シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜

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第二章 いきなり社長と同棲生活

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「ちゃんとお前の部屋もある。ついてこい」

「私の部屋?」

 靴を脱いでスリッパに履き替えて、社長の後ろに続くと、玄関からわりと近いドアの前で立ち止まった。

「ゲストルームだ」

 社長が扉を開けると、私は驚きを隠せなかった。

 ゲストルームは広々としていて、とても清潔感があった。シックで落ち着いた内装に、快適そうな大きなベッド。部屋の片隅には化粧台と小さな机、そして座り心地の良さそうな椅子も置かれていた。まるで高級ホテルの一室のような部屋に心が弾む。

「ゲストルームがあるのですか、社長の家には!」

 興奮しながら中に入る。隅々まで綺麗でどこにも埃がたまっていない。

「まあ、社長だからな」

 それもそうか。しかも一流の大手企業。親もお金持ちだし、別世界の住人だなあと思う。

「とても綺麗ですね。社長って掃除好きなのですね!」

「俺じゃなくて、毎日ハウスキーパーが掃除してくれている」

 ホテルかよ、と心の中で突っ込む。

 そりゃ社長自ら掃除なんてするわけないか。

 社長はゲストルームのウォークインクローゼットを開けると、ホテルで置いてあるようなパジャマやバスローブ、タオル類などが置いてあった。

「ここにあるものは全部遠慮なく使え」

 さらに化粧台の中には、メイク落としや化粧水などのアメニティ類がしっかり揃っている。

 本当に高級ホテル仕様。急なお泊りでもなんの不都合もない徹底ぶりだ。

「そして、こっちの部屋は風呂場と洗面所だ。洗濯乾燥機があるから、少量ならすぐに乾くし、スーツはこっちの除菌用低温乾燥機を使えばクリーニングに出したみたいになるぞ」

 うわ~、凄い。コンビニで色々買ってこようと思っていたけど、その必要は一切ないみたい。

「俺は朝に風呂に入るから、お前はゆっくり入って早く寝ろ」

「なんか、至れり尽くせりしてもらってすみません」

「なにを言っている。俺の嫁になるのだから、でかい顔して居座っていればいい」

 社長はにこやかに笑って、私の頭をポンポンとなでた。

 うわ~、頭ポンされた。こんなナチュラルに一切の嫌味なくできる社長って凄い。

 嫌味どころか、不覚にも胸が高鳴ってしまった。

 こんな女心を鷲掴みにされる行為をされたら、意外といい人なんじゃないかって思ってしまう。

 最上位ランクの男の人ってやっぱり凄い。普通の男性が同じことをしてきたら、触るな、セクハラだって思うところだ。

「俺はこっちの寝室にいるから。なにかわからないことがあれば遠慮なく言えよ」

「は、はい……」

 あれ、意外と紳士的で優しい。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい……」

 色男って凄い。息を吐くように女性に甘い笑顔を向けることができるのか。

 これは勘違いしてしまう気持ちがわかる。私だけに特別なのかなって。

 まあ、私は勘違いしないけどね! なにせ離婚前提だし!

 お風呂に入る準備をして、そそくさと浴室に入る。バスルームも広々としていて、ここにも充分な設備が整っていた。大理石のタイルが高級感をただよわせている。

 下着類は洗濯乾燥機に入れて、クリーム色のスカートスーツはロッカーのような形をしたクローゼット型のホームクリーニング機に入れた。

 ハウスキーパーさんが毎日掃除してくれているからか、浴室も水滴一つなく清潔だ。

 なんでこんなことになったのかと思いつつ、手早く体を洗う。

 この選択は正しいのか、それとも間違いなのか。

 不安な気持ちは当然あるけれど、継娘や継母の住むあの家に帰らなくて済むと思うと清々しさもある。

 長年ずっと夢見てきた。

 何度も何度も、あの家からどうやったら出られるのか考えて、そして最後は絶望するのだ。現実的に、どうやったって無理だって。

 感情に任せて家出したところで住むあてもお金もない。奴隷のような生活は悔しいけれど、家を出たところで新たな地獄が待っているだけだ。

 社長と結婚するという選択は地獄?

 いや、こんな素敵な場所で生活できることが地獄なわけがない。きっと大丈夫。この選択は間違いなんかじゃない。

 自分に言い聞かせるように納得させて、浴室を出ると下着はすでに乾燥が終わっていた。

 パジャマに着替えて、髪をゆっくり乾かしたけれど、スーツの除菌はまだ終わっていなかった。

 あと十分か……ここでこのまま終わるのを待っていようかな。

 部屋に戻ってベッドに入ったらそのまま寝てしまいそうだ。

(はあ、疲れた……)

 椅子に座りながら、クリーニング機を見つめる。瞼の重みに必死に耐えながら、なんとか起きていようと頑張ったけれど、結局睡魔には勝てずに眠りに落ちてしまった。


 携帯のアラーム音が深い眠りから私を引きずり出す。

 ああ、もう朝だ。洗濯して朝ご飯作って……。

 そうだ、リビングも掃除機かけなきゃ。きっと、お菓子の食べかす等が床に散らばっている。

 目を開けると、見慣れぬ光景が広がっていた。ふかふかのベッドに、シックな壁紙。

(あれ、私……)

 誰もいない部屋で、記憶を手繰り寄せる。

 そうだ、昨日……っていうか今日か。社長の家に泊まることになったのだ。お風呂に入って、スーツの除菌終わりを待っていたところで……ええと、私、どうやってこの部屋に来たのだろう。
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