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第三章 溺愛のマリッジブルー
⑤
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なにを言うんだこの人はと、耳を赤くさせながらドレスを選ぶ。社長はそっと側に寄ってきて、耳元で囁いた。
「全部試着してもいいのだぞ」
「いやいや、迷惑だし疲れちゃうよ」
「俺はいくらでも見ていられるし、ずっと見ていたい」
まるで本当の恋人に囁くような甘い言葉。なんという恥ずかしい言葉を、まったく恥ずかしがるそぶりなく言えるのか。しかも、耳元で私にだけ聞こえるように言っているので、コンシェルジュにわざと聞かせるための演技でもない。
「これ、素敵……」
輝く上質な絹糸を使ったボリュームのあるスカートに、胸元には煌めくスパンコールがちりばめられている。背中は大きくVカットされていて、腰のラインからリボンの形のように広がるトレーンがとても豪華だ。
一目惚れだった。憧れが全部詰まった完璧なドレスだと思った。
「このドレスを試着してみる?」
社長は私の頭に顎を乗せて、後ろから抱きしめるような体勢で言った。
「うん」
こんな素敵なドレスを今から着ることができると思うと胸が高揚する。それに、社長がやたらと近いので、ドキドキと胸が高鳴っている。頬が赤いのは、ドレスを試着できる興奮なのか、それとも社長に対してなのか。おそらく、その両方だ。
コルセットをつけて、ドレスを身に纏う。着てみると、ラックに吊り下げられた姿を見た時よりさらに素敵だった。ドレスのサイズは、まるで私の体を採寸してオーダーメイドで作ったかのようにピッタリだった。
正面から見たドレスは清楚で可憐だけれど、後ろ姿は背中が大きく開いて大胆で、腰から広がるリボンの形をしたトレーンが可愛さと豪華さを演出している。
胸がドキドキして、なんだか足元がフラフラする。本当に異世界にいるみたいだ。憧れていた夢物語の住人になったかのような気持ち。どんなに手を伸ばしても、決して叶うことはないと諦めていた夢の世界が現実となっている。
試着室を出ると、社長が驚いた顔をして固まっていた。気恥ずかしさを隠すように笑顔を向けると、社長は急に顔に火がついたかのように赤くなって、慌てて大きな手で口元を隠した。
「これは想像以上の美しさですね。私も一瞬言葉が出ませんでした」
コンシェルジュの方は感動したような顔をして、深い感嘆のため息を漏らすように言葉を吐いた。
「このドレスにします。もう他は目に入らないくらい気に入ってしまいました」
「では、髪型と装飾品を決めましょう。こちらへどうぞ」
それから、あれよあれよという間に、色々なことを決めた。長い髪は上品なシニヨンヘアにして、装飾品はショーケースに飾られていた一番豪華なティアラとネックレスとなった。
試着が終わると、今度は試食会で、大規模な披露宴は行わないけれど、身内をもてなす結婚パーティのようなものはやるらしい。
試食のデザートのあまりの美味しさに感動していると、予定になかったデザートビュッフェを行うことになった。
憂鬱だった気持ちはどこへいったのか、楽しくてずっと笑っていた。本当に、まるで夢みたいだ。
こうして長い一日は終わった。ホテルを出ると、辺りは暗くなっていた。正面エントランスで、高城さんが運転する車を待つ。
「は~、疲れたけど、楽しかった!」
「それは良かった」
無邪気に笑う私を見て、社長はとても嬉しそうだ。
「私、女の子らしい服、着たことなくて」
「どうしてだ?」
社長が不思議そうに問う。
「あんたには似合わないって言われて買ってもらえなかったの。お気に入りの青いワンピースも全部捨てられちゃった」
私の暗い過去に、社長は顔をしかめた。
「本当はずっと着てみたかったの。ひらひらした女の子らしい服。ずっと似合わないって言われ続けてきたから、大人になって自分で買えるようになっても着る勇気がなくて」
「誰よりも似合うと思うぞ」
「私に社交辞令は必要ないよ」
社長に気を使われた。笑いながら、否定する。私に女の子らしい服は似合わない。
「俺はお世辞も社交辞令も言わない。心からの本心だ」
社長は真顔になって言ったので、私の顔からも笑顔が消えていく。
「ウェディングドレス姿、息を飲むほど綺麗だった。こんな綺麗な花嫁と結婚できるなんて、俺はなんて幸せ者なのだろうと思った」
驚いて言葉が出なかった。冗談を言っているようには見えなくて、真剣な顔で私の目を見つめて言う社長のセリフが、まるで愛の告白に聞こえた。
「あ……えっと……」
戸惑っている私に、社長は一歩近づいた。
「捺美、俺は……」
社長がなにかを言いかけたとき、車のクラクションが鳴って一台の車が横に停車した。
「社長、お待たせしました!」
運転席の空いた窓から陽気な声がした。
睨みつける社長の顔に、満面の笑顔だった高城さんの顔が曇っていく。
「俺、お邪魔でした?」
「本当にお前は、いつも肝心な所が抜けている!」
社長は怒りながら後部座席のドアを開けた。
「高城さんは完璧な秘書に見えるけど……」
私が言うと、社長は呆れるような顔を見せた。
「あいつは適当で調子がいいだけだ。これからわかる」
後部座席に乗り込むと、高城さんが照れた様子で笑っていた。
一つも褒められていないのになぜか喜んでいる。たしかにちょっと謎だ。
車が発進してしばらくすると、急激な眠気が襲ってきた。瞼が重くて開けていられない。何度もカクカクと首が落ちそうになって、ハッとして目を開ける。
いかん、いかん、今寝たら爆睡して起きられなくなりそう。
そう自分に言い聞かせて、なんとか起きていようとするのだけれど、途中で首がまったくカクンカクンいわなくなった。
柔らかくて温かい。社長が側に寄ってきて、肩を貸してくれたのだ。
(社長って、意外と優しい人なのかもしれない)
そんなことをうっすら思いながら、深い眠りに落ちていった。
「全部試着してもいいのだぞ」
「いやいや、迷惑だし疲れちゃうよ」
「俺はいくらでも見ていられるし、ずっと見ていたい」
まるで本当の恋人に囁くような甘い言葉。なんという恥ずかしい言葉を、まったく恥ずかしがるそぶりなく言えるのか。しかも、耳元で私にだけ聞こえるように言っているので、コンシェルジュにわざと聞かせるための演技でもない。
「これ、素敵……」
輝く上質な絹糸を使ったボリュームのあるスカートに、胸元には煌めくスパンコールがちりばめられている。背中は大きくVカットされていて、腰のラインからリボンの形のように広がるトレーンがとても豪華だ。
一目惚れだった。憧れが全部詰まった完璧なドレスだと思った。
「このドレスを試着してみる?」
社長は私の頭に顎を乗せて、後ろから抱きしめるような体勢で言った。
「うん」
こんな素敵なドレスを今から着ることができると思うと胸が高揚する。それに、社長がやたらと近いので、ドキドキと胸が高鳴っている。頬が赤いのは、ドレスを試着できる興奮なのか、それとも社長に対してなのか。おそらく、その両方だ。
コルセットをつけて、ドレスを身に纏う。着てみると、ラックに吊り下げられた姿を見た時よりさらに素敵だった。ドレスのサイズは、まるで私の体を採寸してオーダーメイドで作ったかのようにピッタリだった。
正面から見たドレスは清楚で可憐だけれど、後ろ姿は背中が大きく開いて大胆で、腰から広がるリボンの形をしたトレーンが可愛さと豪華さを演出している。
胸がドキドキして、なんだか足元がフラフラする。本当に異世界にいるみたいだ。憧れていた夢物語の住人になったかのような気持ち。どんなに手を伸ばしても、決して叶うことはないと諦めていた夢の世界が現実となっている。
試着室を出ると、社長が驚いた顔をして固まっていた。気恥ずかしさを隠すように笑顔を向けると、社長は急に顔に火がついたかのように赤くなって、慌てて大きな手で口元を隠した。
「これは想像以上の美しさですね。私も一瞬言葉が出ませんでした」
コンシェルジュの方は感動したような顔をして、深い感嘆のため息を漏らすように言葉を吐いた。
「このドレスにします。もう他は目に入らないくらい気に入ってしまいました」
「では、髪型と装飾品を決めましょう。こちらへどうぞ」
それから、あれよあれよという間に、色々なことを決めた。長い髪は上品なシニヨンヘアにして、装飾品はショーケースに飾られていた一番豪華なティアラとネックレスとなった。
試着が終わると、今度は試食会で、大規模な披露宴は行わないけれど、身内をもてなす結婚パーティのようなものはやるらしい。
試食のデザートのあまりの美味しさに感動していると、予定になかったデザートビュッフェを行うことになった。
憂鬱だった気持ちはどこへいったのか、楽しくてずっと笑っていた。本当に、まるで夢みたいだ。
こうして長い一日は終わった。ホテルを出ると、辺りは暗くなっていた。正面エントランスで、高城さんが運転する車を待つ。
「は~、疲れたけど、楽しかった!」
「それは良かった」
無邪気に笑う私を見て、社長はとても嬉しそうだ。
「私、女の子らしい服、着たことなくて」
「どうしてだ?」
社長が不思議そうに問う。
「あんたには似合わないって言われて買ってもらえなかったの。お気に入りの青いワンピースも全部捨てられちゃった」
私の暗い過去に、社長は顔をしかめた。
「本当はずっと着てみたかったの。ひらひらした女の子らしい服。ずっと似合わないって言われ続けてきたから、大人になって自分で買えるようになっても着る勇気がなくて」
「誰よりも似合うと思うぞ」
「私に社交辞令は必要ないよ」
社長に気を使われた。笑いながら、否定する。私に女の子らしい服は似合わない。
「俺はお世辞も社交辞令も言わない。心からの本心だ」
社長は真顔になって言ったので、私の顔からも笑顔が消えていく。
「ウェディングドレス姿、息を飲むほど綺麗だった。こんな綺麗な花嫁と結婚できるなんて、俺はなんて幸せ者なのだろうと思った」
驚いて言葉が出なかった。冗談を言っているようには見えなくて、真剣な顔で私の目を見つめて言う社長のセリフが、まるで愛の告白に聞こえた。
「あ……えっと……」
戸惑っている私に、社長は一歩近づいた。
「捺美、俺は……」
社長がなにかを言いかけたとき、車のクラクションが鳴って一台の車が横に停車した。
「社長、お待たせしました!」
運転席の空いた窓から陽気な声がした。
睨みつける社長の顔に、満面の笑顔だった高城さんの顔が曇っていく。
「俺、お邪魔でした?」
「本当にお前は、いつも肝心な所が抜けている!」
社長は怒りながら後部座席のドアを開けた。
「高城さんは完璧な秘書に見えるけど……」
私が言うと、社長は呆れるような顔を見せた。
「あいつは適当で調子がいいだけだ。これからわかる」
後部座席に乗り込むと、高城さんが照れた様子で笑っていた。
一つも褒められていないのになぜか喜んでいる。たしかにちょっと謎だ。
車が発進してしばらくすると、急激な眠気が襲ってきた。瞼が重くて開けていられない。何度もカクカクと首が落ちそうになって、ハッとして目を開ける。
いかん、いかん、今寝たら爆睡して起きられなくなりそう。
そう自分に言い聞かせて、なんとか起きていようとするのだけれど、途中で首がまったくカクンカクンいわなくなった。
柔らかくて温かい。社長が側に寄ってきて、肩を貸してくれたのだ。
(社長って、意外と優しい人なのかもしれない)
そんなことをうっすら思いながら、深い眠りに落ちていった。
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