【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取

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崩壊

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 数日後、昼休みの中庭。
ユリウスは、噂を聞きつけたらしいメリッサに呼び止められていた。
 彼女はいつものように微笑を浮かべていたが、その声にはかすかな棘が混じっていた。
「ユリウス、最近、エリシアと距離を取らなくなったのね。……彼女から何か言われたのかしら?」
メリッサは笑顔を浮かべながらも、その声には棘があった。
 だが、ユリウスはその笑顔に応じることなく、まっすぐ彼女を見返す。
「メリッサ。君が何を企んでいたのか、もう僕は気づいてるよ」
「何を、言っているの?」
一瞬、メリッサの笑みが強張る。
「君が流した噂。すべて、エリシアを貶めるためのものだったんだろう?
これまで、いくつもの出来事が不自然だったし、君が噂を誘導していたという証言も聞いた。どうして、そんなことを?」
メリッサは目を逸らし、笑みの形を保ったまま口を開く。
「私はただ、事実を伝えただけ。エリシアがあなたに言い寄ってるように見えたから」
「君の言葉に、どれだけ人が傷ついたか分かってるのか?」
ユリウスの声が低く、鋭くなった。
優しい彼が、初めて見せる怒りの表情に、メリッサはわずかに後退る。
「エリシアは、必死で誤解を解こうとしてた。君がどれだけ彼女を追い詰めてたか、知らないはずがない。
僕は彼女が泣くのを、もう見たくない」
静かだけれど、強い言葉だった。
 メリッサが積み上げてきた虚構を、一つひとつ崩していくように響く。
「君がどんな気持ちであったとしても、間違ったことをしたのなら、ちゃんと謝るべきだと思う。君自身、本当は分かってるはずだ」
ユリウスが歩き去ろうとしたその時、メリッサが叫ぶように声を上げた。
「待って!私はあなたが好きなのよ!」
その叫びは、必死さと焦りを滲ませたものだった。
 けれど、ユリウスはゆっくりと振り返り、静かに言葉を返す。
「それは、本当に“僕”を好きなのか?」
「えっ……」
「僕はずっと、気づかないふりをしてた。
君が僕と話すとき、いつも“僕自身”じゃなくて、“侯爵家の後継者”として接していたことに。
僕の趣味も、考え方も、好きなことも──君は一度も知ろうとしなかった。」
メリッサの目が見開かれる。
「君が見ていたのは、僕の肩書きや立場。それを得るために、誰かを傷つけてもいいと思ったんだね。単純な僕は気がつかなかったけど。」
「……ちが……私は……」
「違わない。君は誰かを“好きになる”ってことが、どういうことか分かってない。
もし本当に誰かを好きだったなら、あんなことはできないはずだ」
メリッサの口が開きかけ、言葉にならずに閉じられた。
 彼女が追いかけていたものが、何だったのか。
その“本質”が、音を立てて崩れていくのが自分でも分かった。
「もし君が本当に変わりたいと思うなら、自分で償うべきだ。そうしなきゃ、ずっと孤独のままだよ」
ユリウスの声は、優しさも怒りも通り越して、ただ静かだった。
 そうして彼は、もう一度ゆっくりと背を向けて歩き出す。
メリッサはその場に立ち尽くしたまま、拳をぎゅっと握りしめ、顔を伏せた。

──嘘と計算で積み上げた“恋”は、真実の前にあまりにも脆かった。
彼女が完璧だと信じて築いてきた世界が、音を立てて崩れ始めていた。

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