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第八章 すれ違い三角関係勃発
①
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「やっ、あ……大翔……」
捺美の黒くて艶やかな長い髪がベッドの上で波打つ。
長いまつ毛に縁取られた大きな瞳が潤み、物憂げに俺を見つめている。小さな顔の頬が赤く染まり、透き通るような白い肌は滑らかで弾力がある。
手を絡め、唇を貪る。抑えきれない欲望をぶつけるように、捺美を強く抱いた――
「……って俺は、なんて夢を見ている!」
誰もいない部屋で、一人ベッドから飛び起きた俺は声を上げた。
ハッとして思わず自分の口を手で抑える。
(聞こえてないよな?)
俺の部屋には誰もいないが、俺の家にはアイツがいる。さきほど夢に出てきた女性だ。
欲求不満もここまでくると、いっそ清々しい。ベッドに誘うも、見事に断られたので、夢に出てきてしまったらしい。
捺美への想いは日毎に増している。どんな女性とつき合ってもすぐに別れてしまっていた俺なのに、捺美への気持ちは本物だとわかる。
別れた幾人もの元カノは、一緒にいるのが億劫で、我儘をきくのも面倒くさい。会うことを極力減らすために、仕事を理由に断り続け、それでも長く続かなかった。
それが今や、一分一秒でも早く家に帰って捺美に会いたいし、一緒にいる時間が楽しくて仕方がない。さらに、どんな我儘でもきいてあげたいし、むしろ言われなくても率先して尽くす。
同じ男かと疑うほどの変わりようだ。自分でも好きな気持ちが抑えきれない。
それなのに、人生とはままならないもので、他の女性は望んでいなくても寄ってくるのに、一番欲しい女性は手に入らない。
こんなに好きになった女性と結婚できたことは幸運だが、本物の夫婦にはなれていない。夫婦どころか恋人同士にもなれていない。
しかも離婚前提の契約結婚。絶対離婚なんてしたくない。誰だ、離婚前提なんて言ったの。俺か。
このまま、素知らぬ様子で結婚生活を続けていくにはどうしたらいいか。
既成事実を作ってしまい、離婚するのは面倒だから結婚生活を続けていこうという風に持っていく。そして、気がついたら心を通わせた本物の夫婦になっており、子どもができて幸せな家庭を築いて……という展開になるのが理想だが、現実は甘くないらしい。
キスはいいが、それ以上は拒まれる。
当初の手は出さないという約束を華麗に反故しているわけだから、これ以上は強制できない。
でも、キスはいいなら俺にも望みはあると思っていたのに、それ以上は駄目。
どういう基準なのだろう。俺って、どういう対象?
捺美の考えていることが全然わからなくて、そんなところすら魅力で、とにかく全てが可愛くて、どんどん夢中になっている。
利用されていようが、俺のことなんて踏み台としか思っていなかったとしても、それすらも構わない。捺美に踏み台にされるなら本望だ。ヤバいな俺。
朝、二人で出勤すると、捺美は「じゃ」と軽く言って、早々に自分のオフィスへと向かっていく。
最初の頃は、社内での好奇な目線に戸惑っていたようだが、今では華麗にシャットアウトして、自分の仕事に集中しているようだ。
身体は華奢で、透き通るような透明感と可愛らしい見た目に騙される者も多いだろうが、捺美の内面は男前だ。そんじょそこらの男よりも、我慢強く責任感があり、素早い決断力も持っている。
俺が守ってあげなくても、自力で生き抜けるだけの胆力がある女だということはわかっている。わかってはいるが……。
社長室に入り、デスクチェアに座って、最初に目を通す報告書は、昨日の捺美の行動だ。
婚約が決まってから、営業事務のオフィスには捺美の行動をチェックし、周囲からの嫌がらせを阻止するスパイのような役割を派遣している。
「なにを朝から熱心に読んでいるかと思ったら、また奥さんに関する報告書ですか。愛が重すぎてキモいっすよ」
高城が応接室のソファに座りながら言った。
「愛する妻が困っているのを助けてあげるのは夫として当然の責務だろう」
「バレたら離婚されますよ」
高城を思いきり睨みつける。バレなくても離婚の危機があるだけに、高城の言葉は耳が痛い。
スパイを派遣してわかったことだが、どうやら捺美は入社してからずっと同僚たちから嫌がらせをされていたらしい。
理由は美人だから。なんていう浅はかで愚かな理由だ。
怒りに震えて、捺美を虐めていた奴らを全員クビにしてやろうかと思ったが、証拠もないし、そんな個人的な理由で辞めさせることは道義的になしだろうという高城からのアドバイスもあり踏みとどまることができた。
嫌がらせとはいっても、直接なにかをしてくるというわけではなく、たまに嫌味を言われる程度だったとのことだ。
それだけでも俺の中では腹がたって仕方がなかったので、部署異動させたり、捺美に関わらないように裏で手を回したりはしている。
社内で捺美のかげ口や悪口を言う者がいたら、こっそり手をまわして直属の上司から注意されるよう手配もしている。
それもこれも全ては捺美が快適に仕事をできるようにするためだ、と自分の行為を正当化させて報告書の続きを読んでいた目が止まる。
「おい、高城、これはどういうことだ?」
「ああ、夜の謎のミーティングの件ですね」
俺よりも先に報告書に目を通していた高城がなんでもないことのように言った。
ふざけてはいるがこの男、誰よりも仕事が早い。
「特に早急な会議が必要な仕事がなかったにも関わらず、ミーティングルームを使用していた。ちょっと怪しいですよね」
昨日帰ってくるのが遅かったのは、これが原因か?
「佐伯という男、仕事はできるが、何人もの営業事務の女の子が音を上げて異動を願い出たらしいじゃないか。パワハラか? それともセクハラか?」
捺美の黒くて艶やかな長い髪がベッドの上で波打つ。
長いまつ毛に縁取られた大きな瞳が潤み、物憂げに俺を見つめている。小さな顔の頬が赤く染まり、透き通るような白い肌は滑らかで弾力がある。
手を絡め、唇を貪る。抑えきれない欲望をぶつけるように、捺美を強く抱いた――
「……って俺は、なんて夢を見ている!」
誰もいない部屋で、一人ベッドから飛び起きた俺は声を上げた。
ハッとして思わず自分の口を手で抑える。
(聞こえてないよな?)
俺の部屋には誰もいないが、俺の家にはアイツがいる。さきほど夢に出てきた女性だ。
欲求不満もここまでくると、いっそ清々しい。ベッドに誘うも、見事に断られたので、夢に出てきてしまったらしい。
捺美への想いは日毎に増している。どんな女性とつき合ってもすぐに別れてしまっていた俺なのに、捺美への気持ちは本物だとわかる。
別れた幾人もの元カノは、一緒にいるのが億劫で、我儘をきくのも面倒くさい。会うことを極力減らすために、仕事を理由に断り続け、それでも長く続かなかった。
それが今や、一分一秒でも早く家に帰って捺美に会いたいし、一緒にいる時間が楽しくて仕方がない。さらに、どんな我儘でもきいてあげたいし、むしろ言われなくても率先して尽くす。
同じ男かと疑うほどの変わりようだ。自分でも好きな気持ちが抑えきれない。
それなのに、人生とはままならないもので、他の女性は望んでいなくても寄ってくるのに、一番欲しい女性は手に入らない。
こんなに好きになった女性と結婚できたことは幸運だが、本物の夫婦にはなれていない。夫婦どころか恋人同士にもなれていない。
しかも離婚前提の契約結婚。絶対離婚なんてしたくない。誰だ、離婚前提なんて言ったの。俺か。
このまま、素知らぬ様子で結婚生活を続けていくにはどうしたらいいか。
既成事実を作ってしまい、離婚するのは面倒だから結婚生活を続けていこうという風に持っていく。そして、気がついたら心を通わせた本物の夫婦になっており、子どもができて幸せな家庭を築いて……という展開になるのが理想だが、現実は甘くないらしい。
キスはいいが、それ以上は拒まれる。
当初の手は出さないという約束を華麗に反故しているわけだから、これ以上は強制できない。
でも、キスはいいなら俺にも望みはあると思っていたのに、それ以上は駄目。
どういう基準なのだろう。俺って、どういう対象?
捺美の考えていることが全然わからなくて、そんなところすら魅力で、とにかく全てが可愛くて、どんどん夢中になっている。
利用されていようが、俺のことなんて踏み台としか思っていなかったとしても、それすらも構わない。捺美に踏み台にされるなら本望だ。ヤバいな俺。
朝、二人で出勤すると、捺美は「じゃ」と軽く言って、早々に自分のオフィスへと向かっていく。
最初の頃は、社内での好奇な目線に戸惑っていたようだが、今では華麗にシャットアウトして、自分の仕事に集中しているようだ。
身体は華奢で、透き通るような透明感と可愛らしい見た目に騙される者も多いだろうが、捺美の内面は男前だ。そんじょそこらの男よりも、我慢強く責任感があり、素早い決断力も持っている。
俺が守ってあげなくても、自力で生き抜けるだけの胆力がある女だということはわかっている。わかってはいるが……。
社長室に入り、デスクチェアに座って、最初に目を通す報告書は、昨日の捺美の行動だ。
婚約が決まってから、営業事務のオフィスには捺美の行動をチェックし、周囲からの嫌がらせを阻止するスパイのような役割を派遣している。
「なにを朝から熱心に読んでいるかと思ったら、また奥さんに関する報告書ですか。愛が重すぎてキモいっすよ」
高城が応接室のソファに座りながら言った。
「愛する妻が困っているのを助けてあげるのは夫として当然の責務だろう」
「バレたら離婚されますよ」
高城を思いきり睨みつける。バレなくても離婚の危機があるだけに、高城の言葉は耳が痛い。
スパイを派遣してわかったことだが、どうやら捺美は入社してからずっと同僚たちから嫌がらせをされていたらしい。
理由は美人だから。なんていう浅はかで愚かな理由だ。
怒りに震えて、捺美を虐めていた奴らを全員クビにしてやろうかと思ったが、証拠もないし、そんな個人的な理由で辞めさせることは道義的になしだろうという高城からのアドバイスもあり踏みとどまることができた。
嫌がらせとはいっても、直接なにかをしてくるというわけではなく、たまに嫌味を言われる程度だったとのことだ。
それだけでも俺の中では腹がたって仕方がなかったので、部署異動させたり、捺美に関わらないように裏で手を回したりはしている。
社内で捺美のかげ口や悪口を言う者がいたら、こっそり手をまわして直属の上司から注意されるよう手配もしている。
それもこれも全ては捺美が快適に仕事をできるようにするためだ、と自分の行為を正当化させて報告書の続きを読んでいた目が止まる。
「おい、高城、これはどういうことだ?」
「ああ、夜の謎のミーティングの件ですね」
俺よりも先に報告書に目を通していた高城がなんでもないことのように言った。
ふざけてはいるがこの男、誰よりも仕事が早い。
「特に早急な会議が必要な仕事がなかったにも関わらず、ミーティングルームを使用していた。ちょっと怪しいですよね」
昨日帰ってくるのが遅かったのは、これが原因か?
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