると、運転手さんが助け船を出してくれた。
「夜のお勤めはどうするのですかってことですよ、社長」
よ、夜のお勤めって、オブラートに包んでくれているけれど、それはそれで恥ずかしい響きだ。
「いやいやいや、待ってください。おかしいでしょう、名前も知らないような女とそんな理由で結婚するのは」
「名前なら知っているぞ。営業一課の工藤捺美だ。俺は全社員の名前を覚えている」
うわ、記憶力おばけだ。
「それはさすがですね。でも、結婚って相手ありきの問題だと思います。ノリと勢いで決めていいものではないですよね」
「俺は直感を信じてここまできた男だ」
社長はやけに自信満々で目が輝いている。本気で危険な人かもしれないと思ってきた。
「それは凄いと思いますけど、あの、ええと、私の気持ちはどうなるのですか?」
「お前の気持ち?」
私は社長の目を見て、大きく頷いた。
すると、社長は鼻で笑うと、横柄な態度で足を組みなおした。
「俺のどこに不満があるとでも?」
そう言って、自信満々な態度で、魅惑的な目を私に向ける。
(うっわ~、一番苦手なタイプ)
たしかに社長は誰が見てもかっこいいし、優秀だし、おまけにお金持ちだ。
だからといって全ての女性があなたのお嫁さんになりたいなんて思っているとしたら、それは盛大なる勘違いである。
性格が無理だわ……。
俺様系男子は一番苦手。自信満々で傲慢で人を見下した態度が鼻につく。
「社長、めちゃくちゃドン引きされているじゃないですか!」
運転手さんは、ハンドルを叩きながら爆笑して、なぜかとても嬉しそうだった。
社長は、『あれ? こんなはずでは』と言いたげに戸惑っている。
「私、入社してまだ三年目ですし、今は結婚なんて考えられません。仕事を頑張りたいからです」
だから残業代もつかないのに、夜にこっそり会社に侵入して仕事を片付けていたのだ。
「結婚しても仕事は辞めなくていい」
はっきり断ったにも関わらず、社長はぐいぐい攻めてくる。
「だからそういうことじゃなくて、結婚する気はないって言っているじゃないですか」
だんだん苛々してきて、相手が社長だというのに強めに言ってしまった。
妙に強気だった社長から笑みが消えて、真面目な顔になった。
雰囲気がガラリと変わり、仕事モードに入ったことがわかった。
社長は腕組みをして、私を冷たい目で見つめる。
「じゃあ、離婚前提ならどうだ?」
「え?」
離婚前提の結婚ってどういうこと?
「これは交渉だ。ビジネスのように、互いの利益を考えて契約しよう。俺は昨日までに結婚相手を決めなければいけなかった。それは、祖父の死期が迫っているからだ。生きている間に結婚式を挙げてほしいと懇願されている。結婚してくれるならば、深夜に仕事をして俺から逃げたことは水に流そう」
「それを出してくるのは卑怯じゃないですか? 職権乱用です。それにそれくらいで結婚を決められるわけないじゃないですか」
「まて、話はこれからだ。お前の望みはなんだ? 俺に叶えられることなら全力を尽くそう」
「私の望み……?」
社長は真剣な目で私を見つめた。
(私の望みは、あの家から出ることだ。でも……)
押し黙った私の欲望を引きだすような甘い声で社長は囁く。
「お金ならあるぞ」
まるで悪魔の囁きだなと思った。
離婚前提の結婚。死期が迫っているというのなら、そこまで長い結婚生活にはならないだろう。
でも、だからといってこんな怪しい申し出……。俯いたまま黙る私に、悪魔はなおも続ける。
「たしか、借金があるのだよな?」
「どうしてそれを!」
驚いて顔を上げた私に、社長は不敵に笑った。
「最終面接の時にお前自身が言っていただろう? 私はなりふり構っていられないと」
そういえばそんなことも言ったような気がする。借金というか、高額な奨学金。そのせいで一人暮らしができずにいる。
「もしも結婚したら、奨学金を全額返済してくれますか?」
「ああ、もちろん。一括で返済してやる。それに住むところだって与える。家賃は当然タダだ」
急に心が揺れてきた。どうしよう、この案、とてもおいしい話なのではないか。
契約期間が過ぎたら私はバツイチになるけれど、その程度で高額な奨学金がなくなってあの家から自由になれるなら安いものだ。
このままだと結局搾取され続けて自由を奪われる可能性も高い。
この契約結婚は、私にとって唯一の救いの道かもしれない。
でも……。
「あの、言いにくいのですが、結婚ってことは、その……妻としての役割も求められるってことですか?」
顔を赤らめながら恥ずかしそうに聞くも、社長は私の言わんとしている意味がわかっていないようだった。
「妻としての役割? 家同士の集まりとか家事とかってことか? それは全く心配しなくていい。一切やらなくていい。ただ結婚してくれればそれでいい」
「いや、あの、そうじゃなくて……」
もごもごと口籠っていると、運転手さんが助け船を出してくれた。
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