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第十章 消えたシンデレラ
①
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「好きな女性と結ばれたからって、遅刻してくるなんて、恋を覚えたての高校生みたいなことしますね」
晴れ晴れとした表情で午後出勤した俺は、高城から痛烈な嫌味を投げられるも、痛くも痒くもなかった。
「妬むな、人の幸せを」
「妬みとかじゃなくて、スケジュール調整するこっちの身も考えてくださいって言っているのですよ。給料上げてください」
「いいぞ、上げてやる」
さらっと言った俺の言葉に驚きながら、大輪の花が咲くようにパアーっと笑顔になっていく高城。わかりやすい。
「さっすが社長! 今日はこうなることを見込んで、すでにスケジュール調整は根回し済みでございます」
「悪いな」
「なにをおっしゃいますか。社長の我儘にこたえることがわたくしの務め。いくらでもイチャイチャしちゃってください」
給料上げると言った途端にこの変貌。社長秘書でこき使っているので、そもそも高い給料は支払っているが、高城はとにかく金遣いが荒い。
「今の俺は最高に機嫌がいい! なんでもできる気がする。最強になった気分だ!」
社長室で高笑いをしていると、高城がいそいそと大量の書類を持ってきた。
「その勢いで天下をとりましょう。事業規模拡大のための参考資料です」
「これ全部に目を通すのか?」
「最強の社長にならできます」
高城の目が光った。
「容赦ないな……」
「会社が大きくなれば、それだけ俺の給料も上がりますからね! 社長には馬車馬のように働いてもらいますよ!」
高城は悪魔のような笑顔で言った。完全なる私利私欲で動く男。それが高城という男。若干呆れながらも、やる気の漲るうちに仕事に取りかかった。
今なら空でも飛べそうな気がする。
とんでもない集中力で、いつもの倍以上の仕事をこなした俺は、早々に家に帰ることにした。
社長なのだから、社員の倍は働いて当然と思っていたが、それは覚醒前の話だ。
最強になった俺は、社員の倍働いても時間が余る。跳ねるような足取りで家へと帰る。もちろん、愛する我が妻とイチャイチャするためだ。
脳内では、会社から帰ってきた捺美を玄関に迎えに行って抱いている。
でもさすがにそれは引かれそうだ。自分はこんなに性欲が強かっただろうか。
叶うならば、一日中捺美を抱いていたい。でも、捺美は初めてだったので、あまり身体に無理はさせたくない。……って、朝から第二ラウンドに持ち込んで会社を遅刻させた奴が言うセリフではないなと、自分で脳内突っ込みを入れる。
捺美のために夕飯を作る。
これまで自分のためにすら料理を作ったことがないのに、自分でも驚く変化だ。
捺美と一緒に外食するのも好きだし、フードデリバリーや買ってきたものを家で食べるのも好きだ。でも、手料理もやってみるとなかなか楽しい。
なにより、捺美の喜ぶ顔を見られるのが、一番のご褒美だ。
「ただいま~」
捺美の喜ぶ顔を想像しながら料理を作っていたら、もう本人が帰ってきた。玄関に迎えに行っちゃう俺。
「おかえり、早かったな」
「大翔こそ」
そりゃ俺は、捺美に早く会いたかったからな。超特急で終わらせてきたぜ。……と、心の中で思っていたら、捺美が恥ずかしそうに頬を染めながら呟くように言った。
「……大翔に会いたかったから、早く終わらせてきたの。遅刻したのに、おかしいよね」
「捺美!」
覆い被さるように勢いよく抱きついた。悶絶級の可愛さ。とんでもない破壊力。
もうこれは、このままの勢いで捺美を食べてしまっても、俺を咎めることは誰にもできないだろう。だってこんなこと言われて理性保てと言われる方が無理な話だ。
「捺美、このままベッドに……」
「え、無理。お腹空いた」
見事なまでにはっきりと斬られた。
まあ、たしかに、捺美はそういう女だよ。ツンデレが半端ない。でもその我が道を貫くところも好きだし、だからこそ、たまに見せるデレ感がたまらない。
「夕飯を作っていた。もうすぐ出来上がるから着替えてこいよ」
「本当⁉ 嬉しい!」
手を合わせて、太陽のような輝く笑顔を見せる捺美。あ~可愛い、最高。
それから二人で仲良く夕食を食べ、一緒にお風呂に入って、イチャイチャして幸せな一日が終わった。
そして、この世の春とも思えるような濃密で幸せな日々はずっと続くのだとなんの根拠もなくそう思っていた。
なんの憂いもない幸せな日々は、一週間ほどで幕をおろした。
あまりに呆気なく、あまりにも短く、あまりにも突然だった。
たしかに予兆のようなものはあった。その時に全力で彼女を守っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
捺美の様子が明らかにおかしかった日がある。その日の夜、捺美は俺を拒んだ。
『生理だから』
そう言った彼女の言葉を疑いもしなかったし、体調が悪そうだったのはそのせいかと納得した。
数日間、身体を重ねることはできなかったけれど、いつものように共寝はしていたし、生理中、女性は情緒不安定になるものだと思っていた。
過度に心配せず、見守っていることが正しい方法だと思っていた。
でも、今考えたら、彼女はなにかに怯えていた。日に日に顔が青ざめていって、食べる量も減っていた。
そして、俺が家に帰ると、テーブルの上に記入済みの離婚届けが一枚置いてあった。
彼女の荷物は全てなくなっていて、当然、彼女もいない。
『絶対に辞めない』と言っていた会社にも姿を見せず、彼女は忽然と姿を消した。
なにが起こったのか、なにがあったのか、誰にも一切、告げぬまま。
晴れ晴れとした表情で午後出勤した俺は、高城から痛烈な嫌味を投げられるも、痛くも痒くもなかった。
「妬むな、人の幸せを」
「妬みとかじゃなくて、スケジュール調整するこっちの身も考えてくださいって言っているのですよ。給料上げてください」
「いいぞ、上げてやる」
さらっと言った俺の言葉に驚きながら、大輪の花が咲くようにパアーっと笑顔になっていく高城。わかりやすい。
「さっすが社長! 今日はこうなることを見込んで、すでにスケジュール調整は根回し済みでございます」
「悪いな」
「なにをおっしゃいますか。社長の我儘にこたえることがわたくしの務め。いくらでもイチャイチャしちゃってください」
給料上げると言った途端にこの変貌。社長秘書でこき使っているので、そもそも高い給料は支払っているが、高城はとにかく金遣いが荒い。
「今の俺は最高に機嫌がいい! なんでもできる気がする。最強になった気分だ!」
社長室で高笑いをしていると、高城がいそいそと大量の書類を持ってきた。
「その勢いで天下をとりましょう。事業規模拡大のための参考資料です」
「これ全部に目を通すのか?」
「最強の社長にならできます」
高城の目が光った。
「容赦ないな……」
「会社が大きくなれば、それだけ俺の給料も上がりますからね! 社長には馬車馬のように働いてもらいますよ!」
高城は悪魔のような笑顔で言った。完全なる私利私欲で動く男。それが高城という男。若干呆れながらも、やる気の漲るうちに仕事に取りかかった。
今なら空でも飛べそうな気がする。
とんでもない集中力で、いつもの倍以上の仕事をこなした俺は、早々に家に帰ることにした。
社長なのだから、社員の倍は働いて当然と思っていたが、それは覚醒前の話だ。
最強になった俺は、社員の倍働いても時間が余る。跳ねるような足取りで家へと帰る。もちろん、愛する我が妻とイチャイチャするためだ。
脳内では、会社から帰ってきた捺美を玄関に迎えに行って抱いている。
でもさすがにそれは引かれそうだ。自分はこんなに性欲が強かっただろうか。
叶うならば、一日中捺美を抱いていたい。でも、捺美は初めてだったので、あまり身体に無理はさせたくない。……って、朝から第二ラウンドに持ち込んで会社を遅刻させた奴が言うセリフではないなと、自分で脳内突っ込みを入れる。
捺美のために夕飯を作る。
これまで自分のためにすら料理を作ったことがないのに、自分でも驚く変化だ。
捺美と一緒に外食するのも好きだし、フードデリバリーや買ってきたものを家で食べるのも好きだ。でも、手料理もやってみるとなかなか楽しい。
なにより、捺美の喜ぶ顔を見られるのが、一番のご褒美だ。
「ただいま~」
捺美の喜ぶ顔を想像しながら料理を作っていたら、もう本人が帰ってきた。玄関に迎えに行っちゃう俺。
「おかえり、早かったな」
「大翔こそ」
そりゃ俺は、捺美に早く会いたかったからな。超特急で終わらせてきたぜ。……と、心の中で思っていたら、捺美が恥ずかしそうに頬を染めながら呟くように言った。
「……大翔に会いたかったから、早く終わらせてきたの。遅刻したのに、おかしいよね」
「捺美!」
覆い被さるように勢いよく抱きついた。悶絶級の可愛さ。とんでもない破壊力。
もうこれは、このままの勢いで捺美を食べてしまっても、俺を咎めることは誰にもできないだろう。だってこんなこと言われて理性保てと言われる方が無理な話だ。
「捺美、このままベッドに……」
「え、無理。お腹空いた」
見事なまでにはっきりと斬られた。
まあ、たしかに、捺美はそういう女だよ。ツンデレが半端ない。でもその我が道を貫くところも好きだし、だからこそ、たまに見せるデレ感がたまらない。
「夕飯を作っていた。もうすぐ出来上がるから着替えてこいよ」
「本当⁉ 嬉しい!」
手を合わせて、太陽のような輝く笑顔を見せる捺美。あ~可愛い、最高。
それから二人で仲良く夕食を食べ、一緒にお風呂に入って、イチャイチャして幸せな一日が終わった。
そして、この世の春とも思えるような濃密で幸せな日々はずっと続くのだとなんの根拠もなくそう思っていた。
なんの憂いもない幸せな日々は、一週間ほどで幕をおろした。
あまりに呆気なく、あまりにも短く、あまりにも突然だった。
たしかに予兆のようなものはあった。その時に全力で彼女を守っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
捺美の様子が明らかにおかしかった日がある。その日の夜、捺美は俺を拒んだ。
『生理だから』
そう言った彼女の言葉を疑いもしなかったし、体調が悪そうだったのはそのせいかと納得した。
数日間、身体を重ねることはできなかったけれど、いつものように共寝はしていたし、生理中、女性は情緒不安定になるものだと思っていた。
過度に心配せず、見守っていることが正しい方法だと思っていた。
でも、今考えたら、彼女はなにかに怯えていた。日に日に顔が青ざめていって、食べる量も減っていた。
そして、俺が家に帰ると、テーブルの上に記入済みの離婚届けが一枚置いてあった。
彼女の荷物は全てなくなっていて、当然、彼女もいない。
『絶対に辞めない』と言っていた会社にも姿を見せず、彼女は忽然と姿を消した。
なにが起こったのか、なにがあったのか、誰にも一切、告げぬまま。
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