シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜

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第四章 王子様の魔法

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 正直、同世代の女子と二人きりで食事している方が気を使ってしまう。社長と二人でいると、自然と素が出て、気がついたら笑っている。

 食事を終えて、片付けをしようと立ち上がると、社長に制止された。

「いいから、いいから。それより出かけるから準備しろよ」

「え、出かけるのですか? どこに?」

「昨日は完全に敬語がなくなっていたのに、今日は敬語だな」

「あ、本当だ」

 本当だって言っておきながら、出てきた言葉が砕けた口調で、顔を見合わせて笑い合った。

「楽な方でいいよ。それより早く準備してこい」

「準備っていっても、着る服が一着しかありません」

「だからだよ、ほら着替えてこい」

 だからってなんだ。家に帰って服を取ってこいってことなのかな。

 いやだな。もう二度と、あそこには帰りたくない。

 言われるがまま出かける準備をした。準備に時間がかかるタイプではないのであっという間だ。

 リビングに行くと、ちょうど片付けが終わったところのようだ。食洗器が働く音がしている。

 社長はエプロンを脱ぐと、白いロンTにブラウンのグレンチェックパンツいうシンプルな格好であらわれた。シンプルなのに、というか、シンプルだからこそか、やたらとオシャレに見えるのはなぜだろう。

 上からカジュアルなジャケットを羽織って、車のキーを指でまわした。

「いくぞ」

 中途半端なイケメンが同じ格好で同じことをしたら、かっこつけているように見えて滑稽なかんじになってしまうのに、社長だと自然にかっこいいのはなぜだろう。

 俺様で自己中な男は嫌いなはずだったのに、いつの間にか社長にときめいている。社長は口が悪いけれど、根はとても優しいことを知ってしまったからだろうか。

 マンションの駐車場に行って社長がドアを開けたのは、スポーツカータイプの外車だった。ブラックなのでスポーツカー独特の派手さはなく品のよい高級感がある。

「あれ、いつも乗っている車じゃないのですか?」

「あれは仕事用だ」

 なるほど、じゃあこれはプライベート用ってことですか。凄いですねっていうありきたりな感想しか出てこない。

 社長が運転席で、私が助手席に座る。隣同士なのは変わらないのに、ぐっと特別感が出て、なんだか、デートみたいだと思った。

(なにがデートよ。社長はともかく、私はスーツ姿でしょ!)

 一人で赤くなりながら脳内突っ込みをする。

 運転している社長を見ると、鼻筋の通った横顔と、喉仏と、袖を少し上げているため、引き締まった前腕が目に入ってドキドキしてしまった。気持ちを落ち着かせるために会話を振る。

「これからどこに行くのですか?」

「ん、買い物」

「なにを買う予定ですか?」

「お前の服」

「え⁉」

 驚いて社長の顔を凝視した。

「私服とスーツとインナーと、あと化粧品とかも必要か。たくさん買うものがあるから、今日は忙しいぞ」

「え、ええ、ええ⁉ え、それって……」

「えが多いな、何回目だよ」

「私、そんなお金ないですけど」

「お前に出させるわけないだろ」

 社長は呆れた様子で私を横目で見た。

(ええええ~!)

 思わず心の中で絶叫する。うっかり口から出てしまったら、また『えが多い』と突っ込まれてしまう。

「いいのですか⁉ そこまでしてもらって」

「俺の嫁になるからには、これくらい当然だろ」

 結婚バンザイ! まさか全て買ってもらえるなんて!

 着の身着のまま、いきなり同棲することになって、前途多難すぎて将来を悲観していたけれど、この契約結婚の話はとんでもなくおいしい話だったのかもしれない。

 ありがたすぎて、社長の顔を見ながら合掌していると、社長が怪訝な目を向けた。

「なにしてんだよ」

「いや、拝んでおこうと思って」

「仏像じゃねぇよ」

 お金持ちってスケールが違うなあ、とつくづく思う。

「あの、選ぶとき、遠慮した方がいいですか?」

「その質問するってことは、遠慮する気ないだろ」

 社長は笑って受け入れている。こんな機会滅多にないというか、もう二度とないと思うので社長に思いきり買ってもらおうと思った。

 社長にエスコートされながらブティックに入ると、高い天窓から柔らかな太陽の光が床に拡がっていた。雑踏や騒音は遮断され、街の喧騒とは異なる特別な空気感を放っている。

 棚には一目でわかるほど上質な生地から仕立てられたワンピースやブラウスが並び、壁にはアクセサリーやバッグがまるで宝石のように端正に並べられていた。

 天井には見事なシャンデリアが飾られていて、二階へと続く螺旋階段を照らしている。

 上品な笑顔を浮かべる店員さんが近寄ってきて、社長となにやら話し始めたので、私は一人で店内を歩きまわった。

 こんな高級なブティック、初めて入った。怖くて値札が見られない。

 ユニクロとかしまむらで十分喜べるのだけどなと思いつつ、お金を出してくれるのは社長なので余計なことは言えない。

 店員さんが社長の周りに集まり始め盛り上がっている。

 なんだろう、店員さんたちが私の方を見て目を輝かせている……。

 店員さんと話し終えた社長が私のもとに戻ってくると、おもむろにトルソーにディスプレイされていたロイヤルブルーのワンピースを指さした。袖部分が小花柄のレースになっており、上品な風合いだ。

「これがいい。あとは頼む」
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