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第十章 消えたシンデレラ
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捺美がいなくなって二日目。
警察に失踪届けも出し、探偵も雇って全力で捺美を探しているが、いまだに有力な手掛かりはない。
社長室の応接ソファには、俺と高城が横に座っていて、俺の目の前には女性社員が一人座っている。
まるで面接のように対面して座っているが、空気は重く緊迫しているので、尋問のような雰囲気が漂っていた。
女性社員の名前は、桂木昌。捺美の態度が急におかしくなった日に、捺美と二人でランチをしていた人物である。
彼女は総合職入社で営業をしている。圧倒的に男性が多い中、物怖じしない性格と頭の良さで同期入社トップの成績をあげている。
髪は短く、目が大きくて顔が小さい。美女というよりは、美少年のような雰囲気だ。
張りつめた雰囲気の中の呼び出しで、普通なら緊張で固まってしまいそうだが、妙に落ち着いている。
「あの日、どうして捺美と昼食を食べに出かけた?」
まるで容疑者に対する質問のように、きつい口調で問う俺に、彼女は臆することなく答える。
「だから、さっきから言っているじゃないですか。近くに美味しいお店があるって言ったら、あの子が行きたいって言うから、じゃあ一緒に行こうかって流れになったって。社長夫人は、社長の許可がないとランチも行っちゃいけないのですか?」
「なんで捺美と話していた?」
「会話しちゃ駄目ですか?」
「駄目とは言っていない。捺美は仕事と関係のない話はしないようなタイプだろ。どうして捺美と仲良くなろうと思った」
「仲良くなりたいとか、友達になりたいとかそういう目的で言ったわけではないですよ。流れですよ、流れ。あるでしょ、そういうの」
彼女の返答に、俺と高城は目を合わせる。
「怪しいな」
「怪しいですね」
「なんですか、怪しいって! 食事に行っただけじゃないですか!」
彼女は心外だと言わんばかりに声を荒げる。
「捺美となにを話していた」
俺の問いに、絶句した彼女はソファにもたれかかって天を仰いだ。
「まじ、めんどくせ~。こんな束縛男と結婚したら、そりゃ捺美も逃げ出すわ」
おい、俺、社長だぞ? その態度と口調はなんだ、と言いたい気持ちをぐっと堪える。
「捺美と呼んでいるのですね。捺美さんはあなたのことをなんと呼んでいたのですか?」
高城が外面の笑顔を顔に張りつけて優しく聞いた。
「普通に桂木さんですよ。私の方が一個年上だし」
「捺美さんへの呼び方は、ただの同僚にしては親しい呼び方ですよね。捺美さんとは友達ではなかったのですか?」
「別に、私は年下のことは基本呼び捨てだから。敬語も使わないし」
(年上にはせめて敬語を使え)
苛立ちながら隣で聞いていた。俺と高城に対しても、ちょくちょく敬語が抜けているのが気になって仕方ない。
俺が聞くよりも高城が質問した方が素直に答えている気がするので、色々言いたい気持ちはあるが口を噤んだ。
「捺美とは友達ではなかったけど、あの子なら友達になってもいいかな……とは思っていたよ」
彼女は少し悲しそうに言った。捺美が行方不明になったということは、社内中が知っている。
「あなたと捺美さんは性格が違うように見えますが、気が合ったということですか?」
高城の目が光る。だんだん本質に切り込むつもりのようだ。
「気が合うっていうか、波長が合うかんじがする。あの子、見た目によらず芯が強いし根性があるでしょ。私、仲間とつるんでいないと不安を感じる、ザ・女子系は苦手だからさ」
なんだかわかる気がする。捺美は、見た目華奢で女の子っぽいけれど、中身は根性すわっているところがあるからな。
表面的じゃなく、しっかり捺美の中身を見ているな、この子。
口も悪いし態度も悪いが、案外根はいい奴なのかもしれない。
「なるほど。桂木さんと捺美さんは友情を深めていたということですね」
「なんかその言い方、重いな。普通に飯を食べていただけだよ」
「ちなみに、どんなお店に行っていたのですか?」
「会社の近くにある激辛ラーメン楓」
昼時になると、サラリーマンと男子学生が並ぶというわりと有名な店だ。俺も聞いたことがあるが、並んでまで食べたいとは思わなかったから行っていない。ちなみに女の人が並んでいるのは見たことがない。
見た目のいいこの二人が、あそこの店に行ったらさぞかし目立っただろう。
「あのお店はかなりからいですよね。捺美さんの反応はどうだったのですか?」
「からい、からいって言って、涙と汗が出て笑ってた。やたら可愛かった」
涙と汗が出ているのに綺麗な顔を保てる捺美はさすがだ。
桂木は女子なのに、捺美のことを可愛いと言うあたり、中身おっさん気質なんじゃないだろうか。
それにしても、想像するだけで可愛い。激辛ラーメン食べて笑っている捺美を見たい。軽く嫉妬心をおぼえる。
「お店ではどんな話をしたのですか?」
「別にたいした話してないし、内容も覚えてないよ。ただ……」
「ただ?」
高城の目が鋭くなった。俺も息を飲んで続きを待つ。
「食べ終わって会社に戻る途中に、捺美が呼び止められた」
「誰に?」
つい身を乗り出して口を出してしまう。
「知らない。帽子を目深に被った女の人だった。たぶん、私たちと年齢はあんまり変わらないと思う」
「なんて言って呼び止められたのですか?」
「普通に『捺美』って……」
「それで、捺美さんの反応は?」
「最初はきょとんとしていたけど、誰なのかわかったら驚いていた。いや、驚いていたっていうより、怯えていた。顔が真っ青になったから」
捺美が呼び止められたという女性に心当たりがあった。もしもその女性が、俺が想像する人物だとしたら、捺美のいる場所は……。
「それで、その女性は捺美さんとどんな話をしたのですか?」
「わからない。捺美の耳元で一言なにかを伝えたことはわかったけど、なんか危険なかんじがして、すぐに引き離した。そしたらその女の人は、すぐに去っていったよ。捺美に危害を与えようとしているかんじではなかったけど、捺美がそのあと震え出したから、逃げるように会社に戻った」
「なるほど。捺美さんはその女性のことをなんと言っていましたか?」
「聞いてない」
「え、青ざめて震え出したのに、あなたはなにも聞かなかったのですか?」
「だからだよ。なんか、わけありなのかなと思ったからさ。言いたかったら、自分から言うだろうし。そういうこと答えたくないときってあるだろ」
なるほど。捺美がおかしくなったのは、帽子を目深に被った女性と会ったからか。桂木は捺美の行方不明に関わっていないことがわかった。
「あの帽子被った女、社長の昔の彼女かなんか? 結婚するならちゃんと過去の異性関係を清算しとけよ!」
桂木は怒りに満ちた目で俺を批判した。捺美が傷ついているのが俺のせいと思って怒っているのだろう。
「違う、きっとその女性は……。いや、なんでもない。それより、君の疑いは晴れた。戻っていいぞ」
「やっぱり疑っていたのかよ!」
桂木はぶつぶつ文句を言いながら社長室を出て行った。
「あいつ大丈夫なのか? あれで営業って問題だろ」
「ええ、売上も多いですが、トラブルの件数も社内一です」
「だろうな」
そりゃそうだという感想しか出てこない。むしろこれでトラブルがなかったら二重人格を疑う。
だが、アレで売上を持ってくる理由もなんとなくわかった。
生意気だが、心根の素直さは感じられる。捺美の友達になっても構わないし、もし仲良くなったら捺美は喜ぶだろうなと思えるくらいに俺の信頼は勝ち得た。
桂木昌。なかなかの大物だな。
「それよりも……」
「はい、捺美さんと桂木さんがランチをした日の防犯カメラを大至急調べさせます」
「うん、その日以降の防犯カメラ映像も調べろ。そして、探偵の張り込み人数を増やせ」
「社長はやはり、捺美さんはあの場所にいると思っているのですか?」
「ああ。正直、最悪なパターンだが、あそこ以外にないだろう」
玄関のドアを開けるとき、つい期待に胸が高揚してしまう。
捺美が、帰ってきているかもしれないって。
捺美が笑顔で出迎えてくれて、『ごめんね、急にいなくなって。でも、これからはずっと一緒にいるよ』って言ってくれる。
願望を頭の中で妄想して、勝手に期待して、実際にドアを開けたらその願望は夢でしかなかったのだと絶望する。
暗く、静かで、無機質な我が家。
こんなに寂しい家だっただろうか。リビングがやけに広く感じる。
静かさに耐えられず、テレビをつけるも、まったく見る気になれない。
料理だって、作りたいとも思わない。冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを取り出して、ソファに座ってプルタブを開ける。
食事も取る気になれない。仕事にも身が入らない。
なにをしたって、胸の中の大きな空洞を埋められない。埋めることができるのはただ一人、捺美だけだ。
捺美になにがあったのか、おぼろげながら見えてきた。
桂木とランチをしたあの日の防犯カメラ映像を入手した。会社の周辺を撮っていたものの中に、帽子を被った不審人物が写り込んでいた。
奴は捺美を見つけるとおもむろに近付いていき、捺美の耳元で不気味になにかを囁いた。
奴を見た捺美の顔は恐怖に怯えていて、捺美に危害が加えられなかったことが不幸中の幸いだ。
さらに防犯カメラを調べたところ、その人物は毎日のように同じ時間帯に現れていた。
ずっと、捺美が外に出てくるのを待っていたのだろう。とんでもない執念だ。
帽子を被った女の顔は、俺が予想していた人物そのものだった。
捺美の義理の姉、真由美。現在無職で、時間は山のようにある。実はこの人物、捺美との婚約が決まった時からマークしていた。
捺美が急に家に帰らなくなり、困るのは継娘と継母だということはわかっていた。
捺美は電話もメールもブロックしていたが、それだけで引き下がるような親子ではない。捺美には知られないように徹底して隠していたが、継娘と継母が会社に乗り込んできたことは何度もある。
受付には、捺美は会社を辞めたと伝えるように指示し、そして社内では個人情報を漏らさないように通達を出した。
彼女たちは受付で門前払いをされ、道行くうちの社員に捺美のことを聞きまわっていたそうだが、捺美の情報は漏れなかった。
警察に失踪届けも出し、探偵も雇って全力で捺美を探しているが、いまだに有力な手掛かりはない。
社長室の応接ソファには、俺と高城が横に座っていて、俺の目の前には女性社員が一人座っている。
まるで面接のように対面して座っているが、空気は重く緊迫しているので、尋問のような雰囲気が漂っていた。
女性社員の名前は、桂木昌。捺美の態度が急におかしくなった日に、捺美と二人でランチをしていた人物である。
彼女は総合職入社で営業をしている。圧倒的に男性が多い中、物怖じしない性格と頭の良さで同期入社トップの成績をあげている。
髪は短く、目が大きくて顔が小さい。美女というよりは、美少年のような雰囲気だ。
張りつめた雰囲気の中の呼び出しで、普通なら緊張で固まってしまいそうだが、妙に落ち着いている。
「あの日、どうして捺美と昼食を食べに出かけた?」
まるで容疑者に対する質問のように、きつい口調で問う俺に、彼女は臆することなく答える。
「だから、さっきから言っているじゃないですか。近くに美味しいお店があるって言ったら、あの子が行きたいって言うから、じゃあ一緒に行こうかって流れになったって。社長夫人は、社長の許可がないとランチも行っちゃいけないのですか?」
「なんで捺美と話していた?」
「会話しちゃ駄目ですか?」
「駄目とは言っていない。捺美は仕事と関係のない話はしないようなタイプだろ。どうして捺美と仲良くなろうと思った」
「仲良くなりたいとか、友達になりたいとかそういう目的で言ったわけではないですよ。流れですよ、流れ。あるでしょ、そういうの」
彼女の返答に、俺と高城は目を合わせる。
「怪しいな」
「怪しいですね」
「なんですか、怪しいって! 食事に行っただけじゃないですか!」
彼女は心外だと言わんばかりに声を荒げる。
「捺美となにを話していた」
俺の問いに、絶句した彼女はソファにもたれかかって天を仰いだ。
「まじ、めんどくせ~。こんな束縛男と結婚したら、そりゃ捺美も逃げ出すわ」
おい、俺、社長だぞ? その態度と口調はなんだ、と言いたい気持ちをぐっと堪える。
「捺美と呼んでいるのですね。捺美さんはあなたのことをなんと呼んでいたのですか?」
高城が外面の笑顔を顔に張りつけて優しく聞いた。
「普通に桂木さんですよ。私の方が一個年上だし」
「捺美さんへの呼び方は、ただの同僚にしては親しい呼び方ですよね。捺美さんとは友達ではなかったのですか?」
「別に、私は年下のことは基本呼び捨てだから。敬語も使わないし」
(年上にはせめて敬語を使え)
苛立ちながら隣で聞いていた。俺と高城に対しても、ちょくちょく敬語が抜けているのが気になって仕方ない。
俺が聞くよりも高城が質問した方が素直に答えている気がするので、色々言いたい気持ちはあるが口を噤んだ。
「捺美とは友達ではなかったけど、あの子なら友達になってもいいかな……とは思っていたよ」
彼女は少し悲しそうに言った。捺美が行方不明になったということは、社内中が知っている。
「あなたと捺美さんは性格が違うように見えますが、気が合ったということですか?」
高城の目が光る。だんだん本質に切り込むつもりのようだ。
「気が合うっていうか、波長が合うかんじがする。あの子、見た目によらず芯が強いし根性があるでしょ。私、仲間とつるんでいないと不安を感じる、ザ・女子系は苦手だからさ」
なんだかわかる気がする。捺美は、見た目華奢で女の子っぽいけれど、中身は根性すわっているところがあるからな。
表面的じゃなく、しっかり捺美の中身を見ているな、この子。
口も悪いし態度も悪いが、案外根はいい奴なのかもしれない。
「なるほど。桂木さんと捺美さんは友情を深めていたということですね」
「なんかその言い方、重いな。普通に飯を食べていただけだよ」
「ちなみに、どんなお店に行っていたのですか?」
「会社の近くにある激辛ラーメン楓」
昼時になると、サラリーマンと男子学生が並ぶというわりと有名な店だ。俺も聞いたことがあるが、並んでまで食べたいとは思わなかったから行っていない。ちなみに女の人が並んでいるのは見たことがない。
見た目のいいこの二人が、あそこの店に行ったらさぞかし目立っただろう。
「あのお店はかなりからいですよね。捺美さんの反応はどうだったのですか?」
「からい、からいって言って、涙と汗が出て笑ってた。やたら可愛かった」
涙と汗が出ているのに綺麗な顔を保てる捺美はさすがだ。
桂木は女子なのに、捺美のことを可愛いと言うあたり、中身おっさん気質なんじゃないだろうか。
それにしても、想像するだけで可愛い。激辛ラーメン食べて笑っている捺美を見たい。軽く嫉妬心をおぼえる。
「お店ではどんな話をしたのですか?」
「別にたいした話してないし、内容も覚えてないよ。ただ……」
「ただ?」
高城の目が鋭くなった。俺も息を飲んで続きを待つ。
「食べ終わって会社に戻る途中に、捺美が呼び止められた」
「誰に?」
つい身を乗り出して口を出してしまう。
「知らない。帽子を目深に被った女の人だった。たぶん、私たちと年齢はあんまり変わらないと思う」
「なんて言って呼び止められたのですか?」
「普通に『捺美』って……」
「それで、捺美さんの反応は?」
「最初はきょとんとしていたけど、誰なのかわかったら驚いていた。いや、驚いていたっていうより、怯えていた。顔が真っ青になったから」
捺美が呼び止められたという女性に心当たりがあった。もしもその女性が、俺が想像する人物だとしたら、捺美のいる場所は……。
「それで、その女性は捺美さんとどんな話をしたのですか?」
「わからない。捺美の耳元で一言なにかを伝えたことはわかったけど、なんか危険なかんじがして、すぐに引き離した。そしたらその女の人は、すぐに去っていったよ。捺美に危害を与えようとしているかんじではなかったけど、捺美がそのあと震え出したから、逃げるように会社に戻った」
「なるほど。捺美さんはその女性のことをなんと言っていましたか?」
「聞いてない」
「え、青ざめて震え出したのに、あなたはなにも聞かなかったのですか?」
「だからだよ。なんか、わけありなのかなと思ったからさ。言いたかったら、自分から言うだろうし。そういうこと答えたくないときってあるだろ」
なるほど。捺美がおかしくなったのは、帽子を目深に被った女性と会ったからか。桂木は捺美の行方不明に関わっていないことがわかった。
「あの帽子被った女、社長の昔の彼女かなんか? 結婚するならちゃんと過去の異性関係を清算しとけよ!」
桂木は怒りに満ちた目で俺を批判した。捺美が傷ついているのが俺のせいと思って怒っているのだろう。
「違う、きっとその女性は……。いや、なんでもない。それより、君の疑いは晴れた。戻っていいぞ」
「やっぱり疑っていたのかよ!」
桂木はぶつぶつ文句を言いながら社長室を出て行った。
「あいつ大丈夫なのか? あれで営業って問題だろ」
「ええ、売上も多いですが、トラブルの件数も社内一です」
「だろうな」
そりゃそうだという感想しか出てこない。むしろこれでトラブルがなかったら二重人格を疑う。
だが、アレで売上を持ってくる理由もなんとなくわかった。
生意気だが、心根の素直さは感じられる。捺美の友達になっても構わないし、もし仲良くなったら捺美は喜ぶだろうなと思えるくらいに俺の信頼は勝ち得た。
桂木昌。なかなかの大物だな。
「それよりも……」
「はい、捺美さんと桂木さんがランチをした日の防犯カメラを大至急調べさせます」
「うん、その日以降の防犯カメラ映像も調べろ。そして、探偵の張り込み人数を増やせ」
「社長はやはり、捺美さんはあの場所にいると思っているのですか?」
「ああ。正直、最悪なパターンだが、あそこ以外にないだろう」
玄関のドアを開けるとき、つい期待に胸が高揚してしまう。
捺美が、帰ってきているかもしれないって。
捺美が笑顔で出迎えてくれて、『ごめんね、急にいなくなって。でも、これからはずっと一緒にいるよ』って言ってくれる。
願望を頭の中で妄想して、勝手に期待して、実際にドアを開けたらその願望は夢でしかなかったのだと絶望する。
暗く、静かで、無機質な我が家。
こんなに寂しい家だっただろうか。リビングがやけに広く感じる。
静かさに耐えられず、テレビをつけるも、まったく見る気になれない。
料理だって、作りたいとも思わない。冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを取り出して、ソファに座ってプルタブを開ける。
食事も取る気になれない。仕事にも身が入らない。
なにをしたって、胸の中の大きな空洞を埋められない。埋めることができるのはただ一人、捺美だけだ。
捺美になにがあったのか、おぼろげながら見えてきた。
桂木とランチをしたあの日の防犯カメラ映像を入手した。会社の周辺を撮っていたものの中に、帽子を被った不審人物が写り込んでいた。
奴は捺美を見つけるとおもむろに近付いていき、捺美の耳元で不気味になにかを囁いた。
奴を見た捺美の顔は恐怖に怯えていて、捺美に危害が加えられなかったことが不幸中の幸いだ。
さらに防犯カメラを調べたところ、その人物は毎日のように同じ時間帯に現れていた。
ずっと、捺美が外に出てくるのを待っていたのだろう。とんでもない執念だ。
帽子を被った女の顔は、俺が予想していた人物そのものだった。
捺美の義理の姉、真由美。現在無職で、時間は山のようにある。実はこの人物、捺美との婚約が決まった時からマークしていた。
捺美が急に家に帰らなくなり、困るのは継娘と継母だということはわかっていた。
捺美は電話もメールもブロックしていたが、それだけで引き下がるような親子ではない。捺美には知られないように徹底して隠していたが、継娘と継母が会社に乗り込んできたことは何度もある。
受付には、捺美は会社を辞めたと伝えるように指示し、そして社内では個人情報を漏らさないように通達を出した。
彼女たちは受付で門前払いをされ、道行くうちの社員に捺美のことを聞きまわっていたそうだが、捺美の情報は漏れなかった。
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