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第四章 王子様の魔法
①
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目を開けると、ふかふかのベッドの中にいた。ここは社長の家のゲストルーム。
そうだ、私は昨日、車の中で爆睡して、マンションに着いたら社長が私をお姫様抱っこして運ぼうとしたところで起きたのだ。
さすがに起きて良かった。二日続けて醜態をさらすところだった。
でも、起きたことはいいけれど、あまりにも眠すぎて、ふらふらになりながら気合と根性でお風呂だけは入って寝たのだった。
昔から私は、気を失うように眠りにつくことがある。学校に行きながら家事もして、いつも慢性的な寝不足だったから、体が強制的にスイッチをオフにするのである。
(昨日はけっこう早くに寝たから体が楽だな……って、今何時⁉)
飛び起きて時計を見た。
「八時⁉ 遅刻だ!」
社長は⁉ とりあえず社長に謝らないと!
そう思ってパジャマ姿のまま部屋を出て、リビングにかけこむ。
「ごめんなさ……」
とにかく謝ろうと思って発した言葉が途中で止まる。
リビングに入って、目に飛び込んできた光景に、頭が一瞬混乱した。
(しゃ、社長が、料理を作っている!)
しかもご丁寧にデニム生地風のエプロンまで着用して!
「おはよう。ちょうど良かった、今出来上がったところだ」
社長は朝の光を浴びて、笑顔がキラキラに光っている。
これは、一体、どういうこと?
昨日まで社長の冷蔵庫には飲み物以外なに一つ入っていなかった。それに、社長は朝ごはんを食べるタイプではないし、ましてや料理を作るタイプでもない。
それが、なぜ……。
口を開けて驚き固まっている私を尻目に、社長はダイニングテーブルに作った料理を並べていく。聞こえるか聞こえないかくらいの音量で鼻歌をうたっているので、とてもご機嫌だということはわかった。
社長が作った料理は、ホテルのルームサービスで提供される朝食のようだった。
真っ白な丸皿に、エッグベネディクトとナッツをまぶしたベビーリーフのサラダがオシャレに盛りつけられている。さらに、ガラスの器に入れられたヨーグルトには、イチゴやゴールデンキウイなどの果物がトッピングされ、上から蜂蜜がかけられている。
さらに別皿には、綺麗に盛りつけられた様々な種類のパンがあり、ドリンクも細身のピッチャーにオレンジジュース、レモンの入ったデトックスウォーター、アイスコーヒーと好きなものが選べる仕様になっている。
「ホットコーヒーもあるぞ」
圧倒されて言葉を失っている私に、社長は満面の笑みで言った。
勝手なイメージだけれど、男の人の料理ってこう、一品料理みたいなものしか作れないと思っていたのに、なんだろう、この完璧なエッグベネディクトは。
「あの、社長、会社は……」
「寝ぼけているのか? 今日は土曜だろ」
ああ、そうだった!
体から一気に力が抜けていく。良かった、そうだ、今日は土曜だった。だから目覚ましのアラーム音が鳴らなかったのか。
「突っ立ってないで、座れよ。なに飲む?」
「あ、じゃあ、オレンジジュースで」
「オッケー」
グラスにオレンジジュースを注いで渡してくれた。
なんで私、こんなおもてなしをされているのだろう。
「社長って、料理を作るのですね」
「いや、普段はまったく作らないよ」
え、普段作らないのにこのレベルのエッグベネディクトできるの? 天才なの?
「じゃあ、今日はどうして……」
私の問いに、社長は一瞬間を置いた。
「お前が、食べると思ったから……」
それってつまり、私のため?
私もちょっと間をあけて、社長が作った朝食に目を落とした。
「あ……ありがとうございます。いただきます」
なんだか気恥ずかしくて社長の目が見られなかった。どうしてこんなに尽くしてくれるのだろうと思うくらい社長が優しくて、正直戸惑う。
よくわからないけれど、とりあえず、せっかく作ってくれたのだから食べよう。
エッグベネディクトにナイフを入れると、半熟卵が溢れだした。一口大に切って、ゆっくりと口に運ぶ。
「美味しい……」
目を見開いて、感嘆の声が漏れる。お世辞じゃなく、本当に美味しい。
「よかった」
社長は嬉しそうに微笑み、自分も食べ始めた。
「人に作ってもらえるって幸せ」
ポロっと零れた本音に、社長は顔を上げて私を見つめた。
「いつも家族の分をお前が作っていたのか?」
「はい。朝食も夕食も、ずっと私が」
「仕事もあるのに、大変だろう」
「世の共働きのお母さんは、これに加えて育児という仕事もあって、土日もなく働いているのですから凄いですよね。私も学生の時からなので、慣れました」
私が笑って言うと、社長は眉根を寄せた。
「いや、嘘です。慣れてなんかいません。ずっと大変でした」
自分の顔を見られるのが嫌で、下を向いて朝食を頬張った。今の自分の顔は、笑顔を作れず引きつっているから。
社長もそれ以上なにも言わず、私たちはしばらく食べることに集中した。
急に話が途切れたら、なんとなく気まずくなるのが普通なのに、どうしてか沈黙も居心地が良かった。
社長が作った朝食に舌つづみを打ちながら、どちらからともなく世間話をする。二人きりだというのに嫌な緊張感もなく、かといって男として意識していないわけでもないので、甘い高揚感もある。
そうだ、私は昨日、車の中で爆睡して、マンションに着いたら社長が私をお姫様抱っこして運ぼうとしたところで起きたのだ。
さすがに起きて良かった。二日続けて醜態をさらすところだった。
でも、起きたことはいいけれど、あまりにも眠すぎて、ふらふらになりながら気合と根性でお風呂だけは入って寝たのだった。
昔から私は、気を失うように眠りにつくことがある。学校に行きながら家事もして、いつも慢性的な寝不足だったから、体が強制的にスイッチをオフにするのである。
(昨日はけっこう早くに寝たから体が楽だな……って、今何時⁉)
飛び起きて時計を見た。
「八時⁉ 遅刻だ!」
社長は⁉ とりあえず社長に謝らないと!
そう思ってパジャマ姿のまま部屋を出て、リビングにかけこむ。
「ごめんなさ……」
とにかく謝ろうと思って発した言葉が途中で止まる。
リビングに入って、目に飛び込んできた光景に、頭が一瞬混乱した。
(しゃ、社長が、料理を作っている!)
しかもご丁寧にデニム生地風のエプロンまで着用して!
「おはよう。ちょうど良かった、今出来上がったところだ」
社長は朝の光を浴びて、笑顔がキラキラに光っている。
これは、一体、どういうこと?
昨日まで社長の冷蔵庫には飲み物以外なに一つ入っていなかった。それに、社長は朝ごはんを食べるタイプではないし、ましてや料理を作るタイプでもない。
それが、なぜ……。
口を開けて驚き固まっている私を尻目に、社長はダイニングテーブルに作った料理を並べていく。聞こえるか聞こえないかくらいの音量で鼻歌をうたっているので、とてもご機嫌だということはわかった。
社長が作った料理は、ホテルのルームサービスで提供される朝食のようだった。
真っ白な丸皿に、エッグベネディクトとナッツをまぶしたベビーリーフのサラダがオシャレに盛りつけられている。さらに、ガラスの器に入れられたヨーグルトには、イチゴやゴールデンキウイなどの果物がトッピングされ、上から蜂蜜がかけられている。
さらに別皿には、綺麗に盛りつけられた様々な種類のパンがあり、ドリンクも細身のピッチャーにオレンジジュース、レモンの入ったデトックスウォーター、アイスコーヒーと好きなものが選べる仕様になっている。
「ホットコーヒーもあるぞ」
圧倒されて言葉を失っている私に、社長は満面の笑みで言った。
勝手なイメージだけれど、男の人の料理ってこう、一品料理みたいなものしか作れないと思っていたのに、なんだろう、この完璧なエッグベネディクトは。
「あの、社長、会社は……」
「寝ぼけているのか? 今日は土曜だろ」
ああ、そうだった!
体から一気に力が抜けていく。良かった、そうだ、今日は土曜だった。だから目覚ましのアラーム音が鳴らなかったのか。
「突っ立ってないで、座れよ。なに飲む?」
「あ、じゃあ、オレンジジュースで」
「オッケー」
グラスにオレンジジュースを注いで渡してくれた。
なんで私、こんなおもてなしをされているのだろう。
「社長って、料理を作るのですね」
「いや、普段はまったく作らないよ」
え、普段作らないのにこのレベルのエッグベネディクトできるの? 天才なの?
「じゃあ、今日はどうして……」
私の問いに、社長は一瞬間を置いた。
「お前が、食べると思ったから……」
それってつまり、私のため?
私もちょっと間をあけて、社長が作った朝食に目を落とした。
「あ……ありがとうございます。いただきます」
なんだか気恥ずかしくて社長の目が見られなかった。どうしてこんなに尽くしてくれるのだろうと思うくらい社長が優しくて、正直戸惑う。
よくわからないけれど、とりあえず、せっかく作ってくれたのだから食べよう。
エッグベネディクトにナイフを入れると、半熟卵が溢れだした。一口大に切って、ゆっくりと口に運ぶ。
「美味しい……」
目を見開いて、感嘆の声が漏れる。お世辞じゃなく、本当に美味しい。
「よかった」
社長は嬉しそうに微笑み、自分も食べ始めた。
「人に作ってもらえるって幸せ」
ポロっと零れた本音に、社長は顔を上げて私を見つめた。
「いつも家族の分をお前が作っていたのか?」
「はい。朝食も夕食も、ずっと私が」
「仕事もあるのに、大変だろう」
「世の共働きのお母さんは、これに加えて育児という仕事もあって、土日もなく働いているのですから凄いですよね。私も学生の時からなので、慣れました」
私が笑って言うと、社長は眉根を寄せた。
「いや、嘘です。慣れてなんかいません。ずっと大変でした」
自分の顔を見られるのが嫌で、下を向いて朝食を頬張った。今の自分の顔は、笑顔を作れず引きつっているから。
社長もそれ以上なにも言わず、私たちはしばらく食べることに集中した。
急に話が途切れたら、なんとなく気まずくなるのが普通なのに、どうしてか沈黙も居心地が良かった。
社長が作った朝食に舌つづみを打ちながら、どちらからともなく世間話をする。二人きりだというのに嫌な緊張感もなく、かといって男として意識していないわけでもないので、甘い高揚感もある。
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