11 / 41
第三章 溺愛のマリッジブルー
①
しおりを挟む
正面玄関のロータリーに出ると、昨日の黒い高級車が停車していた。
運転席から出てきたのは、昨日のイケメン運転手さん。暗かったし、顔しか見られなかったからよくわからなかったけれど、髪はゆるやかなパーマがかかっていて、細身のスリーピーススーツをオシャレに着こなしている。鼻筋は高く通っていて、いつも口角が少し上がっているので柔らかで優しそうな印象を与えている。瞳を覆う眼鏡は、彼の知性を表していて、それでいて整い過ぎている顔を隠しているようにも見えた。ただならぬ雰囲気があるので、運転手ではなくて秘書かもしれない。
同じ会社で働いているとはいえ、社長と会う機会なんて滅多にない。秘書が男の人だったことすら知らなかった。
「おはようございます」
朝から爽やかな笑顔だ。眼鏡をしているからきっちりして見えるけれど、昨日の社長との会話のやり取りを聞く限り、真面目なかんじはしない。
「朝食をご用意しておきました」
そう言って秘書の方は紙袋を社長に渡した。
「さすがだな、高城」
「冷蔵庫になにもないこと知っていますからね」
高城さんっていうのか。覚えておこう。それにしても、仲いいな、この二人。
社長と並んで後部座席に座りながら、高城さんが用意してくれたカフェの野菜がたっぷり挟まったベーグルサンドを頬張る。
社長は食べずにコーヒーを飲んでいた。
朝食は食べない派なのかな。作ったら逆に迷惑になるかな。どういう風に生活していくのがベストなのだろう。社長のことをなにも知らなすぎる。
会社に着くと、ずらりと役員の方々が社長の到着を待っていた。
社員は裏口から入るのがルールなので、正面玄関では毎朝こんなことになっているとは全く知らなかった。
「ちょ、ちょっと、これ私も一緒に降りたらまずくないですか?」
青ざめながら社長に助けを求めるも、社長は涼しい顔をしている。
「気にするな、俺たちは結婚するのだから」
「いや、だからって! 色々と心の準備が!」
「なにを言っている、もう一晩共に過ごした仲だろ」
社長の意味深な言葉に、高城さんが驚いた顔で振り返ったので、慌てて弁明する。
「ちょっと! 誤解を生むような発言しないでください! 別室で寝たでしょう!」
「部屋は別々だが、俺の家だ」
なぜか社長は勝ち誇ったような顔をして、高城さんに目配せをした。
高城さんは高城さんで、そんな社長の様子に苦笑いするでもなく、なぜか微笑ましいという好意的な目で答えているので二人の関係性がよくわからない。
後部座席のドアが開き、役員の方々の視線が集まっている。もう逃げるわけにもいかないし、隠れることもできない。
驚いている役員の方々に微笑んで見せ、車から降りた。
社長も車から降りると、腰に手を当ててエスコートする。
(もう近い! やめて!)
そう心の中で絶叫するも、振り払うわけにもいかない。
「おはようございます!」
役員の方々が一斉に頭を下げる。
うちの会社って極道系だったの? と思うような光景だ。
中でも一番驚いていたのが、営業本部長だ。他の役員の方々は私の顔は見たことがあるかも程度だが、営業本部長は私の顔も名前も知っている。
『どうして工藤君が。これは一体どういうことだ』と本部長の顔に書かれてある。
申し訳ない気持ちになりながらも、社長はご満悦な様子で私の腰に手を回したまま会社の中へ入っていった。
なぜか社長室へと通される。最上階のワンフロア。一介の社員は入ることすら許されないその場所に足を踏み入れてしまった。
太陽の光が入り込む室内は、まるでドラマのワンシーンのような豪華でスタイリッシュな空間が広がっていた。成功者の証といわんばかりの大きなシャンデリアに、汚れ一つない真っ白な床。煌びやかというわけでもなく、全体的に清潔感のある落ち着いた色合いで統一されている。
オフィスデスクは黒ガラスの天板で、その上には大型モニターのパソコンが置かれている。
社長室の真ん中には、応接用の巨大なソファとセンターテーブルがあり、サイドボードには生け花が飾られていた。
(凄い……)
圧巻の光景に目を丸くしている私を、社長は応接用のソファに座らせた。
そして自分はデスクに座って仕事を始めたので、私は慌てて立ち上がった。
「あの! 用事がないようなら営業部署に行っていいですか⁉」
すると社長は怪訝な表情を浮かべた。
「ここで仕事すればいいだろ」
「いやいや困ります。やりにくいです」
「じゃあ、俺の秘書になれば?」
社長はなんでもないことのようにサラっと言った。
(なにを言っているのだろうか、この人は)
そう思ったけれど、すんでの所で言葉を飲み込んだ。
「社長にとっては営業事務なんて、たいした仕事もしてないと思われるかもしれませんが、私は誇りを持って一生懸命勤めています」
社長はさすがに自分の発言がまずかったことに気がついたのか、一気にトーンダウンした。
「それは、わかっている。忙しいなら行っていいぞ」
「忙しくなければ残業なんてしていないでしょう」
「……すまん」
社長が素直に謝るので、私もつい言い過ぎてしまったことに気がつく。
運転席から出てきたのは、昨日のイケメン運転手さん。暗かったし、顔しか見られなかったからよくわからなかったけれど、髪はゆるやかなパーマがかかっていて、細身のスリーピーススーツをオシャレに着こなしている。鼻筋は高く通っていて、いつも口角が少し上がっているので柔らかで優しそうな印象を与えている。瞳を覆う眼鏡は、彼の知性を表していて、それでいて整い過ぎている顔を隠しているようにも見えた。ただならぬ雰囲気があるので、運転手ではなくて秘書かもしれない。
同じ会社で働いているとはいえ、社長と会う機会なんて滅多にない。秘書が男の人だったことすら知らなかった。
「おはようございます」
朝から爽やかな笑顔だ。眼鏡をしているからきっちりして見えるけれど、昨日の社長との会話のやり取りを聞く限り、真面目なかんじはしない。
「朝食をご用意しておきました」
そう言って秘書の方は紙袋を社長に渡した。
「さすがだな、高城」
「冷蔵庫になにもないこと知っていますからね」
高城さんっていうのか。覚えておこう。それにしても、仲いいな、この二人。
社長と並んで後部座席に座りながら、高城さんが用意してくれたカフェの野菜がたっぷり挟まったベーグルサンドを頬張る。
社長は食べずにコーヒーを飲んでいた。
朝食は食べない派なのかな。作ったら逆に迷惑になるかな。どういう風に生活していくのがベストなのだろう。社長のことをなにも知らなすぎる。
会社に着くと、ずらりと役員の方々が社長の到着を待っていた。
社員は裏口から入るのがルールなので、正面玄関では毎朝こんなことになっているとは全く知らなかった。
「ちょ、ちょっと、これ私も一緒に降りたらまずくないですか?」
青ざめながら社長に助けを求めるも、社長は涼しい顔をしている。
「気にするな、俺たちは結婚するのだから」
「いや、だからって! 色々と心の準備が!」
「なにを言っている、もう一晩共に過ごした仲だろ」
社長の意味深な言葉に、高城さんが驚いた顔で振り返ったので、慌てて弁明する。
「ちょっと! 誤解を生むような発言しないでください! 別室で寝たでしょう!」
「部屋は別々だが、俺の家だ」
なぜか社長は勝ち誇ったような顔をして、高城さんに目配せをした。
高城さんは高城さんで、そんな社長の様子に苦笑いするでもなく、なぜか微笑ましいという好意的な目で答えているので二人の関係性がよくわからない。
後部座席のドアが開き、役員の方々の視線が集まっている。もう逃げるわけにもいかないし、隠れることもできない。
驚いている役員の方々に微笑んで見せ、車から降りた。
社長も車から降りると、腰に手を当ててエスコートする。
(もう近い! やめて!)
そう心の中で絶叫するも、振り払うわけにもいかない。
「おはようございます!」
役員の方々が一斉に頭を下げる。
うちの会社って極道系だったの? と思うような光景だ。
中でも一番驚いていたのが、営業本部長だ。他の役員の方々は私の顔は見たことがあるかも程度だが、営業本部長は私の顔も名前も知っている。
『どうして工藤君が。これは一体どういうことだ』と本部長の顔に書かれてある。
申し訳ない気持ちになりながらも、社長はご満悦な様子で私の腰に手を回したまま会社の中へ入っていった。
なぜか社長室へと通される。最上階のワンフロア。一介の社員は入ることすら許されないその場所に足を踏み入れてしまった。
太陽の光が入り込む室内は、まるでドラマのワンシーンのような豪華でスタイリッシュな空間が広がっていた。成功者の証といわんばかりの大きなシャンデリアに、汚れ一つない真っ白な床。煌びやかというわけでもなく、全体的に清潔感のある落ち着いた色合いで統一されている。
オフィスデスクは黒ガラスの天板で、その上には大型モニターのパソコンが置かれている。
社長室の真ん中には、応接用の巨大なソファとセンターテーブルがあり、サイドボードには生け花が飾られていた。
(凄い……)
圧巻の光景に目を丸くしている私を、社長は応接用のソファに座らせた。
そして自分はデスクに座って仕事を始めたので、私は慌てて立ち上がった。
「あの! 用事がないようなら営業部署に行っていいですか⁉」
すると社長は怪訝な表情を浮かべた。
「ここで仕事すればいいだろ」
「いやいや困ります。やりにくいです」
「じゃあ、俺の秘書になれば?」
社長はなんでもないことのようにサラっと言った。
(なにを言っているのだろうか、この人は)
そう思ったけれど、すんでの所で言葉を飲み込んだ。
「社長にとっては営業事務なんて、たいした仕事もしてないと思われるかもしれませんが、私は誇りを持って一生懸命勤めています」
社長はさすがに自分の発言がまずかったことに気がついたのか、一気にトーンダウンした。
「それは、わかっている。忙しいなら行っていいぞ」
「忙しくなければ残業なんてしていないでしょう」
「……すまん」
社長が素直に謝るので、私もつい言い過ぎてしまったことに気がつく。
23
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました
國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。
しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる