シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜

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第四章 王子様の魔法

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 それだけ言い残し、社長は奥の部屋へと行ってしまった。そして、店員さんたちが今度は私の方へと寄ってきた。

「こちらのワンピースなんてどうでしょう。エレガントでどんな場面でも映えますよ」

「それでしたら、こちらのバッグが合うと思いますよ」

 あれよ、あれよという間に試着室へと連れられ、言われるがまま様々な服を試着した。まるで着せ替え人形だ。

「よくお似合いで!」

「スタイルがよろしいからなんでも着こなしてしまいますね」

 なぜかやたらと褒められて、気がついたらレジの後ろには試着済みの山盛りの洋服があった。

 まさか、これ全部購入する気じゃ……。

 もはやなにを試着したかすら覚えていない。最後は、社長が指さしたロイヤルブルーのワンピースとそれに似合うネックレスやバッグ、そして靴までコーディネートしてもらい、それを着て帰ることになった。

 社長がいる奥の部屋へと入ると、社長は応接室のようなところで優雅にコーヒーを飲んでいた。

「おお、終わったか」

 社長は振り返ると、どこかの令嬢のような姿になった私を見て驚いた顔を浮かべた。

「いかがでしょう」

 店員さんが誇らしそうに私を手で指し示した。

「完璧だ」

 社長は満足そうに頷いた。

 いや、着せ替え人形じゃないのだから、と心の中で突っ込みつつ、内心嬉しかったりもした。

 こんな上質で素敵なワンピースを、ずっと着てみたかった。どうせ似合わないからと諦めていたけれど、社長が『完璧だ』と言ってくれたから少し自信が持てた。

 それに、昔お気に入りだったワンピースに色合いがよく似ていた。お母さんが私に買ってくれた青い小花柄のワンピース。継母が勝手に捨ててしまったことを知ったとき、一晩中泣いた。あのワンピースが戻ってきたようで嬉しかった。

 何着買ったかわからない洋服たちは、今日中に社長の家に届けられるそうだ。怖ろしくて値段は聞けない。たぶん、聞かない方が精神的にいいと思う。

 休憩がてらカフェでランチをして、そこからまた買い物。今度は化粧品や日用品、お皿など生活必需品を購入した。

 全部終わったら、夜になっていた。高級レストランでコースのディナーを食べて、飲み慣れないワインを飲んだらすっかり酔っぱらっていた。車は代行を頼むことにした。

「夜景でも見てから帰るか」

 なんて社長が言うから、いい気分になった私は、社長の腕を組んで、「いいですね! 歩いて行きましょう!」とご機嫌に歩き出した。

 キャンドルが幻想的に灯る街並みの中を並んで歩く。私たち以外誰もいないので、とても気楽だ。

「なんだかデートみたい」と私が言うと、「デートだろ」と社長がさらっと言い放った。

「じゃあ私、初デートだ」

 私の言葉に社長は目を見開いて驚いた。

「この歳で、初デートって引きました?」

「いや、顔がにやけてしまうのを隠せないくらい嬉しい」

 社長の顔を覗き込むと、本当に口元が嬉しそうに緩んでいた。

 すると社長は道の途中で立ち止まった。

「色々と順番が逆だが、これを受け取ってほしい」

 社長は真面目な顔をして私と向き合い、四角いリングケースを差し出した。

(ドラマとかで見たことある。もしかしてこれって……)

 社長がリングケースを開けると、息を飲むほどの大きなダイヤの指輪があらわれた。

「俺と結婚してほしい」

 社長は少し緊張しているような真剣な眼差しで私を見つめた。

 まるで夢の中にいるようだ。お酒でふらふらした頭の中で、ロマンチックなキャンドルに囲まれながらプロポーズを受けている。

「……はい」

 フニャっとした笑みを浮かべて、結婚を承諾する。凄くいい気分だ。

 社長が指輪を取り、私の薬指にダイヤの指輪をはめる。いつリサーチしたのか、指のサイズはピッタリだった。

 左手を顔まで掲げて、指輪をしげしげと眺める。

「うわ~、夢みたい」

 呂律がまわっていない口で呟く。私はずっとへらへらと笑っているのに対して、社長はやけに真剣な表情だ。

「今まで辛かった分、俺が全部受け止めて、絶対に幸せにするから」

「私が辛かったこと、どうして知っているのですか?」

 不思議そうに小首を傾げる私を見て、社長は悲しそうに眉を寄せ、唇を噛みしめた。

 そして、急に強く抱きしめた。社長の胸の中に顔がうずまる。驚いて固まっている私に、社長は耳元で囁いた。

「嫌なら嫌って言ってくれ。離したくないけど、離すから」

 社長の腕に包まれて、温かくて気持ちよかった。

「嫌……じゃ、ない」

 消えるような小さな声で言った。

 すると社長はその言葉に呼応するように強く抱きしめたあと、私の顔を両手で挟んで持ち上げた。目と目が触れ合う。鼻先がつくように近い。

「嫌なら、ビンタでもなんでも受け入れる。今なら抑えられる」

 社長の顔はなにかを猛烈に我慢するように辛そうにしていた。その顔はとても色気があって、磁力に引かれるように、気がついたら言葉が漏れていた。

「い……や、では……ない」

 社長はなにかがプツンと切れたように、私の唇に社長の唇を押しつけてきた。

 初めての、キス。

 私は目を見開いたまま固まった。どうしていいのかわからなくて、何度もまばたきをする。

 余裕がまったくない社長の姿を見るのは初めてだ。社長は私の体を抱きしめて、いったん唇を離し、私の顔を見た。

 固まりながら、目を閉じずにまばたきばかりを繰り返す私を見て、社長は愛おしそうに笑った。そして、社長から余裕のない緊張感が消えて、再び唇を重ねてきた。

 今度はとても優しくて、柔らかくて、体が溶けそうになるくらい甘いキスだった。
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