17 / 41
第四章 王子様の魔法
②
しおりを挟む
正直、同世代の女子と二人きりで食事している方が気を使ってしまう。社長と二人でいると、自然と素が出て、気がついたら笑っている。
食事を終えて、片付けをしようと立ち上がると、社長に制止された。
「いいから、いいから。それより出かけるから準備しろよ」
「え、出かけるのですか? どこに?」
「昨日は完全に敬語がなくなっていたのに、今日は敬語だな」
「あ、本当だ」
本当だって言っておきながら、出てきた言葉が砕けた口調で、顔を見合わせて笑い合った。
「楽な方でいいよ。それより早く準備してこい」
「準備っていっても、着る服が一着しかありません」
「だからだよ、ほら着替えてこい」
だからってなんだ。家に帰って服を取ってこいってことなのかな。
いやだな。もう二度と、あそこには帰りたくない。
言われるがまま出かける準備をした。準備に時間がかかるタイプではないのであっという間だ。
リビングに行くと、ちょうど片付けが終わったところのようだ。食洗器が働く音がしている。
社長はエプロンを脱ぐと、白いロンTにブラウンのグレンチェックパンツいうシンプルな格好であらわれた。シンプルなのに、というか、シンプルだからこそか、やたらとオシャレに見えるのはなぜだろう。
上からカジュアルなジャケットを羽織って、車のキーを指でまわした。
「いくぞ」
中途半端なイケメンが同じ格好で同じことをしたら、かっこつけているように見えて滑稽なかんじになってしまうのに、社長だと自然にかっこいいのはなぜだろう。
俺様で自己中な男は嫌いなはずだったのに、いつの間にか社長にときめいている。社長は口が悪いけれど、根はとても優しいことを知ってしまったからだろうか。
マンションの駐車場に行って社長がドアを開けたのは、スポーツカータイプの外車だった。ブラックなのでスポーツカー独特の派手さはなく品のよい高級感がある。
「あれ、いつも乗っている車じゃないのですか?」
「あれは仕事用だ」
なるほど、じゃあこれはプライベート用ってことですか。凄いですねっていうありきたりな感想しか出てこない。
社長が運転席で、私が助手席に座る。隣同士なのは変わらないのに、ぐっと特別感が出て、なんだか、デートみたいだと思った。
(なにがデートよ。社長はともかく、私はスーツ姿でしょ!)
一人で赤くなりながら脳内突っ込みをする。
運転している社長を見ると、鼻筋の通った横顔と、喉仏と、袖を少し上げているため、引き締まった前腕が目に入ってドキドキしてしまった。気持ちを落ち着かせるために会話を振る。
「これからどこに行くのですか?」
「ん、買い物」
「なにを買う予定ですか?」
「お前の服」
「え⁉」
驚いて社長の顔を凝視した。
「私服とスーツとインナーと、あと化粧品とかも必要か。たくさん買うものがあるから、今日は忙しいぞ」
「え、ええ、ええ⁉ え、それって……」
「えが多いな、何回目だよ」
「私、そんなお金ないですけど」
「お前に出させるわけないだろ」
社長は呆れた様子で私を横目で見た。
(ええええ~!)
思わず心の中で絶叫する。うっかり口から出てしまったら、また『えが多い』と突っ込まれてしまう。
「いいのですか⁉ そこまでしてもらって」
「俺の嫁になるからには、これくらい当然だろ」
結婚バンザイ! まさか全て買ってもらえるなんて!
着の身着のまま、いきなり同棲することになって、前途多難すぎて将来を悲観していたけれど、この契約結婚の話はとんでもなくおいしい話だったのかもしれない。
ありがたすぎて、社長の顔を見ながら合掌していると、社長が怪訝な目を向けた。
「なにしてんだよ」
「いや、拝んでおこうと思って」
「仏像じゃねぇよ」
お金持ちってスケールが違うなあ、とつくづく思う。
「あの、選ぶとき、遠慮した方がいいですか?」
「その質問するってことは、遠慮する気ないだろ」
社長は笑って受け入れている。こんな機会滅多にないというか、もう二度とないと思うので社長に思いきり買ってもらおうと思った。
社長にエスコートされながらブティックに入ると、高い天窓から柔らかな太陽の光が床に拡がっていた。雑踏や騒音は遮断され、街の喧騒とは異なる特別な空気感を放っている。
棚には一目でわかるほど上質な生地から仕立てられたワンピースやブラウスが並び、壁にはアクセサリーやバッグがまるで宝石のように端正に並べられていた。
天井には見事なシャンデリアが飾られていて、二階へと続く螺旋階段を照らしている。
上品な笑顔を浮かべる店員さんが近寄ってきて、社長となにやら話し始めたので、私は一人で店内を歩きまわった。
こんな高級なブティック、初めて入った。怖くて値札が見られない。
ユニクロとかしまむらで十分喜べるのだけどなと思いつつ、お金を出してくれるのは社長なので余計なことは言えない。
店員さんが社長の周りに集まり始め盛り上がっている。
なんだろう、店員さんたちが私の方を見て目を輝かせている……。
店員さんと話し終えた社長が私のもとに戻ってくると、おもむろにトルソーにディスプレイされていたロイヤルブルーのワンピースを指さした。袖部分が小花柄のレースになっており、上品な風合いだ。
「これがいい。あとは頼む」
食事を終えて、片付けをしようと立ち上がると、社長に制止された。
「いいから、いいから。それより出かけるから準備しろよ」
「え、出かけるのですか? どこに?」
「昨日は完全に敬語がなくなっていたのに、今日は敬語だな」
「あ、本当だ」
本当だって言っておきながら、出てきた言葉が砕けた口調で、顔を見合わせて笑い合った。
「楽な方でいいよ。それより早く準備してこい」
「準備っていっても、着る服が一着しかありません」
「だからだよ、ほら着替えてこい」
だからってなんだ。家に帰って服を取ってこいってことなのかな。
いやだな。もう二度と、あそこには帰りたくない。
言われるがまま出かける準備をした。準備に時間がかかるタイプではないのであっという間だ。
リビングに行くと、ちょうど片付けが終わったところのようだ。食洗器が働く音がしている。
社長はエプロンを脱ぐと、白いロンTにブラウンのグレンチェックパンツいうシンプルな格好であらわれた。シンプルなのに、というか、シンプルだからこそか、やたらとオシャレに見えるのはなぜだろう。
上からカジュアルなジャケットを羽織って、車のキーを指でまわした。
「いくぞ」
中途半端なイケメンが同じ格好で同じことをしたら、かっこつけているように見えて滑稽なかんじになってしまうのに、社長だと自然にかっこいいのはなぜだろう。
俺様で自己中な男は嫌いなはずだったのに、いつの間にか社長にときめいている。社長は口が悪いけれど、根はとても優しいことを知ってしまったからだろうか。
マンションの駐車場に行って社長がドアを開けたのは、スポーツカータイプの外車だった。ブラックなのでスポーツカー独特の派手さはなく品のよい高級感がある。
「あれ、いつも乗っている車じゃないのですか?」
「あれは仕事用だ」
なるほど、じゃあこれはプライベート用ってことですか。凄いですねっていうありきたりな感想しか出てこない。
社長が運転席で、私が助手席に座る。隣同士なのは変わらないのに、ぐっと特別感が出て、なんだか、デートみたいだと思った。
(なにがデートよ。社長はともかく、私はスーツ姿でしょ!)
一人で赤くなりながら脳内突っ込みをする。
運転している社長を見ると、鼻筋の通った横顔と、喉仏と、袖を少し上げているため、引き締まった前腕が目に入ってドキドキしてしまった。気持ちを落ち着かせるために会話を振る。
「これからどこに行くのですか?」
「ん、買い物」
「なにを買う予定ですか?」
「お前の服」
「え⁉」
驚いて社長の顔を凝視した。
「私服とスーツとインナーと、あと化粧品とかも必要か。たくさん買うものがあるから、今日は忙しいぞ」
「え、ええ、ええ⁉ え、それって……」
「えが多いな、何回目だよ」
「私、そんなお金ないですけど」
「お前に出させるわけないだろ」
社長は呆れた様子で私を横目で見た。
(ええええ~!)
思わず心の中で絶叫する。うっかり口から出てしまったら、また『えが多い』と突っ込まれてしまう。
「いいのですか⁉ そこまでしてもらって」
「俺の嫁になるからには、これくらい当然だろ」
結婚バンザイ! まさか全て買ってもらえるなんて!
着の身着のまま、いきなり同棲することになって、前途多難すぎて将来を悲観していたけれど、この契約結婚の話はとんでもなくおいしい話だったのかもしれない。
ありがたすぎて、社長の顔を見ながら合掌していると、社長が怪訝な目を向けた。
「なにしてんだよ」
「いや、拝んでおこうと思って」
「仏像じゃねぇよ」
お金持ちってスケールが違うなあ、とつくづく思う。
「あの、選ぶとき、遠慮した方がいいですか?」
「その質問するってことは、遠慮する気ないだろ」
社長は笑って受け入れている。こんな機会滅多にないというか、もう二度とないと思うので社長に思いきり買ってもらおうと思った。
社長にエスコートされながらブティックに入ると、高い天窓から柔らかな太陽の光が床に拡がっていた。雑踏や騒音は遮断され、街の喧騒とは異なる特別な空気感を放っている。
棚には一目でわかるほど上質な生地から仕立てられたワンピースやブラウスが並び、壁にはアクセサリーやバッグがまるで宝石のように端正に並べられていた。
天井には見事なシャンデリアが飾られていて、二階へと続く螺旋階段を照らしている。
上品な笑顔を浮かべる店員さんが近寄ってきて、社長となにやら話し始めたので、私は一人で店内を歩きまわった。
こんな高級なブティック、初めて入った。怖くて値札が見られない。
ユニクロとかしまむらで十分喜べるのだけどなと思いつつ、お金を出してくれるのは社長なので余計なことは言えない。
店員さんが社長の周りに集まり始め盛り上がっている。
なんだろう、店員さんたちが私の方を見て目を輝かせている……。
店員さんと話し終えた社長が私のもとに戻ってくると、おもむろにトルソーにディスプレイされていたロイヤルブルーのワンピースを指さした。袖部分が小花柄のレースになっており、上品な風合いだ。
「これがいい。あとは頼む」
23
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました
國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。
しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる